料亭のような純日本家屋。
十畳程の和室。中央には10は周りを囲めそうな木製の座卓が置かれている。
部屋は庭に面しており綺麗に整えられた日本庭園が広がっている。
時々響く鹿威しの音が風情を引き立てる。
ミツハマ本社ホストに設けらたVIP用VR会議室だ。
鉄壁のホストにあるうえアクセス手順自体が大変面倒であり限られた人員しか使用することができない。
まず、アクセス許可を受けるのは各部門長、子会社社長などの社内組織の長のみだ。
更に彼らが1か所アクセスできる物理的な場所を登録し、そこからでないとログインできない。
もちろんオブザーバーとして招待を受けることは可能だが、それも場所の制限は変わらないため、よほど信頼されなければ参加は許されない。
そんな仮想の和室に座るのはスーツの男性2人。上座に座るのは40代後半であり、下座に座るのは30代前半の男性だ。
その頭上には三浜魔法研究社と所属が書かれており、上座には社長若松樹、下座には主任研究員宮本大和、と記載されている。
2人はひどく緊張した表情だ。
「玉津様、来られますかね?」
宮本が若松に話しかける。
「来るだろう。アポを承認したんだ。だが、交渉の余地があるかは、なあ。」
突然身内を亡くした親族のような顔の2人。
そんな中アナウンスがポップアップする。
「玉津桜様が入室されました。」
入室してきたのは老婆だ。
桜花紋が散りばめられた薄蒼の着物を身に着けている。帯は白地に金の刺繍。
上品さと貫禄を兼ね備えた着物。
その頭上には北米部門長玉津桜の文字がある。
噂では、その背中には桜吹雪の入れ墨が入っているらしい。
日本企業とは言え着物で会議する人物は珍しく、玉津はその数少ない1人だ。
「待たせたようだね。」
ミツハマ社内マナーとして下位役職者は上役の5分前に会議室に入らなければ失礼に当たるとある。
このため下位の2人が待っているのは規定事項である。
ミツハマはビッグ10の中でも特異的な支配体制を保持している。
取締役会はミツハマ躍進のきっかけを作った4人のヤクザ親分が掌握しCEO三浜敏郎に対して信任をしている。これにより取締役会を割るような険悪な社内閥が発生していない。
そして敏郎麾下に6つの地区部門と6つの産業部門が並列的に存在している。
各部門毎に建前上優劣は存在せず部門を超えての案件は根回しと話し合いにより解決され、合意を得られなければ敏郎の決済を仰ぐ形となる。
しかし部門間の話し合いを敏郎に委ねるのは恥と考えられ、多くの議題はよりミツハマの利益に繋がる方策を優先するという結論を持つことになる。
この地域部門の一角である北米部門を30年以上にわたり執り回し北米におけるミツハマの利益を守り続けてきた女傑が玉津なのだ。
現在のミツハマのヤクザ系株主である三枝の企業舎弟であり、経済ヤクザとしての手腕を買われ抜擢。
その後結果を出し続けてきた人物。
シアトルを統べるヤクザ組長、外隅半蔵とは同世代であり組織の垣根を超え日本帝国とミツハマの地歩を固め続けてきた。
そんなミツハマ内部の生きる伝説と向かい合い交渉せねばならない若松の心労はいかほどのものか。
「いえいえ、ご足労いただきありがとうございます。」
若松と宮本が頭を下げる。
その正面に玉津が楚楚とした仕草で正座する。
「さて、お互いに忙しい身だ。前置きは無しにして本題を聞こうじゃないか。」
ちらりと宮本と若松が目配せを行い若松が口を開く。
「サーリッシュシーの龍脈干渉についてご再考のお願いができないかと。」
玉津はふむと一声だし茶をすする。
「その件については三浜魔法サービス部門長と話をして納得して貰っているはずだが?」
「もちろんです。ですが、うちのメタプレーン探索チームが3名メタプレーンクエストに出ております。龍脈を放棄した場合、彼らの帰還可能性が大幅に下がります。」
室内に鳴り響く鹿威しの音。
「把握した上での話だ。ゼーダークルップが利益度外視でアサルトチームを動かす準備をしている。今のうちに撤退しなければ我々の行った非合法活動の証拠が全て抑えられてしまう。今撤退すれば採算分岐点はうちに傾く。」
VRで汗をかかないにも関わらず頻繁に汗を拭く若松。
一方宮本は悲壮な顔をしている。
「せめてあと2日いただければメタプレーンよりも帰還可能性が大きく向上するのですが。」
「確かに今回はうちのが半端者使ったのが原因だからね、調整したいところだけど…」
期待に目を輝かせる若松。
「本来は日本時間で8日付けの撤収完了予定だったが、シアトル時間で処理しよう。ゼーダークルップの目的は分からないが金を湯水のようにばらまいて最短で準備してきている。これ以上の妥協は不可能だ。」
宮本が恐る恐る問いかける。
「帰還が間に合わなければ?」
「間に合うように八百万の神々に祈るんだね。」
更に話をしようとする宮本を若松が制する。
「わかりました。それまでの撤退を進めます。」
「ああ。今回正規軍を動かせないからね。ランナーを動かし証拠を消させる。仮に、そのタイミングでうちとの関与の判る連中が残っていた場合処分対象だ。それが、どれ程貴重な人材でも違いはない。」
そう告げると玉津はするりと立ち上がり部屋から退室する。
そして、オンライン会議を終了させ、宮本と若松もジャックアウトする。
ここは京都の山科にある三浜魔法研究社の本社研究所だ。
若松の居室である社長室だ。
肩をぐるぐると回す若松。
口を開くのは宮本だ。
「撤回して貰えませんでしたね。」
少し肩をすくめる若松。
「まあ、半日譲歩して貰っただけ御の字だろう。あいつらも無事戻って来てくれたら良いのだけどな。」
悄然とした風情の宮本。
「では、失礼しますね。」
「ああ、この件は君の失点にはならないように調整しておくから安心してくれ。良い計画だったのだけどねぇ、君のプラン。ゼーダークルップが介入さえしなければなぁ。」
宮本はそれ以上何も言わず退室していく。
そして、裏の休憩スペースに向かい缶コーヒーを買い腰をおろす。
すでに夕方とは言え7月の空はまだまだ明るく全てを焼き焦がすような灼熱の太陽が宮本を照らす。
購入した缶コーヒーを開けもせず地面に視線を向けている。その姿は自分のプロジェクトが不本意な形で頓挫し仲間の命に思いを馳せる研究者にしか見えない。
しかし、彼はサブボーカルマイクを使いボソボソと会話をしている。
「大和です。2日以内に結節点に掃除部隊が送り込まれます。」
宮本のコムコールの相手であろうか。
コムリンクから男性の声がかえる。
その声はディッサンセンブラーに指示をしていたアレスのジョンソンと同じ声だ。
「依代の準備はかろうじて終わりそうだが魔力の充足が間に合うかの判断がつかないな。マーリンに確認を取ろう。」
「すいません、リアム。俺がもう少しうまくやれば。」
リアムは気遣わしげに口を開く。
「忌々しいドラゴンだ。君のせいではないよ、大和。私の儀式の完遂を祈っていてくれ。」
「わかりました。お気をつけて。」
2人の通話はそこで切れる。
宮本はそこでのろのろと先程購入した缶コーヒーを開き口を付ける。
リアムは召喚タイミングを相談するためにマーリンこと、マイケル・エルドリッチに連絡を取るがもちろん連絡は取れない。
シアトルは現在7月8日9時過ぎ、エルドリッチはすでに冥府へと旅立っている。
かくして、リアムは上司が連絡が取れないことに苛立ちながら儀式の遂行をしていくことになる。
その結果がどうなるかも知らずに。
VIP用VR会議室
オリジナル設定です。
三浜魔法研究社/Mitsuhama Thaumaturgical Research
『Market_Panic』などの企業系サプリより。
ミツハマの魔法に関する基礎研究やメタプレーン探索などを行っている子会社。
多分ミツハマ研究13課/Mitsuhama research unit 13とは別物っぽい。
若松樹および宮本大和
オリジナルキャラ。
玉津桜/Tamatsu Sakura
オリジナルキャラというか、捏造キャラ。
『Corporate_Shadowfiles』ではheと呼ばれている為公式は男性。
本来は桜保さんか何かだと思われる。
細かい設定についてもオリジナル。
ヤクザと繋がりがある、入れ墨があるは公式設定。
社内マナー
オリジナル。
4人のヤクザ親分/THE FOUR OYABUN
『Vice』より。
イラストもある。
三浜敏郎/Toshiro Mitsuhama
『Market_Panic』などの企業系サプリより。
ちなみに支配体制は5版後半以降で少し変わります。
リアム
オリジナルキャラ。