シアトルアイショット   作:CanI_01

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ディープダイブ

ホストがアーカイブ化して保管したデータにアクセスするには通常は事前にマークをつけておく必要がある。

この為コアになる資料であれば作業効率からアーカイブ化はしないものだ。

とは言え、参照頻度こそ低いものの消せないデータはあり、その辺りはアーカイブ化される。

これらの消せないデータは取り出せなくなると問題があるため複数の研究員がマークを付けており、そのコムリンクに成りすますことでデータ閲覧は可能になる。

ところが今回はそのデータへのマークが見つからないのだ。

まともなファイヤーウォールを持つホストであればリスクと比較してここで仕事はおしまいだ。

ただ、今回は幸いにもホストのファイヤーウォールが脆い。

この為にアーカイブ空間であり管理者空間であるホストの基底部たるファンデーションに潜ることに現実性が出てきたのだ。

 

無数の凄腕がフラットラインしているのがファンデーションだ。

まともに潜るのはあたしも初めてだ。

とは言え、何事にも初めてはある。

 

まず、ファンデーションへと繋がる門の役割を果たすゲートウェイを目指す。

ここまでは慣れたものだ。ファンデーションに潜る可能性からホストを操りながらゲートウェイの場所を探していたのだ。

このホストのゲートウェイは床下収納の入り口の形をしている。

これを潜ればファンデーションから脱出するまで現実は一切知覚ができなくなる。

現実の対応はアクセルホーンに任せるしかないだろう。

 

床下収納領域、いやファンデーションにログインすると一瞬全ての感覚が途絶する。

再び感覚が戻ってくるとあたしは砂漠に立ち尽くしていた。焼き尽くされるような酷暑だ。

現実と見間違うような空間が周囲へと広がっている。

この酷暑がさほど苦にならないのは正面に見えるエジプト風の神殿から涼風が吹き出しており、あたしの毛皮をそよがせているからだろうか。

そう、毛皮だ。あたしはシャム猫の姿になっていた。特に体感として違和感がないのはここが電脳世界だからだろうか。

 

周りを見回すと他にも様々な猫達が歩いており神殿を目指しているようだ。

猫達は人の言葉で和やかに話している。

どうやら、今回のファンデーションは猫の世界らしい。

昆虫人の世界などよりあたしの精神に優しい世界で良かった。

 

あたしは猫たちに近寄ろうと歩みを進めた瞬間世界が凍りついたような違和感を感じた。

 

「変わった猫だにゃ。」

 

「旅猫かにゃ?」

 

ファンデーションには従うべきパラダイムがある。どうやら、あたしは今のでその禁則事項に抵触したようだ。

ただ、歩いただけで抵触するとは。

そこであたしは気がつく。猫たちは四本脚で歩いているのに、あたしは二本脚で歩いていた。

恐らくこれだ。あたしは四本脚で移動すると先程のような違和感は発生しなかった。

 

「こんにちは。ちょっと良いかしら。」

 

そう言った瞬間再び世界が凍る。

怪訝な顔をする猫達。

 

「変わった方言だにゃ。」

 

「随分遠くから来たのかニャ?」

 

まただ。この世界では語尾ににゃと付けないといけないのか。

 

「そうなのにゃ。まだ、こっちの言葉には慣れてないにゃ。」

 

今度は世界は凍らない。当たったようだ。

 

「それは大変だにゃ。それで、何か用かにゃ?」

 

「素晴らしい神殿だけど旅の猫がお参りしてもいいのかにゃ?」

 

声を掛けたぶちねこは大きく頷く。

 

「もちろんだにゃ。バステト様は遍く猫を愛していて、猫に閉ざす門はないにゃ。」

 

どうやら御神体はバステトと言う神のようだ。

 

「ありがとにゃ。じゃあまずはバステト様に挨拶させてもらうにゃ。」

 

「良いと思うにゃ。人の流れに付いていけばバステト様の所にたどり着けるニャ。」

 

あたしはぶちねこに礼を告げると猫の流れに従って移動をすることにした。

神殿の内部には無数の猫がいるが、不快感はない。

丁寧に空調が効いている。魔法的な何かだろうか。

確かに猫の大きな流れができており、それは1つの部屋に向かっている。

ファンデーションは7つのノードを持ち、それが何かを見つけ出すことが最初の関門となる。

 

何かと言うのは文字通り何かだ。

聞いた話ではアイスクリームがノードになっており、舐める事でノードにアクセスしたファンデーションもあったらしい。

このようにノードにアクセスする動作がパラダイムにより規定されているが、その行動を行うと何か音がなったりするわけではない。

この為ノードだと判断したものにノードを操作しようとして操作しなければならない。

もちろん、間違えるとパラダイムから排除されることになる。

これを見つけ出すためにノード同士がやり取りしているデータの流れから推測していくことになる。

当然データの流れもなにかになっている訳だ。

 

まだ、なにもヒントはない状態ながら、この猫たちがデータの流れではないかと疑っている。

せわしなく行ききをしている猫たちが何をしているかはわからないがデータのように見える。

そして、何よりかわいい。

あたしはもふもふと動き回る猫たちを愛でながら回廊の奥のバステトの間を目指し歩みを進めていく。

 

神像の飾られた礼拝堂を想像しながら部屋に足を踏み入れたあたしは大きく裏切られた。

奥に君臨するのはファラオのような衣装に見を包んだ大きな黒猫が玉座の上で丸くなっているではないか。

その艷やかな毛並みはまさに女神と呼ばれるのに相応しい存在だ。

この部屋を目指していた猫たちは部屋に着いた順に並び、行儀よくバステトへと拝謁していく。

その多くは本当に挨拶をし、祈りを捧げていくだけだが、バステトが話すことを要求しのんびりと話している猫もいる。

挨拶と祈りを間違えるのはパラダイム違反かなーと思いながらあたしは必死で挨拶と祈りの言葉を覚えていく。

そんなことをしているとあっという間に順番が回ってきた。

 

「バステト様。旅する猫のダニーと申しますにゃ。拝謁の機会誠にありがとうございますにゃ。祈りを捧げてもよろしいですかにゃ。」

 

「もちろんだにゃ。そして、良ければ旅の話を聞かせて欲しいニャ。面白い話なら願いを叶えてやるにゃ。」

 

猫がデータの流れならバステトがノードなのだろうか。大きな流れの集約する場所だしコントロールノードだろうか。

 

「光栄ですにゃ。慈悲深きバステト様の加護にて我ら猫たちの陽だまりの安寧は保たれております。」

 

そこで耳の後ろを撫で頭を下げる。

さて、何の話をしようかしら。




ファウンデーション
ホストの管理者区域であり野生のマトリックス空間のこと。
実際に何かは不明らしい。

フラットライン
脳死になった状態を現すスラング。
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