内装もモンゴルや中東の遊牧民のテントをモチーフにしたエスニックスタイルになっている。
別にオークか中東やモンゴルに関係している訳ではない。
ただ、騎馬(馬だけではないらしいが)による遊牧と傭兵や馬賊として生活を行っていたらしく、近い文化的な背景を参考に内装をデザインした訳だ。
昼時を過ぎたとは言え店は8割程席が埋まっており繁盛しているようだ。
ただ、オーダーの品は出揃っているのかウエィトレスをしているミーシャは暇そうだ。
あたしに気がつくと手を振りながら声をかけてくる。
「いらっしゃい。リメンバーデイは無事終わった?」
苦笑。
確かに見かけ上は無事に終わっている。
「そうね。大成功ではないにせよ、中成功ぐらいはしてたと思うわよ。」
ミーシャは楽しげに笑う。
「なら良かったわね。本当は屋台出したかったんだけど抽選に落ちたのよね。」
「まあ、そう言う年もあるわよ。一緒にお昼はできそう?」
ぐるりと店内を見回しミーシャが口を開く。
「多分ね。ランチセットで良いかしら?」
その言葉に警戒心が呼び覚まされる。
「ランチは何? 蛇棒じゃないでしょうね。」
ミーシャは笑いながら壁面のARを指差す。
本日のランチ
騎兵の食べ物 山羊肉で。
クゥアールズ
赤レンズ豆のスープ
カスピ海ヨーグルトのフルーツ添
騎兵の食べ物は肉料理全般を指す名前だ。
つまりは山羊肉を焼いた物と言うことになる。
クゥアールズは香辛料で煮込んだ豆料理だ。
スープとデザートはそれらしいものが無かったので雰囲気でつけているはずだ。
味はヒューマンでも食べれるようにさせたから問題はなさそうだ。
「大丈夫そうね。じゃあ、ランチでお願いするわ。
あと、甘めのカクテルをお願い。」
「ハールグよ、ハールグ。」
ハールグは古代オークのアルコール飲料でカクテルに発酵させた油を入れていたらしい。
再現したものはミーシャですら飲めなかった。
「嫌よ、本物が出てきたらか弱いヒューマンは死んでしまうわ。」
笑いながらミーシャは厨房に下がり二人分のランチを持ってくる。
食欲をそそる匂いだ。
近況報告をしながらノンビリランチを食べる。
支払いはコムリンクによる自動処理だからミーシャの視界にポップアップするARウインドウで承認するだけだからほとんど手間もかからない。
近況から今日のリメンバーデイの話に、そして治安の話になるのは自然な流れと言えるだろう。
「やっぱり治安悪化してるの? 体感としてはよくわからないのだけど。」
こうやってたまに足を運ぶ身としては治安の悪化は体感できない。
少し言葉に詰まるミーシャ。
「そうね、悪くなってるような気はするけど。多分ダニーの考えてる理由とは違うと思うわよ。」
「へ?」
あたしから間抜けな声がでる。
くすりと笑いミーシャが続ける。
「景気の悪化に連動した治安の悪化が、とか考えてない?」
まさにそう考えていた。
それが違う?
「考えてたけど関係ないの?」
嬉しそうに笑うミーシャ。
あたしはよほど変な顔をしていたらしい。
「無関係ではないけど、最大の原因じゃないって感じかな?」
よくわからない。
「そもそも最近ほタコマの治安状況がわからないのよね。」
ミーシャが首をかしげる。
「わからないって何が?」
あたしはいつもの癖でARに資料を展開する。
「こっちの表が観光客や住民の治安アンケートね。
これを見てもらうと何らかの犯罪もしくは不利益を受けてる人の数が増えているのね。
もちろん具体的に何かあったか聞いてる訳じゃないから実際は判らないけど有意に件数は増えてるわ。」
今度はタコマ区で出してる犯罪白書を展開する。
「反面白書でもナイトエラントのレポートでも検挙数及び通報数は変化なしになってるのよのね。」
もちろんナイトエラントの管轄外である貧民街でこそ、最初に治安は悪くなる。
しかし、タコマでは明確な低治安地区は存在しないため、このデータはそれなりに信頼ができるはずだ。
「さすが、ダニー。よく見てるわね。色々ややこしいのだけど聞きたい?」
あたしは前のめりに返事を返す。
「詳しく聞きたいわね。後ミルクティーが欲しいかな。」
「そうね、あたしもコーヒーが欲しいわ。ちょっと待ってね。」
そして、ミーシャが飲み物を取りに行く事で一旦話は途切れる。
まだまだ話は終わらなさそうだ。