シアトルアイショット   作:CanI_01

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B級映画と第六世界の現実

エレベーターが静かに薄暗い地下に到着する。

中から片腕がむき出しのサイバーアームのトロールと街遊びに来たかのような軽装のエルフが降りてくる。

トロキチとエルだ。

正面には扉がありマグロックがかかっている。

左手はすぐに壁になっており、右手には幅2m、奥行き10m程通路が続いており一番奥には登り階段が見える。

エレベーターの入口と階段の入口辺りに監視カメラ。

見取り図によると地下はこの廊下、真ん中の部屋、奥の部屋の3つに区切られている。

ここから先は力仕事になるのは間違いないだろう。

 

無意識にトロキチがにやりと笑う。

トロールの時間だ。

 

隣の部屋がバタバタし始めた。トロキチ達への対応をしているのだろう。

もう、猶予はない。

トロキチは扉を開き部屋に躍り込む。

その手にはデッキブラシに偽装して持ち込んだポールアックスが握り込まれている。

トロールの膂力をサイバーアームで強化してポールアックスを叩きつける。

その結果は消し飛ぶだ。

それは精鋭のナイトエラントであろうと、街のチンピラであろうと異ならない。

単なる物理法則だ。

 

「かってぇな、おい。噂に聞くサイボーグか?」

 

確かにポールアックスを背後から叩き込まれたナイトエラントは即死だ。

しかし、普段であれば両断する勢いの刃は肉体の半ばに留まっている。

 

「違う方の都市伝説みたいよ?」

 

エルが呟く。視線の先には顔が蟻のような異形と化したナイトエラント隊員がいる。

部屋の中に12名の人型の存在がいる。全てナイトエラントの制服を身に着けている。

4名は貧弱な肉体から魔法使いであろう。4名は異形の昆虫のような外見でありぎこちない動きで腰のアレスプレデターを引き抜く。残りのヒューマンのように見えるナイトエラントは迷わず壁に立て掛けられているアレスアルファを取りに駆け出す。

部屋の左右はダニーが囚われていた部屋同様にコフィンが並んでいる。昆虫精霊と相まってまるで巨大な虫の巣に迷い込んだような違和感を受ける。

 

「昆虫精霊? なんでナイトエラントと昆虫精霊が仲良くしてるんだよ!」

 

その叫びと共にポールアックスを横の異形のナイトエラント隊員に叩き込む。

再び両断するものの状況は良いとは言い難い。

トロールの肉体がいくら頑強だとは言えアレスアルファで撃たれ続ければ助かる目は無い。

 

銃口の多くがトロキチに向いた瞬間、部屋の中央でカラリと音がする。

場違いな軽い金属音。

金網が床に落ちたのだ。

それはなんの変哲も無い通気孔口を塞ぐ金網。

 

何故金網が落ちてきたのか?

 

その理由がすぐに後を追い姿を現す。そこから落ちてきたのは黒い小柄な人影であった。

落下に合わせて右手を振ると銀線が迸り、ごとりと人間型のナイトエラント隊員の首が落ちる。

そして、誰もがこの黒い存在を理解する前に更に一閃。

まるで糸の切れた人形のように新たなナイトエラント隊員が倒れ伏す。

場は混乱に包まれた。この混乱はランナーにもナイトエラントにも等しく訪れていた。

ただ、それをもたらした存在であるマリア以外にではあるが。

 

最初に混乱から立ち直ったのは人型のナイトエラント隊員だ。

プロの手付きでアレスアルファを構えると予定通りフルオートでトロキチに鉛弾を叩き込む。トロールを始末すれば人数により制圧できる。そう考えたのだろう。

ホースで水をぶちまけるような射撃。

その考えに間違いはない。唯一の誤算はアレスアルファの直撃を2回受けたトロールが未だに健在であることだろうか。

 

後方にいた異形のナイトエラント隊員は反射的に目の前に落ちてきたマリアに向けて引き金を引く。

マリアは大きく跳躍し弾丸の射線より飛び退る。そして壁のコフィンを足場にし更に高く飛び上がりトロールに弾丸を垂れ流すナイトエラント隊員に肉薄し白銀一閃。

また、1人死体が増えた。

 

魔法の装甲に護られた昆虫精霊をさながら紙のように切り裂いていくのは驚異的な技量とその単分子鞭の切れ味を持ってしてこそ初めて可能となる。

その動きに触発されたわけでは無いだろうがトロキチは猛然と部屋の奥に突撃し魔法使いにポールアックスを叩き込む。

昆虫精霊ですらない魔法使いには耐えうる術はなくあっさりと事切れる。

 

身の危険を感じた人型のナイトエラント隊員はマリアにフルオート射撃を行う。

マリアは大きくバク宙を行いコフィンに取り付き斉射を受け流す。

そこに追い打ちをかけるように他の2人からの射撃が行われるが、マリアはコフィンから天井に向けて飛び上がり、天井を蹴り上げ鋭角に地上に着地する。

そのような挙動を追うことはできず弾丸は無為に天井を切り裂いていく。

そしてちょうどナイトエラントとランナー達の間に間隙が空いた瞬間エルの手から雷撃が迸る。その猛然たる雷撃により最後の人型は感電し大地に崩れ落ちる。

その代償であろうエルの白く美しかった腕はいたる所で内出血を起こしたのか鬱血し、口元からも血が滴っている。

すでに大勢は決した。

そう考えたのは魔法使い達で、考えなかったのは異形の存在達だ。

 

しかし、すでに結果を覆る状況ではなくなっいた。

程なく制圧され奥の部屋からダニーとスミスが姿を現す。

部屋の惨状に青ざめるスミス。

 

「本当に助かったわ、みんな?」

 

ダニーの視線はトロキチとエル、そしてマリアに止まり警戒心が露になる。

それに対してマリアは無機質な声で返す。

 

「同業だ。そちらのドワーフの脱出依頼で動いている。それ以外に興味はない。」

 

チラリとトロキチとダニーが視線を交わす。

 

「何にせよ、助かったわ。」

 

そして一行はレントン闇の中に姿を消していくのであった。




昆虫精霊
異世界から侵略した精神存在。
人間の体に侵食しなければこの世界で肉体を維持できない。
ナイトエラントはこの昆虫精霊と対立することで平和の体現者を現している。

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