シアトルアイショット   作:CanI_01

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2075年7月4日 フランス 地中海沿岸 イフ城

ハーレクインがエルと合流する4日前。

 

フランス南部のマルセイユから海上を4km程進んだ場所にあるイフ島。

アレクサンドル・デュマ・ペールの『モンテ・クリスト伯』の舞台にもなった古代の城塞であり、監獄にも使用された場所だ。

第5世界では国有の観光地となっていたが、ある頃から1人のエルフにより所有されている。

このエルフが所有してから衛星から、この島を観察しようとすると奇妙な散乱光によりうまく撮影することができないと言われている。

島は周囲を断崖絶壁に覆われ海から入ることのできるのは海面にある小さな洞窟にある桟橋のみだ。

島の上にはかつての監獄がそのままに残され、これとは別に新たにヘリパッドと近代的なガラス建築の建物がある。

その近代建築の中、応接間で1人のエルフが椅子に腰掛け、背もたれにもたれかかっている。

部屋の奥にある暖炉も火の気配は絶え物悲しい。

その手にはロックグラスに並々と注がれたウイスキーがあるが、グラスについた水滴からしばらく前から手に持ったままであることが見て取れる。

そのエルフは酷く疲れ果てているようにも、何かを熟慮しているようにも見える。

しかし、そのエルフの鍛えたげられた肉体を見れば決して自堕落な生活をしてきたわけではない事がよくわかる。

彼こそエルに助力を申し出た魔法剣士ハーレクインその人だ。

だが、椅子に深く身を沈め、うなだれる姿からはシアトルに現れた自信に満ち溢れたエルフと同一人物には見えない。

 

彼は昨年末かつての恋人であるアイナの命を奪ったグレートドラゴン、ゴーストウォーカーに挑むためデンバー全域に混乱を巻き起こした。

しかし、ハーレクインはゴーストウォーカーに敗北し古き宿敵と弟子に命を助けられるはめに陥った。

更にアイナが命を失う原因がゴーストウォーカーになかったこともあり、ただただ失意に沈んでいる。

敗北よりも無辜の市民にまで被害を出した自分のやり口に嫌悪をしているというのが正解だろうか。

当初は心配していた弟子のフロスティも最近は呆れの感情を隠さず、ドラコ財団の依頼で旅に出ている。

突然ハーレクインが何かに気が付いたように弾かれた様に顔を上げる。

そして虚空を見上げぼそりと呟く。

 

「ダンケルザーン?」

 

イフ城全域に張り巡らされた結界、そこに接触した巨大な二元生物。

その気配をハーレクインは知っている。しかし、あり得ない存在だ。

彼の竜は世界を護るために自らを生贄に捧げたのだ。

 

グラスをデスクに置きハーレクインはのっそりと建物の外に出る。

そこには蒼銀の鱗を熱い夏の日差しに照らされたダンケルザーンの姿が美しく整えられた庭に鎮座していた。

彼の竜は庭を乱さぬようにその尻尾を天高く上げている。

幻影であることすら疑いながらもハーレクインは自失から我に返り声をかける。

 

「久しいな、レテ。」

 

その言葉に応えるようにドラゴンの姿はヒューマン男性の姿となる。

顔立ちはネイティブアメリカン、衣服はアステカ風、体格はオークのような巨漢のヒューマン。

彼は穏やかな笑みを浮かべている。

 

「ああ、久しぶり、ハーレクイン!」

 

その顔に浮かぶ穏やかな笑みはかつて共に世界の境界を護るために戦ったレテの物だ。

 

「お前が訪ねてくるのは珍しいな。チャイラを見つけたのか?」

 

レテは静かに首を横にふる。

 

「いや今日は別件。地球のマナスパイクを潰しているの知ってるとは思うけど、新しいマナスパイクが生まれていてね。」

 

マナスパイク。それは強い感情や魔力により一時的に発生する領域の魔力が増大する現象。

このマナスパイクを利用し異世界よりホラーと呼ばれる邪悪な精霊がメタプレーンの彼方より侵略を起こしたのだ。

 

「さほど珍しくはないだろう。まあ、お前の仕事はなくならないだろうがな。」

 

「マナスパイクだけなら対応すれは良いだけの話だけど、今回マナスパイクを利用して竜を狩る者の召喚を企てている輩がいてさ。」

 

明確に嫌な顔をするハーレクイン。

 

「誰がそんな馬鹿なことを? 偉大なる狩人の教団か?」

 

「いや、ブラックロッジさ。」

 

「あいつの遺産か。自分の蒔いた種ぐらい何とかしてから高みに登って欲しかったな。」

 

「更にブラックロッジにヴァストグリーンがついた。」

 

「は?」

 

「彼の御人は何が何でも竜を狩る者と戦いたいらしい。」

 

「わざわざ召喚させて自分で倒す、と。計り知れない馬鹿だな。」

 

肩をすくめるレテ。

 

「こうなってくると若輩種に任せるのは少し酷かなと思ってね。」

 

「つまりヴァストグリーンを抑えろ、と。」

 

逡巡を表わすハーレクイン。

頭に浮かぶのはゴーストウォーカーに完敗した自身の姿。

 

「夜明け前は常に次の暗闇に勝る。ハーレクインは未来の世代を束縛するやみの前に光を投げかけることに生涯をかけることを違う。」

 

それは光を帯びし者の宣誓の言葉。

力を得る代わりに世界を守護する誓い。

 

「お前どこでってのは愚問か。」

 

「そう僕は自由精霊のレテであり、バーンアウトシャーマンのビリーであり、グレートドラゴンのダンケルザーンでもある。誰かの知識は全て僕の知識さ。」

 

ハーレクインはそれでもまた気弱な笑みを浮かべる。

 

「だが。」

 

「完全な竜を狩る者の顕現を許せば大災厄を待たずに人類は滅びかねないよ? わかってるよね?」

 

ハーレクインが肩をすくめる。

 

「未だにこの身を縛る光を帯びし者の誓いは健在か・・・やるしかあるまい。」

 

レテはうんうんと頷く。

 

「そうこなくちゃ。場所はシアトル。僕も詳細を調べることはできていないんだ。ウルビアにでも話を聞いてみて。その頃には若輩種も異常に気がついて動いてるでしょ。」

 

結果的にレテの読みは当たったとも外れたとも言える。

エル達がこの2日後に事件解決に向けて動き出すことになるが、竜を狩る者の召喚に気がついて動き出した訳ではないのだ。

 

マリアが仏心を出さなければ。

ダニーがアイヤナを救うために全力を尽くさなければ。

ヴァルがアンゲリーカを救うためにエルを雇わなければ。

この時に対象に動き出すことはなく、年若き短命なる者達が事実に気づいた時には全ては

手遅れであった可能性すらあったのだ。

 

しかし、この時イモータルの2人は知る由もなかった。




イフ城/Chateau D'IF
外観描写については『Beyond the Pale』より。
現実では観光地の為詳細な地図がネットに上がっていたりする。

ハーレクインがゴーストウォーカーに敗北した話
『Storm Front』より。

レテ/Lethe
ダンケルザーンの魂に命名して生み出された自由精霊。
ドラゴンハートと呼ばれるマナスパイクを破壊するアーティファクトを使用しマナスパイクの解体に尽力している。
『Stranger_Souls』より。

チャイラ/Thayla
歌によりホラーを退けることができる古代のエルフ女王。
境界を巡る戦いの中メタプレーンの境界へと姿を消している。

ヴァストグリーン/Vast Green
アースドーンサプリ『Book of Dragons』より。
グレートドラゴン、ウースンのこと。

彼を主人公に前日譚も書いていたりします。
『深緑閣下は強い奴に会いに行く』
https://syosetu.org/novel/262379/

光を帯びし者の宣誓の言葉
『Barsaive in Chaos』より。
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