あたし達はレディゼルダに相談があるために訪問したい旨をコムコールし彼女の店を目指すことにする。
店はダウタウンの中央近く、スペースニードルの近くにある。
ここからは一時間程度。大体20時には到着するだろう。
道すがら、あたしはアイヤナにレディゼルダについて説明を行う。
「レディゼルダはダウタウンでタリスモンガーやってるメイジの女性でビックリするぐらい面倒見が良いの。」
「メイジの方はシャーマンを嫌うと聞きますが、大丈夫でしょうか。」
ビリーがクスクスと笑う。
「あの婆さんなら心配ないさ。店には様々な様式のリージェントが並んでいて、本人も自分のことをユダヤの老いぼれ魔女だなんて名乗ってるぐらいだしな。」
「確かに他の様式に偏見があると、なかなか商売とは言え他様式のリージェントは取り扱いませんよね。」
何か以前に嫌なことがあったのだろうか。
目に見えてアイヤナの肩から力が抜ける。
「昔はタリスレッガーやってたらしくて、その頃のお弟子さんとか友達が現役で仕事してるのが大きいみたいだけどね。」
その言葉を聞いてアイヤナが何かを考え込む。
「レディゼルダ……ゼルダ・コグワースさんでしょうか? 彼女なら面識があります。」
意外な繋がりに面白みを感じる。
魔法使いの繋がりは様々なところに張り巡らされているのだろうか。
「タリスレッガーの方はマナーの悪い方が多くて村とよくもめていたのですが、コグワース夫妻は丁寧な挨拶をした上で採取をされて、環境への影響にもご配慮いただいておりましたので、印象に残っています。」
「良い関係なら良かったわ。当時はご夫妻で活動してたのね。」
あたしは1人で店にいるレディゼルダしか知らないから少し意外だ。
「旦那様はまだタリスレッガーをされてるのですか?」
あたしは左右に首をふる。
「5年ほど前に亡くなられたそうよ。あたしが彼女と知り合ったのは亡くなられた後だから詳しくは知らないけど。」
「そうですか、仲の良いご夫婦だったのですが。」
そんな四方山話をしつつ車はダウンタウンに到着する。
車をパーキングに入れて歩いてレディゼルダの店へと向かう。
ダウンタウンの中心地近くに店を構えるレディゼルダの驚異の店。
扉には魔法陣が描かれていて、神秘的な雰囲気を醸し出している。
しかし、年中無休24時間営業の記載や収束具半額!、第6世界の品物を、第5世界の価格で!の文字により、良く言えば入りやすい、悪く言えば観光客目当てのチープな魔法屋の雰囲気となっている。
店に入る瞬間アイヤナが、顔をしかめた気がするが覚醒者にだけわかる何かがあるのだろうか。
店内はカウンターキッチンのあるダイニングというのが一番近い雰囲気だ。
入口の正面にはいつもレディゼルダが腰掛け本を読んでいるバーカウンターがある。
その後ろにはポットやハーブティーなど客に振る舞うための飲み物が常備された食器棚が置かれている。
入口からバーカウンターまでにはいくつかのディスプレイ用の机が置かれている。
ディスプレイされている製品は限られており、主に置かれているのは特売品の収束具、様々な様式のリージェントなどだ。
収束具も様々な文化に根ざした物が並んでいる。
よくわからないが、これが様式の違いということなのだろうか。
レディゼルダが休憩してる間は同盟精霊が店番をしているとか。
あたし達が店内に入るとレディゼルダはそれまで読んでいた紙の本から目をあげ穏やかな微笑みを浮かべる。
「いらっしゃい、ダニー。」
「遅くにすいません、レディゼルダ。」
「ふふふ、構わないわ。そちらの女性がこのユダヤの年寄キッチンウイッチに相談をすることになった原因かしら?」
そんなことを言いながらレディゼルダはいそいそとハーブティーの準備を始める。
「とりあえず、お掛けなさいな。話はお茶を飲みながらゆっくり聞かせて貰いますよ。」
皆がおずおずとバースツールに腰掛ける。
いつもは傍若無人なビリーが妙にかしこまっているのが面白い。
「あら。鷲の爪部族のアイヤナ様じゃないですか。その節はお世話になりました。」
レディゼルダの煎れるハーブティーの穏やかな香りが店内に広がる。
「いえ、こちらこそ、あの時は過分な報酬をいただきまして、ありがとうございます。」
「あの環境を維持していただいていたおかげで良いリージェントが採れましたので、適正なお値段でしたよ。」
穏やかに微笑む2人。
その後お茶をいただきながら現状について相談をする。
「アイヤナ様の経験であれば仕事を紹介させていただくのは問題ないのですが。」
珍しくレディゼルダが歯切れの悪い言い方をする。
「彼女を攫った組織の対応だよな。」
「ええ。作戦の規模からしてそれなりの規模の組織が動いてるはずです。紹介先にご迷惑をおかけするのは避けたいのです。」
「わかりました。状況を調べてみます。」
何故か慌てるビリー。
「おいおい、話聞いてなかったのかよ。見ず知らずの他人のために虎の尾を踏む可能性があるんだぞ?」
「そうです。幸い私はシンがないので、表にでなければ追手もかからないはずです。」
あたしはクスリと笑う。
「虎の尾踏むのが怖くてジャーナリストなんてやってられないわよ。それに陰謀により襲われた技術否定派ネイティブアメリカンってのは人権派ジャーナリストの戦場だと思わない?」
バリバリと頭を掻くビリーに、唖然とした顔のアイヤナ。
そしていつも以上に楽しそうなレディゼルダ。
「本当に噂通りの生き方ね。それなら、とりあえず一週間アイヤナ様はうたのお手伝いをお願いできませんか。」
「でも、ご迷惑をおかけするわけには。」
「あたしも年ですのでお手伝いいただきたいのは本音ですよ。それに問題はダニーが解決してくれますよ。」
「もちろんです。じゃあ、彼女はよろしくお願いしますね。」
そしてあたしは夜のシアトルへと足を踏み出した。
レディゼルダ/LADY ZELDA
ダウンタウンでマジカルショップを営む元タリスレッガーの女性。
カバラ様式の魔法使い。60代の女性であり最近は視力の衰えを感じている。
『Seattle Sprawl Digital Box』のCharacter Cardsより。
ちなみに彼女の店の外観は『Seattle Sprawl Digital Box』のEmerald Shadows 15ページにイラストがある。
ちなみにイラストは60代には見えない。