食事をする場所も決まり、駐車場を歩いているとエルフ女性が1人あたし達の方へと駆け寄ってくる。
いつでも銃を抜けるように構えるビリー。
その鬼気迫る様子が単なるファンなどではなく、犯罪の被害から逃げているような危うさを感じる。
「ウエストさん! ジャーナリストのダニー・ウエストさんでしょうか。お願いします、助けてください。」
シアトルで治安が保たれ、更に軍直轄の動物園の駐車場で民間人に助けを求める。
彼女自体が叩けば埃の出る体なのだろうか。
食事をして軽く飲みに行くと言う訳には行かなさそうだ。
彼女は袖のない革のワンピースを身に着けている。ワンピースは鮮やかな新緑色で随所にサーリッシュ族のシャーマンを現す文様が刻まれている。
そのむき出しの白い腕には同じくシャーマンを現す入れ墨が彫られている。
エルフであることを考えると彼女は血筋としてのネイティブアメリカンではなく覚醒初期にネイティブアメリカンに加わった人物だろうか。
「とりあえず話ぐらいは聞くわ。食事でもしながらでどうかしら?」
何かを躊躇うような女性。
着の身着のままで逃げてきたDV被害者に通じる雰囲気だ。
「支払いなら気にしなくて良いわよ。あたしの方で持つし。」
彼女は恥ずかしそうにうつむく。
「すいません、何から何まで。では、よろしくおねがいします。」
そして、あたし達3人は恥ずかしがり屋の巨人亭を目指すことにした。
車で15分程度だ、簡単な自己紹介をする時間ぐらいはあるだろう。
「あたしのことは知ってくれてるみたいだけど改めて。あたしはダニー・ウエスト。ジャーナリストよ。彼は友人のビリーよ。」
ビリーは無言で会釈する。
多分マトリックスで彼女の情報を洗っているのだろう。
そんな思考に合わせるようにARに情報がポップアップする。
行方不明者などの公開情報に該当者なし。
ふむ。
「あたしは鷲の爪部族のアイヤナです。」
すぐに部族の情報が視界に浮かぶ。
ビリーはいつもこんなことをしてるのだろうか。
鷲の爪部族はサーリッシュシーに所属する極度のテクノロジー否定派の部族なのね。
「サーリッシュシーの、それもテクノロジー否定派の人がどうしてシアトルに?」
少し疲れた顔をするアイヤナ。
「半月程前に部族の村が襲撃を受けました。その際に攫われて来たのです。村がその後どうなっているかはわかりません。」
サーリッシュシー議会は何をしているのだろうか。
「村から救難要請もでなければ議会は襲撃にすら気が付かないってことかしら?」
アイヤナが力なく頭を横に振る。
「それ以前の話です。村はシンの受け入れすら拒否していました。議会内には部族としての登録はありますが、義務も権利も最低限という感じでして。」
マトリックスからビリーが見つけた小さな記事。
サーリッシュシー内部で小規模部族である鷲の爪が壊滅したという内容だ。
食後に伝えた方が良いだろうか。
「何ともやるせない話ね。でも、あなたはテクノロジーにそこまで拒否感ないように見えるけど。」
「あたしは村のシャーマンとして外部の折衝もしていましたので、そこまで抵抗感は無いですね。でも、都会よりは荒野の方が落ち着くのは事実なのですが。」
「シャーマンってことは覚醒者なのよね。」
「そうですね。大したことはできませんが、父祖の精霊に願いを託し力を借りるのは得意ですね。」
優秀な精霊使いならビリーの伝手を辿れば生きていくことはできるだろう。
だが、自然と共に平和に生きることができるかと言われると何とも言えない気がする。
「誇れる能力があるなら、道は必ず開けるはずよ。ひとまずは食事をして、それからシアトルに来てからの話を聞かせてちょうだい。」
そんな話をしなからも車は進み恥ずかしがりやの巨人亭に到着する。
巨人亭はカントリー風の店構えの落ち着いたレストランだ。
17時を回ったところで店が開店したばかりということもあり駐車場に他の車はない。
普段はNANから仕事で訪問してきた人達で賑わっているらしい。
オーナーシェフはトロールで穏やかな語り口だが恥ずかしがりやで、あまり表には出てこないとか。
場所柄と人柄の影響もあってか、ヒューマニストの嫌がらせも少ないらしい。
そんな店にあたし達は入ることにした。
鷲の爪部族
オリジナル設定。
サーリッシュシー部族にはテクノロジー否定派の部族があるのは公式設定。