世界一の売上を誇るメがコーポ、ゼーダークルップ。
その本社であるゼーダークルッププライム。
世界中の支社で意思決定は無数に行われているが、重要な決済やロフビルが特別に興味のある案件については、この場所から指示が送られる。
しかし、いくらロフビルが天才的な頭脳と長期的な視野を持つとは言え世界中のゼーダークルップの活動を事細かくに指示することはできない。
このため、ロフビルが決裁するまでもない些事を処理する部署が必要となる。戦略策定部、ここはそう呼ばれている。
ゼーダークルッププライムを取り回すロフビルの両翼が所属する部署だ。
ロフビルの片翼たる戦略策定部部長、ジャン・クロード・ブリオーはいつものように苦虫を噛み潰したような顔で世界中から集まってきたデータを分類している。
ブリオーはヨーロピアンフォーマルスタイルに灰色の髪を整え、スリーピースのスーツをダンディに着こなしている。
ブリオーはカリスマ的でもなく、皆に好かれている訳でもない。されど、企業法廷の判事長を長年務め、その影響力はヨーロッパに置いて未だに根強いものである。
国際政治や企業間政治の場では、その影響力は無視できない存在だ。
その執務室に無遠慮に入ってくる男が1人。ロフビルのもう1枚の片翼、ドミトリー・バイチクだ。
バイチクはスキンヘッドに豊かな口髭、丸眼鏡をかけた長身のロシア系男性だ。しかし、長身を丸めた姿勢と、「人生はくそげー!」と日本語で書いたTシャツ、オーバサイズのデニムパンツにより驚くほど威圧感を与えない人物だ。
ゼーダークルップの服務規程に衣服に関する項目はない。成立当初旧クルップ工業やBMW出身者が衣服の条項を求めたが、ロフビルの一言で流れた。
つまり、「私も普段から衣服の着用が必要ということかね?」の一言だ。
ロフビルにとって結果こそ全てであり、衣服の管理などの無駄な煩わしさを望まなかったのであろう。ロフビルのこの考え方はゼーダークルップ全社に敷衍されており、世界一メタ差別の少ないメがコーポがゼーダークルップであることは、その現れの1つだろう。
ブリオーかゼーダークルッププライムの表の顔であるとすれば、バイチクは裏の顔だ。マトリックスリサーチに始まり、諜報防諜、ランナーを用いた突貫と抽出までを取りまとめる。
「爺さん、爺さん。」
バイチクが気楽にブリオーに声をかける。
ブリオーは元から刻まれている眉間の皺を更に深くしバイチクに視線を向ける。
「何度も申し上げますが、私はあなたの祖父ではありません。ヘル ブリオーと呼びなさい。」
まるで謹厳な祖父と奔放な孫のような会話を交わす2人。
「ああ、気をつける。そんなことよりも、こいつの件だ。」
バイチクは1つのニュースフィードのアドレスを送信する。
ブリオーが開くと、それは北米の人権派メディアレポーターの番組だ。高速再生をしながら、ブリオーはバイチクに視線で続きを促す。
「ミツハマの連中が北米の竜脈への干渉をしようと動いているようだ。放置すればビッグボスのランチメニューになりかねん。」
「ふむ。サーリッシュシーには援助を、ミツハマには抗議声明はすぐに出せますが、アサルトチームを派遣するには大義名分が足りませんね。」
バイチクが小刻みに頷く。
「当たり前だ。今はコーポレートウォーを楽しくドンパチできる時代じゃない。」
当たり前のことを口にさせるな、そんな苛立ちすら交じるバイチク。
「なので、このジャーナリストを使う。どうやら、ミツハマは土地を手に入れるためにヤクザのアサルトチームを動かしたらしい。この、ジャーナリストはそこに元から住んでいたシャーマンを保護しているようだ。」
報道を最後まで確認したブリオーが口を開く。
「確かに訴求力はありそうなレポーターですね。しかし、今回の件このレポーターは証拠が揃っていないのではないですか。証拠があれば、このようなミツハマの影を匂わせる報道ではなく断言をすると思うのですが。」
「ふふふ、そう言うと思ったぜ。この天才テクノマンサーたるバイチク君の手元には何故かヤクザを動かす際にミツハマから流れた支払いの証拠があるのさ。」
僅かながら驚きを現すようにブリオーの眉があがる。
「あなたは、そんな些事に動ける程暇ではないでしょう。何かのデータに資料が紛れていたのですね。」
つまらなそうな顔のバイチク。
「ちっ、面白くない。その通りだよ。うちのお嬢さん攫ったヤクザ潰した時に偶然出てきた情報だ。」
「それなら表向きの発表については、私の方で行いましょう。」
「頼む。俺は北米のエージェントを動かして対応させる。」
ポソリとブリオーが呟く。
「フラウ レンカがいれば私達が北米案件を対応する必要もなかったのですけどね。」
「と言うか、手を出したらクレームだろう。あたしのシマに手を出すなって。」
「人格に難はありましたが、優秀な人でしたね。」
「全くだ。じゃあ、爺さん表向きの対応は任せた。俺はすぐにエージェントに指示をする。」
2人は頷きあうと、バイチクが足早に部屋を出る。
彼らにとっては日常的に飛び交う少し優先度の高い案件だ。
ゲーム盤を整えサイを投げる。
ダイス目次第では再び関与することもあるだろう。
その程度の日常の問題なのである。
ジャン・クロード・ブリオー/Jean-Claude Priault
『Market_Panic』や小説『Technobabel』より。
ドミトリー・バイチク/Dmitri Baichik
『Market_Panic』や『Power_Plays』より。
外見に関しては創作。
IQ150オーバーのテクノマンサーでナードらしい。
フラウ レンカ
暗殺された北米責任者であるルドミラ・レンカのこと。