領域の外れ。4台のローバーモデル2072が停車している。
時は13時過ぎ。ローバーのエンジンはまだ熱を持っており長旅を抜けてたどり着いたところといった感じだ。
ローバーの傍らには10人近い男女が打ち合わせをしている。
その出で立ちは使い込んだアーマージャケットに身を包み腰にはハンドガン、そして車内にはライフルもあると推測ができるような武装集団だ。
そんな荒んでいそうな集団にも関わらず思いの外に荒んだ感じがない。
恐らく中央にいる日系のエルフ女性の爽やかさが組織に清涼感をもたらしているのだろう。
年の頃は10代後半ながら周囲の荒くれ者は彼女をリーダーとして慕っているのが一目でわかる。
「みんなお疲れ様。ラン自体は日付が変わり次第仕掛けることになるわ。この後、ブリーフィングが終わり次第休憩にするからよろしくね。」
一同が静かに頷く。
統制の取れた良い集団である。
「今回の目的はミツハマのスタッフのうち命令に反して滞留しているスタッフの強制退去になります。相手が武力行使を行ってきた場合は殲滅の許可も得ています。早急にミツハマ関係者がこの領域からいなくなれば構わないと言うのが依頼主の意向です。」
皆が軽く頷く。
「あとメタプレーンクエストに赴いている魔法使いの肉体の確保は必ず行うように依頼されています。ターゲットリストに関してはP-TACにより共有されてリアルタイムで更新されますので注意してください。」
その時指揮官のコムリンクが呼び出し音を奏でる。
ARにポップアップした相手の名前は玉津桜。
ミツハマ北米部門長その人である。
慌てて通話を繋ぐとARに穏やかな微笑みを浮かべた玉津の顔が現れる。
「天音さん、状況は?」
天音は敬礼でもする勢いで背筋を伸ばし言葉を返す。
「は! 現在我々は鷹の爪部族の居留地に到着。装備の点検後休息を取ります。」
玉津は軽く頷く。
「悪いけど予定が変わったわ。突入準備が完了次第突入を実施しなさい。」
「承りました。それでは1時間後に突入を実施します。」
玉津は満足そうに頷く。
「あと降伏勧告は1度のみ。従わなければ殲滅なさい。」
わずかに困惑をにじませる天音。
「当初のお話ですと同朋故に可能な限りの生還を依頼されたかと存じますが、よろしいのですか?」
玉津は穏やかに頷く。
「どうやら我々はコケにされていたようでね。テロの片棒を担がされるところだったようなのよ。この我々がね。」
変わらず玉津は菩薩のように穏やかな微笑みを浮かべているが、それが逆に鬼気迫る迫力を与えている。
「なので、我々になめたことをしてくれた以上、きっちりケジメつけとかないとね。」
「承りました。リストいただきましたら対応します。」
「あと、今回の元々の計画としてメタプレーンクエストを行えるに足るだけの魔力潮位獲得のために龍脈操作を行っている。強制的に操作を中止した場合龍脈の揺り返しが起こることがあるらしい。こいつを抑えるのに元々ここの龍脈を管理していたシャーマンにもコンタクトを取っておけ。では、任せたよ。」
そう言うと玉津は一方的に通信を切る。
ぐったりとする天音。
それを見て隣にいたオークの男性が話しかける。
「まるで上官に命令される下士官になってたぜ、スノウ。」
苦笑いをする天音ことスノウ。
「あの婆さんは化物よ。あんたもサシで話せばわかるわよ。今でもあの人の前に出ると学生の気分になるわ。」
反対側にいるヒョロリとしたドワーフ女性が苦笑いをする。
「あんたを小娘扱いできる人って限られてるもんねー。」
肩をすくめるスノウ。
「悪いわね、みんな。聞いての通り状況は変わったわ。思ったより血なまぐさい話になってしまった。」
「ま、ドラゴニックで有名なミツハマと付き合ってる以上仕方ありませんよ。」
「ドラゴンがいないのに、ドラゴン以上にドラゴニックだからたまりませんよね。」
苦笑いのスノウ。
そんな話をしている間にターゲットリストが更新される。
リストを見て唸り声をあげるオーク。
「この人数の殲滅となると手数が足りませんね。」
「とは言え目的は皆殺しじゃない。ターゲットグループ毎に連絡を取って反応を見るしかないだろう。」
「奇襲できなくなりますよ?」
「せっかくランナーになったんだ、柔軟な解釈をしても良いと思わない?」
苦笑するオーク。
「美女はわがままぐらいが良いと思うよ。」
「ありがと。じゃあ、個別にコンタクトを取って説得して行きましょう。何をしたかは知りませんが、このケジメ対象メンバーは動かないでしょうけどね。では、説得はお任せします。あたしはシャーマンにコンタクト取ってきますね。」
密やかに残留メンバーにコンタクトを取っていくスノウの仲間達。
連絡を取る彼らを尻目にスノウは1人ヤマハグロウラーに跨り元の鷹の爪部族メンバーが居留しているキャンプ地を目指す。
移動しながらシャーマンのアイヤナについての情報を集める。
アイヤナはゼーダークルップの援助を受けて失地回復を狙っているようだ。
これは今ゼーダークルップのアサルトチームが、ここを目指しているという話とも合致する。
スノウは1つ頷くとキャンプ地の近くでバイクを止めキャンプ地を徒歩で目指す。
警備に立っているのは2人の男性ヒューマン。
近づけば当然かかる誰何の声。
「私はゼーダークルップの先行部隊として動いている傭兵部隊の者です。アイヤナ様にお会いできますか?」
「そのような報告は聞いていないが。」
スノウは軽く頷く。
「ええ。ゼーダークルップはまだサーリッシュシーへと入る正式な許可をいただけておりませんので。」
警備の2人に理解の色が浮かぶ。
「伝言だけお願いできますか。我々先遣部隊は1時間後に威力偵察を実施します。今見えている敵戦力であれば、これで決着がつく可能性もあります。この際龍脈の揺り返しが発生する可能性があります。揺り返しの対応をお願いしますとご伝言ください。」
警備員の一方がアイヤナに連絡を取る。
「本件はアイヤナも了解いたしました。我々も準備出来次第鷹の爪部族居留地に向かいます。」
スノウは軽く頭を下げる。
「よろしくお願いいたしますね。」
スノウが根回しを終え仲間達の元に戻るとおおよそ連絡は取り終わっていた。
個別に話を聞くと残留メンバーも今日中の退去予定で準備を進めていたようだ。
このためメンバーの大半は問題なく退去させることができた。
反面、始末するべき対象の魔法使い2名と要人警護部隊10名は逃がすわけにいかない。幸い一箇所に固まっているため、そのまま襲撃をさせてもらうことになる。奪還すべきメタプレーンクエスト中の魔法使いも同じ施設だ。
並行して展開しているフライスパイの視界により対象にタグ付を実施、事前に得ている対象のコムリンクのGPS情報の信頼性を確認する。
現状敵は自分達が狙われているとに気がついていないようだ。
慌ただしく移動していくスタッフも予定を前倒している、そんな印象なのだろう。
少し気が抜けているようだ。
「まあ、ここまでやれたら上出来ね。彼らには悪いけど殲滅しましょう。幸いタグはすでについてるからあたしは最初から指揮に専念するわ。デッカー対策は任せたわよ、ミカエラ。」
ヒョロリとしたドワーフ女性が頷く。
「あたしがコマンドデッカーの通信を制圧したタイミングと合わせて襲撃で良いかしら?」
「ええ。私が正面からアプローチして気を引き付けるわ。タイミングを合わせてデビルラット放してください。」
何人かメンバーは背中にガスタンクを担いだデビルラットを持っている。
スノウが昔世話になっていたギャング団の切り札である飼い慣らしたデビルラットに催涙ガスを担がせたものだ。
毒の効かないデビルラットが突入し催涙ガスをばら撒くという生物兵器だ。
スノウは正面からのんびりとターゲットに近づく。
警護部隊がスノウに気が付き銃を向けるとスノウはフレンドリーに手を振る。
相手が違和感を感じた瞬間にゴーサインが出す。
正面から近づく不審者への報告が出た直後、指揮官の通信は途絶し左右からデビルラットが襲来し催涙ガスをばら撒く。浮足立ったところに丁寧な集中砲火でまたたく間に警護部隊は掃討される。
そして流れるようにダイナミックエントリーを仕掛ける。壁面を爆薬で抜き
突入。何らかの儀式を執り行っていた魔法使いを制圧する。
その瞬間大地が軽く身震いをする。
スノウが仲間達に指示を飛ばす。
「目標は達成した。速やかに撤退してください。私はシャーマンに状況を伝えてから合流します。」
スノウの一行はまるで雪が溶け消えるように姿をくらます。
残されたのは血溜まりだけだ。
この場所でのミツハマの作戦行動など存在しなかったのだ。
天音orスノウ
オリジナルキャラ。元々は神音さんの使用していたPC兼NPC.
使用させていただきありがとうございます。
初出は下記のセッション『エンジェル・フォーリング』。
http://shadowrun.html.xdomain.jp/SR5/angel.html
ミカエル
オリジナルキャラ。
ローバーモデル2072/Rover Model 2072
大型で乗り心地の良いバンをオフロード仕様に改造したもの。
『シャドウラン5版基本ルールブック』より。
ヤマハグロウラー/Yamaha Growler
モトクロなどでも使用される大型のオフロードバイク。
『シャドウラン5版基本ルールブック』より。
タグ付け/TAG
『Kill_Code』で追加されたマトリックスアクション。
タグをつけた相手への視界へのペナルティが減るとともに追加で狙えるようになる。
デビルラットwith催涙弾
神音さんのシナリオで天音さんが使用していた技。