「ところで、心当たりはあるんですか?」
アクセルホーンに問われる。
あたしの意図が判らなければ案内もできないと言うことだろう。
「無くは無いんだけどね。昔ネオネットがやってたコムリンクを配ることで貧困を無くそうって言う社会実験があって、その対象の1つがグロウシティだったの。」
心当たりがあるのかアクセルホーンが嫌そうな顔をする。
「ありましたね。あの5分使うと15分広告見ないと使えないメタリンク。」
流石にそれは言い過ぎだが概ね間違ってはいない。
「まあ、そんな感じの話だけど、そのプロジェクトで窓口してくれた人がいて、コムコードの交換もしてるのよね。」
眉を顰めるアクセルホーン。
「数年前の顔役っすか。生きていれば良いっすね。とりあえずコンタクト取れるなら場所聞いてください。案内しますよ。」
あたしは頷くとコムコールをかける。
バーレーンの朝は早いから大丈夫かな。
数コールで相手が出るが無言。
警戒されているのだろう。
「ご無沙汰しております。ダニー·ウエストです。以前コムリンクの配布プロジェクトでお世話になりました。覚えていらっしゃいますか?」
更に沈黙が続く。覚えてないのか、あるいはすでに売却済みか。
躊躇ったら負けだ。
「今日はいくつかインタビューをさせていただきたくご連絡させていただきました。もちろん報酬もお支払いいたします。」
そこでコムリンクの向こう側から躊躇いがちに言葉を返してくる。
「ダニーさん?」
子供の声だ。確かに窓口のミックには息子がいた。
名前は確か。
「ええ。あなたはケイン君よね。ミックさんはいるかしら?」
コムリンクの向こうから少し安心した雰囲気が伝わってくる。
これは日常的な警戒心ではない。
何かあったのか?
「父ちゃん達はいません。ここ数日帰ってきてない。」
バーレーンではよくある話かもしれない。
偽善と呼ばれようとあたしは可能な限りの人を救いたい。
「役に立つか判らないけど事情を聞きに家に行っても良いかな。」
再度の逡巡。踏み込みすぎたか。
「良いけど場所がわからない。」
「大丈夫。こっちで確認するから。通話切らないでね。」
あたしは最悪の通信環境の中でケインと繋がるコムコールの糸を手繰り寄せる。
そして通信先の場所を確認する。
「じゃあ、今からそっちに行くから、待ってて。」
あたしはコムコールを切り、アクセルホーンに所在地を指示する。
昔の住所だが無いよりは良いだろう。
「案内しますけど、無茶はやめてくださいよ。ダニーさんに何かあったら俺の生きる楽しみが失われるんで。」
大袈裟な表現に苦笑いする。
ここまで熱烈なのはストーカー等以外では始めてだ。
「ありがとう。でも、自己保身優先のダニーなんて誰も着いてきてくれないわよ。」
その言葉にアクセルホーンは複雑そうな嬉しそうな独特の表情を浮かべてケインの住処へと案内してくれる。
移動していると、そこはスラムと言うよりも廃墟のようだった。
近場のブラックマンデイの為にみな出払っているのだろうか。
怪訝そうなあたしの雰囲気に気づいたのかアクセルホーンが口を開く。
「なんか人少ないっすね。本当になんかあったかもしれないっすね。」
「気のせいじゃないのね。とにかく話を聞い見ましょう。」
ケインの住処はグロウシティの中だ。
当然グロウシティの中心に近づくほど人気はない。だからこそ両親が戻らないような状態でも子供が家を維持できているのであろう。
そこはかつてのワンルームマンションだったであろう建物だ。
薄汚れた表札を見るとシアワセ系の社宅であったらしい。
グロウシティの中心にには数年前までシアワセの核融合発電所があったのだ。社宅も当然用意されていたのだろう。
そこからコムコールをかけて家を確認し訪問する。
家は質素ながらもキレイに整理されている。とりあえず?ケイン君に手土産代わりのソイバーを手渡す。春の新商品であった桜フレーバーよりも普通のフレーバーの方が美味しいらしい。
ついでに物欲しそうなのでアクセルホーンにも一本渡す。
そして落ち着いたところで事情聴取だ。
「しばらく前から父ちゃん達は近くにできた研究所に働きに行ってる。」
いきなり当たりを引くとはあたしも運が良い。あるいはそれだけ事態が深刻化しているのだろうか。
「最初は父ちゃん達もお給料も良いし、仕事も楽だしと喜んでた。ただ、最近は何か悩んでる感じで仕事してた。」
良い仕事を手に入れたことによる軋轢だろうか。
「ところが3日前から帰ってきてなくて、何の連絡もない。」
だからコムコールへの反応が早かったのだろうか。
「昨日いつも仕事紹介してくれるおっさんにも聞いたけど、おっさんは連れて行く所までが仕事で帰ってくるかどうかは知らないって言われた。」
何かの被験者なのか、特定の対象でも探しているのか。
「ねえ、他にも同じ仕事してる知り合いいる?」
その後報酬の交渉を行った後ケインに知り合いを紹介して貰い、そこから更に芋づる式に知り合いを辿っていく。
それと並行してグロウシティの生活状況にまつわるドキュメンタリーの作成も進めていく。
「これ、何かをスクリーニングしてるわね。」
聞き込みの結果仕事の参加者のうち大体10%が行方不明になっている。
バーレーンにおいては損耗率1割の仕事と言うのは安全な領分のようだ。
行方不明になったり参加を断られるようになるのは大体3ヶ月程度で、仕事も薬剤投与を受けたり何かのテストを受けたりと言うことなのでスクリーニングをしているのは間違いなさそうだ。
「帰ってこない人が幸せなら良いんすけどね。」
世の中そんなにうまくはでしていないものだ。
さて、どうしたものかと思っているとアクセルホーンがポールアームを身構える。
視線の先には柄の悪い、いや、妙に統制の取れた五人組がいる。
「早くない?」
「他人の動きを気にしてれば、気づかれる頃合いっすね。即座に繰り出せばこんなもんすかね。」
あたしはブローニングウルトラパワーを引き抜きながら言葉を返す。
「意外と警戒されてるみたいね。」
重心を下げ距離感を測るアクセルホーン。
「普通のジャーナリストはこんなバーレーンの奥地で聞き込みしないっすからね。ランナーを想定して兵力出してきてるんじゃないっすかね。」
その言葉を切っ掛けにアクセルホーンが打ち出される。
実際には彼が駆け出しただけなのだろうが、まるでカタパルトで打ち出したかのように驚異的な脚力で五人組に接敵し長大なポールアームを叩き込む。
叩き込まれたヒューマンはまるでオモチャのように弾き飛ばされ動きを止める。
更にポールアームを振り戻し別の1人を吹き飛ばす。
彼がアクセルホーンと呼ばれる一端を見たように思える。
そして、残り3人の射撃はほとんど意味をなさなかった。アクセルホーンはその驚異的な機動力により2人の銃弾を避け、1人の銃弾をその肉体で弾き返した。
彼らはハンドガンで猛獣に挑みかかる愚を悟りながら命を失ったことだろう。
あたしの銃? 相手に当たって痛撃は与えたけど結果には影響しなかったとだけ書いておくわ。
「圧倒的ね。銃の当たった所は大丈夫? 応急処置ぐらいはできるけど。」
首を傾げるアクセルホーン。
「そっすね。増援来てもあれなんで、尋問してからお願いしてもいいっすか?」
そう、彼らを指揮していた男、恐らく口入れ屋があたしの銃弾を受けて倒れている。
「さてと、せっかくだから色々教えてもらえるかしら?」
住民とはまた違う切り口の話をしてくれることだろう。