シアトルアイショット   作:CanI_01

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ランチタイムエンカウント

温帯平原の北側にあるレストエリアは屋根のついたオープンスペースだ。

遠足に来た小学生がお弁当を広げるための空間なのだが、別に小学生以外が広げては行けないわけではない。

園内はこのレストスペースとレストラン以外では原則的には食事が禁止されているのだ。そこまで厳密に取り締まるつもりは無いらしくちょっとしたお菓子を摘んでいる人は、ここまで来る中でも見かけた。理由は動物をいたずらに興奮させないためだ。

 

あたし達は昼前に着いた為だろうレストスペースに小学生達もまだ到着していない。

ひとまず温帯平原が見える位置に腰を下ろす。また、ペガサスが見えると良いのだけど。

そんなことを考えながらお弁当を出していく。

ミーシャにはハイキングのお弁当としてお願いしたのでオカズは好きに取れるように大きく盛られ、パンと蛇棒が付いている。

 

ビリーが少し驚いた顔をしている。

その視線は蛇の串焼きである蛇棒に注がれている。

 

「蛇か?」

 

「蛇棒よ。あれ? 知らない?」

 

オークなのだからオーク料理に詳しいと言うのは勘違いかもしれない。

彼はオーク料理よりもマックフュージの油過多のバーガーの方が馴染んでいるような気はする。

 

「これが、そうなのか。確かにレベッカから聞いたことがあったような。実物を目にするとは。」

 

異世界の珍味を見せられたような反応はやめてもらいたい。

もちろん、あたしも蛇棒は得意ではない。味ではなく見た目がだが。

 

「クラシス・グロンはオーク料理専門店なのよ。その中のネタ料理として残ってるのが、この蛇棒。」

 

今のウクライナにあったオーク王国カラファッドは典型的な遊牧民の国家だったらしい。

旅の中でのタンパク質の補給として重宝されたのが旅の最中では手の混んだ料理はできず丸焼きになったという伝統食らしい。

 

「いや、わかるが、そんな野戦料理みたいなの食べなくても良いだろ。」

 

「ところがミーシャはその辺りの文化をベースに日本の蛇用のタレを研究して美味しい蛇棒を創り出したわけ。」

 

「確かに日本人なら蛇用のタレぐらい持ってるかもしれないな。」

 

そしてビリーが恐る恐るといった風情でかじりつく。

 

「淡白な味にこの甘辛いタレか良く合うな。だけと、これはタレが美味いのであって蛇美味い訳ではないよな。」

 

「まーねー。」

 

そんなことを言いながらあたしも蛇を齧る。

正直味としては、これよりも、ミンチにして肉団子にした方が美味しい。

そのへんは文化への敬意としてこだわりとして蛇棒を残しているとも言える。

 

その他にも激辛煮込み豆クゥアールズやイラク料理風にザクロと玉ねぎ、羊肉、ニンニク、コリアンダーを煮込んだ料理ショルバット・ルマン、騎兵の食べ物牛肉で、ピスタッチオとレンズ豆のビール煮であるキシャーヌなどが並んでいる。

また、あたしの好みでもある四川風麻婆豆腐も含まれている。

 

限られたオーク料理のレシピと香辛料を多用するとの記述からエスニック料理や四川風料理を加え古代ウクライナと共通文化を持つバビロニア料理を参考にしているため無国籍料理にも見える。

あたしはレシピ作りから関わっているので味を知っているので美味しく食べているのだが、初見のビリーは思った味と違ったり、意外と辛いものが苦手だったりとなかなかに楽しそうだ。

 

「オークでも辛いもの苦手な人いるのね。」

 

しかめっ面のビリー。

 

「そいつは偏見じゃないか? 趣味嗜好はメタタイプの影響は受けないと思うぜ。耐えることができる肉体ではあるとは思うけどな。」

 

あたしは肩をすくめる。

 

「それもそうね。ちゃんとランチ相談して決めれば良かったわね。」

 

「いや、なかなか食べる機会が、なかったから良かったよ。辛いものは苦手だけど嫌いな訳でもないしな。」

 

確かに百面相をしながらちゃんと食べてくれている。

用意していた甘めのカクテルが飲めないのが残念だが。

 

そんな話をしながら食べ物が片付く頃には周囲も混み合っていく。

ふと、レストエリアの外に目を向けると一組のカップルが歩いている。

あたしがカップルに目を留めたのは片方が知り合いであったからだ。

彼女はマリア・ロマノフ。最近仲良くなったセレブだ。お相手は軍人だろうか。とても姿勢が良い。

あたしの視線に気がついたのかビリーがそのカップルに目を向ける。

 

「軍人同士のカップルとは、厄介な知り合いだな。」

 

あたしは少し首をかしげる。

 

「女性の方は友達だけど軍人じゃないわよ。ぜーダークルップの外交官やってるはずよ。」

 

「じゃあ、俺の目が悪いのか、格闘技でもやってるんだろう。足の運びが二人共良く鍛えられてるんだ。」

 

「ふーん。」

 

確かにマリアは同性から見てもよく引き締まった素敵な体型をしている。

フィットネスにも時間をかけているのだろう。

 

さて、午後の散策に繰り出そう。

 




オーク料理は創作です。
一応バビロニア料理を参考にしてみたりしています。
理由としてはウクライナはもともとスキタイの国、スキタイはイラン系、イラン系といえばバビロニアという連想ゲームみたいな力業です。
このために『古代メソポタミア飯』読み直していますが、ウルク王国の成立は紀元前5000年ごろなんですね。
まさにアースドーンの時代ですよ!
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