良く晴れた夏の動物園。
平日ということもあり人が少なく、どこかのんびりとした雰囲気がある。
マリアはそんな動物園を1人歩いている。
その装いは胸本にレースをあしらったノースリーブの淡い青のブラウス、しじら織のゆったりとした翠のパンツ、パフスリーブになった白のオーガンジーのワンピースを羽織り、足元はゼーダークルップ製のウォーキングシューズと言った具合だ。
蜂蜜色の髪はポニーテールにまとめ、さながら黄金の噴水のようだ。あらわになった耳元ではデフォルメされたゴールド製ドラゴンのイヤリングがその尖った耳に揺れている。
動物園で歩くけどオシャレしてきました。そんな風情だ。
彼女がここに訪れたのは今回のターゲットであるヤクザ、綾小路是清に関する情報提供者と会うためだ。
綾小路は性風俗の人材斡旋をしているらしい。客の要望にあった男女を合法非合法問わずかき集め斡旋する。
そんな人物が体力の有り余る軍人に目をつけたのは必然であり、彼はこのフォートルイスで隠然たる力を持ちつつあった。
ところが綾小路は非合法に人を集める際の調査を怠った。
その結果スリルを求めてバーレーンで遊んでいたゼーダークルップの研究者を誘拐し性風俗での仕事を強要したのだ。
この暴挙に怒りを見せたのがロフビルである。
件の研究者はすでにゼーダークルップのアサルトチームにより救出されているが、そのまま許される訳もなく、ロフビルは綾小路の組織の壊滅と綾小路殺害のためにランナーを動かしたのだ。
研究者救出にゼーダークルップが動いた時点で状況に気がついた渡田組は綾小路の暴走であるとし彼を破門。
更に組としてゼーダークルップへの協力を約束した。渡田組の全面降伏である。
面子を通して対立を深めたところでミツハマの支援は期待できず、富士の御大はロフビルと対立する意思はない。
かくして、トカゲの尻尾をドラゴンが飲み込むことになったのだ。
マリアが怪しまれない程度に動物を見ながらそぞろ歩く。
待ちあわせ場所は山地エリア近傍の休憩スペースだ。
約束の時間は昼の12時であり、少し早めに到着できそうな状況である。
「やあ、ミスジョンソン。」
背後から彼女に声をかける憲兵が1人。
声をかけてきたのはUCAS陸軍の憲兵の制服を着た優男だ。
緩やかにウェーブした黒髪に、優しげな微笑を浮かべた彫りの深い顔立ちの男性だ。
その動きは俊敏で見る者が見れば良くトレーニングされた軍人であるとわかるだろう。
「あなたがアセットね。よろしくね。」
「アセットと言うよりは共犯者かね。別に内部資料流出させるわけでもないしな。」
肩をすくめる男性。
「どちらでも良いわ、ミスタージョンソン。我々はどこに行けば良いのかしら?」
スルリと男性と腕を組んで歩き始めるマリア。
「だな。この動物園の裏にある軍の倉庫が根城として使われてる。本当は正面から踏み込みたいところなんだがな。」
「あなた方の事情はどうでも良いわ。セキュリティは解除できるの?」
苦々しく男性が言葉を返す。
「正規のネットワークからは切り離されている。見かけ上のセキュリティは存在するが実際のセキュリティは独立している。まあ、逆にセキュリティを踏んでも正規軍が動くことはない。」
マリアは軽く頷く。
「朗報ね。何か他にある?」
男からマリアにアドレスが届く。
「報酬は支払う。奴がうちの上と繋がってる資料を抜いてもらえないか?」
軽く手をふるマリア。
「それはあたしの仕事じゃないわね。私の飼い主と相談してもらえるかしら? あたしは単なるジョンソンですから。」
どうせセキュリティは制圧する必要があるのだ。データを抜くぐらい問題はないはずだ。
しかし、マリアは自身を暗殺者であると位置付け、それ以外は些事として割り切っている。
故に普通のランナーであれば美味しい小遣い稼ぎを歯牙にもかけない。
その後、男とは襲撃時間の軍の警備に穴を空ける約束などを交わし別れることにした。
別れてすぐにハンス・ブラックハウスから情報回収の依頼が来た。今回のブラックハウスはドワーフのブラックハウスのようだ。
どうやら先程の憲兵は内部の掃除をするためにゼーダークルップのアセットになる決心を固めたのだろう。
マリアはこれからの襲撃の為に近くに待機している仲間達へと連絡を取る。
かくして、殺戮ウサギの草刈りの時間が到来する。
アセット/asset
スパイや情報提供者のこと。
英語の資産からきていると思われる。