シアトルアイショット   作:CanI_01

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真紅の女王への拝謁

あたし達はエレベーターは11階まで上がる。

エレベーターの正面には豪華な扉が聳える。

 

「ウルビア様は扉の奥におります。」

 

そう言うとエルフの女性は深々と頭を下げる。

ここまで来た以上進むしか無いだろう。

 

扉を開くとそこには一面の庭園があった。

木々が生い茂り草花が咲き誇り、頭上には夕暮れの空が赤色の光を投げかける。

屋上庭園となっているのだ。

 

あたしが覚醒者ならきっと精霊の姿を見ることもできるのだろう。

そんな庭園に赤い小山が見える。

あれがウルビアなのだろう。

 

あたしは赤い小山を目指す。

その長閑な様子からここがバーレーンであることや、ビルの屋上であることを忘れそうだ。

 

近寄ると赤い小山は首をもたげ、その巨大な頭をあたしに向ける。

その全身は鮮やかな真紅の鱗で覆われ、杭のように尖った尻尾を持った巨大なドラゴンだ。

 

「よく来たな、ダニー。」

 

あたしの頭の中に涼やかな女性の声が響く。

ドラゴンは人の言葉を話せないため、このような念話を行うと聞いているが体験するのは始めてだ。

 

「始めまして。ミズウルビア。」

 

頭の中に笑いの波動が響く。

 

「ウルビアと呼ぶが良い。」

 

「わかりました。今日はお時間ありがとうございます。」

 

ウルビアは楽しそうな雰囲気を保っている。

助力を容易く得られると良いのだが。

 

「うむ。何か我に願いがあるとアーリーより聞いておる。」

 

さて、ここからが本番だ。

 

「はい。虐げられる者達を救うための助力を願うためにお伺いさせていただいております。」

 

ウルビアは大きく頷き、その真紅の瞳で射抜くようにあたしを見る。

 

「ふむ。先程公開された研究所の件か。」

 

放送を見てもらえているのであれば話は早い。

 

「見ていただいているのですね、光栄です。」

 

カラカラとウルビアが笑う。

ひどく機嫌が良い。それとも彼女はいつもこのように朗らかなのだろうか。

 

「うむ。ダニーの放送がアップされると最優先で見ておる。」

 

確かにいつもすぐにコメントをくれてるメンバーの一人だ。

 

「ありがとうございます。では話が早いですね。お願いしたいのは研究所を壊滅させるための人員です。」

 

怪訝そうな雰囲気が伝わる。

 

「壊滅? 被験者の救出ではなくか? 研究所の存在そのものはグロウシティの益となるのではないのか?」

 

「搾取する体制は最終的な破綻にしか繋がりません。断固叩くべきです。」

 

あたしも迷ったが今妥協するべきではない。

 

「今は働き手が残っていますがこのまま人が減っていけば生活を維持できない者が増えます。

ストリートチルドレンの増大は生存者自体を減らします。」

 

もちろん、あたしには有形力はない。

故に彼女を説得せねばならない。

 

「確かに一理はあるの。しかし、我らに利益はあるのか。」

 

利益。誰も益なき行為は行わない。当然だ。

更に我”ら”か。

 

「あたしはイーボの研究所の行為は将来的に近隣のギャングを支える人々を刈り取る焼畑農業だと見ています。

ギャングに保護料を支払うのは今犠牲になっている彼らではないでしょうか。」

 

「今の保護料に伴う義務の行使と未来の保護料の担保な。悪くはない。」

 

ウルビアの鼻から一筋の煙があがる。

苛立ちだろうか?

とは言え、リスクに見合った報酬とは言えないだろう。

 

「これに加えて保護料を支払わない相手に対するケジメをつけることによる面子の確保。」

 

ウルビアが目を細める。

機嫌の良い猫のようだ。

 

「あたしは、この後先程の放送に対しての内部からの告発があったと続報を流します。これをアップするタイミングをウルビアと打ち合わせしてから行います。」

 

「それになんの意味がある?」

 

怪訝そうなウルビア。

 

「あたしにより告発を受けた企業の株価に対する影響の平均的データもお付けします。」

 

ウルビアが瞬きをする。

 

「ふむ。株価が落ちるタイミングをコントロールできると。」

 

あたしは大きく頷く。

 

「もちろん今回の相手はビッグ10ですので、あたしの与える影響など微々たるものです。だけど、ゼロではないのです。」

 

恐らくあたしの出せる明確な利益はこれだ。

これで願いを入れてくれるとありがたいのだが。

 

「どれだけの利ざやを出せるかは我次第と言うことよな。」

 

ウルビアは再度瞬きをする。

何かの合図だろうか。

 

「いかがでしょうか?」

 

ウルビアが大きく喉を鳴らす。

あたしはその不意打ちに無様にもビクリと反応してしまった。

 

「失敬、失敬。驚かすつもりはなかったのだけど、考え事する時の癖なの。

正直ギャング達を動かすには、我の利益をある程度分配せねばならぬだろうな。」

 

ふむ。するとウルビアとしての利益が薄れるのか。

 

「あたしとしてはご提示できるのは2つです。

ウルビアが今の親メタヒューマンスタンスである限りあたしはあなたを信任します。」

 

その言葉に反応するように頭の中に爆音のような笑い声が響き渡り頭が割れるように痛む。

 

「面白い噂を聞いたようだ。ふむ。だにーが支援してくれるのなら真面目に政界進出を考えても良い品とは何だ?」

 

あたしはクラクラする頭をおさえながら続ける。

 

「こちらはつまらないものです。あたしも襲撃に同行し研究所のデータを根こそぎ奪ってきます。こちらはお渡しします。お役に立つのではないですかね。

ついでに突入時に映像を撮影します。この映像はギャングのラスティスティレットからの投稿画像として公開しようかと考えています。」

 

ウルビアがその大きな頭を傾げる。

駄目なのだろうか。

他に打てる手はないだろうか?

 

「良いわ。手を貸しましょう。放送は木曜日の夜にしなさい。襲撃は金曜日に行いましょう。当日の朝にここに来なさい。ラスティスティレットに迎えを出すように指示しておきます。」

 

何故首をかしげたのか?

違和感は残るが進む以外の道はあたしにはない。

 

「ありがとうございます。最高の放送を仕上げます。」

 

ウルビアが傍らから何かを取り出し、あたしに向けて差し出す。

 

「あと、これにサインを貰えないか。我宛てとファンハウス宛の2枚を貰えるとありがたい。」

 

あたしは喜んでサインを書くことにした。

さて、世界を動かしに行こう。




朗らかなウルビア
ドラゴンなので決してそんなことはない。
この時期のウルビアは赤竜動乱のどさくさ紛れにシードラゴンからドラゴンの卵を奪いご満悦な時期なのです。

鼻から一筋の煙があがる。
ドラゴンのいら立ちの表現。人間でいう眉をしかめるに近い感じ。
アースドーンサプリ、『Prelude To War』より。

瞬き
ドラゴンが興味ある時にする仕草。
アースドーンサプリ、『Prelude To War』より。

のどを鳴らす
特別意味はない。人が迷う時にいう「うーん」ぐらいの意味合い。
アースドーンサプリ、『Prelude To War』より。

ウルビアの政界進出
ブラックハイブン麾下の政策分析官がウルビアが配下のSIN持ちのギャングを票田として政界進出をすることを警戒していたことから。
実際ブラックヘイブン失脚時のシアトル市長選挙には出馬しておらず、単なる噂の可能性もある。
『The_Clutch_of_Dragons』より。

頭をかしげる。
同意を現す動き。
アースドーンサプリ、『Prelude To War』より。
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