時はわずかに遡る。
ヴァストグリーンが自らの放った火球の爆炎の中より姿を現す。
「ほう、囀るだけのことはあるようだの。我らが天敵の前の準備運動がてらに遊んでくれようぞ。」
歓喜の笑みを浮かべるヴァストグリーンと苦笑するハーレクイン。
「本意ではないが、世界に闇をもたらすというのなら、阻止させてもらおう。」
その言葉に呼応するようにヴァストグリーンは大きく踏み込み渾身の蹴りを打ち放つ。
ハーレクインはその爆撃のような蹴りを剣で受け流しヴァストグリーンの右肩を切り裂く。
「ふむ。この姿で相手をするのは失礼に当たるな。感謝するが良い若輩種よ。」
その言葉に応えるようにその体が突然大きく膨れ上がる。
その頭頂に生えた捻れた角はそのまま大きくなり、哺乳類の特徴を有していた顔はまるでトカゲの様に変異しながら巨大化していく。
その身からいつの間にかエグゼクティブスーツは消え去り身体を覆うのは深緑の鱗。腹の部分だけはまるで若葉のような新緑。
その四肢を支える筋肉量はトロールの時と比率は変わらずはち切れる程の筋肉に覆
われている。
グレートドラゴン。神話の時代より最強の存在で在り続ける生物。
並の存在なら畏怖により動くことすらできなくなるだろう。
しかし、ハーレクインは不敵に笑う。
「汚名を返上するには活動するしかないからな。胸を貸してもらうぞ!」
ハーレクインの剣が光を帯びる。
「その光、お主光を帯びし者か。ホラー相手でなければ燃費も悪かろう。」
「あんたらの鱗を切り裂く方法を他に知らないものでね!」
ハーレクインは自らに強化魔法を掛けていく。
ハーレクインにはヴァストグリーンを倒すつもりはない。しかし、防戦一方となればヴァストグリーンは無理矢理ハーレクインを突破しエル達に向かうだろう。
そうなれば意味はない。
故にハーレクインは攻めねばならない。
そんなハーレクインに大木のような剛腕が叩きつけられる。
ハーレクインはその一撃も確実に受け流し爪の根元を斬りつける。わずかな出血を強いることはできるもののかすり傷にすぎない。
「その肉体はでかいだけで大振りだな。もう少し器用さを身に着けた方が良いのではないのか?」
「抜かせ、小童が。我が身を傷つけることで実力を示して見よ。」
ニヤリと笑うとハーレクインが大きく踏み込み流れるように連続で切り込む。
その一撃は軽くとも繰り返しの攻撃によりヴァストグリーンの鱗を砕く。
そして鱗を失った場所に的確なハーレクインの斬撃が降り注ぐ。
「なかなかにやるではないか。しかし、それだけ魔力を消費しいつまで動けるか見ものよな。」
ヴァストグリーンは大きく背後に飛び上がり宙で身を留めると大きくブレスを吹き掛ける。
その業火を受けてもハーレクインは横一文字の一閃により炎を切り払う。
されどドラゴンのブレスを全て切り払うことは難しく身体の随所に火傷を負っている。
「エンリルよ、この場に顕現し助力を!」
その言葉に呼応するようにハーレクインの正面に顕現する頭部に無数の角を持つ巨人。
「ほう。なかなかに良い精霊よな。だが我に精霊で挑むとは面白い。フェニックスよ、焼き払うが良い。」
その言葉に呼応し炎の鳥が顕現し巨人へと襲いかかる。
大きさこそ巨人が勝るが、その存在感はフェニックスの方が遥かに大きい。
巨人はかろうじてフェニックスの攻撃を防ぐが防戦一方でありハーレクインの支援を行う余裕はなさそうだ。
楽しげに急降下からのヒットアンドアウェイを繰り返すヴァストグリーン。
その打撃をいなしてこそいるもののハーレクインの全身はすでに傷だらけである。
防御姿勢を取るハーレクイン。
「時間稼ぎとは小賢しい。」
そんなやり取りを繰り返す中突然ハーレクインが練り上げた魔力を解き放つ。
周囲の魔力の働きを阻害する古代の魔法。
ドラゴンはいかにして飛行するのかと問われれば魔法だ。
ゆえに魔力が力を失えば大地に落ちる。
ましてや、ヒットアンドアウェイを繰り返すドラゴンには体勢を維持するすべもなく見事に大地に激突する。
しかし、所詮は室内だ。致命的な打撃を与えるには至らない。
「見事よな、若輩種よ。名を聞いておこうか。」
ハーレクインは皮肉げに笑う。
「俺はカイエンビュール・ハーレアクイン。嘆きの尖塔都市の最後の騎士。そして、光を帯びしもの、さ。」
ヴァストグリーンが高らかに笑う。
「セレアサの生き残りか。つまり我らの血脈であると。まさに愉快な存在よな。」
その言葉にハーレクインは剣を構えることで応える。
一触即発の決定的な一撃を双方が狙う。
その瞬間魔力が弾ける。
まずヴァストグリーンが力を抜き言葉を放つ。
「終わったようだの。」
ハーレクインは肩をすくめる。
「ですね。この場は俺に譲っていただいてよろしいですかね?」
「うむ我の敗北よ。ヴァージゴームと合間見れなんだのは残念だが、致し方あるまい。」
その言葉を告げるとヴァストグリーンはトロールの姿に戻り悠悠と立ち去っていく。
ヴァストグリーンが立ち去るとハーレクインは気が抜けたように地面にへたり込む。
「何とか凌いだか。」
その力尽きた姿もエル達の気配を感じると立ち上がり余裕の笑和浮かべる。
常に他者に優雅に見せること。
それこそ彼のディシプリンの生き様であり力の根源なのである。
「おつかれさん。やったようだな。」
そしてハーレクインはエルに手をあげる。