あたしがシルバームーン目指して歩いているとコムリンクが鳴る。
視界に映る相手の名前はアーリーだ。
早速連絡をくれたのか。
「ようダニー。相変わらず神の愛に溢れてるみたいだね。」
いつもに比べて少しテンションが高い。
ライブ開けだろうか?
「ありがとう。ライブ上がり?」
「ああ、わかるかい? さっきまでファンハウスでライブをしていたのさ。で、楽屋に行ってみたら面白いメールがきてたんでね、電話したわけ。」
「悪いわね。疲れてるところ。何か知ってることあるかしら?」
「推測ぐらいだがね。メガコーポはどこもかしこもNANにご執心なのは知ってるだろ?」
「ええ、何となくだけどね。」
「ミツハマも同じようにラブコールしてる訳だが、ツイムシアンにDV夫みたいなことしちまったからね。まあ、誰も仲良くしたいとは考えないさね。」
「それなら、今回の援助も無駄な投資なんじゃないの?」
「ただ、追い込まれてるなら仮に暴力を振るう庇護者でも死ぬよりマシだって考えてもおかしくはないかい?」
「それがカウリッツ族だと?」
「カウリッツ族としては自分達がティルの防波堤として仕事をしているのに援助が足りないと考えてるのさ。何せ戦争は金がかかる。」
今回の援助は平和的な物ではないのだろうか。
「ツイムシアンを見てるからね、流石に資源開発は受け入れることは出来ないが兵器の試用ぐらいなら受け入れることはできそうにないか?」
「そして、試用は購入になり、軍事コンサルや傭兵契約に繋がると?」
「ミツハマの誇るゼロゾーンを応用した防御陣地なんて攻める意思の無い国に取っては魅惑的だと思わないかい?」
「あたしなら欲しいわね。ミツハマ主体で仕掛けてる可能性があるわね。でも、村を襲撃する必要はないんじゃ。」
「エルフへのヘイトなのか、人望ある科学否定派のシャーマンが邪魔なのか、他の私怨なのかはわからないけどね。」
「ありがとう。」
「なーに、気にしなくて良いさ。この間はあたし達も稼がせて貰ったからね。」
「また、ライブに寄らせてもらうわ。」
「ふふ、待ってるよ。じゃあ、うまく悪魔のケツを蹴り飛ばせることを祈ってる。」
そう言って、アーリーとの通話は終了した。
ミツハマに関連した話をアイヤナに確認した方が良さそうだ。
そんな話をしているうちにバー、シルバームーンへと到着する。
シルバームーンはビジネスビルの一階にテナントとして入ってるバーだ。
オーナーバーテンダーのケイ・タキガワはいつも柔和な笑みを浮かべたヒューマン女性だ。
タコマにあるオーク主体の格闘道場であるヴィジラントアイアンスクーリングハウスとも関わりがある。
この人間関係と元ランナーであるという経歴からメタヒューマン関係のトラブル対応を請け負って動いてくれることもあり、私も何かとお世話になっている。
あたしにとっては頼れるお姉さんだ。
店内に入るとウエジェトレコーズの新譜が流れている。オクサーヌがプロデュースした作品らしい。また、買わなければならない。
店内はカウンターが10席にテーブル席が8席程度の小さな店だ。
奥には打ち合わせなどに使えるVIPルームも用意されている。
カウンターにはタキガワさんと一緒に20歳ぐらいの若い東洋人の女性が立っている。
新しいバーテンダーを雇ったのだろうか。
タキガワさんは普段の落ち着いた雰囲気に比べて学生のような楽しそうな雰囲気で何かを話しているようだ。
若い人と話すと釣られてしまうのかもしれない。
「いらっしゃい、ダニー。」
あたしに気づいて、彼女はいつもの柔和な笑みを浮かべる。
「なんか飲みたくなって来ちゃいました。ファンタスティックレマン貰えるかしら。」
それに応えるように若いバーテンダーが応える。
「良いわね、お客さん。良いお酒持ってきたから、振る舞っちゃうわよ。」
「では、お願いしますね。」
タキガワさんも楽しそうにしている。
若いバーテンダーはその若さに見合わず慣れたシェーカー捌きでカクテルを作り上げる。期待ができそうだ。
「お客さん、お酒強そうだから、少し強めに作りますね。このお酒の飲み口が甘いから飲みやすくはなってますが、気をつけてね。」
そして、目の前にコリングラスが静かに置かれる。下に沈んだブルーキュラソーの蒼が美しい。
まず香りを楽しむ。レモンの爽やかな香りに桃のような甘い果物の香りを感じる。
特にフルーツリキュールなどは使っていないはずなのだが。
「良い香りでしょ? このお酒日本のマイクロブリューワリーが最近再現できたお酒なのよ。元のお酒は桃から取った酵母と甘みの強い酒適米で作られたお酒で桃のような香りがするの。」
さすが日本。食へのこだわりがすごい。
「そんなアルコールがあるのですね。楽しみですよ。」
一口カクテルを口に含む。しっかりとしたアルコールの重さとそれをまろやかにする甘さを感じる。
しかし、その甘さはシロップを用いたときのような強い甘みではなくほんのりとした甘みだ。
そんなあるかないかわからないような甘みだがカクテルの口当たりを恐ろしく良くしている。
この人ものすごく腕が良いのではないだろうか。
「美味しい。」
若いバーテンダーが満足そうに笑う。
「わかってもらえて良かった、良かった。」
「新しく入られたのですか?」
若いバーテンダーは自分を指差す。
あたしが頷く。
「いや、しゃ、じゃなくてケイの友達でね。久しぶりにシアトルに来たからバーテンしながら世間話してたのよ。」
「マオちゃんは友達というか先輩というかって感じなんだけどね。」
へー、と聞き流していたが少し引っかかる。
「……先輩?」
マオと呼ばれた女性がクスクス笑う。
「まあ、あたしは永遠の20歳だからケイよりも年下だけどね。」
「失礼しました。素敵なカクテルありがとうございます。」
その後カクテルを傾けながら世間話をしているとコムコールが鳴る。
ビリーだ。
「まだ、起きてるみたいだなって、外か?」
あたしは肩をすくめる。
「調べ物が一息ついたからシルバームーンで休憩中。」
ビリーが疲れた声を返す。
「まあ、何よりだ。話せるか?」
シルバームーンには、あたし以外の客の姿はない。タキガワさんの口の固さはよく知っている。
「大丈夫よ。」
「とりあえず、アイヤナの捕まっていた女衒屋と奴隷扱いされたネイティブ風の人物の情報を集めてみた。するとヤクザ系の店や口入れ屋に妙な程人が流れてる。」
ヤクザとミツハマの繋がりは有名な話だ。
あたしはビリーにミツハマによるサーリッシュシーへの投資の話をする。
「なら、仕掛け人は間違いなくミツハマだな。そして、ミツハマとしては権益が取れたなら元の村人は重要ではないだろうな。仮に異議申し立てしてとSINもないわけだし。」
「大きく取り上げるには少し弱いわね。」
ビリーが頷く。
「表に出る資料はないだろうな。あと、面白い情報としてアイヤナがいた女衒屋はヤクザからも絶縁状食らっているらしいから、彼女が騒がなければ追われることはないだろう。」
これで目的は達成したが、何か腑に落ちない。
「そうね。明日話をしに行ってみるわ。ビリーも来る?」
「そうだな。せっかくだし一緒に行くよ。」
あたし達は翌日10時の待ちあわせを約束してコムコールを切った。
すっきりしない気分でグラスを傾ける。
何かできることはないのだろうか。
するとマオが猫のような笑みを浮かべて声をかけてくる。
「さっきのカウリッツ族の話?」
今の状況なら隠すこともないだろう。
あたしは頷く。
「今あそこにはミツハマ研究13課が行ってるわよ。」
「え?」
「美味しそうにカクテル飲んでくれた、お・れ・い。」
「あ、ありがとうございます? でも、なぜ?」
「ふふふ、いい女には謎がつきものだからね。」
タキガワさんは横で笑っている。
そういうことを聞いているのではないのだが。
「マオちゃんは嘘あんまり言わないから信用しても良いと思うよ。」
「ミツハマ研究13課が主でビジネスがついでだったりする可能性がある?」
あたしはボソリと呟く。
マオさんはその言葉を拾う。
「あたしも何の為かは知らないのよね。でも、13課の目的のために傭兵動かすくらいはあると思うわよ。さて、雑談はここまでにして次何飲む?」
呆然とするあたしに彼女は楽しげに笑う。
なんと言うか猫のように気ままな人だ。
ケイ・タキガワ
オリジナルキャラ、初出は同人誌『第六世界の歩き方』より。
SNEのシャドウランリプレイオマージュで出してみました。
https://booth.pm/ja/items/1873141
リプレイ動画ハックザホスピタルにも登場している。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm33898303
ウエジェトレコーズ/Wejoto Records
オークのロック歌手、オクサーヌの起こした音楽会社。
ウエジェトはオーク語でオークの権利のための活動家を意味する。
ファンタスティックレマン
日本酒ベースのカクテル。
マイクロブリューワリー/microbreweries
化学合成により実際のアルコール飲料の味を再現した製品の総称。
元のアルコールに対してライセンス料を支払うとか。
『Parabotany』より。
マオ
オリジナルキャラ。
SNEのシャドウランリプレイオマージュで出してみました。
ミツハマ研究13課/MITSUHAMA RESEARCH UNIT 13
熱狂的な忠誠心を持った精鋭部隊であり魔法の専門家にしてトラブルシューターです。
そのメンバーは一騎当千であり、仲間を助けるために自身の身の危険すら厭わない。
『Street_Grimoire』より。