ギャング風の男が気絶したのを確認して、あたしは一息ついた。
さて、本業に取りかかろう。
あたしはワイヤレスシグナルの流れに意識を集中する。
無数に飛び交うシグナルのうち男に関係しているものをより分けていく。
男の持っているデータから事件の背景情報を集めていこう。
恐らくナイトエラントかアズテクの警備部隊が到着するまで数分しかない。
男が銃を振り回していた時には無限にも感じられた警察到着までの時間だが、今のあたしにはあまりにも短い。
彼らが証拠を根こそぎにする前に情報を集めておきたい。
結果、単なるジャンキーの暴走なら運がなかったという話しだ。
あたしの視界に男に繋がる4つのワイヤレスシグナルがポップアップする。
シグナルの発信源を1つづつ確認し、男のPANを明らかにしていく。
男のPANはアレスプレデター、ソニーエンペラー、サイバーアイの3つで構成されている。
4つ目は独立したシムセンスチップだ。間違いなくBTLだろう。
まず狙うはコムリンクであるソニーエンペラーだ。
いくつかのソフトを走らせながら脆弱性を探りマークを刻み込む。
だいたいは何となく綻びを感じる場所を調べていくと脆弱性が見つかる。
所詮はチンピラの扱うコムリンクだ。あたしにとってセキュリティーなど無いに等しい。
そして、忠実な電子の妖精データスプライトを呼び出す。
あたしの視界に手足の生えたスキャナーの形をしたデータスプライトが映りこむ。
この子に必要な情報をかき集めるように命じるとコムリンクをスプライトは調べ始める。
解析は後で構わない。
サイバーアイの画像、通信記録、走っているプログラムリスト、最近の物品購入履歴など時間の許す限り全てだ。
スプライトに情報回収を任せ一瞬逡巡する。
シムセンスチップも調べるべきか。だが、BTLならセキュリティーも高いだろうし、データを失うリスクもある。警察に任せるのが無難だろう。
あたしはおもむろに銃を向けられた少年とその母親に近づき安否を確認する。
「レポーターのダニー・ウエストさんですか?」
どうやら、あたしのことを知っているらしい。
とびっきりの営業スマイルを浮かべる。
「そうです。お互いに災難でしたね。お怪我はありませんか?」
少年はキラキラした目であたしを見上げる。
「ウエストさんのおかげで助かりました。いつも番組見てます。」
純粋な応援をうけて、ふと気がゆるむ。
「ありがとう。今日のこれも番組になったら見て頂戴ね。」
そんな中遠くからサイレンの音が近づいてきた。
騎兵隊が到着したようだ。
顔見知りがいれば良いのだけど。
あたしは信じてもいない神に祈りを捧げた。