シアトルアイショット   作:CanI_01

54 / 90
ワイルドライフ:角と翼

エントランスを出て右に進めば熱帯平原エリア、左に進めば温帯平原エリアだ。

あたしのお目当てのユニコーンは温帯平原エリアにいるらしい。

 

うららかな日差しの元あたし達はのんびり歩を進める。

その横を騒々しく小学生の集団が駆け抜けていく。

 

「とりあえずユニコーンが近いのかね。」

 

「そうだけど熱帯平原で普通の動物も見てみない? 別に急ぐわけでもないし。急がないわよね?」

 

ビリーが頬を掻く。

 

「タイムアタックしに来てるわけじゃないしな。のんびり回るか。」

 

そんな話をしながら園内のAR表示に従って進む。

 

各環境領域の境界は動物の嫌う音波を流すことで基本的に切り分けている。

これに加えてARタグの埋め込みによる指定領域外に出ようとした場合にはセンサーが反応するようになっている。このセンサーと連動して電撃を放射することができるようになっている。

危険性の高い動物にはガラスケージだったり電撃フェンスだったりとより強固に隔離をしているらしい。

そして、各エリア内でも食性によって分けていて、動物同士の事故が起きるのを防いでいるようだ。

 

熱帯平原は主にアフリカ系の生き物がいるエリアだ。

草食動物だと大きく目立つのは象やキリンなどだ。

歩いていて視界に動物が映るとAR上に生物名や個体名、簡単な説明が表示される。そして興味があればより詳細な解説を読むこともできる。

草食動物のエリアでは象やインパラがのんびりと草を食んだり散歩したりしている。動物を閉じ込めるのは動物愛護の精神に反するとも言われているが、捕食者に襲われず、のんびりと生活している彼らは幸せそうだ。

そして肉食獣としてエキエレベンレがいる。

体長6m.体重150kgを超える獰猛な毒蛇だ。基本的には樹上で生活しているがたまに日向ぼっこをするために地上に降りている。ドワーフ程度のサイズなら丸呑みにできる上にその毒を喰らえば数秒で死に至る。

サバンナの死神の1人だ。

とは言え、あたし達がエキエレベンレの檻に付いたときにはのんびり日向ぼっこをしており、そんな恐ろしさは感じなかった。

 

熱帯平原を抜けて温帯平原へと向かう。

温帯平原は草食動物しか生息していないエリアになっている。

このため訪問者がいなければ動物達はこのエリア内全体を好きに行き来ができる。

訪問者がいるときには、訪問者周辺エリアの音波フェンスがアクティブになることで危険な距離まで近づかせない形態を取るようだ。

これらのシステムがダウンした場合酷い混乱が起きそうでぞっとするのはハッカーとして普段からネットワークシステムに触れているせいだろうか。

外壁は高さ3mのフェンスで覆われているため、そうそう敷地から出ることはないだろうが。

 

そんな事を考えながら温帯平原に分け入って行くとまるで自然の平原で獣道を歩いているような気分になってくる。

 

「あたし、こんなに自然しかない環境って初めてかもしれないわね。」

 

「確かに街中のハイキングコースとかの方が都会の中のイメージあるよな。」

 

ARガイドは生息エリアは教えてくれるのだが、どこにいるのかまでは教えてくれない。

考えて探すことが生態学の基礎であると考えた超常生物飼育プログラムのディレクターがいたらしい。

そのためにあたしたちは平原をユニコーンを求めて歩くことになっているわけだ。

 

「いないわね、ユニコーン。」

 

「まあ、昼飯にするには早いんだ。のんびり探そう。」

 

「そうね。空でも飛んでくれてると見つけやすいのにね。」

 

その言葉に反応した訳ではないだろうが、視界の端に空飛ぶ生き物が映る。

鳥にしては大きい。

そしてARマーカーがハイライトしていることから見て飼育動物だ。

 

そのマーカーの解説を見るとベガサスと表示されていた。

ユニコーンが角の生えた馬であるのなら、ベガサスは翼の生えた馬だ。

通常の物理法則で考えると飛行できないはずのベガサスが飛行できるのは魔法によるものだ。陸上で走るのと同じ速さで天を駆ける。

通常の覚醒種は元になった生物と同じ性質を持つ傾向にあり場合によっては通常種のリーダーに収まっていることすらある。ペガサスは馬の覚醒種で、馬は群れで活動する生き物なのにペガサスは孤高を好む。

草食性のため群れに加わることができるにも関わらずだ。

飛行能力の有無が問題なら野生のペガサスは群れるはずなのだが、その傾向もない。

超常生物学者の間でも謎とされているらしい。

 

そんな理屈はともかく馬が羽ばたき天を駆けるCGのような風景にあたし達は圧倒され呆然と天を見上げていた。

 

「近くで見たくない?」

 

「見たいな、行こう。」

 

そしてペガサスを目指して歩くが案の定追いつく前に視界から消えてしまった。

仕方なくおおよその検討をつけて歩くが見つからない。

代わりに見つかったのは馬の群れだ。

そして、その群れのリーダーがユニコーンだった。

彼らはのんびりと草を食んでいる。あたし達が視界には入っているはずだが無害な生き物認定なのか特に警戒しているようには見えない。

心無しかユニコーンの方が他の馬よりも少しほっそりとした印象を受ける。

しかし、その角と生得の装甲から戦闘力はユニコーンが高くリーダーとならなくても群れの護衛のような立場になることもあるようだ。

 

「清らかな乙女が……」

 

あたしは鹿革風ブーツで思い切りビリーの足を踏みつける。残念ながらビリーのコンバットブーツに対しては効果的な攻撃とはならないが。

 

「メタヒューマンの女性が好きってのは迷信みたいよ? 汚染物質には弱いみたいだから清純な乙女が好きなのは間違いではないのでしょうけど。」

 

肩をすくめるビリー。

 

「環境汚染されてないメタヒューマンが好きなわけだ。」

 

そんな馬鹿な話をしながらあたし達はしばらくユニコーン達を眺め食事もできる建物を目指すことにした。

 

もちろん再度のペガサスとの遭遇を期待したが、その願いは叶わなかった。




動物園内のマップ
シナリオ集『Splintered_State』より。
ただ、詳細な説明はないので元々は違うシナリオのマップと思われます。

エキエレベンレ/Ekyelebenle
Running_Wild参照。
毒が凶悪なだけでランナーの敵としてはそこまで怖くない。

ペガサス/Pegasus
ユニコーン/Unicorn

Howling_Shadows参照。
コアルールなのでいずれ日本語化されるはず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。