シアトルアイショット   作:CanI_01

75 / 90
2075年7月7日 AGS エッセン ゼーダークルッププライム

日付の変わったばかりの時間帯。

さすがのゼーダークルッププライムも多くの部署は沈黙している。

そんなゼーダークルッププライムの奥深く、ロフヴィルの巣穴。

ブライベートジェットの保管庫にできそうな広さの石室。

床は良質なマーブル模様の石畳。

石の壁は天井に向けて細くなりドーム型を形成している。

古代のドラゴンの巣穴にあった財宝や英雄達の骨はどこにも見当たらず、僅かに焦げ臭い匂いが立ち込めている。

壁面には無数のディスプレイが多数並び膨大な情報が流れている。

 

部屋の中央には一体のゴールデンドラゴンが眠る猫のようにとぐろを巻いており、薄っすらと目が閉じられている。一見すれば眠っているようにしか見えないが、流れ行く膨大な情報を確認し、咀嚼し、解釈をしている。

人類には想像すらできないような膨大な情報を着実に処理をしていく。

ロフヴィルにとって、この情報解析も人が寝る前に軽く読書をするのと同じような作業に過ぎない。

 

そんな微睡みに似た時間を破るようにロフヴィルの直通番号にコムコールが鳴り響く。

彼の腹心しか知らない番号である。

しかし、発信者は匿名。

 

鼻から煙を少しあげコムコールを取る。

 

ディスプレイに表示されたのは1人のエルフ女性。ピシリとプレスの効いたエグゼクティブスーツに身を包み、金髪を頭の後ろで短くまとめている。その容貌はまるでダイヤモンドのような硬質な美貌であり、彫像のように無表情だ。

 

(ヘカテか。こやつにこのナンバーを知られたとはな。ナンバーの変え時やもしれぬな。)

 

ロフヴィルとは旧知の相手らしく、その思考に直通ナンバーを知られた不快感こそあるものの、驚きはない。

ロフヴィルはその巨大な竜の姿より、短く髪を刈り上げた強面のドイツ人ヒューマンの姿に変化する。

しばしば、ハンス・ブラックハウスの名前で世界中に姿を現す人物の姿である。

 

ヘカテは古式のエルフの作法に則った礼をし口を開く。

 

「大変ご無沙汰しております、閣下。」

 

その礼に対してロフヴィルは鷹揚に頷く。

 

「久しいな、ヘカテ。三ツ辻の女王からの連絡とは、どうせろくな事ではあるまい。」

 

ヘカテはニコリともしない。

 

「耳寄りなお話をお届けにあがっただけですのに、冷たいことですね。」

 

ロフヴィルがため息ひとつ。

 

「本題は何だ?」

 

「うちの中でチョロチョロとゴキブリが這い回っておりまして。調べたところ大掛かりな召喚儀式を企んでおりました。」

 

「あいも変わらず無駄な向上心に溢れておるな。」

 

「彼らが召喚しようとしているのは、かつて竜を狩るものと呼ばれたアレですわ。」

 

「今の魔力潮位でアレを呼んだところで、大した存在としては招来できまい。」

 

冷ややかにヘカテが微笑む。

 

「普通であれば。ですが、自然の流れに身を任せるあなた方とは違い、我々は長年いかに力を蓄え行使するかを学んで来ましたわ。この努力が魔力周期に影響を与えたのはご存知では?」

 

ピクリと眉を上げるロフヴィル。

 

「場所はどこだ?」

 

「詳細は不明ですが、シアトルなのは間違いないかと。」

 

眉をしかめるロフヴィル。

 

「例の龍脈か。確かに貴重な話だ。代償に何を求める。」

 

ヘカテの氷の無表情に変化はない。

 

「おやおや、過分なお話ですね。では、後程詳細ご連絡しますので、害虫の駆除をお願いできませんか。」

 

「ふむ。ミスティッククルセイダーズとの不仲は解消できておらぬようだな。」

 

「そんなことはありませんよ。ブラックロッジは資金源としては重宝しておりましてね。うちの仕業とは思われたくはないのですよ。」

 

「我が指示であれば、ドラゴンとブラックロッジの因縁として処理ができるか。まあ、良かろう。畜産物につく害虫駆除は牧夫の仕事よ。」

 

ヘカテはただ無表情に言葉を返す。

 

「では、詳細はまた送付します。古代の轍を踏まぬことを祈っておりますわ。」

 

「ふむ。その言葉は貴様に返そう。世界を支配して手元に残ったものはどの程度かね?」

 

竜とダイヤモンドのエルフは非好意的な笑みを互いに投げ合い通信が切られた。

 

直ちにロフヴィルは腹心でありブラックオプの管理者バイチクにコールをする。

深夜であることを考えると非常識この上ない。

 

「おや、ボス。こんばんは。」

 

当然のようにコールをとるバイチクの非常識さよ。

 

「先日報告にあったミツハマによる北米の龍脈への干渉の件だ。」

 

「へいへい。今政治的に追い込みかけてますよ。」

 

「時がない。ポートランドのアサルトチームを投入せよ。最優先だ。ASAP(最速)で龍脈を開放せよ。」

 

一瞬硬直するゼンチク。

 

「イエス、ボス。打てる限りの手を打ち迅速に制圧開放します。ミツハマの精鋭を相手にすることを考えると1週間ください。」

 

白刃のようなロフヴィルの沈黙。

 

「致し方あるまい。善処せよ。」

 

「イエス、ボス。」

 

その言葉とともにゼンチクとの通信は切れる。

他国に完全武装のアサルトチームを送り込み国際問題にしない。

これからブラックオプチームと北米の関係各所は死ぬ気で仕事をすることになるだろう。

ゼーダークルップの所有者たるドラゴンがASAPと言えば、文字通り最速の実施が求められる。

そこには個々人の都合などは忖度されない。

 

ロフヴィルは通信が切れると再びドラゴンの姿に戻り、猫のような微睡みに身を任せる。

その天才的な頭脳が何を見ているのかは他者に窺い知ることはできない。




ヘカテ/Hecate
『Threats』および『Loose Alliances』より。
外見に関しては『Stranger Souls』より。
シエラ・ブラヴェスカ/Sheila Blatavska のこと。
セラ帝国出身のイモータルエルフと思われます。」

竜を狩るもの
アースドーンにおいてヴァージゴームと言う名前の最強のホラー(精霊)

ミスティッククルセイダーズ/Mystic Crusaders
『Street_Grimoire』より。
アトランティス財団の実働部隊ですが、世界の魔法秩序の為に活動しているという自負心を持つ組織です。
昨今財団利益を優先する財団とは意見の相違から対立が進んでいる。

ブラックロッジ/Black Lodge
『Dark_Terrors』より。
第4世界より連綿と続く魔術結社。様々な組織に影響力を持つ。

ドミトリー・バイチク/Dmitri Baichik
『Market_Panic』や『Power_Plays』より。
外見に関しては創作。
IQ150オーバーのテクノマンサーでナードらしい。

ポートランド
ティルタンジェルの首都。
ゼーダークルップの北米本社があり、北米の軍事力を保持する部署でもある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。