シアトルアイショット   作:CanI_01

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こちらは閑話となりますので、三人称視点で話を展開させていただきます。


閑話:うさぎとニンジャの血煙の日々
2075年6月11日 UCAS シアトル ダウンタウン ザエッジ


シアトルダウンタウンの北部、エルフ地区。

エルフ地区は激怒の夜の後、エルフやドワーフ達が自然に集まり形成された地区だ。現在でもエルフが多く住み家々にはエルフ風の彫刻が散見される。

北部にユニオン湖などの自然を多く持つサウスレイクユニオンを持ち、東にはダウンタウン屈指の高級住宅街にして、セレブご用達の店が並ぶキャピタルヒルを持つ。

このような立地であることもあり、エルフ地区には落ち着いた雰囲気のエルフ向けの店舗が並んでいる。

 

そんなエルフ地区にある高級レストラン、ザエッジは山間の別荘のような落ち着いた雰囲気のレストランだ。

背の高い樹木に覆われた敷地は外部から見ると鬱蒼と見えるが、中に入ると木々が外部の騒音を遮断し閑静な雰囲気を醸成している。また、随所でプランターに植えられた季節の花々が目を楽しませる。

今日のように晴れた日は穏やかな日差しを浴びながら食事かできるパティオも人気があり、落ち着いた服装に身を包んだエルフ女性がランチを楽しんでいる。

そんな店舗をエルフのウェイター達が忙しげに、されど優雅に動き回っている。

 

そこに入店してくるのはヒューマンの女性だ。雪花石膏から削り出したような白い肌に、今日のシアトルの空を映したような蒼い瞳、サラサラと陽の光を反射する金の髪。1つの芸術品のように美しい女性だ。

美形が多いエルフを見慣れている他のマダム達も、その顔には嫉妬ではなく感嘆の感情が浮かんでいる。

彼女はウェイターに声をかける。

 

「ロマノフと申します。ブラックハウスさんの名前で予約をしているはずなのですが。」

 

「ロマノフ様お待ちしておりました。ブラックハウス様はすでにお付きです。こちらにどうぞ。」

 

手慣れた雰囲気でロマノフを席に案内する。

案内された席には40代のドワーフで、髭を蓄え柔和な笑みを浮かべた男が座っている。身に着けるスーツはセーダークルップのオリジナルブランドのオーダースーツだ。

 

「遅くなり申し訳ございません、ブラックハウス様。」

 

ブラックハウスは鷹揚に頷く。

 

「何、私がルドミラの流儀に合わせただけよ、気にするな。」

 

しかし、その目全く笑っていない。

まるで爬虫類のような冷たい瞳を見て、マリア・ロマノフは今目の前にいるのが顔馴染みのジョンソンではないことに気づき、わずかに体をこわばらせる。

 

「ご無沙汰しているにも関わらず大変な失礼を。」

 

ブラックハウスは大きく手をふる。

 

「くどい。」

 

ブラックハウスはマリアに机の上に置かれた紙のメニューを手渡す。

 

「メニューを選ぶのだ。どれを見ても今ひとつ食欲をそそらんのでな。」

 

「承りました。」

 

マリアはメニューを受け取るとウェイターを呼ぶために鈴を鳴らしオーダーを行う。

ザエッジはアジア料理とネイティブアメリカン料理をベースにしたベジタリアンメニューしかおいていない店だ。

肉好きでは、あまり食指は動かないことだろう。

それを踏まえたうえでマリアが今は亡き恩人であるルドミラが彼のためにオーダーしそうなメニューを選択していく。

 

何故、彼がこの店でマリアとの会合を望んだのかをやっと理解したの。

 

オーダーに従い食前酒としてティルタンジェル産のワインがすぐに出される。

これもルドミラの好んで飲んでいた銘柄だ。

 

「あの者ぐらいだ私に野菜を食べろなどと言ってきたのは。何が本当に美味しい野菜をご案内しますだ。」

 

「彼女はこの店が本当に好きでしたからね。」

 

「野菜が美味しいかどうかで何か賭けをする予定だったが。まったく愚弟のせいで予定は狂いっぱなしだ。」

 

マリアはルドミラの最後の作品として今日呼ばれたのだろう。

ブラックハウス、いや、ロフビルが暗殺された自分の腹心を悼むために。

 

「なかなかに儘ならぬものです。」

 

ロフビルがその鋭い目をマリアに向ける。

 

「アストラルのバランスも安定しているようだな、問題はないか。」

 

「はい、特段の問題はございません。」

 

「ならば、仕事を頼みたい。」

 

一人の日本人の画像データと経歴資料がロフビルからマリアに送られる。

日本のヤクザ渡田連合に所属するヤクザだ。

ミツハマの要請に従い現在はシアトルにいるらしい。

 

「この男を?」

 

ロフビルは鷹揚に頷く。

 

「うむ。報酬はいつも通り支払う。護衛に日本から鬼道衆の忍者を連れている。」

 

それまで穏やかな笑みを浮かべていたマリアが艶やかに笑う。

 

「私に相応しい仕事感謝いたします。」

 

マリアがそう口にした時に前菜のサラダがテーブルに供される。

ロフビルは雑用が済んだ、さて本題に入ろうか、そんな風情で言葉を放った。

 

「さて、では肉よりも美味なる野菜とやらを食そうではないか。」

 

その言葉に応えるマリアは再び穏やかな笑みを浮かべている。

まるで、先程の艶やかさなど幻影であったかのように。




ザエッジ/The Edge
『Seattle 2072』より。

ハンス・ブラックハウス/Hans Brackhaus
『Street_Legends』より。
この名前自体はゼーダークルップのジョンソンが好んで使う偽名。
今回の話ではゼーダークルップのCEOであるロフビルが化身している。

ルドミラ・レンカ/Ludmilla Reanka
シナリオ集『Jet_Set』および『Storm Front』より。
ティルタンジェルのポートランドを拠点に北米の全業務を統括していたエルフ女性。
身体改造中毒でその外見は常に19歳であった。
ロフビルの弟であるアラメイズが雇ったランナーにより暗殺される。

鬼道衆/ONI-DO
Shadows of Asiaより。
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