シアトルアイショット   作:CanI_01

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MPフィーバー/フォートルイス編
サニーデイ、ハッピーデイ


ARにはかどらない連載記事の原稿を映したままぼーっと窓の外のまばらな雲たちを眺める。

6月に入りシアトルの街は春を謳歌し、ゆっくりと夏に向かって季節を進めていく。

ついこの間まで空を厚い雲が覆う日が多かったが、最近は晴れ間が増えてきた気がする。

暖かくなり晴れ間も増えてくるとぶらりと遊びに行きたくなるのが人情だ。

海に行くには早いが、ハイキングなどには最適な時期だ。

最近仲良くなったマリアでも誘ってハイキングに行くのも良いかもしれない。

 

もちろん現実逃避だ。

記事が進まない原因は判っている。

マカリスターさんから受け取ったブラックヘイブンの計画した犯罪プロジェクト、デイブレイクの内容が頭から離れないからだ。

ブラックヘイブンがテロリストであることは判っていたのだが、それでも何故アンダーグラウンドに対してそこまで憎むのかが理解できない。

そして、その妄想によって犠牲になった友人達の事を思うと自身の無力さを痛感する。

そんな世界を変えるために動いているにも関わらず筆は進まない。

困ったものだ。

本当にハイキングにでも行って気分転換した方が良いのだろうか。

 

そんな益体もないことを考えているとコムリンクが着信を告げる。

 

視界にARでオーバーレイされる名前はビリー・マカリスター。

現役のシャドウランナーで腕利きのデッカーだ。

そしてブラックヘイブンの妄想の犠牲になった友人レベッカ・マカリスターの弟でもある。

夜型の彼からこんな昼間にコムコールがあるとは珍しい。

コールを取るとビリーのいたずらっ子のような楽しそうな声が響く。

 

「おはよう。ちょっと時間あるか?」

 

「もう、おはようって時間でもないけどね。何?」

 

書きかけの原稿を保存しビリーへと意識を向ける。

デイブレイクの情報を手に入れたのは彼なのだ。気分転換のネタも提供してもらおう。

 

「最近夏も近づいて過ごしやすくなってきただろ?」

 

「そうね。晴れ間も増えたし。良い時期よね。」

 

「だから、動物園いかないか?」

 

「は?」

 

動物虐待は専門外だし、動物園がメタヘイトの舞台になるとも考えにくい。

もしかして、動物飼育の為に酷い労働形態がまかり通っているのだろうか。

あたしの思考を読んだかのようにビリーが慌てて説明を付け加える。

 

「いや良い時期だしハイキングがてらフォートルイスの動物園でもどうかなと思ってさ。」

 

フォートルイス動物園はシアトルに派遣されているUCAS陸軍が覚醒クリッターの生体研究を目的として運営している動物園だ。このため覚醒クリッターが本来の生育環境に近い状態で飼育されており、その状態を見ることができる。

シアトルでは比較的メジャーな観光スポットで子供の頃に家族と行った記憶がある。

ビリーが突然動物に興味を持ったとは思えない。ランの関係で警備クリッターの生態でも知りたいのだろう。

片手が剥き出しのサイバーアームのオークが1人で動物園の散策をしていたら警戒されるから付き合って欲しいのだろうか。

 

「良いわね。あたしは子供の時に行ったきりで懐かしいわ。でもビリーが動物園なんて似合わないわね。」

 

「いや、俺は育ったのがシカゴだから行ったことないんだよ。でも、キャシーと話していて姉貴と行って楽しかったなんて話をされたから、せっかくだから行こうかと思って、さ。」

 

そう言えば昔レベッカがキャシーと動物園に行った話をしていた気がする。

あたしは仕事の都合で行けなかったのだが、今思うと無理をしてでも行っておけばよかった。

どうも今日のあたしは感傷的でいけない。

 

「そっか。あたしもレベッカが出掛けた話には聞いたけど一緒には行ってないのよね。ハイキングがてら行きましょう。」

 

あたしの声に反応するようにビリーの声が明るくなる。

どうやら彼も今日は感傷的な気分のようだ。

あたし達はその後翌週の水曜日、6月12日に動物園に行くことを約束する。

こんな時には自由業の有り難みを実感する。

 

「じゃあ、朝迎えに行くから一緒に行こうぜ。」

 

あたしは頷きかけてふと考えを改める。

 

「もしかして、あんたのハーレーに二人乗りとか考えてる?」

 

暖かくなってきたとは言えまだまだ寒い。

それに二人乗りはさすが少し恥ずかしい。

 

「おう。この初夏の空気を感じるには最高だろ?」

 

「嫌よ、寒いし。あたしんちにハーレー置いて、あたしのアメリカーで行きましょうよ。」

 

ビリーはハーレーで駆け抜ける素晴らしさについて、しばらく力説をしていたが、あたしのにべもない態度に心が折れたのか車で行くことを了承してくれた。

 

さて、気晴らしの予定もできたし原稿を仕上げてしまわなければなるまい。

そしてお出かけの準備だ。




プロジェクトデイブレイク
シアトル市長ブラックヘイブンが仕掛けたオークアンダーグラウンドの正式街区化を妨害するためのテロ活動の計画書。
スプロールワイルド掲載のシナリオ『アッシュ』などでPCで巻き込まれる事件もこの計画の一環。
詳細はシナリオ集『Splintered State』に掲載されています。

ビリー・マカリスター
ジャックポインターのブルの息子のコンバットデッカー。
ハンドルはタウレン/TAUREN。
シナリオ集『Splintered State』の詳細データあります。

フォートルイス動物園
フォートルイスにあるサファリパーク。
色々な場所に出てきますがシナリオ集『Splintered State』には園内マップが載っています。
同人誌『第六世界の歩き方』にも簡単な説明があります。

https://booth.pm/ja/items/1873141

レベッカ
ビリーの姉。
オークアンダーグラウンドの正式街区化に向けて活動していたが陰謀に巻き込まれて死亡しています。
主にシャドウランミッションのシーズン4およびプロット集『Dirty Tricks』にて語られています。
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