シアトルアイショット   作:CanI_01

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2075年7月8日 UCAS シアトル ダウンタウン フェデレットボーイング社メインオフィス。

70階建てのメインオフィスの69階、西向きの見晴らしの良い部屋。

奥には重厚な木製のデスクが置かれ、そこに腰を下ろしているのは赤髪の美女。

赤髪の女性はブラウスにタイトなスカートという装いにも関わらず足を組みながら仕事をしている。

人に見せられないと取るか、見せるためにしていると取るかはその人次第だろう。

シアトルの誇るAAメガコーポ、フェデレットボーイングのCEOジェシカ・シリアンニその人だ。

朝の10時、彼女が最も事務仕事に集中できる時間帯だ。昼前になると様々な話し合いの時間となる。

 

そんなゴールデンタイムに入口脇の秘書のコムリンクが鳴る。

シリニアンニの連絡は基本的に秘書が取次を行うために、コムリンクがなること自体は珍しくもない。

ただし、これが社内からの内線であればだが。

外部からCEOへの直通コムコールの番号を知っている者は限られている。

それにも関わらず今回の連絡は外線であり、相手はジャーナリストのダニー・ウエストである。

 

シリニアンニは数ヶ月まえにダニーのインタビューを受けた。内容自体はフェデレットボーイングに対して好意的であり、かなり満足していた。

しかし、それはあくまでもビジネスの付き合いであり直通のコムコールナンバーを交換するような関係でもない。

とは言え、相手は著名なジャーナリストだ。無視するわけにもいかない。

 

「はい、フェデレットボーイングCEO室です。」

 

「ご無沙汰しております。ジャーナリストのダニー・ウエストです。ぶしつけながシリアンニCEOに喫緊のご相談がありご連絡させていただきました。」

 

秘書がため息1つ。

こういった売り込みは多く断るのも彼女の仕事だ。

 

「残念ですがシリアンニは席を外しておりましてご対応させていただくことができません。」

 

「では、お話だけでもお伝えいただけますか。私は今SVTの案件対応をしている魔法使いに協力して動いております。」

 

傍らで仕事をしながら会話を聞いていたシリアンニの眉がピクリと動く。

SVTの名前は無視をするには少し重すぎる。

 

「彼女の話では北米全土良くてもシアトル全域に影響を及ぼすテロが進行しています。これを阻止する為にCEOのお力をお借りしたいのです。」

 

シリアンニはため息を1つついて秘書へと指示をする。

 

「上のラウンジで会うわ。手配してちょうだい。どうせ社の前にでもいるのでしょ?」

 

そう告げるとシリアンニは70階のラウンジに向かう。

レセプションパーティーにも、打ち合わせにも使える多目的ラウンジだ。

眼下にはビュージェットサウンドの海が広がっている。

ラウンジは300人程度は入れる規模であり普段は社員が食事や簡単な打ち合わせに使えるように開放され机だけが並んでいる。

朝一の打ち合わせをしている社員も何組かおり遮光スクリーンを展開して簡易的な会議室を形成している。

そして机に設置されたホワイトノイズジェネレータにより奇妙なほど外部に音は漏れないようになっている。

 

シリアンニがそんなラウンジを見回しているとエレベーターが上がり中からヒューマンとエルフの2人組の女性が姿を現す。

ダニーとエルである。

シリアンニが気安い感じに手を振る。

それに応えるように深々と頭を下げる2人。

 

「急なお願い申し訳ありませんでした、シリアンニさん。」

 

「話の内容次第ね。彼女は?」

 

「彼女はエル。お電話で申し上げましたSVTの依頼で動いております魔法使いです。」

 

シリアンニは軽く頷くと机に向かう。

 

「オーケー。腰を据えて話を聞かせて貰うわ。」

 

対面に2人が座る。

シリアンニが卓上のボタンを押すとホワイトノイズジェネレータが起動し、合わせて周囲に遮光スクリーンが展開される。

トリッドの三次元投影技術を利用した物理的には存在しないスクリーンだ。

 

「改めてあたしがフェデレットボーイングのCEOジェシカ・シリアンニよ。先に聞いておくけど本当にSVTに雇われてるの?」

 

その言葉に応えるようにダニーからシリアンニに証明書が送付される。

 

「正式なSVTからの依頼書と今回のレポートになります。」

 

何もダニーはブラフで会談を取り付けた訳ではない。

エバレットの探索後、敵魔法使いからの襲撃を警戒しダニーとマラキはサークルファームにて匿われていた。

ダニーは本館に、マラキは作業夫用の別館ではあるか。

その後チェンと話をしてから合流したエルとトロ吉を含めて相談をしたところ、いかにアレスへの干渉を行うのかとの話になった。

ダニーがフェデレットボーイングのCEOかナイトエラントのシアトル署長ワードのどちらかなら伝手があると話題に出した。

彼女達を説得するための資料がないと話をしたところケイトがあっさりと告げたのだ。

今回の行動はSVTの依頼にしてしまおう、と。

唖然とする一同にケイトはSVTとは話をつけており報酬含めて協力を取り付けていると説明した。

代わりに、今回の事件の解決にSVTが主導的に動いたことにすることを条件にだ。

とは言え、そんな話をしたのが深夜、今が朝の10時にも関わらず正式な依頼と中間レポートができている辺りマデリンがなかなかに無茶をしていること想像に難くない。

 

シリアンニは正式な書類であることだけを確認しエルに向き直る。

 

「時間は限られているわ、状況を簡潔に説明してちょうだい。」

 

概略をダニーが魔法的な部分についてはエルがかいつまんで説明する。

 

「確かに由々しき事態ね。でも、私にできることが見えてこないわ。」

 

ダニーが頷きAR上に中間報告の15ページ目を展開する。

そこには先日エルがディッサンセンブラーのメンバーの記憶で見たアレス社員の顔写真と経歴が記されている。

エルが動いている間ダニーも遊んでいたわけではない。エバレットの様々なシステムに探りを入れ該当しそうな人物の画像を掻き集めていたのだ。

そして正解を引き当てたのはエルがチェンと話をしている頃だ。

エルが帰宅した後本人と確定した後は早かった。

SVTの持つデータベースからまたたく間に素性が特定されたのだ。

 

リアム・テイラー

男性、43歳。

ナイトエラントの特殊部隊である覚醒対応局所属。

黒魔術様式の魔法使い。

知識、魔力共に申し分なくアレス本体の開発部への栄転も噂されている。

 

「彼がエバレットにあるアレスR&Dの地下にある魔法実験施設で何らかの実験をしていることまでは確認が取れています。」

 

彼女達の訪問が、この時間になったのはリアムの所在を特定するのに手間取ったためだ。

そのためにダニーの友人のデッカーがアレスにハッキングを仕掛けたのだ。

ダニーの能力ではアレスのホストに挑むには実力が足りず悔しそうな顔をしながら依頼をかけていた。

 

「このことから召喚儀式がアレスR&Dで行われることは間違いありません。」

 

シリアンニは艶やかに微笑む。

しかし、その目は笑ってはおらずさながら肉食獣の微笑み。

 

「我々にアレスへ企業戦争を仕掛けろと?」

 

「そんな意図はありません。我々の依頼主の希望は何もなかったことにすることです。御社とアレスが相対するなど異なるセキュリティリスクに成りかねません。」

 

「なるほどね。アレス本体とリアムを切り離せば、後は何もなかったことにする、と。」

 

穏やかにエルが頷く。

 

「そうです。この資料とCEOの立場があれば穏便な解決の道が残されているかと。余所者にあなた方の街を荒らされるのはお気に召さないかと愚考する次第です。」

 

呵々大笑。

これまで穏やかな仮面を被っていたシリアンニが突然笑い出す。

そして、好戦的なギラついた笑みを浮かべる。

 

「いいわ、気に入ったわ。話を付けてあげる。その代わり失敗したら分かっているわね。」

 

「その時には私は生きてはいないことでしょう。」

 

シリアンニは大きく頷きコムコールをかける。

数回のコールの後画面に映るのは長年の軍隊生活を経験してしたような厳めしい顔立ちの年配の黒髪の女性だ。彼女の背後にはアレスのロゴが輝いている。

 

「ジェシカ、急にどうした? 今はあまり時間は取れないぞ。」

 

彼女こそアレスシアトルの責任者、カレン・キング、その人だ。

 

「悪いわね、カレン。エバレットでそちらが行っている召喚儀式の件で連絡させてもらったわ。」

 

苦笑するカレン。

 

「藪から棒にどうした。うちの社内のことに口出しするようなら私も容赦はできんぞ?」

 

「社内で完結する話ならこんな連絡はしないわ。我々の街への被害を懸念しているから連絡させてもらったのよ。」

 

カレンの顔から微笑みが消える。

 

「我々は同盟関係にあるとは言え、挑発的な発言は控えてもらおうか?」

 

反対にジェシカは艶やかに微笑む。

 

「穏当な表現をしているつもりだったのよ? グレートゴーストダンス並の被害を出すような実験は看過できませんと言ったほうが良かったかしら?」

 

カレンの顔に酷薄な笑みが浮かぶ。

 

「どうした、ジェシカ? 自殺願望を持つのは結構だが死にたいなら自宅で首を括り給え。」

 

「確かに弊社と御社では戦争にもなりませんわ。でも、アレスシアトルと弊社なら良いゲームになると思わないかしら? あたしはこの席とそれに連なるこの街を護るためなら手段は選びませんよ?」

 

カレンはゾワリと背筋に嫌な感覚を得る。

軍隊経験や長年の経済戦争を生き延びてきた歴戦の勘が危機感を告げる。

この女は本気だ、と。

一方的なフェデレットボーイングの暴走により戦争になるのなら致し方ない。しかし、彼女の言うとおりアレスに非がある状態でフェデレットボーイングとの戦争になった場合アレスは生き残ることができるだろうか。

ただでさえ今はエクスカリバーコンバットライフルのトラブルにより企業順位を大幅に下げているのだ。

一度引くべきだ。

この勘によりメガコーポ同士の全面戦争は回避され、カレンは妥協姿勢を見せる。

 

「少し落ち着き給え。確かに召喚実験は行っているが単なる大精霊の召喚実験だ。グレートゴーストダンスを起こすようなリソースは費やされていない。」

 

内情を明かし理解を得る、そんな腹積もりだ。

 

「あたしが懇意にしているSVTのエージェントからシアトルで御社によるハザードリスクが高まっていると報告を受けています。これによると足りないリソースは龍脈の操作と生贄によって賄っていると書かれていますね。」

 

カレンの表情がわずかにひきつる。

 

「馬鹿な。そんなことをして我々に何のメリットがある?」

 

「あなた方には利益はないでしょうね。研究を主導されているテイラーさんがブラックロッジのメンバーらしいからロッジの為に動いているのではないかしら?」

 

「ブラックロッジだと?」

 

「後の言い訳はミツハマによる龍脈操作により魔力が満ち溢れていたことによる災害でありミツハマに責任をなすりつけるプランでは?」

 

カレンの視線が泳ぐ。

何らかの資料を参照しているのだろう。

 

「確かに魔力の乱れに関しては報告は上がってきている、が。そのレポートを見せてもらうことはできるか?」

 

エルが頷く。

 

「構いませんわ。今送りました。今の話題になってる話は20ページ辺りにありますよ。」

 

データに目を通すカレン。

ただ、静かに時が流れる。

そして静かにカレンが降参をするように両手をあげる。

 

「どうやら君の話を突っぱねるより聞いた方がリスクは低そうだ。」

 

ジェシカが軽く頷く。

 

「あなたの権限でこの研究を停止できるとありがたいけど?」

 

カレンは静かに首を左右にふる。

 

「残念ながら、こいつは取締役会直結のプロジェクトだ。私の権限では足りない。仮に中止命令が出たところで引き下がるとは思えんしな。」

 

カレンわずかに沈黙する。

 

「ジェシカ、このレポートの資料を集めたランナーを貸せ。儀式が失敗に終わるなら多少の損害には目をつぶる。どうだ?」

 

横にランナーがいるのだろ? そんな口振りでカレンは話す。

その言葉に対してエルが頷く。

ジェシカは肩をすくめ口を開く。

 

「あなたの勘は鋭すぎないかしら? 彼女がこの件のフロントパーソンのエルよ。」

 

コムリンクにエルとダニーの姿が映り込む。

 

「ランナーのエルと申します。SVTの依頼で本件の穏便な解決のために動いております。」

 

カレンは一つ頷く。

 

「よろしく頼む。今日中に地下研究施設に繋がるエレベーターが1台故障する。その修理スタッフとして潜入し事態を片付けろ。報酬は10万ニューエン用意しよう。不足はあるまい。」

 

エルはかろうじて頷きを返す。

 

「お引き受けいたします。」

 

「ジェシカ、関連資料を送る。エルに回してやってくれ。」

 

「構いませんわ。」

 

「助かる。これは借りにしておく。ではな。」

 

そして、カレンは通信を切る。

唖然とするエルとダニー。

 

「嵐のような人ですね。」

 

くすくすとジェシカが笑う。

 

「まあ、あなた方の目論見通りに行って良かったわ。じゃあ、この街よろしくね。」

 

ジェシカはデータを転送する。

そしてやっと立ち直ったエルが言葉を返す。

 

「可及的速やかな解決を目指します。」

 

その言葉を受けてジェシカが立ち上がる。

 

「あたしの時間もなくなったわ。じゃあ、よろしくね。」

 

その言葉と共にジェシカは自室に戻り2人は退去する。

エル達はこれから今回の騒動をなかったことにするために奔走することとなる。




フェデレットボーイングメインオフィス
基本的に創作。階数については『Seattle 2072』より。

ジェシカ・シリアンニ/Jessica Sirianni
『Blood in the Boardroom』より。

リアム・テイラー
オリジナルキャラ。

カレン・キング/Karen King
『Splintered_State』より。
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