シアトルアイショット   作:CanI_01

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大きなお世話と小さな違和感

ギャング達はそれぞれよ目的を達成した時点で思い思いに現場を離脱しており、その姿は現場にはない。

その後あたしはアーリーにファンハウスまで送って貰い別れた。

ウルビアへはデータ送信したところ、その礼のメールが届いた。

忙しいから気を付けて帰るようにと書いていた。

御前へ顔を出す必要はないのだろう。

 

この衝撃的な襲撃映像と助け出された人達のインタビューがマトリックスを流れることにより、イーボからは正式な謝罪会見が開かれた。

今回の事件は研究委託先のベンチャーの暴走として処理され、研究資金の引き上げ、賠償請求、研究委託した部署の担当取締役の更迭となった。

あたしの報道が暴力事件の引金を引いたとの非難も寄せられたが、簡単なコメントだけは返しておいた。

コメントは法律や行政の力だけでは無法に囚われた人々を助けることができなくてザンネンだと言う内容のため納得はしてもらえなかったらしい。

全ての人と共感できるなら、この世界はもっと平和になっているだろう。

 

そう言えばウルビアからは予定より稼いだ旨の連絡も来た。ドラゴンにとって株式投資は遊びのようなものなのだろうか。

 

今回の報道をきっかけにグロウシティの住環境改善の活動の申し入れもあった。

これが実を結ぶのかは判らないが何であれ一歩づつ進めていく行くしかないのだろう。

 

忙しく今回の事件の後始末をしていると無視のできない筋からのお誘いが届いた。

軍曹からランチのお誘いだ。

アレスとしても状況は確認しておきたいと言ったところだろうか。

どこまで話しても良いのかウルビアやアーリーとのすり合わせはせねばならないだろう。

 

そんな直接的な対応の合間に手に入れたプログラムの解析を進めていた。

 

並行してペネロペ·アン·ザビアー博士についても調査をしていく。

彼女は現在40歳。

今のポストはミツハマの主任研究員だ。

詳細な経歴はクラッシュ2.0で失われているが、フリーランスのプログラマーとして活動してきた経歴を抜擢されミツハマに就職し、あっという間に現在に地位を手に入れた才媛だ。

通常外部から入ってきた者には社内の嫉妬が強くなるものだが、うまく部下をまとめており、部下からも慕われているらしい。

現在はネオネットが主体となりミツハマ、アズテクノロジー、イーボによるジョイントプロジェクトの現場責任者の一人としてマサチューセッツ魔法工科大学に出向して研究を行っている。

未婚ながら息子が1人。12歳のフランシス·ロナルド·ザビアーがいる、と。

自立して仕事をする女性の理想のような人物だ。

 

彼女が反共振のテクノマンサーだから感情的な反発を感じているのだろうか。

この自分の心理は確かに否定はできないところだ。

 

そんなことを考えながら彼女の書いたコードを読む。あたしには到底真似のできない美しいコードだ。

純粋な能力の差への嫉妬なのだろうか。

 

ふとデジャヴュを感じる。このコードの癖に見覚えがある気がするのだ。

一体どこで。

 

ちらりとザビアー博士が書類に記載したイニシャルのサインが目につく。

 

P·A·X

 

偶然なのか?

天才的なテクノマンサー、悪のカリスマ。

あたしはかつて関わったARゲームを用いた洗脳事件の時に手に入れたプログラムを開く。

間違いなく同じ人間の手によるプログラムだ。

 

あのパックスがミツハマで何をしているのだろうか。

あたしは言い知れぬ不安を感じる。

これが大きな事件の引金とならなければ良いのだが。

 

謎は解けたにも関わらず、あたしはすっきりしない気持ちのまま様々な作業を、こなしていくことになる。




フランシス·ロナルド·ザビアー/Francis Ronald Xavier
SIN上のザビアー博士の息子。
実はエルフで整形によりザビアーの息子のふりをしているという噂もある。
第六世界タロットの剣の7はこの親子らしい。
Shadowrun_Book_of_the_Lost_(A_Shadowrun_Campaign_Book)より。

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