シアトルアイショット   作:CanI_01

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爆走のブラックマンデイ

翌週の月曜日。5月の第三月曜日だ。

あたしは漆黒の軍用トラックに揺られていた。

レドモンドでブラックマンデイと呼ばれる月曜日だ。第三月曜日にはブラッククロスが食料品や医療品の支給を行う。これがブラックマンデイと呼ばれている。

何故なのかは知らないが、護衛付でレドモンドバーレーンの奥地に踏み込む事ができる良いチャンスだ。彼ら、いや、彼女達の意図には目を瞑ろう。

 

「車酔いかしら、ダニー? 酔ってても地獄の一丁目まではノンストップで走り抜けるわよ。」

 

声を掛けてきたのはチームの指揮官であるアーリー·ブラックウイング。

彼女は若いチェンジリングのエルフ女性だ。タンクトップに黒のレザージャケットを羽織り、ブラックレザーのホットパンツ、足には羽毛のタイツ、首元にはファーを、頭にその厳つい服装とはミスマッチな清楚な感じの白い羽帽子を被っている。

いや、首元や頭、脚には羽毛が生えている。

さながら半人半鳥と言った風情だ。

レザージャケットの胸元には赤錆びたレイピアが描かれている。

 

「大丈夫よ、アニー。車と酒には酔ったことないから。」

 

彼女とはつい先程レクターに紹介されたばかりだ。

とは言えアーリーが堅苦しい関係を嫌ったのと、あたしを知っていた関係で今の距離感になっている。

 

「ふふ、ダニーが酔うのはいかしたオークだけだったわね。」

 

少し顔が赤らむ。

一体そんな情報どこから手に入れて来ているのだろうか。

 

「何の話だかわからないわね。しかし、バーレーンでこんなに飛ばしても大丈夫なのね。」

 

露骨に話を逸したがアーリーは乗ってくれた。

 

「ここには法律が無いからね。慈悲深き我らが主は迷える子羊に1ナノ秒でも早く物資を届けるためにアクセルをベタぶみしろと言ってるさ。主の慈悲を妨げるものを吹き飛ばしてね。」

 

もちろんバーレーンでゆっくり走るのは狙われるリスクを上げることになると言うのもあるのだろうが。

 

「あたしの活動も主の御心に適ってるなら良かったわ。」

 

肩をすくめるアーリー。

 

「主の御心は判らないけどね。虐げられてる人々を助けるために動くのは御心に適ってると、あたしは思ってるよ。」

 

彼女に、そう言われると少し安心する自分がいる。自身の行動に対して迷いは無いつもりだが、それでも誰かに認められると言うのは安心感をもたらす。

とは言え、この安心感が麻薬であることま知っている。

 

「ありがとう。これからの段取りだけど、あたしは手伝わなくても良いのね?」

 

アーリーは大きく頷く。頭部から胸元に掛けての羽毛がフワリと動く。

 

「ああ。十分な人員を連れてるからね。部外者は必要ない。ダニーにはあたし達の活動とグロウシティ近傍の報道をしてくれるかしら。」

 

それはそれで何とも申し訳ない。

 

「一応護衛を紹介するから好きに取材して頂戴。別にあたし達に義理立てする必要もない。あたし達は主にご覧になられて困ることはしてないからね。」

 

「判った。あたしは事実を報道する。その事実がアーリー達の活動に役に立つと考えておくわ。」

 

「それで良いさ。主も隣人とパンを分け合え、足りない分は何とか調達しろと言ってるしね。」

 

それは石ころをパンに変えたあの逸話の解釈なのだろうか。

 

「オーケー。良いパンを焼けるように全力を尽くすわ。」

 

そんな事を話している間に目的地に到着したようだ。

グロウシティ近傍のスラム地区だ。

そこで黒い発煙筒を大きく打ち上げる。

ブラックマンデイの実施の合図である。

ブラックマンデイは毎回違う場所で行う。

だからこそ、こういった原始的な方法が効果的なのだ。

 

アーリーは周囲に指示を飛ばしてから、あたしを手招きする。

 

「ダニー、彼がアクセルホーン。とりあえず水先案内人兼護衛ってとこさね。」

 

紹介されたのは巨漢のトロール、なのか、ズーヌークアなのか解らないよう人物だ。

本来は頭部にのみ角として形成されているケラチン質による、角が全身から生えている。

その角を阻害せぬためだろうが、体の角に当たらぬようにアレンジした赤茶けた色のチェインメイルを身に着け、上からアーリーと同じように黒のレザージャケットを身に着けている。さながらジャケットは古代のサーコートの風情すらある。

その背中にはチェインメイルと同様に染色された赤茶けたポールアックスをその背中に下げている。

町中なら職務質問待った無しだ。

とは言え、バーレーンにおいては、これ程信頼のできる抑止力は存在しない。

もちろん、彼があたしに悪意を持っていなければだが。

 

「ダニーさんですね! うわ、本物のダニーさんじゃないですか。VRとかじゃないですよね!」

 

その圧倒的なテンションに押されながら言葉を返そうとして、ふと、思い当たる。

アクセルホーンって毎回配信したらコメントくれる人じゃないかしら?

 

「はじめまして、ダニー·ウエストです。アクセルホーンさんって、いつもコメント戴いているアクセルホーンさんですか?」

 

握手できるように手を差し出しながら声をかける。

アクセルホーンは両手であたしの手を掴み投技でも掛けてくるのかという勢いで握手をされる。

 

「ダニーさんに名前を覚えて貰えてるなんて本当にかんげきです!」

 

う、うでかもげる。

 

「アクセルホーン、お前が普段相手にしてるミュータントクリッターじゃないんだ、ダニーの腕が外れるぞ。」

 

苦笑しながら止めに入ってくれたのはアリー。

その言葉に慌てて手を離すアクセルホーン。

悪い人ではないのだろう。

腕がもげるかと思ったけど。

 

「助かったわ、アリー。」

 

すでに息も絶え絶えなあたしに対してアリーは笑みを隠しもしない。

 

「あなたに、コンタクト取りたかった理由が取材して欲しかったのも事実何だけど、アクセルホーンが熱狂的なファンだったのも一因なのよね。」

 

少なくとも危地に飛び込む以上信頼できる護衛を手に入れたと考えるようにしよう。

 

「何はともあれ、よろしくね、アクセルホーン。頼りにしてるわ。」

 

それに爆音の声でアクセルホーンが応える。

 

「命に替えてもダニーさんの安全は守るっす!」

 

とりあえず生暖かいアニーの微笑みは無視して段取りを詰めていこう。

時間は限られているのだ。

 

 




アーリー·ブラックウイング
非公式キャラ。初出は第六世界の歩き方。
https://booth.pm/ja/items/1873141

チェンジリング
妖精の取替子ではなく、SURGEにより特殊な外見や能力が発現した人物の総称。
アーリーのように体毛が羽毛になったり、手足が増えたり、ケロロ軍曹になったりと症状は様々。
後天的には突発的に発生するので質が悪い。

アクセルホーン
オリジナルキャラ。
この人は単なるミュータント。

ズーヌーカ
いわゆるトロールヴァンパイア。
変身した際の骨や角がいびつな形になる傾向がある。
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