シアトルアイショット   作:CanI_01

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鴨撃ち大会

同刻、ダニー・ウエスト

 

あたしの視界にコムコールを表すアイコンが瞬く。

相手はマカリスターさんだ。

この不安定な通信は何かのトラブルなのだろうか。

コールを受諾する。

 

「もしもし、ブルだ。ダニー嬢ちゃん少し手を貸してくれないか?」

 

マカリスターさんが? あたしに? 何か起きたのかしら。

 

「それは構いませんがトラブルですか? あたしにできることは限られていますが。」

 

そう話しながらあたしは周りの人達の邪魔にならないように道の端に寄る。

 

「今の所具体的なトラブルは起きていない。

だが、ナイトエラントの警備配置がハッキングにより改ざんされた。

この結果これからパレードの通るエリアの頭上の警備ががら空きになっている。」

 

マカリスターさんの声に少し迷いを感じる。

迷ってるのはあたしを巻き込むこと? それとも今の判断?

 

「すると狙撃かドローンによる空中からの攻撃でしょうか。」

 

確かにそれなら多少は役に立てるかもしれない。

先祖返りしたスナイパーライフルやドローンを使うとは考え難い。

マトリックスからのサーチである程度の対応は可能だ。

 

「そうなんだが、悪い話が色々あってな。まず、フレイミングソードかシアトルに入っている。このリーダーはテロリストとした、国際指名手配をされている。」

 

フレイミングソードはヒューマニスポリクラブのセクトの1つだ。

ポリクラブで最も過激なセクトでポリクラブ内部の傭兵のように立ち回っている。

必然的にこいつらが動いた場合にはポリクラブの活動と言うよりは明確なテロになる可能性が高い。

 

「リーダーはミカエルと名乗っている爆破テロの専門家だ。

そして悪いことにシアトルではここ数ヶ月爆発物の需要が増えている。」

 

このパレードに合わせて準備をしてきた訳か。確かにシアトル政界でのメタ差別撤廃派の二人が揃っているから狙い目と言えるかもしれない。

 

「最近ヒューマニストはブラックヘイブンに活動自粛を求められて、だいぶ苛立っているようだ。この為にブラックヘイブンへの意趣返しの意味もあるだろう。」

 

ブラックヘイブンは北米のヒューマニスポリクラブの指導者だがシアトル市長でもある。

特に最近は政治的な失策で足元が悪くなっている時に自分の支援団体に問題を起こされたくはないだろう。

だからこそ、仮に失敗してももみ消せない状態で事件を起こしてブラックヘイブンに活動を促すと言うところかしら。

まさに狂気の沙汰だ。

 

「控えめに言って最悪ですね。でも、あたしに何を? 爆弾がオンラインであれば見つけることもできますが。」

 

迷ってたのはあたしにこの話をすることね。状況はあまりにも悪い。

 

「残念だが、まだ最悪じゃないんだ。ナイトエラントの人員と哨戒ドローンの数が増えているんだ。

もちろん、気を利かせたワード姐さんが春の贈り物にサプライズ増員をしたなんて言う夢のある話でもない。」

 

明確な警備の穴が出来ていると言うことね。

データの洗い直しを手伝えば良いのかしら?

 

「今回一番警戒したのは沿線での爆破テロ、次が自爆テロだ。この対策の為にスクラーチャーの中にランナーも混ぜて確実に掃除は進んでいる。

反面頭上の警備はナイトエラントに任せていた。

あの漂泊社畜団の顔を立ててやったのが裏目に出た。給料分の仕事もできてやしない。」

 

マカリスターさんは影の世界が長いせいかナイトエラントがあまり好きではないらしい。

彼らも頑張ってるのだから、そんなに言わなくてもと言う気がする。

 

「で、嬢ちゃんにお願いしたいのがドローンの選定だ。

全てのドローンを引き上げると警備に支障がでる。

そこで爆弾を積んでる可能性のあるドローンを洗い出して欲しい。」

 

無意識に自分の顔が引き攣るのがわかる。

 

「わかりました。しかし、どうやってですか? 爆弾付きですよとタグがついてる訳ではないですよね。」

 

苦笑するマカリスターさん。

 

「もちろんだ。だからドローンのペイロードを覗く。マスター機器からペイロードデータをドローンに要求したら全て同じ重量を報告してきている。普通は多少のばらつきが出るがそれがない。ドローンのマスター機器への報告プログラムがいじられているとしか思えん。」

 

「それなら、機器自体を見に行っても同じではないのですか?」

 

「飛行型ドローンは自身のペイロードをモニタリングして飛行している。ペイロードを改ざんしたら明らかに挙動がおかしくなり、満足に飛行できなくなる。」

 

やりたいことが理解できた。

 

「つまり、ハッキングして制御系の参照しているペイロードデータを確認して許容誤差から外れてるのを制圧していく訳ですね。」

 

だいぶ面倒な話だ。単独ではないのがせめてもの救いだけど。

マカリスターさんからドローンのリストが届く。中身はナンバリングされたドローンの一覧表だ。

あたしの視界にあるものは白、ないものはグレーアウト、そしてマカリスターさんがチェックしたものは緑になっている。

数十台のドローンのチェックとは骨の折れる話だ。

とは言え、みすみすテロを許すわけにもいかない。

データと視界を同期させることで視界にARでナンバリングを施す。

 

「そうだ。一応スクラーチャーのメンバーにネットガンは用意させているから最悪の場合にはそれで対応する。鴨撃ち気分で気楽にやってくれ。」

 

その言い様に苦笑を1つ。

 

「そうも行きませんが、競争ですね。」

 

楽しそうに笑うマカリスターさん。

 

「いいな。俺に勝てたら飯ぐらい奢ってやるよ。」

 

おっと、これは負けられない理由だ。

全力で行こう。

 

「約束ですよ。」

 

あたしは近くのパーキングに停めてある愛車に向かって疾走する。

面倒な物理的な制約を切り捨てマトリックスに専念しよう。

鈍重な物理世界に囚われている必要は無い。

車に飛び乗ったあたしは(物理的にだ)肉の軛から解き放たれ仮想現実に飛び込んだ。

 

あたしのペルソナ、いや魂は緑の空を持つエメラルドシティグリッドに解き放たれる。

遠くに見えるパレードは楽器のペルソナが並び音楽と合わせてシグナルを放ち、その周囲の人々のコムリンクも喜び喝采を上げるように通信を交わす。

そして、空に目を向ければナンバリングされ、羽の生えた犬のペルソナが舞い踊る。

天頂に光り輝くネオネットのロゴが静かに下界を睥睨する。

さて、あの犬達の体重を測っていこう。

太り過ぎの子は精密検査だ。

ゴッドの目に捕まるギリギリを攻めて行かないと。

 

正式な権限を獲得する時間がない以上順番にハッキングを仕掛けていくしかない。

1つ、また1つ。

複雑な単純作業というのは精神を摩耗させる。

 

そしてついに見つけた。おかしなペイロードのドローンだ。

ホストに指示すればスレイブ化されたドローンだ。簡単に無力化されるだろう。

 

あたしはマカリスターさんに連絡を取ろうとして思いとどまる。

本当にそうなのだろうか?

ひどく嫌な予感がする。

ここまで手間をかけてそんなに簡単に無力化できるのだろうか。

爆弾を積んでいるなら起爆はどうする?

手動? リモート? もちろん可能だろうがそれだけだろうか。あまりにも不確実過ぎる。

内部に起爆条件を仕込むのが確実ではないだろうか。

ここまで派手に動いているのだ。ナイトエラントがテロリストの存在を把握していないとは犯人も考えてはいないだろう。

自分が逮捕される可能性も想定しているはずだ。

ドローンが受けている命令にに何かを仕込んでるという辺りかしら。

 

あたしは今受けている命令を読み取る。

巡回ルートの指定、ケムスキャナーによる爆発物の優先走査、スキャナーに爆発物反応があったり、不審な動きの存在を見つけた場合はレポートを行なう、と。

特に不審な点は無いような気がするけど。

 

そう言えばレポートプログラムが改ざんされてるのだっけ?

念の為そのプログラムを開いて見る。

 

これが当たりだ。

現在位置のレポートをホスト以外への送信しているし、スキャナーに反応があった場合ドローン内部の何かを起動するようになってる。

多分これってルートから外れるかケムスキャナーへの反応があったら内部の爆弾を爆発させる気よね。近くで爆発があればスキャナーは反応するから連鎖的に爆発を起こすようにしているのだろう。

 

あたしはマカリスターさんに通話を行う。

 

「どうした、嬢ちゃん。」

 

マカリスターさんも酷く疲れた声をしている。警備全体を見ながらのハッキングだ、楽なはずはないだろう。

 

「見つけました。ですが、トラップが仕掛けられています。」

 

あたしは状況を説明していく。

 

「25秒後に小規模な爆発なら影響の少ない場所にドローンが出ますのでそのタイミングに合わせて起爆装置の破壊を仕掛けてみようと考えています。問題ないですか?」

 

合わせてマカリスターさんのARに爆発の被害予測を表示する。重量と市場で奇妙な動きをした爆弾の性能からの試算だ。精度はそれなりにあるだろう。

マカリスターさんが一瞬の黙考。

 

「頼む。それしかなさそうだ。念の為近場のぽんこつ騎士共をカバー位置に動かす。」

 

そう言うと互いに通信を切る。

レポートプログラムの通信経路を辿り起爆システムを割り出す。

念の為レジストしているクラックスプライトと共同して攻撃を叩き込む。

その構造体はあっさりとブリッキングした。

 

これで終わりと気を抜いた時に違和感に気づいた。マトリックス構造体が増えた?

起爆装置を破壊すると起動するユニットを仕込んでいると言うのだろうか?

だが、今のあたしなら立ち上がったばかりのシステムよりも素早い。

ちらりと監視指数やばいなーと思いながら全力でデータスパイクを叩き込む。

幸いこれで謎のマトリックス構造体は沈黙しそれ以上の反応はないらしい。

 

気持ちの中で大きく息を吐き今のクラックの資料をマカリスターさんに送信するとあたしの生体ペルソナを再起動した。

さて、ルーチンワークをもう少しこなさないと。

 

あれ? 今回の競争の勝利条件決めてたかしら?




先祖返り
無線接続機能を持たい機器のこと。

ワード姐さん
ナイトエラントのシアトル支社長であるエレン・ワード。
野心家の女性で両性愛者でもある。
ランナーにとっては天敵のような人物ながらその手腕を評価して意外とランナーの評判は良い。
『Seattle 2072』より

ゴッドの目に捕まるギリギリ
今回はダニーは管理者権限を付与されているわけではないため普通にハッキングを仕掛けている。
必然的に監視指数が蓄積していき溜まりすぎればゴッドの制裁を受けることになりえる。
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