シアトルアイショット   作:CanI_01

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電子の古城の冒険

ホストの攻略が終わるまでは口入れ屋さんにはお待ちいただくとして、攻め込むことにする。

イーボのホストを攻める事になるとは強い不安を感じる。

正直あたしの能力的にも実力的にもメガコーポのホストを制圧できるとは思えない。

 

ひとまずホストを観察すると強い違和感を感じる。

イメージとしては通信ラグでテクスチャーの剥げた素材とでも言うのだろうか。解像度の低いような違和感を感じる。

外見はドット絵の和風の城と言うところだろうか。

システムの質としては並程度か。勝算はあるはずだ。

 

小手調べにイーボの研究員に偽装してアクセスを試みる。

まるで手応えがない。観察した時の印象の通りさほど厳重ではない。

しかし、どうも思うようにペルソナが動かない。何故だろうか。

だが、これなら管理者権限の奪取すらも容易そうだ。

 

マークをつけホストの中にするりと入る。ウイザードのような気持ちになるが、罠のようで気持ち悪くすらある。

 

内部も和風の城と言った感じで木製のエントランスから廊下が続いている。

 

テクスチャの剥げた古城のホストに入ったところで強い嫌悪感を感じる。家の中で虫を見つけたような、ヒューマニストによる犯罪を見たような怒りにも似た嫌悪感。破壊衝動と言っても良いのかもしれない。

共振力領域が汚染される事があるとは、聞くがこれがそうなのだろうか。

あたしは目についたファイルを意味もなく破壊したい衝動に耐えながらデータを探していく。

 

そして見つけ出したファイルにはこう書かれていた。

 

『ペネロペ·アン·ザビアー博士による反共振力による身体強化について』

 

どうやらザビアー博士は三浜の研究員で反共振力やテクノマンサー能力、AIなどについての研究を行っている人物らしい。

この人物が今イーボとのジョイントプロジェクトに伴いイーボ側に出向、その際に技術供与された情報に反共振力による影響があったらしい。

こちらの追試研究の為に、この研究所は設立したようだ。

妙に金を惜しんでるように見える理由はこれだろうか。

高濃度の反共振力に触れることにより身体能力の増大、再生能力などを獲得することになる。

また、テクノマンサー能力の発現や電子的な人格転写を引き落としやすくなる、と。

 

電子的な人格の転写って人格のバックアップを取れるってことなのかしら?

 

つい、資料を読み込んでしまっていたあたしはパトロールICへの対応が遅れてしまった。

とりあえず、セキュリティデータと思しきデータと研究データをバッサリとコピーして鎧武者の姿をしたICの群れに囚われる前に慌ててホストから脱出することになった。

 

ひとまず、離脱したあたし達はブラックマンデイに合流し、その模様の取材をさせてもらう。

潤沢な衣料品の供給や保存性の良い食料提供など、これは貧者救済によって偽装したセーフハウスへ匿っている人に対する物資供給なのでは無いだろうか。

とは言え、これで救われる人はいる。成さぬ善より、成す偽善とは良く言ったものだ。

 

そんなことを思いながら歩いているアーリーがライブをしている。

その歌は大昔のロックアーティストの歌でみんなで狂おうと呼びかける熱烈な信仰の歌だ。

魔力のこもったその歌声は絶望した人々の目に強い光を呼び起こす。

人はパンのみに生きるに非ずとは、娯楽の必要性を説いた言葉ではないが、娯楽も信仰も同じものなのかもしれない。

アーリーのこの歌から神への愛を感じている人間はどの程度いるかは判らないが、聴衆が熱狂していることには間違いない。

 

軍用トラックの中であたしは引っこ抜いてきた資料に目を通していく。

どうやら潜入したホストはクラッシュ2.0の際に稼働していたシアワセのホストをスレイブ化して運用するためのもののようだ。クラッシュ2.0の際に世界を席巻したヨルムンガンドウイルスと共にマトリックスを打倒した反共振力。

その当時の反共振力を集めるために、この場所、あのホストである必要があったようだ。

 

反共振力への、感受性を高める薬剤やテストはVR状態で反共振力に触れさせるのが目的であり、結果的に適応率の高い相手を監禁しているようだ。

 

何とか開放をできないものかと考えながらデータを開いていく。

そして、人格の転写とは物理的な死であると理解した時点で無力さを痛感する。社会的な圧力では‘今’囚われている人を救う力にはならない。

 

アーリーの歌声が響いてくる。

 

「人はすぐに諦める。

あんたの拳はもう動かないのか!

その一撃が世界を変えると信じられないのか!

さあ、拳を打ち下ろせ!」

 

諦めるのは全ての手を尽くしてからだ。

あたしは素材の編集を進めた。

まずは合法的な取材部分を組み立てるしかない。

 




テクスチャーの剥げた素材
反共振力プールにより視界に靄がかかっているイメージ。

破壊衝動
反共振力に触れると例外なく破壊衝動を感じるらしい。

ペネロペ·アン·ザビアー
ミツハマの研究員。17歳の息子がいる。
現在はMIT&Mの研究所でネオネット、イーボ、アズテクのジョイントプロジェクトに参加している。
パックスの偽名。

アーリーの歌
Prince & The Revolution - Let's Go Crazy
https://www.youtube.com/watch?v=aXJhDltzYVQ

最後の歌詞があるほうは創作。
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