「ない?」
あたしは間抜けな声をあげた。
「ああ、あんたが言うようなサイバーアイの画像やGPS情報、ARゲームはなかったよ」
軍曹に連絡したあたしは驚きの情報がもたらされた。
ナイトエラントの押収したコムリンクには事件の核心に迫る情報が何も残されていなかったのだ。
「ハッキングで改ざんされた可能性は?」
恐る恐る尋ねる。
案の定軍曹は不愉快そうな声で返答する。
「データ解析はクローン化したコムリンクのデータを使用して、オリジナルはファラデー箱の内で電源を切ってる。
一応コムリンクを再確認させたがデータはなかった」
あたしがデータを抜いてから警察に持ち帰られる前にデータを修正したのだろうか。
不可能ではないけど、移送にもファラデー箱を使用している以上タイミングは限られてくる。
「となると、あたしのこのデータは証拠にならない?」
何か方法があるはずだ。
ソフトウェアでデータの自己改変するように仕込んでおくことは可能だが、改変した痕跡は残るはず。
「ならないね。ましてや、出元は説明できず、仮に説明しても公式にはそんなデータは存在しないときたもんだ。
たれ込みのデータとして提出するなら捜査資料としては活用させてもらうが一気に踏み込むには弱いね。」
痕跡の無い改ざんと考えて、何かが引っかかる。
最近似たような話しを聞かなかったか。
CFD。
そうCFDだ。
CFDはナノマシンによる物理的な介入である可能性についてストリートドクから聞いた記憶がある。
なら、コムリンクの改ざんもできるのではないだろうか。
「コムリンクからナノマシンが検出されたりはしてない?」
戸惑う軍曹。なかなかに珍しい。
「いや、調べてないはずだね。確認させるわ。」
当たりであれば道筋も見えてくる。
更にあの忙しいストリートドクを巻き込めるかもしれない。
「ちなみにだけど、施設を不法占拠しているギャングが今回のBTLジャンキー絡みである確証があればレドモントでも部隊は動かせる?」
軍曹は不敵に笑う。
「あたし達はシアトルの治安を護る為にいるからね。
どこでも行くさ。仮に普段パトロールしていない場所でもね」
ライブ報道は難しいかもしれないけどドキュメンタリーは行けそうだ。
「じゃあ、また連絡するわ」
「ああ。おっとナノマシンの件だが検出されたようだ。
それなりの量が採取できたからサンプルは送っておく。」
「助かるわ。朗報を待っていて頂戴」
「ああ、期待してるよ。」
通話を切ったあたしは、ストリートドクであるブッチに知識を借りたい旨のメールを打つ。
すぐに返答が来れば良いなと思いながら、あたしは朝食の準備をする。
ファラデー箱
マトリックス通信を完全に遮断する箱。
導体により形成された箱で外部からの通信が内部に侵入できない。
このようにして部屋を作ってオフラインの部屋を構築したりもする。
ブッチ/Butch
ジャックポインター。
詳細は『The Complete Trog』のTROG RUNNERSが出典。