シアトルアイショット   作:CanI_01

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2075年7月7日 UCAS シアトル ベルビュー 高級住宅街

ベルビューとは完成されたゲーテッドコミュニティである。

ここに住むためには資産がなければならない。

資産家はリスクを嫌う。必然的に治安が向上する。

そして、エリア単位で簡易アーコロジーとなっており入るためには身分の照会、要件の確認、出入りの予定、そして人数の確認が行われる。

アーコロジーであるために侵入経路は限られ正規のルートは厳重なセキュリティによって守られている。

更にシアトルと契約し警察業を請け負っているナイトエラント、ベルビュー地区と契約し警察業を請け負っているローンスター、ベルビュー地区最大の警備会社であり善意の出撃も辞さないセンチュリオン警備保障の3社が市街地では手ぐすねを引いて待ち構えている。

このため市街地では夜でも安心して暮らせる地区となっている。

とは言え、完全なアーコロジーではない以上外部との空気などをやり取りする通気口や天井の偏光パネルをメンテナンスするためのハッチなど入口はいくらでもある。

日の落ちた時間帯、そんなメンテナンス用のハッチに人影が2つ取り付いている。

マリアとアデーレの主従である。

ゼーダークルップよりマイケル・エルドリッチの暗殺依頼を請け、2人はここに来ている。

ハッチをマグロックパスキーでこじ開け、するりと2人はアーコロジー内部に滑り込む。本来であれば警備室への警報がなるような行為だ。しかし、今日はメンテナンス会社から上部階層のメンテナンスの申請が出されており、メンテナンスの際に頻繁になる警報を嫌った警備員が警報を切っている。

もちろん、このメンテナンス予定も彼女たちの仕込みに依るものである。

 

メンテナンス用のキャットウォークを文字通り猫のように駆け抜ける2人。まるで実体がないのかのように音がしない。

そしてGPS情報を元に目的の作業用ハッチへと到達する。

このハッチの下には、この街区の中央に立つ樹木の上にある。

このハッチは樹木メンテナンス用として作られたハッチであり、警備会社からはセキュリティ上取り除くように希望されていたハッチだ。

 

「では、ご武運を。」

 

そう告げるとアデーレがハッチを開き、マリアは軽やかにハッチに飛び込む。

マリアの肉体は重力に引かれ落下し樹木に到達する。そのまま猿のようにするすると樹木の半ばまで降りると再び跳躍する。

そして目標の屋根に5点接地で着地し、ごろりと転がり勢いのままに跳ね起きる。

そのまま加速し隣家の屋根へと飛び移る。

誰かが空を見上げれば、家と家の間を飛ぶ、その黒い影を見ることもできたであろうが街路に人の姿はない。

完璧に統御された光当たるゲーテッドコミュニティ。

その空の闇を首刈りウサギの駆け抜けることのなんたる皮肉か。

しばし、飛び、跳ね、転がり、よじ登り、目的のマイケル・エルドリッチの家へとたどり着く。

 

マリアはふとエルドリッチの素性を思い出す。

 

マイケル・エルドリッチ。

ブラックロッジの第3位の位階であるマーリンの階級にある魔術師だ。

性格は偏執的で誰も信用しない人物。

表向き所属しているアトランティス財団では外面は取り繕い、シアトル支部を任されていた。

シアトルにおいて何らかの召喚儀式を執り行おうとしている。

ゼーダークルップからの依頼は彼の死と召喚儀式の詳細資料の入手だ。

 

幸いにもエルドリッチは誰も信用していないことから家族はいない。

街区のセキュリティホストに家をスレイブ化するサービスもあるが使用していない。

このため家のセキュリティは制圧済みだ。

 

マリアは2階の窓を開け、するりと室内へと滑り込む。

しばらく前までドラゴン達はブラックロッジと熾烈な争いを繰り広げていた。

これに伴いマリアはかなりの数のブラックロッジメンバーを手にかけている。

とは言え、この戦いはブラックロッジの敗北という形で決着がついており、最近はブラックロッジがターゲットになることも少ない。

ブラックロッジの幹部は皆高位のイニシエイトである。

これは彼らが戦闘要員であることを意味しない。

ブラックロッジの本質は組織の背後に潜み思うままに操ることだ。

故に彼らが前線指揮官となることは想定していない。

だからこそ一介の首刈りウサギが、その首を刈り取り得るのだ。

 

鎧の呪文?

それはトロールの肉体よりも硬いのか?

 

反射増強の呪文?

それは首刈りウサギを凌ぐ速さなのか?

 

火球の呪文?

それはグレネードランチャーよりも凶悪か?

 

凶悪な精霊?

術者が死ぬ前に動けるのか?

 

故に首刈りウサギは恐れない。

ただ、そこを己の草刈り場と割り切り踏み込む。

とは言え、高位のイニシエイトが脅威であることには変わりない。

故に歌わず、形ある影のように静かに駆け抜ける。

不意を打ち、何かを理解する暇も与えず、ただ首を落とす。

 

エルドリッチが居間で酒を飲んでいるのは室内の空調システムのセンサーから把握している。

マリアにとっての誤算は電子センサーは生物以外に反応しないことだ。

エルドリッチは他者を信用しない。

だからこそ、自らの支配下にある束縛した精霊を信頼する。

否、寂しさを埋めるために用いる。

エルドリッチは助力を費やして精霊を実体化させ酒の相手をさせていたのだ。

 

マリアが部屋に踏み込んだ時室内には3つの存在がいた。

エルドリッチ、女悪魔、そして犬。

 

マリアにとってエルドリッチ以外はノイズに過ぎない。

突然侵入してきたマリアに反応できたのは犬だけだった。

犬は果敢にも侵入者に対して噛みつこうと襲いかかる。

しかし、鎧袖一触、マリアの指から煌めく銀閃により両断される。

この一瞬を利用しエルドリッチは悪魔へマリアの排除を命じようとする。

 

しかし、アルコールに頭と肉体を濁らせた魔法使いは単なる首狩り機と化したマリアの反応速度に敵うはずもなく目の前には死の銀閃が迫る。

発声もできずかろうじて地面に転がることでエルドリッチは間近な死を回避し自身の束縛した精霊に救いを求める視線を向ける。

しかし彼女は美味そうにウイスキーのグラスを傾けるだけだ。

 

何故だ!

自らは誰も信じず力だけを求めた魔法使いはこれまで自身が酷使してきた精霊が何故自分を救わないのか疑問に思いながら冥府へと旅立った。

 

エルドリッチを始末したマリアは視線を女悪魔へと向ける。

彼女は立ち上がると優雅に一礼しアストラルの彼方へと消え失せた。

 

マリアはコムリンクを拾いタグイレーサーでタグを焼いた後強力なジャマーをコムリンクに貼り付けると来た道を引き返す。

 

彼女の頭の中にあるのは侵入時のタイム。

そして、帰り道ではタイムをどの程度短縮できるだろうかというストイックなアスリートの思考だけであった。

 




ブラックロッジ/THE BLACK LODGE
本編でブラックロッジの解説をできそうにないので、ここで簡単に書いておきます。
ブラックロッジは第四世界でイモータルエルフによって組織された魔術結社です。
しかし、第五世界においてイモータルエルフとヒューマンの結社員が対立し、反エルフ魔術結社となります。
また、ドラゴンの魔術素材を積極的に扱っていたことからドラゴンの逆鱗に触れドラゴンとも対立関係にあります。

その最大の力は様々な組織に潜り込ませた構成員であり、彼らがブラックロッジの目的を達成するために組織に働きかけ操るのです。

組織構成は以下の通り。

秘密の主/Penultimate Master
組織の首領、1名のみ。
正体は謎に包まれている。

黒の議会/Black Council
6名で構成されるブラックロッジの最高意思決定機関。
6枚それぞれがマーリンのセルを1つづつ操っている。

マーリン/Merlin,
6名のセルが6個で構成されている。
主にAAAクラスのメガコーポに影響力をふるえるメンバー。

この下に、モルガナ/Morgana、モードレッド/Mordred,、ラスプーチン/Rasputin、ノストラダムス/Nostradamusと下部ネットワークを持つ。
構成は全て同様で上位のセルと繋がる1名と下位のセルに繋がる5名と言う構成となる。

『Dark_Terror』より。
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