シアトルアイショット   作:CanI_01

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それぞれの夜

ピコン。その夜いくつかのコムリンクが同時に音を立てる。

 

プヤラップバーレーンではトロールランナーのトロキチが合成酒を傾けているタイミングであった。

 

「あ?」

 

メールをチェックするトロキチ。

 

「おい、エル。ダニーからデッドマンスイッチ来てるぞ。やるか?」

 

同様にメールをチェックしているエルは淡々と返す。

 

「デッドマンスイッチだったら死んでるじゃない。まだ、生きている可能性あるじゃない。」

 

バリバリと角の付け根を掻きビールの缶を傾ける。

 

「ああ、そうなんのか。死んでたら間違いじゃないのか。」

 

苦笑するエル。

 

「まあ、どっちにしろ報酬はもらえるみたいだし、やってもいいんじゃないの。」

 

「だな。レントンのくそヒューマニストが相手のようだしな。」

 

「ええ。とりあえず、この支払人のカティ・ガンダーソンとやらに連絡を取ってみましょう。」

 

同刻、ダウンタウン、ナイトエラント中央署

 

カティは自分のデスクでコムリンクに届いたメールに目を通していた。

 

「面倒なメール送ってきやがったな、あいつ。」

 

カティは個人情報を流し読みしてから、ダニーの撮影したナイトエラントの男の顔写真を見ている。

 

「こういうクズは早めに潰したいところだが。現行犯でないと難しいか。」

 

レントンと言う土地柄住民とうまくやろうとすると必然的にヒューマニスト傾向のある人物となる。

とは言え偏りがですぎれは不祥事の温床となる。今回のような。

署長であるワードに個人的な報告ラインを用いて今回の事件の状況とレントンのナイトエラントが関与している可能性について報告を行った。

一息ついているとカティのコムリンクが鳴る。

知らないコムコードだ。

 

「あいよー。」

 

コンリンクから響くのは硬質な女性の声。

 

「ダニー・ウエスト氏から捜索依頼を受けている者です。信託を受けているカティ・アンダーソン様でよろしいでしょうか?」

 

「ああ、金を預かってるよ。彼女が無事に生還するか死亡が確定した場合犯人の始末もしくは逮捕された時点で支払いをするように依頼されている。」

 

「結構です。報酬は3万ニューエンで相違ありませんね?」

 

「ああ、その通りだ。絶対では無いが名前だけ教えてもらえるかい?」

 

苦笑する気配。

 

「エルと呼ばれております。何か御用があればこちらのコムナンバーにご連絡を。」

 

プツリと通話が切れる。

 

「エルねぇ。ダニーが良く依頼してるランナーチームか。あっちは任せても問題なさそうさね。」

 

カティはコムリンクをポケットに叩き込むと査察部のオフィスへと向かった。

 

翌朝、ダウンタウン、ニッコーホテル、最上階コンドミニアム

 

「お嬢様、お嬢様」

 

白のナイトガウンを身に着けた金髪の女性がベッドでは眠りについている。

その女性に声をかけるのはメイドのお仕着せを来た女性だ。

 

「お休み中申し訳ございません。ヘル ブラックハウスより緊急の連絡がございました。」

 

ゆったりと身を起こし長い髪を指で梳くマリア。

 

「わかりました。音声通信でよろしければお受けする、と。あたしもすぐに応接に向かいます。」

 

「承りました。」

 

足早に部屋を退出するメイド。その後をゆったりとした足取りで追うマリア。

 

そして応接の椅子に腰をかける。

白いナイトガウンがマリアの体の起伏をはっきりと浮かび上がらせる。

 

「お待たせいたしました、ヘル ブラックハウス。」

 

応接の椅子にはブラックハウスの姿がARで投影されている。

ブラックハウスの視界には仮想設定されたマリアのAR画像が投影をされているはずだ。

 

「早朝から申し訳ありません、フラウ ロマノフ。少々緊急を要する案件がございまして。」

 

ゆったりと椅子に腰を掛け微笑みながらマリアは言葉を返す。

 

「お気になさらないでください、ヘル。我々は互恵関係にあります。可能な限りお手伝いさせていただきますわ。」

 

口の端を歪めるように笑みを浮かべブラックハウスは続ける。

 

「ありがとうございます。昨晩シアトルのレントンでゼーダークルップのシニアマネージャーが消息を絶っています。詳細な個人プロフィールは追って送付しますが、状況的に事件に巻き込まれているのではないかと思われます。」

 

あごに指をあてるマリア。

 

「ふむ。その人物の救出が目的ですかね。」

 

「可能であれば。最悪の場合でも彼のコムリンクを回収してもらいたい。報酬はお約束の通りでお願いします。」

 

「わかりました。お引き受けしますので資料の送付をお願いいたします。」

 

メイドのコムリンクがメールの受信音を鳴らす。

内容を確認しマリアに頷きを返す。

 

「確かにデータはいただきました。吉報をお待ちください。」

 

「期待していますよ。」

 

そしてブラックハウスのARは消えた。

マリアのARに投影される被害者の情報。

 

ベンジャミン・スミス

ドワーフ、男性

メッサーシュミッツカワサキの北米シニアセールスマネージャー。

昨日はシアトル、レントンのカーディーラーへの訪問後行方不明となる。

最終のコムリンクシグナルはシダー河川公園で途絶えている。

勤務態度は良好。エリアマネージャーへの昇進が内定。

詳細な業務レポートはこちら

 

並行してマップをAR上に展開する。

やはり昨晩食事をとったビューティフルレーションの近くだ。

一瞬ダニーの顔が浮かぶが頭を切り替える。

 

横ではメイドが朝食の準備を整えている。

 

「アデーレ、食事が済み次第シダー河川公園に向かいます。準備をお願いします。」

 

「かしこまりました、お嬢様。わたしは念のため警察に関連情報の照会を行っておきます。」

 

「ええ、よろしくお願いします。」

 

同刻、レントン某所

 

あたしが目を覚ますと、そこは人一人がかろうじて横たわれるようなコフィンのような空間だった。

入口は鉄格子になっており物理的な脱出は難しそうだ。

コムリンクと武器は取り上げられているがアーマージャケットは脱がされていない。

意外と紳士的な犯罪者たちだ。

とは言え、こんなところに閉じ込める以上人身売買か、臓器売買あたりが目的だろうか。

ヒューマニスとの衝動的な犯罪よりもオーガンレッガーが絡んでくれたほうがナイトエラントも動きやすいだろう。

とりあえず、電源を切ることができなかった生体ペルソナにマークがないかチェックしてから再起動だ。

幸い電波はある。

 

緊急連絡をしたみんなに無事であることを伝えるとして、さてどうするか。

 




プヤラップバーレーン/トロキチ/エル/カティ・ガンダーソン
1話目ロードオブヴァルハラ参照。

デッドマンスイッチ
いわゆる「俺が死んだらこの情報は公開されるようになっている。」式のデータ。
今回はダニーは死んでいないし、自分でメールしているので何から何までデッドマンスイッチではない。

メッサーシュミッツカワサキ
ゼーダークルップの子会社。
メッサーシュミットと川崎重工の合弁会社と思われる。
ビジネス分野は航空機、ヴィークル、重工業。

オーガンレッガー
臓器密売人。
主にグールやドラゴンが絡んでいると考えられており下種な犯罪者とみなされる。

コフィン
いわゆるカプセルホテル。
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