シアトルアイショット   作:CanI_01

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ちなみにスープキッチンは海外の炊き出しのこと。


真紅の女王と赤錆の騎士/レドモンド編-2
嵐のスーブキッチン


段々と春の陽射しが厳しくなってきた週末の昼間に、あたしはマザーオブメタヒューマンズの炊き出しに参加していた。

レドモンドバーレーンで定期的に行われている炊き出しだ。

場所はヴェルビューにほど違いサマミッシュ湖の東側、かつてのニューポートビジネスエリアだ。

2029年まではビジネスユースの人々が行き交い様々な取引が行われていた夢の跡。

今ではかつてのビル跡を利用したスクワッターが住まうバーレーンだ。

とは言え、この地区はヴェルビューに近いこともありバーレーンにしては決して治安は悪くはない。

もちろん、あたしが1人で入り込めば無事に出られないぐらいには治安が悪いだろうが。

スーブを大量に造り、シアトルの食材製造企業のインガソル&バークレーから寄付を受けたパンを軽く温めて提供する。

そして持ち帰り用としてネイチャーテイストの食料を手渡す。

 

「ダニー! パンが足りないから持ってきて。」

 

一緒にボランティア参加しているマリアに呼ばれる。

彼女は美貌と人当たりの良さが買われ来訪者対応をしている。

あたしは顔が売れてる関係で流れの悪くなる原因となるので裏方に回されている。

人当たりだけなら負けてないはずだ。

外見では勝負にもならないが。

 

食料配給のボランティアは食事時に集中して人が集まる。必然的に戦場のような大変さになる。

とは言えブラックヘイブンの経済政策の成功やアズトランアマゾニア戦争の影響も落ち着いてきておりシアトル経済は落ち着きを見せており数年前に比べて配給への参加者数は減ってきている。

とは言え集まってきた人達を捌くのに2時間以上かかってしまった。

時間で区切らなければ行列は途絶えなかったのだろう。

 

早朝の食料の準備を含めて昼前には現場での作業は終了した。

あたし達は鍋など片付けてから打ち上げがてら昼食に向かった。

向かったのはパインレイクエールハウスはサマミッシュ湖の東側にあるダイニングバーで今回の炊き出しのポイントから少し北に上がった辺りにある。

トロージャンサトソップ原子力発電所のメルトダウン以前から経営を続けている老舗で、この店が経営を維持することで周辺の治安も維持されている。今回の炊き出しの為に調理スペースを貸してくれたのもこの店だ。

この為まず店に到着したあたし達は店の裏側に周り調理器具を降ろす。そして厨房側から入り洗い場を借りる。

 

洗い場ではマリアが可愛らしく小首を傾げている。

 

「ダニー、この洗い場には洗浄スイッチが無いけどAR操作かしら?」

 

さすがお嬢様は手で食器を洗ったりはしないらしい。

 

「この量とサイズだから手で洗うのよ、マリア。このスポンジに洗剤を付けて。」

 

クスクスと横から笑い声が聞こえる。今回の炊き出しの責任者のアンジェラだ。

 

「ダニーも人に教えられるぐらい慣れたと思うと感慨深いわ。」

 

あたしも最初手で洗うと言う発想がでなくて、かなり真剣にマトリックス知覚をしたのは良い思い出だ。

 

「ダニーも最初は分からなかったのね。」

 

軽く肩をすくめる。

 

「そもそも食事を手作りすると言う発想もなかったしね、あたしは。」

 

大きく皆に笑われる。

昨今は調理の意味が大きく変わってきている。

うちは両親含めてオートクッカーに任せれば良いと言う考え方だった為に手料理は趣味と言ったイメージで育ってきた。

恐らく横で笑ってるマリアは誰かに手作りさせる環境で育ってきたのだろう。

 

そんな風に笑い合いながら調理器具を洗っていく。

洗い終わってから、そのままの流れで店の方へと回る。

いつの間にか時計の針は13時を回っている。

 

パインレイクエールハウスはその名前の通り円形の店内に半周程バーカウンターが 張り巡らされその奥には所狭しと様々な酒が並んでいる。

あたし達は店の中央にいくつか並ぶ円形のテーブルに陣取る。

取り分け用にフライドポテトとハンバーガーをオーダーし世間話半分、情報収集半分と言った感じで食事は進む。

 

食事の中アンジェラがふと思い出したように口を開く。

 

「そう言えば今日はグロウシティ方面の人が少なかったような気がしませんか?」

 

レドモンドがバーレーンとなった最初のキッカケの置き土産であるグロウシティ。

放射能に汚染されて仄かに光を発すると言われる土地だ。バーレーンの中でも他で暮らせない人達が集う最悪のスラム地帯だ。

必然的にグロウシティに近い場所で炊き出しをすれば、そこに住まう人々が集まることになる。

それを見越して近接領域で炊き出しを行っていたと言う面もある。

その参加者が減っているのだ。

 

「確かに。本当にぎりぎりの生活している人は少なかったような気がしますね。」

 

生活が良くなったおかげで参加者が減ったのであれば良いのだが、そうでなければ原因を探りたくはある。

その言葉に首を傾げるのはトマス·レクター。

ヒューマン男性で普段はバーレーンで生活している協力者だ。

雰囲気からあたしはランナーではないかと思っている。

 

「確かにグロウシティの近くでイーボの研究所ができて仕事が増えたと言う話は聞きましたね。」

 

「イーボがグロウシティに研究所なんて対放射線実験でもしてるのかしら?」

 

マリアも同じように首を傾げる。

 

「ベンチャーならまだしもイーボクラスなら試験施設を整えた方が最終的なコストは下がるはずなのでグロウシティを使うとは思えませんね。」

 

原因が確かなら理由はともかくとして問題ないのだろうか。

 

「理由までは知りませんがね。とは言え、そんな大規模な雇用ではありませんよ。体感レベルで影響を与えるとは思えないですね。」

 

アンジェラが眉を顰める。

 

「過去にも急にスラムからの参加者が減ったことあるんだけど、その際にはヒューマニストがメタヒューマン狩りをしていたらしくて。」

 

誰にも知られず被害を受けているとなると見過ごしたくはない。

低く唸り声がでる。

 

「取材できるならしますか?」

 

レクターがいたずらっぽい顔をしてあたしに尋ねてくる。

 

「興味はあるけどバーレーンで取材する為のコネも自衛能力も足りないのよね。」

 

情けないが事実だ。

自分の身の程を弁えないジャーナリストは往々にして闇に消える。

あたしも身を持って学んだ一人だ。

 

「定期的にレドモンドバーレーン奥地で配給をしている組織ともコネがありましてね。その団体の責任者がダニーさんを紹介してほしいと前から言われてたんですよ。」

 

レドモンドで定期的に配給をしている組織など1つしかあたしは知らない。

 

「アナーキストブラッククロス?」

 

レクターはニヤリと笑う。

 

「正直詳細は申し上げられないので信用していただくしかない訳ですが。」

 

あたしは少し迷ってから大きく頷いた。

 

「是非紹介して貰えるかしら。」

 

少なくともレクターは信頼ができる。

アンジェラもさほど不安には感じていないようだ。

この機会を逃せば取材は不可能だ。

多少のリスクは目を瞑るしかないだろう。

 




マザーオブメタヒューマンズ
メタヒューマン人権団体。

インガソル&バークレー
シアトルにある合成食材メーカー。

ネイチャーテイスト
アズテク系の食料品会社。

ブラックヘイブン
シアトルの市長。ヒューマニストであるためダニーは大嫌い。

パインレイクエールハウス
2021年現在に実在しているダイニングバー。

tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g1101608-d1026085-Reviews-Pine_Lake_Ale_House-Sammamish_Washington.html

トロージャンサトソップ原子力発電所
昔レドモンドにあった原子力発電所。
これがメルトダウンしたせいでレドモンドはバーレーン化した。

アンジェラ
オリジナルキャラ。

トマス·レクター。
オリジナルキャラ。

アナーキストブラッククロス
ロシア発祥の実在の組織。
現実では政治犯として収監された人々の支援をしている団体。
第六世界ではこの活動を一歩進めて偽造SINやセーフハウスの用意、ストリートドク。リガーの手配などでも協力してくれる。
もちろん、メガコーポや企業に敵対しているのであればですが。
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