シアトルアイショット   作:CanI_01

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2075年7月8日 UCAS シアトル エバレット アレスR&D

エバレット路上に停まるアレスファシリティのサービス車。GMCブルドッグを改造したものだ。

車内には5人の男女。皆サービスマンの服装に身を包んでいる。

運転席にはダニーが腰掛けている。

助手席にはマラキ、後部にはトロ吉とエル、そしてハーレクイン。

かなり大型のブルドッグだが、トロールが2人乗ると、まるで軽自動車のようだ。

 

ハーレクインの道化師のメイクは健在だ。

メイクを見た際ダニーは何かを言いたそうな顔をし、トロ吉は爆笑し、マラキは正気を疑った。

それもエルが魔法使いとして制限なんでしょの一言で解決している。

その代わり帽子を深く被り、猫背気味で顔を他人に見せないように厳命されている。

かなりきつめに言われているが苦笑いしながら受け入れている辺り、ハーレクインは穏やかな人物なのだろうと一同は少し気を緩めている。

実力のある気難しい人物とのランなど考えただけで気が滅入る。

 

そして建物の前でふとハーレクインが思い出したように口を開く。

 

「これを渡しておくのを忘れていた。」

 

ハーレクインが取り出したのは小さな黒い石のついたアンクレットだ。

 

「恐らく儀式場のアストラル空間は酷く汚染されているはずだ。これを付けておけば、こいつがフィルターとして機能して通常通りに魔法を行使できるようにしてくれる。」

 

トロ吉が訝しげな目を向ける。

 

「なんか副作用もあるんじゃないのか? 使いすぎると体が破裂するとか。」

 

ハーレクインは肩をすくめる。

 

「そんな大した副作用はないさ。着用者の血を吸って結びつくんでな、ちょっとした切り傷程度の血を失うぐらいさ。」

 

エルは軽く頷く。

 

「なら、使わせてもらうわ。儀式を潰すには魔法が使えないと話にならないわ。」

 

じっとアンクレットを見つめるダニー。

 

「テクノマンサーにも有効かは知らんが付けるか?」

 

「反共振力が強いとあたしも役にたたなくなるから可能性があるなら助かります。」

 

2人が足にアンクレットをつけるとまるで血を吸ったかのように石が赤く染まる。

 

「そのアンクレットの中に魔力を通す感覚で魔法を使ってみると良い。」

 

狐につままれたような顔の二人。

 

「ドメインによる頭痛も緩和されました。」

 

「あたしもです。」

 

「今回は時間が限られているから貸し出したが安易に力に手を出すと身を滅ぼす。召喚を阻止したら返してもらえるか。」

 

「わかりました。」

 

そんな5人が正面から堂々とアレスR&Dへと入っていく。苦労して用意した本物のIDに本物のトラブル。怪しまれることなくスムーズに現場のエレベーターへと案内してもらえる。

もちろん、気さくに会話するエルのコミュニケーション能力に助けられた部分も大きい。

最大の懸念事項だったハーレクインもトロール2人に挟まれて背を丸めて歩いていると肉体作業員に萎縮するもやしエルフにしか見えないから人の認知は面白い。

 

地下におり巨大なエレベーターホールに降りる一行。

さて目的地はと考えていると声を掛けてくるものがいる。

声をかけてきたのはトロール男性。彼を見て最初に感じるのはデカイというものだろう。極限まで筋肉を鍛えたトロール。そのような形容こそ相応しい。

そんな筋肉を包むのはイーボのエグゼクティブスーツ。トロールであっても活動に不自由さを感じさせないというのが売り文句の一品だ。

そして全てを射抜くような緑の瞳に天に向かって真っ直ぐ伸びる角。

警備責任者のようにも見えるが見える範囲にいるのは彼だけだ。

 

「ここは立入禁止だ。責務を果たして退出するのが良かろう。」

 

ハーレクインが彼に向き直り言葉を返す。

 

「そう云う訳にもいかなくてね。ヴァストグリーンだな?」

 

トロールの瞳が愉快そうに歪む。

 

「ほう。我の名を知っておるのであれば迷子などではなさそうだな?」

 

その言葉に呼応するようにハーレクインは剣を抜き放ち4人に声をかける。

 

「この御人が俺のデート相手だ。行け。そしてASAPで解決してくれ。」

 

「雛鳥が囀るわ。」

 

その言葉と共に放たれるのは火球。

当たればトロール以外は耐えられないだろう。

しかし、気合一閃。ハーレクインの振るった剣はその火球を打ち返しヴァストグリーンへと直撃する。

しかし、骨まで焦がすような火球を受けながらもヴァストグリーンはケロリとした顔をしている。

 

「ほう、囀るだけのことはあるようだの。我らが天敵の前の準備運動がてらに遊んでくれようぞ。」

 

一瞬ダニーが迷いを見せるがエルに腕を引かれ走り出す。

他の3人は理解をしているのだ、ここにいてもできることはないと。

 

同刻、実験室内ではアレスの、いや、ブラックロッジの魔術師リアムが苛立たしげにコムリンクの通話を切る。

そんな彼に声を掛けてくるのは部下の1人だ。

 

「魔力の流入も減ってきました。このまま時をおけば使用できる魔力が減りかねません。どうしましょうか?」

 

沈黙するリアム。

今回のグランドプランをたてた魔術師であるマーリンとは相変わらず連絡が取れない。

仮に指示通り動いても召喚に失敗すれば組織内での地位は失われるだろう。

 

「君の言うとおりだ。儀式を執り行おう。配置についてくれ。」

 

その言葉に従い9人の魔術師が儀式の為に配置につく。

 

その頃エル達4人はダニーのナビに従い足を進ている。ドラゴンとは地球上最強の生物なのだ。正面から渡り合えるものではないのだ。

だからこそ、その結果がどうあれ彼女達にはハーレクインが稼いだ時間を活かす義務があるのだ。

 

ハーレクインとヴァストグリーンの戦いの音が背後から響き渡るが警報の鳴る気配はない。本来のこのエリアが何を研究しようとしていたのか疑問すら感じる。

そんな中一行は目的の研究室に到達する。

入口のマグロックはスタンドアローンでありダニーがあっさりと破る。

室内へと突入すると、そこには異質な空間が広がっていた。

エルの感覚では外部から膨大な魔力が実験室へと流れ込んでいる。

にも関わらず室内に入ると魔力、いや生命力そのものが失われたような領域となっている。

アストラルで見れば虚無のような漆黒の闇が広がっている。

この汚染はアストラルだけに留まらず共振領域にまで広がっている。ダニーは室内へと踏み込んだ瞬間地面がなくなったかのように錯覚した。それほどまでに強力な反共振力井戸が口を開けているのだ。

この衝撃は覚醒者達だけには留まらない。

マラキやトロ吉ですら強い倦怠感、意味もない恐怖、そんな強い感情に襲われている。気を抜けばへたり込んでしまい、そのまま生命すら失いかねない。

虚無の領域と呼ばれる現象に告示している異質な魔力の領域、それがこの実験室だ。

 

室内の中央には生贄の祭壇がもうけられ、全身にラテン語で何かを描かれた全裸のアンゲリーカが寝かされている。その周囲には黒い竜巻が荒れ狂っている。

その竜巻を囲むように刻まれるのは20m程度の大きさの浄化の魔法円。この虚無の領域で召喚儀式を遂行し喚び出した存在を縛るためのものであろうか。

更に魔法円を囲むように描かれた別の魔法円の上に10人の魔法使いが立ち儀式を執り行っている。この虚無の領域を維持したまま魔法を使うにはマジカルロッジを用いることができず、原質により一時的なマジカルロッジを構築したのだろう。

まるでサタニストによる悪魔召喚の儀式のようだ。

術者達は儀式に集中しており侵入者に気がついていない。

代わりに侵入者対策に動き出すのはドローン達だ。

クアッドロータードローン、アレスハーピー。GODエージェントの支援用ドローンとして開発されながらもミツハマのマラキムに破れたドローンだ。

不採用の理由は隠密用支援ドローンであるにも関わらず標準装備にアレスアルファを導入したことだ。

反面このような警備ユニットとして大変優秀なドローンとなっている。

そんな殺意の高いドローンがエル達に向かって接近をしてきている。

 

儀式呪文行使を阻止するには比較的簡単である。

術者をマジカルロッジより連れ出すか、儀式のリーダーを行動不能にするか、焦点になっている物を移動させるかだ。

通常儀式を行っている場所にまで潜入できてしまえば実施は決して難しくはない。

しかし、アンゲリーカの救出をするには儀式を失敗させるだけでは足りない。

ハーレクインが言うには、ブラックロッジはこの汚染された魔力をアンゲリーカに流し込むことにより邪悪な精霊の卵を構築しようとしている。

この魔力を除去してから儀式を終わらせなければ荒れ狂う魔力の影響によりアンゲリーカの命はないだろう。

このためにエルがアンゲリーカより汚染された魔力を浄化し、アンゲリーカを汚染している術者達を無力化していく必要がある。

 

まず動いたのはドローン達だ。

流れ弾を警戒しているのかバーストファイアにより弾丸を降らせる。

しかし、パイロットプラグラムはデフォルトのままなのであろう。その射撃は決して正確なものではない。

マラキは回避し、トロ吉はサイバーアームで弾き、ダニーは悲鳴をあげながらもかろうじて回避した。

続いてマラキはコンバットアックスをハーピーに全力で叩きつける。

ラージドローンとは言え所詮はドローン。遠心力の乗ったトロールの膂力に耐えることはできず電子部品を撒き散らす。

トロ吉はエルを抱えてトルネードを突破する。その身が切り刻まれながらもエルを無事にアンゲリーカの元に送り届ける。

そして、エルはアンゲリーカに溜まる汚染された魔力を排出していく。

龍脈を正常化し、エバレットに流れ込む魔力は減り、更に魔力を汚染するタロットも破棄した。本来実施されるべき星辰の正しき日取りを狂わせた。

それでも圧縮された暴威とも呼べるような魔力がアンゲリーカの肉体にはすでに蓄積されている。

 

そしてダニーはハーピーの武装であるアレスアルファに目をつける。リローダーを持たないドローンだ。弾丸を排出すれば撃てなくなるのではないだろうか、と。先程の射撃精度からして大したパイロットは積んでいないだろう。

なばマークの足りない状態でも無理矢理ハッキングを仕掛けることはできるのではなかろうか。

その判断に従いセキュリティ機構を迂回しかろうじて操作権を奪い弾丸を排出する。

そして唯一残ったハーピーは最優先対象となったエルに照準を絞る。魔力に集中しているエルは避けることができず、その身をトロ吉が庇う。

いくらトロールとは言えアレスアルファの直撃だ無傷と言うわけにはいかない。

とは言え、一撃で倒れる程トロ吉もやわではない。

黙々とマラキはハーピーを破壊し、トロ吉の銃弾は魔術師の1人を撃ち倒す。

ダニーは今のうち弾丸補給に向かうハーピーにマークを付ける。

そして、ドローンハッチより追加展開されるハーピー3台。

ハーピーの優先目標がエルである以上通すわけにはいかない。

そんな、危機感からマラキがハーピーに肉薄し粉砕する。

同じくダニーは再度無理矢理ハッキングを仕掛け弾丸を取り除く。

時間を掛ければやられる、その危機感がエルを加速したのか、エルが全力で魔力を絞りだす。

最後のハーピーがエルに射撃をするがまたトロ吉に阻まれる。トロ吉も満身創痍だ、これ以上エルを庇うことはできまい。

エルは再度魔力を取り除くがまだ終わらない。うまく行けばあと一度、しかし無情にもハーピーの射撃がエルを襲う。

回避こそできないものの、エルもランナーだ一撃で死ぬことはない。

再びエルが魔力を取り除く。

そしてついに魔力を開放しきった。

 

「トロ吉、行って!」

 

その言葉に応えるようにトロ吉はアンゲリーカとエルを担ぎあげ一気に走り抜ける。

儀式の焦点であるアンゲリーカが連れ去られた事で儀式は崩壊する。

儀式により圧縮されていた膨大な魔力が膨張し、まずは術者達に襲いかかる。

その魔力の奔流は本来のドレインダメージとは比較にならず内側から彼らの肉体が爆ぜる。

そして、マラキはダニーを担ぎトロ吉と並んで走る。

覚醒者でなくても闇色の竜巻が突然巨大化したかのように視覚化されている。

 

しかし人の足で竜巻に叶うわけがない。

4人が竜巻に巻き込まれる。

トロ吉とマラキはせめて飛ばされまいと女性達を抱え込み大地に伏せる。

ところが、その竜巻は突然何もなかったように消え失せる。

 

彼らは知る由もないがサークルファームではケイト率いるアリアドネの姉妹団が、タコマでは黄連会のチェンや八卦会のクウェンチィか、そしてシアトルにあるメガコーポの魔術師達が魔力を還元するための儀式を執り行っていた。

これにより荒れ狂う魔力は驚くほど短時間で消え失せた。

 

満身創痍の4人がホールに戻ると同じく満身創痍のハーレクインが全身血塗れで立っていた。

 

「おつかれさん。やったようだな。」

 

エルが疲れた笑みを浮かべて返事をする。

 

「お陰様で。ドラゴンは?」

 

「儀式が崩れた瞬間に帰っていったよ。死ぬかと思ったよ。」

 

「お互い様だな。」

 

そして5人はお互いに苦笑いを浮べアレスを後にした。

こうして龍脈を用いた大規模な召喚儀式などはなかったことになった。




GMCブルドッグ
ゼネラルモーターズ のロングセラー装甲バン。

ハーレクインの道化師のメイク
エルは魔法使いの宣誓に関係すると思っているが実際はハーレクインの単なる趣味。

黒い石のついたアンクレット
アースドーンの鮮血の護符を改良したもの。

アレスハーピー
オリジナル。
『Rigger_50』のMITSUHAMA MALAKIMのバリアント扱い。

ダニーの無理矢理ハッキング
『Kill_Code』掲載のRECKLESS HACKINGを使用。
マークが足りなくてもマトリックス動作ができる。
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