シアトルアイショット   作:CanI_01

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WIN-WINな関係

残念ながらナイトエラントの警官はあたしの知り合いではなかった。

このため、通り一辺の質問をしてくるだけで何も教えてはくれなかった。

さっさと帰って拾ったデータ解析をする算段をしていたら警官の声色が変わった。

 

「ウエストさん、すいません。規定の確認事項は以上なのですが、もう少しお待ちいただけませんか?」

 

ひどく申し訳なさそうにしている。

あたしがデータを抜いたことに気づいての脅迫や尋問ではなさそうだ。

 

「もちろん構いませんよ。何か不明点がありましたか?」

 

にこやかに問い返すと警官は目に見えて安心したように見える。

出世できない良いお巡りさんタイプね。

 

「いえ、上官があなたにいくつか確認事項があるためお待ちいただくようにと指示がありまして」

 

「上官・・・カティ・ガンダーソン巡査部長でしょうか?」

 

あたしがガンダーソン軍曹を知っていることに警官は少し驚いた顔をする。

 

「そうです。お知り合いでしたか」

 

軍曹とあたしは共犯関係のようなものだ。

互いの目的の為に少しルールを曲げて協力し合う。

ただ、決して仲間ではない。互いの目的は違うのだから。

 

「ええ、以前麻薬とメタヒューマン差別について取材をうけていただきまして」

 

意外そうな顔の警官。

あの軍曹が取材を受けたのが意外なのだろう。

この取材はあたしが依頼したからではなくナイトエラントとして受けざるを得なかったと言うのが実際だ。

 

「それは良かったです。あなたのような方が巡査部長に尋問されたらと・・・すいません、失言でした」

 

この人悪い女に騙されそうよね。

 

「うふふ、ご心配ありがとうございます。ガンダーソンさんには言いませんのでご安心ください」

 

「助かります。」

 

そして、話を適当に切り上げソイバーをかじりながら軍曹を待つ。

彼女がわざわざ出てくるならこの事件は単なるコンビニ強盗ではないようだ。

 

しかし、ドングリフレーバーはえぐみのある甘すぎる栗のような味になっている。

擬人化された猪のイラストはオークにしか見えないし、何らかの悪意の産物なのが、偶然の重なりなのか難しいところだ。

 

そんなことを考えながらメーカーサイトに感想を書き込んでいると、厳つい装甲車が目の前で停車する。

アレススタリオン。ナイトエラントに制式配備されている装甲車だ。さすがに天井のウェイポンマウントの武装は解除されているが日常的に街中を走っている車ではない。

 

案の定そこから露出の高い筋肉が降りてくる。

タンクトップの上にナイトエラントのジャケットを羽織った姿はセクシーと言うよりも行儀の悪いチンピラのようだ。

 

「待たせて悪かったな」

 

警官は少し顔を赤らめて敬礼している。

こういう子がいるから、あんな格好をしているのだろうか。

 

「大丈夫ですよ。何かお問い合わせ内容があるとか?」

 

軍曹はニヤリと虎のように笑う。

 

「殊勝な心がけだね。その態度に免じて昼飯奢ってやるよ。乗りな。」

 

そういうと軍曹はアレススタリオンに飛び乗る。

あたしも乗るのか、これに。

とは言え、断れる雰囲気でもない。

自分でも判るほど引きつった笑みを浮かべてスタリオンに乗り込む。

その瞬間急激な加速と共に車が発進する。

自動運転が緊急車両モードになってるのか、マニュアル運転なのか。

 

しばらくシェイクに耐えていると車は停車したようだ。軍曹に促されて揺れる視界に耐えながら車を降りる。

目の前には20世紀中旬のカントリーハウス風の建物がある。

アメリカ人の本能に刻み込まれた肉とポテトへの愛情を形にしたと言う広告で有名なレストラン、ダミアンズだ。

広告が示すとおり肉とポテトが好きならたまらない店だろう。

軍曹好みの店だ。

ダミアンズに来るとわかっていればソイバーなど食べなかったのに。

アメリカンスタイルと言うだけあり、ここは量も多い。

 

「行くよ」

 

軍曹はあんた好みの店を選んでやったよと言わんばかりの風情で店に向かう。

確かにあたしも本物の牛肉のステーキを食べるのは吝かではない。

もちろん、ソイバーを食べていなければだが。

 

時刻は15時前だ。店内も閑散としている。

店員は慣れた雰囲気であたし達を個室に通す。

軍曹がオーダーし店員が退室した時点であたしは口を開く。

 

「今日の招待は個人的な理由の方?」

 

「いや、仕事だよ。あんたが勝手に絡んできてた、ちょうどいいと思ってね」

 

軍曹はとある人物を探している。その相手が絡まない限りナイトエラントの忠実な士官だ。

今回あたしを巻き込んで来ると言うことは大分面倒な話なのだろう。

 

「ただのジャンキーではない訳ですか。」

 

「いや、調査結果は恐らくただのジャンキーの暴挙さ」

 

意味が判らない。

 

「どういうことですか?」

 

「いかれたジャンキーが事件を起こしていると言うのが状況からの見解だ。

ただ、2点腑に落ちない点がある。

1つはBTLジャンキーによる事件が半年前に比べて3割増えている。その多くは今日のコンビニ強盗のような馬鹿げた事件を起こして逮捕されている。

1つは主にBTLを扱っているギャング同士の抗争が増えている。そして互いに相手が自分達のシマを荒らしたと主張している。」

 

少し思考を整理すると嫌な考えに行き当たる。

 

「新しい勢力が催奇性の強いBTLをばらまいているということ?」

 

「あたし達はそう考えている。

そして、アジーもな。」

 

アズテクノロジーは元々麻薬カルテルが起こしたメガコーポだ。

いまだに合法非合法問わず麻薬を扱っている。

あいつらが新しい勢力だと考えているなら間違いなさそうだ。

 

「第二のテンポになりかねない訳ね。」

 

「あたし達が思いつくんだ。間違いなく考えてるだろうね。

本当は奴らも大々的に部隊を動かしたいが、余裕がないと言うところさ。」

 

数年前にあった覚醒麻薬テンポによる騒動は記憶に新しい。

中南米の麻薬シンジゲートゴーストカルテルが新種の麻薬を大々的に展開。

これにより犯罪組織同士の抗争が激化。

結果治安の悪化など様々な影響をシアトルにもたらした。

犯罪組織がどうなろうとあたしには関係ないが治安の悪化や抗争は弱者に影響する。

見逃すわけにはいかない。

 

「なかなかに大事ね。」

 

話の一段落するのを待っていたかのようにウエイターがワゴンを押して入ってくる。

ワゴンには巨大な鉄板が二つ載っており鉄板の上では牛肉が存在を主張するように香ばしい香りを放っている。

その奥にはこんもりと山のようなフライドポテト、そして、言い訳するように少量のサラダがワゴンに載っている。

ウエイターは料理をあたし達の前に置きソースを振りかける。

鉄板に触れたソースは加熱され食欲をそそる香りが立ちこめる。

 

この視覚、聴覚、嗅覚の暴威によりソイバーによって鎮められていたお腹が小さく鳴る。

 

「それではごゆっくりお召し上がりください」

 

そう言うとウエイターは立ち去って行った。

ナイフて鉄板の触れる音がする中あたしは口を開く。

 

「犯人の目星はついてるの?」

 

「全くだ。表面的には良くあるジャンキーの死亡事故だからね。

ただ、あたし達の捜査網にこれだけかからないのは異常だ。」

 

やはり天然肉は美味しい。

 

「メガコーポが徹底的な隠蔽工作をしているか、表に出にくいストリートの奥で事件が起きてるかというところね。」

 

軍曹の皿から魔法のようにポテトが消えていく。

 

「メガコーポではないね。メガコーポ絡みでうちとアジーの双方が気づかないなどまずない。」

 

あたしも負けじとポテトを減らす。

 

「だから、あたしを巻き込んだ、と。」

 

サラダをペロリ。

 

「そう言うことさね。

後これを渡しておこう。」

 

あっという間に肉を平らげた軍曹はあたしに一枚のシムセンスチップを差し出す。

まだ肉と格闘しているあたしは目でこれが何か問いかける。

 

「さっきの犯人が持っていたチップさ。調べたいだろ?

署内的には外注での調査にしてるから報告書は出して頂戴。規定の報酬は出す。」

 

満腹、満腹。

いや少し食べ過ぎたかもしれない。

 

「任せて頂戴。真実を白日のもとに曝してみせるわ」

 

かくして、あたしのおやつは想定外の量になってしまった。




ダミアンズ/Damian’s
『Seattle 2072』のダウンタウンの著名な場所が出典。
住所はBell Street & Second Ave
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