シアトルアイショット   作:CanI_01

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ロード・オブ・ヴァルハラ/レドモンド編-1
邂逅


ことの起こり、いや、あたしが事件を知ったのはシアトルのダウンタウンのコンビニ、スタッファー・シャックに足を運んだ時だ。

細かい場所は忘れてしまったがビジネス街であったレンラク主催の人権保護シンポジウムの帰りだ。

 

シアトルのダウンタウンは覚醒前にシアトルと呼ばれていた街だ。

豊かな自然に、誇るべき文化を持つ大学、そして北米の経済を統べる大企業達。

恵まれたエメラルドシティ。

ビジネス街は無数のオフィスが建ち並びさらりーまんが行き交う北米経済の中心地だ。

そこは高級スーツが幅を利かせており、カジュアルなあたしの格好だと少し浮いてしまう。

 

レンラクの厚顔無恥な人権の話への怒りからか小腹が空いた、あたしは糖分を求めて近場のスタッファー・シャックを目指した。

 

スタッファー・シャックに入ると、どこかアステカ調の入店音と共にARがポップアップする。

 

「いらっしゃいませ、ダニー・ウエスト様。

いつもお買上頂くソイバーにドングリフレーバーが新発売です。」

 

大きく表示される宣伝と小さく表示される法域に関する注意事項。

 

「当店舗内ではアズテクノロジー社内法が適用されます。

詳細はこちら。」

 

メガコーポの治外法権は至る所にある。

武器を買いに行けばアレスの、コムリンクならネオネットだ。

棘のような違和感を無視してあたしは軽食の棚を目指す。

レンラク主催の人権保護シンポジウムは本当にひどいものだった。

そんな苛立ちを感じながら、ソイバーのドングリフレーバーを手に取る。

今回のフレーバーが当たりなら良いなと思っていると入店のメロディーが鳴り響く。

 

入って来たのはチェインメイルに身を包んだ薄汚れたオークだ。

ギャングか、ジャンキーか、間違いないのはストリートの住人であり、このメガコーポの領域にいることに違和感がある。

その違和感を証明するように店の警備システムが警告を告げる。

 

「お客様、大変申し訳ありませんが、コムリンクからID認証ができません。

お手数ですが、お近くの端末での認証か、コムリンクの再起動後再認証手続きを実施ください」

 

男は突然懐からアレスプレデターを抜き放ち端末に銃弾を浴びせ始める。

 

「は! 俺のライセンスはこれだ、好きなだけ認証しな。巨人の手先め!」

 

あたしは唖然として男を見る。

今の時代のコンビニ強盗程割に合わない商売はない。

オンライン決済により現金は店になく、ここのような完全自動化店舗だと人質にできる店員もいない。

ましてや、ここはスタッファー・シャック。

最も血に飢えたビッグ10であるアズテクノロジーの企業封土だ。

仮にアズテクが動かなくてもダウンタウンの高治安地区だ。ナイトエラントの到着が5分以上かかることもありえない。

何かの撮影だと言われた方がまだリアリティがある。

 

とは言え、銃を振り回す男は幻影ではなく、次にあたしが撃たれても何らおかしくはない。

逃げるのは論外として、隠れる場所もない。

男の末路が決まっていても、それが現実になるまでの時間はまだ訪れていない。

 

あたしの思考は子供の泣き叫ぶ声に破られた。

 

「ゴブリンのガキか!」

 

案の定男は子供に対して銃を向ける。

荒事は趣味ではないし、得意でもない。

ただ、子供を見捨てるのはもっと性に合わない。

あたしは懐からカバリエセーフガードを抜き放ちダーツを叩き込む。

そしてダーツと繋がったワイヤーが電撃を浴びせる。

すると男はあっけなく意識を手放した。

私の覚悟を返して欲しいものだ。

何はともあれナイトエラントが来るまでの時間はこれで確保できただろうと一息つく。

すると、私のお腹は非難するように小さく音を立てた。




用語解説

スタッファー・シャック
シアトルで最も普及している24時間営業のコンビニ。

レンラク・コンピュータ・システム
企業スローガン:今日の問題を今日解決
企業順位:5 位
本社:日本帝国、千葉
・サイバーウェアと通信技術、データストレージに強みを持つ企業。
・かつてAI 開発に邁進しながらもAI の反乱により倒産寸前まで追い込まれたためにAI に対して強い憎しみを抱いている。
・最強の代名詞と呼ばれるセキュリティーチーム、レッドサムライを有する。彼らは軍事用パワードスーツを赤塗りの武者鎧型にカスタマイズして装備している。

覚醒
世界に魔法や超常生物が現れ始めた現象。
2011年12月24日に起きたと言われる。

シアトル
アメリカがネイティブアメリカンに北米の西半分を奪われた中で経済の影響を抑えるために行われた条約によりアメリカの領土して残された特別区。

メガコーポ
治外法権を持つ大企業のこと。

ソイバー
大豆たんぱく質を加工した栄養食品。
安くて栄養価が高い。

アズテクノロジー
企業スローガン:より良い明日への道
企業順位:4 位
本社:テノチトラン(旧メキシコシティ)、アズトラン
社長/CEO:フラビア・デ・ラ・ロ-ザ
・世界最大の食糧供給企業であり、最大のコンビニグループ「スタッファージャック」を所有する企業。
・古代アステカ文明の後継者を自認しアステカ由来の血なまぐさい儀式を実践していると言われている。
・本気で世界征服を目指している。

アレス重工
企業順位:7 位
企業スローガン:世界をより安全な場所に!
本社:デトロイト、UCAS
社長/CEO:ダミアン・ナイト
・世界最大の兵器メーカー。武器、傭兵、警察などの鋼と硝煙の匂いがする場所には必ず存在する。
・母体にNASA を持ち宇宙産業に強く軌道上や月に秘密研究所を持つ。
・子会社のナイトエラントはエリート警備会社であり世界中でアレスの技術力をアピールする宣伝部隊でもある。

ネオネット
企業スローガン:明日を動かすネオネット
企業順位:2 位
本社:UCAS、ボストン
CEO:リチャード・ヴェイラー
・ワイヤレスネットワークの基幹技術を構築した企業でありネットワーク、ネットワーク機器に絶大な強みを持つ。
・通信会社、コンピューター会社、サイバーウェア会社の合併で生まれた会社であり内部の一本化はされていない。
・開発責任部長であるセレディはグレートドラゴンであり、自身の欲望に忠実な彼の挙動に経営陣はいつも頭を悩ませている。

チェインメイル
鎖を編んで作った鎧。
違法ではないがコスプレ感のある外観から相手によってはかなり奇異な目で見られる。

アレスプレデター
世界で最も売れているヘビーピストル。

ビッグ10
世界で最も影響力のあるメガコーポ10社の呼び名。

ナイトエラント
ビッグ10の一角であるアレスの子会社である警備会社。
常に最新鋭のアレス製装備に身を包んだ精鋭である。
シアトルでは警察業務の委託も受けている。

カバリエセーフガード
カバリエ社の販売しているテーザーガン。
ピストル的な外観でダーツが多く装填できることが人気。
また、電気ショックを与える武器であることから合法的に持ち歩くことができる。
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