シアトルアイショット   作:CanI_01

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善意の隣人たちに祝福を/レントン編
桜の朝


その日あたしはいらいらとする気持ちを静めるためにシダー河川公園をぶらぶらと歩いていた。

朝の6時にも関わらずランニングをする人々、あたしのように桜を眺めながらそぞろ歩きをする人々で意外なほど人通りが多い。

4月に入り身を切るような寒さが落ち着いたことも要因の1つだろう。

満開の桜の花弁が風に流れ人々の間を吹き抜けていく。

自身の悩みが馬鹿らしくなるような幻想的な光景だ。

昔からこの風景は好きだ。

ワシントン湖に繋がるシダー川の傍らに造られた公園。

何度も開発の波により消えそうになりながらも地元の強い要望により維持されている。

この桜たちもそうした地元のボランティアにより維持をされているのだ。

ここを見ると人の価値観、善悪など本当に総体的なものにすぎないと強く感じる。

 

あたしの生まれそだったレントンの街はシアトルの中でも裕福な部類に入る街だ。覚醒前の豊かな田園風景と呼ばれることからも判る通り食料も潤沢で自然も豊富、そして近所づきあいも密接であることで治安も決して悪くはない。

しかし、故にこそ覚醒前の悪癖が根強く残っている街である。かつては白人が黒人を強烈に差別を行っていたという悪習が形を変えて根強く残っているのだ。

そう強烈なまでのヒューマン至上主義だ。

あたしがヒューマンだからこそのんびり桜を眺めていることができるが、オークやトロールであったらそうは行かないだろう。さすがに直接的な暴力に晒されることはないにしてもナイトエラントからの職務質問は避けることができないだろう。

最悪任意同行という名の連行までされることになる。

ここはそんな街だ。

 

あたしが朝からイライラしていたのも同様の理由だ。

うちの両親はレントンにおいては良識派と言えるだろう。ヒューマン以外にも人権があることを理解しているのだ。そんな考え方ですら良識派なのだ。

そんな人物からするとメタヒューマン人権活動をしているジャーナリストなどは仕事ではなく子供のお遊びに過ぎない。

それなりに知名度を得て、十分な生活をできるようになれば考え方も変わるかと思っていたが、全くそんなことはなかった。

お遊びはやめて、早く結婚して孫の顔を見せて欲しい。

昨晩結婚と仕事の話で大喧嘩をした結果、顔も見たくなくて早朝から実家を飛び出してきたわけだ。

だいたい実家に帰ると喧嘩して帰ることになるが、何かのついでの度には帰宅するようにはしている。

今回実家に帰ったのは彼らに用事があったわけではない。

チャーチ・イン・レントンでチャリティバザーが行われるのだ。このバザーにマザー・オブ・メタヒューマンが協賛しており、あたしも手伝いをすることになったのだ。

せっかく実家の近くなのでと前日に実家に入ったところいつも通りの結末になったわけだ。

 

河川公園を1時間程度ぶらぶらしてるとさすがに空腹感が強くなってくる。

この時間に営業をしている店となると限られてくる。

もちろんコンビニで軽く済ませてもかまわないのだが。

 

先日ナイトエラントのワード署長と食事をした際に教えてもらった店がナイトエラントトレーニングセンターの近くにあったはずだ。

元々はアレスの関連会社で軍用レーションを販売していた企業が味が悪いという現場のクレームに業を煮やし本当は美味しい軍用レーションの店として出店したらしい。

企業の意図としては金額や保存期間、耐久性などの制約がなければ美味しくできるというPR目的で出店したらしい。

ところが開店してみると普段からレーションを食べている軍人は非番の時にまでレーションは見たくもなく評判向上には繋がっていないらしい。

反面、物珍しさから一般市民の来客は多くなかなかに評判が良いらしい。

この店ビューティフルレーションは本来のターゲット顧客が多くいるナイトエラントトレーニングセンターの前に出店したのは必然と言えるだろう。

また、夜間などの食事時以外の需要もあると見込まれ24時間営業である。

急ぎであれば入口の自販機で缶詰担ったものも購入できるし、時間があれば調理されたものも食べることができる。

 

ナイトエラントトレーニングセンターは河川公園の目と鼻の先だ。

恐らくトレーニングセンターにあるワード署長の執務室から見るこの辺りはさぞかし美しいことだろう。

そんなことを考えながら車を河川公園からビューティフルレーションに回す。

 

時間がたっぷりあることから店内に入りハンバーグセットを頼む。

店内ではアレスグローバルエンターテイメントのヒット曲の月間ランキングが流れている。

ウジャトレコードのオクサーヌの新曲がランクインしていた。とりあえず、買っておこう。

オクサーヌは元々は人権活動家であることから知り、興味を持って聞き始めた結果ドはまりしたアーティストだ。

またワールドツアーをしているようだがシアトルには回ってこないだろうか。

そんなことを考えながら黙々とハンバーグを食べていると意外と客が多い。

こんな時間であることもあり勤務明けの軍人風がほとんどで、仕事明けの一杯を楽しんでいる人間も相当数いる。

色々な人の仕事の愚痴に聞き耳を立てているとなかなかに面白い話も聞こえてくる。

アレス内部で最近配置転換が増えているようだ。何か大規模な作戦でも計画しているのだろうか。

 

食事も済みのんびりコーヒーも飲んだところでチャーチ・イン・レントンを目指すことにする。

集合時間の9時までは1時間以上あるが大体は教会の方は早めに準備を進めている。

まだであれば書類仕事でも片づけておけば良いだろう。

 

シダー河川公園から西に少し車を走らせチャーチ・イン・レントンに入る。

案の定教会ではすでに準備が始まっていた。

マザーオブメタヒューマンのメンバーはまだ到着していないようだが、見知った顔のシスターがチラホラ。

こういったボランティア活動をしているとお手伝いでの行き来や常連がいる。そう言ったコミュニティが形成されており、何かをする時にこのネットワークは馬鹿にできなかったりする。

ひとまず知人に挨拶をして手伝いを申し出ようとしている所で場違いな女性に目が行く。

新雪で形成されたような白い肌に、蜂蜜を溶かし込んだような金髪、深い海のように深い蒼い瞳。

動きやすそうなカットソーにスキニーパンツ。恐らくオーダメイドだ。色は目の色に合わせたディーブブルー。

レントンには富裕層が多い。当然ボランティアに参加するご婦人方も多いためオーダー品を身にまとう女性が珍しい訳ではない。

予定の一時間以上前に現場に入り机の移動などの力仕事を厭わずに手伝っているのが珍しいのだ。

視線に気づいたのか彼女がこちらに目を向ける。

それまでは落ち着いた笑みを浮かべながら作業していた彼女だが、あたしの顔を見ると華が綻ぶように艷やかに微笑む。

こんな美女と会った記憶はないのだが視聴者だろうか?

ひとまず顔見知りにシスターに挨拶をする。

 

「ご無沙汰していますシスター。今日もよろしくお願いしますね。」

 

「あら、ダニー。今日もよろしくお願いね。とりあえず設営の準備をお願いできるかしら。」

 

全体を取りまとめている老齢のシスターはテキパキと仕事を割り振っていく。

必然的に若いあたしは先程の美女同様に机の設営準備を任される。

自分の外見にコンプレックスはないが彼女と並ぶと少し腰が引ける。

特にあたしも彼女と同じような服装をしている上に金額的には一桁違う。

ましてや、相手は視聴者かもしれない。

 

「本日一緒に作業させていただきますダニー・ウエストです。よろしくお願いします。」

 

彼女は何が嬉しいのかニコニコしながら挨拶を返す。

 

「こちらこそよろしくお願いします。私はマリア・ロマノフと申します。いつもウエストさんの番組を見ていて、お会いできて嬉しいです。」

 

結果的にあたし達は1日セットで動くことになる。フットワークが軽い二人をまとめておいた方が仕事も頼みやすいのだろう。

そして、レントン社交界にはびこるヒューマニスト婦人会から蛇蝎のごとく嫌われているあたしを婦人会連中と鉢合わせにしないようにしてくれたのだろう。

1日世間話をしながらマリアと動いた結果あたし達はファーストネームで呼び合う仲になり、連絡先も交換することになった。

 

あのロマノフ王朝の末裔と友人になるとは何が起きるかわからないものだ。

話の中で朝食を取ったビューティフルレーションに興味を持った彼女とそこで食事を取りあたし達は別れることになった。

 




シダー河川公園/Cedar River Park
実在の公園。
この公園及び川沿いには桜が植わっており春には美しいらしい。

ビューティフルレーション
オリジナル設定。
本当は公式のアレス系飲食メーカーにしたかったのですが見つからないのですよね。

オクサーヌ
オークの女性アーティスト。
元々はリガーをしていたがある日一念発起してアーティストになった。
アンチメガコーポの歌を歌った結果メガコーポから無視されたため自主レーベルを成立して活動している。
アレス系へのランクインするぐらいには対立は緩んでいる設定でいますが、非公式です。

チャーチ・イン・レントン
実在の教会。
立地だけで選んだのでどういう教会かは存じ上げません。

マリア・ロマノフ
オリジナルキャラ。
前回の白と黒の狭間に出てきたランナー。
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