奇獣装者《キジュウソウシャ》 ~宇宙からの友と襲来者たち~ 作:ごぼう大臣
「うおりゃぁーーッ!」
ホムラは雄叫びをあげながら、間近に来ていたUFOに向けて飛んでいく。
そして、目と鼻の先まで全速力で迫ったところで、自分が飛び立った先のことを全く考えていなかったのを思い出した。
『馬鹿者! 止まれ――』
ルゥが叫んだが遅かった。ホムラは弾丸のようにUFOの底面に激突し、派手に爆煙をあげる。
……そして、変わらぬ速さで反対側を突き破り、黒いススをつけながらどうにか止まると、あわてて下を振り返った。
「あっぶな、死んだかと思った……」
『……せめて前くらいちゃんと見ろ。いくら我の力があっても、いつかガタがくるぞ』
「いやぁ、加速が予想以上だった……」
呆れた声のルゥに、ホムラはてへへと言いながら頭をかく。ちなみにケガは一つもない。
しかし、のんきに笑っていたホムラは、次の瞬間とんでもない事に気づいた。
「あっ!!」
『……ぬ、まずい!!』
先ほど貫通したUFOが、重い音をたてながら傾き、落下していく。その直下には、ちょうど丸々UFOの下敷きになりそうな大きさの一軒家……ホムラの家があった。
「ああぁ私の家が! おかあさーーんッ!!」
ホムラは叫びながら全速力で取って返し、UFOの下に回り込んでそれを受け止める。無我夢中だったが、ここまでパワーが増すのかと内心驚いた。
だがその余韻にひたる間もなく、ルゥが緊迫した声で言った。
『そこから動くな! 危ないぞ!』
「へ?」
ホムラがあわてて前へと向き直ると、受け止めていたUFOの残骸越しでも分かるほど、まばゆい光が辺りにほとばしる。そして直後に、ホムラの目の前で、残骸が音をあげて爆裂した。
「のわぁっ!?」
肌を焼くような熱に、ホムラはとっさに飛びのいた。視界いっぱいにオレンジ一色の景色が広がる。
くらみそうになる目をつむり、かぶりを振ってまた顔をあげる。そこには、先ほどの残骸が燃えてバラバラに散り、それを他のUFO群が向きをそろえ、無機質に見つめている光景があった。
『危なかったな。あの残骸がなければ、ビームを一斉に食らっていた……』
「あ、そーいうこと……」
ルゥのつぶやきに、彼女は一拍遅れて理解する。あわてて受け止めていたあの残骸が、偶然ほかのUFO群からの攻撃の盾になってくれたのだ。思わぬ幸運にホッと息をつくホムラ。
しかしそれもつかの間。ふと気がつくと、UFO群が一斉にホムラに向けて小さな光をチカチカとまたたかせている。まるで攻撃の予兆のようだ。
「逃げた方がいいよね。コレ」
『確かにな。一つ破壊したおかげで、敵と認識されたらしい』
ルゥが言い終わらないうちに、ホムラは背を向けて飛び出した。直後に、彼女の数メートル横を光の筋がつらぬいてゆく。続けざまに二本、三本。たちまちビームが背後から雨あられと飛んでくる。左目のレーダーから警告音がひっきりなしに鳴り響く。
「だぁーもう、今度はみんなで私を狙い出すし! 単細胞な兵器ね!!」
『ひとまず街から引き離せ! 奴らは必ず我らを追う!』
「……分かった! なるべく頑張る!」
なげやりな返事をし、ホムラは速度を上げ、ついでに高度を上げた。おかげでUFOたちの攻撃は完全に街から外れ、雲をかすめるホムラのみに向いてゆく。
全身を寒気がおそうが、気にしてはいられない。少しでも
右に左にとせわしく動いて攻撃を避け、彼女の目には、街を端から見下ろすようにそびえる山が見えてきた。その山頂の真上まできて、ようやくホムラは敵へと振り向く。
目の前には、燃えている街に照らされた何十機ものUFOが。彼女の左目のレーダーもいそがしく光っている。
ホムラは、右腕についたガトリングをちらりと見て、言った。
「さて……コレ、どうやって撃つの?」
『心で念じるだけでいい。体を融合させた我らにこそなせる業だ』
「話が早いわ! 食らえェーーッ!!」
聞くが早いか、ホムラはガトリングをまっすぐUFOに向かって構える。すると銃身が轟音をたてて回転し、青い光弾が長い軌跡をつくって飛んでいく。刹那に正面のUFOから巨大な火柱があがった。
「おぉ、すごい威力!!」
『驚くのは後だ。止まっていては的になるぞ』
「どのみちすぐに終わらせるわよ! うなれ、ボーン・ガトリング!!」
勝手にそのまんまな名前をつけ、ホムラはガトリングを炸裂させながらUFOを横目に大きく旋回する。たちまち彼女の隣を並走するかのようにオレンジ色の炎があふれて長い帯をつくり、こげくさい黒煙の尾を残していった。
何十発と束になって飛んでくるビームも、風を切る金属のような高音も屁でもないと言わんばかりに何百発も弾を撃ち込み、そのたびに異星の技術であるはずのUFO群があっけなく爆裂してゆく。
その光景はまるで夜に太陽が降りてきたかのようだった。
しかし、そんな暴威をふるっていたガトリングの動きが、突如にぶい音をたてて止まる。風を切って飛んでいたホムラが、急ブレーキをかけた。
「あれ、どったの? 故障?」
『ふむ……ガトリング用のエネルギーが切れたようだな』
「えぇーっ!?」
快進撃に水をさされたせいか、ホムラは往生際わるくガトリングをガシャガシャと鳴らし続ける。そんな彼女にむけて、またUFOたちがビームを放ってきた。
「うわっと!」
『案ずるな娘よ。他にも武装は用意してある』
「いや私そんなの聞いてないし。念じろっつっても無理よ……」
『そうか、教習はうけて無いんだものな。仕方ない』
ルゥがはたと気づいたようにつぶやくと、突然ホムラの右手のガトリングが勝手に部品ごとに動き出し、みるみる細かく組み変わっていく。彼女が数度まばたきする間に、右手のドラゴンの口からはガトリングとは対照的な、穴が一つだけの白い砲身のようなものがのびていた。
姿を変えた右手をしげしげと眺めていると、ルゥが話しだす。
『そいつは一発ずつ撃つタイプだ。隙は大きくなるが威力はあるぞ』
「うーん……ものは試しね。うりゃ!」
ホムラが近くのUFOに向けてそれを撃つと、ドンッという重い音とともに砲口から青い光線が放たれ、彼女の腕がはね上がる。反動で後ろへ吹っ飛ぶのをこらえつつ前を見ると、射線上に並んでいたUFO三機を光が一瞬にしてつらぬき……機体に穴を空け、一気に爆発させた。
「貫通した!?」
『初発で三つか……なかなかだな』
威力に目を見張るホムラに、ルゥは満足げにうなる。彼女はまた負ける気がしないとばかりに、何度もUFOに攻撃を放っていった。二機、三機とコンスタントに串刺しにされたUFO群が落ちてゆく。
そして見晴らしのよくなってきた彼女の視界に、ふと一回り巨大な存在感のあるUFOが目に入った。
「ようやく減ってきたわね……。食らえ、ボーン・ランチャー!!」
敵の半数以上を撃墜したころに目に入った大型の機体を、彼女はいわゆる"ボスキャラ"のようなものだと直感し、ためらう事なく光線を放つ。今まで優勢だったのもあって、簡単に落ちるだろうと思っていた。
ところが、放たれた光線はUFOに届いたかと思うと、甲高い金属音をたてて弾かれてしまった。
「あれ?」
初めて攻撃がきかず、ポカンと間抜けな顔をするホムラ。そんな彼女にむけて、UFOからキラリと光がまたたくのが見えた。
『まずい、避けろ!』
「わーたった!」
ルゥの声で我にかえり、彼女はあわてて横へ回避する。一瞬のちに、大型UFOから例のごとくビームが発射される。
しかし、今回の攻撃は他のUFOの比ではなかった。人間が十人ほど並んで呑み込まれそうな、他の数倍もの幅を持つトンネル大の光線。ホムラはギリギリで避けたが、かなりの高度を保っていたにも関わらず、かすっただけの山の頂の形が変わっていた。
「何なのよアイツ、他と全然違う!」
『むむ……特殊機体も流れ着いていたか』
あわてるホムラに、ルゥがいまいましげにつぶやいた。そして、眉をひそめるホムラにこう説明する。
『今まで見ての通り、数をそろえるだけでは限界がある……。それで母星の連中は部隊ごとに一機、特殊なタイプを混ぜていたのだ』
「面倒くさいなぁ、それ……!」
『面倒だからこそだ。あれは単純に攻撃力と防御力を追及したタイプだな』
ルゥの解説をよそに、また巨大なビームが放たれる。それを再び避けたホムラは、ルゥに早口で相談する。
「どーすんのよ、攻撃が効かないんじゃ……」
『あわてるな。"チャージショット"という手がある』
「……チャージショット?」
「いわゆる溜め撃ちだ。時間はかかるが、賭けるしかなかろう」
その響きに聞きなれたものを感じ、ホムラは巨大UFOにくるりと向き直る。それを見計らってルゥがまた口を開いた。
『方法は簡単だ。撃ちたい方向にむけて、手先にエネルギーを集めるつもりで五秒ほど待ってみろ。我が補助する』
「そんなにかかって大丈夫なの?」
『心配ない。あれだけの威力なら、敵の方もタイムラグがあるはずだ』
「……分かった! じゃあ早速……」
ルゥの言葉に安心し、ホムラは砲身を大型UFOへと向ける。するとみるみるうちに砲身の先に光が集まり、球状のエネルギー体を作り出す。
「……よくこんなん作るわね。本当マンガみたい……!」
『感動するのは後だ。そろそろ撃てるぞ』
「オッケー! か~○~は~め~……!」
某マンガの真似をしながら、いざ必殺の光線を撃とうとするホムラ。しかしそんな矢先に、左目のレーダーがけたたましく鳴り出した。
「っ!?」
『まずい、後ろだ!』
ルゥの声におされ、ホムラは攻撃を中断してとっさにその場を飛びのく。その直後に、何本ものビームが彼女のいた場所を通りすぎた。
背後を振り向くと、まだ落ちていなかったらしいUFOが四機ほど、ホムラへ近づいてきている。
『まだ残っていたのか……』
「これからって時に~……邪魔しないでよ!」
横やりを入れられた二人はそろっていら立ちをつのらせる。そこでまたレーダーが警告を発した。とっさに横に飛ぶと、また巨大な光線が目と鼻の先をよぎっていく。
「ああもう、今度はこっちが撃ってくるし!」
『むぅ……数が違うと少々不利か……』
「どうしよう……!? チャージする時間が取れなきゃ、こっちはジリ貧じゃない……」
ルゥが歯がゆそうに唸るのをよそに、ホムラは大小それぞれのビームを懸命に避け続ける。
大型ビームのタイムラグを利用しようにも、他のUFOが容赦なく狙ってくる。その通常のビームにかまけていると、今度は即死しそうな大型ビームが飛んでくる。空中で一人、かた時も油断できずに彼女は神経をすり減らし続けた。
心なしか、息があがり、体が重くなりだす。額に汗が浮かび、上空の空気がますます冷たく当たる。
そんな時に、ルゥはまたもや穏やかでない声を発した。
『まずいな……』
「え、今度は何!?」
『体への負担が大きくなってきている。このままでは
「んなっ!?」
突拍子もないその言葉に、ホムラは顔を引きつらせる。そして死にものぐるいにビームを避けつつまくし立てた。
「何よそれ! どういうことよ!?」
『もともと我らは、地球人用に造られていない。体の構造はさいわい似ていたようだが……それでも戦闘形態は十分ほどが限度だ』
「なんでそういうこと早く言わないの!?」
『今まで少しでも長く適応しようとしたのだが……今回はもう三分しか残っていない』
「いやそんなの頑張らなくていいから! きちんとホーレンソーしてよ! てか、え!? あと三分!??」
『……ほうれん草? なぜ野菜が』
「ああもう、うるさいっ」
突然の事実にパニックになりそうなのを抑えつつ、ホムラは必死に回避を続ける。とにかくダメージを受けてはいけない。破れかぶれになればそれこそ勝機はないと思った。
しかし、時間はなすすべなく過ぎていく。どうにかしてまとめて敵を倒せたりできないか……彼女は頭のすみで必死に考えをめぐらせた。
その時、不意に自信ありげなルゥの声が頭に響く。
『……耳を貸せ。我にいい考えがある』
「え?」
『早く!』
眉をひそめるホムラに向けて、ルゥはある作戦を伝える。しばらくして彼女がちらりと後ろを見ると、またあの大型UFOから、ビームが放たれる予兆が見えた。
「……一か八か、ね」
『これでも今までのデータを参考にした作戦だ。他に手はあるまい』
「分かった、やるしかないわ。もう一人でぶつぶつ喋るの疲れちゃったし」
最後に小さくため息をつくと、ホムラは何を思ったか生き残りのUFOたちに向かって全速力で突っ込んでいった。背後では大型UFOがまさに巨大ビームを放とうとし、目前のUFOたちも一斉に彼女を狙って攻撃を放つ。
それでも、ホムラはビームをかいくぐってUFOたちに肉薄する。威圧感のある機体がまた視界をふさぎ、触れられそうなほどに近づいたところで、ついに大型UFOが光線を撃ち出した。
例によって範囲の広い、宙をえぐるような光。それはホムラのいた場所を中心に、周りにいたUFOたちも巻き込んだ。
複数機がまとめて爆発し、ひときわ大きな爆炎があがる。それは辺りの夜空が一瞬明るくなるほどで、爆発の範囲から逃れるのは絶望的と言ってよかった。
轟音がしだいに収まり、煙が少しずつ散っていく。大型UFOは自動的に次の攻撃の準備に入るが、静かに残骸が落ちてくすぶるその光景は、いかにも決着がついたかのような無情さを漂わせていた。
しかし、そんな時。
薄らいでいた煙の向こうで、キラリとかすかに青い光がきらめいた。次の瞬間、辺り一帯に届くほど力のこもった、少女の叫び声が響く。
「はあああああぁぁーーーーッ!!!」
その瞬間、煙が一気に吹き散らされ、先ほどまでの巨大ビームと同等の大きさを持つ青い光線が、大型UFOに向けて一直線に飛んでいく。
空気を振動させているかと思うほどのその"チャージショット"を放っているのは、ところどころ焦げあとを作りながらも五体満足で飛んでいる、他でもないホムラだった。
少し遅れて、大型UFOもビームを放って迎撃する。二つの光線がぶつかり合い、重い音とまぶしくはぜる光が雷のように周囲に広がる。
ビームを継続して放っていたホムラは、苦しげに背を丸め、武装のついた右腕をがっしりとつかんで支える。最大火力のビームは発射された部分だけでも砲口の太さをゆうに越えていた。
「ぬ……くうぅっ……」
『こらえろ、あと一息だ!』
歯を食いしばるホムラを、ルゥの声が応援する。砲身や鎧の一部は、よく見ると細かく破損していた。ほとばしるエネルギー量のせいか、砲身のつながる右腕が熱くなるのが感じられた。
だが、彼女はいつまでも踏んばり続けた。ここで押し負けたらやられてしまう。そうなればまた街が破壊されてしまう。家族が危機に瀕してしまう。そうさせる訳にはいかなかった。
ホムラがきつく前方を見すえ、全身に気合いを入れ直す。直後に彼女のビームの勢いがさらに増し、ついに敵のビームを押し返しはじめる。
右腕から弾けるような音がし、煙が吹き出す。それもかまわずに、ホムラはもう一度、さらに鬼気迫る表情で叫んだ。
「ふっ……とべえええぇぇーーーーッ!!!」
その瞬間、ついに彼女のビームが敵のビームを穿つように進み、食らいつく竜のごとく大型UFOにぶつかる。
そして巨大な質量をものともせず、それは勢いを増しながらUFOを貫き、夜空の月がぽっかりと見えるほどの大穴を空けた。
焼け焦げた内部がしばし火花を飛ばす。そして間もなく巨大UFOはいたる部分から火を吹き……ついに、爆発四散した。
今夜最後の大爆発は、それまでのどの規模よりも大きかった。苦戦をしいた兵器はあっという間に火の玉と化し、隕石のような音を発して半径五十メートルほどにも広がった。
爆風にホムラが顔を覆い、爆音に耳をふさぐ。何秒もすぎてようやくそれがおさまると、あとには燃えた残骸を残して、静かな風景が広がっていた。
『よくやったな。敵は全滅だ』
「……ふぅー……」
ルゥの一声に、ホムラはようやく我に返って息をつく。そしてフラフラと下降していき、山のふもとに降り立ち、へたり込んだところで、ちょうどよく戦闘形態が解け、姿が元に戻る。
「はぁ……疲れた……」
「他のUFOの陰に隠れ、巨大ビームの巻き添えかつ盾にし、煙とタイムラグを利用して反撃……急な我の作戦を、よくぞ完遂した」
「あ、ありがとルゥ……おかげで無事に終わってよかったよ」
ホムラの体から出てきたルゥが、肩口に乗って話しかける。ホムラはそれに驚く気力もないのか、気のない返事を返した。
戦いはじめた最初に、ホムラの家に落下しかけたUFOを受け止め、偶然にもそれが盾になったあの経験。ルゥはそれを思い出し、とっさに大型UFOの攻略に応用したのだった。
それから彼女は戦いが終わったのを再確認するかのように、かぶりを振って辺りを見回す。山頂から遠く離れたふもとの一角にも、UFOの大きな残骸がくすぶったまま落ちている。
「……でもこれ見つかったら大騒ぎだよね……。宇宙のロマンぶっ壊して悪いことしたかな」
何の気なしに冗談を言うホムラ。しかし、ルゥはそれに真面目な声でこう返した。
「ああ、それなら気にすることは無い」
「え?」
「見てみろ、あの残骸を」
ルゥに言われて、ホムラはすぐそばにあった残骸の一つに目を移す。すると、木に引っかかって煙をあげていたそれは、スゥッと透けだしたかと思うと、景色に溶けるように消え失せてしまった。
「……は、なっ? えぇ?」
ポカンと口を開け、目をこすり、その場所を何度も確認するホムラ。対して、ルゥは何もなくなったその場所を見ながら、事もなげに言った。
「過半数が撃墜され、かつ特殊機体を失った部隊は敗北と見なされ、痕跡が消えるようにプログラムされている。相手に技術がバレないようにな」
「それじゃ……みんな消えちゃうの?」
「兵器の宿命というヤツだ。利用されるだけ利用され、最後には捨てられる。……もっとも、奴らはもはや利用すらされてないのだがな」
「…………」
うつむき、言い捨てるような口調で話すルゥ。その表情には自嘲の色が多分に含まれていた。
おそらく、同じく"兵器"である自分とUFOたちを重ねているのだろう。自分のしてきた事も、破壊の本質も変わらない……。そんな意識が、そばにいるホムラにも手に取るように分かった。
彼女はしばし目を伏せ、数多のUFOが落ちていった山の方へ振り返る。そして静かに、両手の平を合わせた。
「……何をしている? そのしぐさは、確か祈りの……」
ルゥが怪訝な声でたずねると、ホムラは笑顔をつくって振り向く。
「ん……あのUFOの冥福を祈ってね」
「奴らは機械だぞ。壊れるのを含めて、使命をまっとうしたに過ぎん」
「そうかもしれないけどさ。目の前で消えるの見たら、ちょっとね……。マンガのキャラでもそういう時あるのよ。人の情ってやつ?」
少し冗談めかして言って、彼女は肩口のルゥの頭をそっと指先でなでる。戸惑うルゥにクスリと笑いかけ、こう続けた。
「ルゥにだって情は分かるでしょ? なんだかんだ言って、一緒に戦ってくれたじゃない」
「しかし……所詮は兵器だ。我は今まで……」
「兵器でも関係ないって。だいたい利用したヤツが悪いのよ。戦争が悪いんだ、絶対に」
ホムラは笑顔で、しかしハッキリとした口調で言った。顔をあげたルゥと目が合い、一転さらりと告げる。
「今日会ったばかりだけど、私は好きよ。ルゥのこと」
「……………………」
ホムラの言葉に、ルゥは長く沈黙する。言われた意味を頭では理解できても、親しみというものをすぐには実感できなかった。
それでも少しでも応えたくなり、「ありがとう」と言いかける。その矢先。
"ぐううぅ~~"
不意に、ホムラのお腹から間抜けな音が鳴る。ルゥが無言でいると、彼女は頬を赤らめ、わしゃわしゃと頭をかく。
「あ、あはは。なんかお腹すいちゃった……」
「……戦闘形態の反動だな。食事をとればエネルギーも回復する」
「……そんな仕組みなん? ずいぶん安上がりね……」
「……そうだな。安上がりだ」
ルゥはそうつぶやき、なにやら街の方へ振り返る。ホムラもそれにならうと、彼は感慨深く言った。
「これだけのものを守れた代償としては、な」
「! ……うん」
視界に映ったものを見て、ホムラは心から共感してうなずく。
そこには、まだ騒動が残りながらも、確かに人々のともす灯りが残る、街の姿があった。
「……帰ろうか」
「ああ」
――
……我が家の無事を確かめた後、ホムラはすぐさま携帯で電話をかけていた。
「よかったー、じゃあチエの家も無事だったんだ」
『ええ、こっちは大丈夫。ホムラにずっと繋がらないからヒヤヒヤしたんだけど……』
「あー……ごめん。こっちはちょっと戦ってて……じゃないや。その、バタバタしててさ」
『まあアンタなら無理ないわね。あ、それと。学校も大して壊れてないみたいよ』
「げ、ってことは明日も普通に授業かぁ……」
『そうぼやかないの。どうせ休んだらどっかで埋め合わせするんだから。じゃ、また明日ね』
「うん、またねー」
『気をつけなよ、あんな事あったんだから』
「はーい」
挨拶をかわして携帯を切ると、ホムラはホッとした様子で息をつく。そんな彼女に、台所に立っていた母親がソワソワした様子でたずねる。
「……どう? チエちゃん大丈夫だった?」
「うん平気。ケガもないって」
「そう……よかったわ」
母親も胸をなでおろす。そしてテーブルについたホムラへ、みそ汁の入ったお椀を手渡した。
中にはお椀に半分も満たない汁と、申し訳ていどのネギと豆腐が。
「ごめんねぇ少なくて。お母さん鍋ごとひっくり返っちゃって、目がさめても何がなんだか……」
「ああ、いいよいいよ気にしないで。無事でよかったわ」
やれやれと笑って眉尻を下げる母親に、ホムラはあわてて手を振った。まかり間違えば家ごとぺしゃんこになっていたと思えば、みそ汁が減っただのどうでもいい事だった。
同時に、自身が気絶していたのをさらりと話せる母のことを、尊敬半分、呆れ半分でながめていた。
「……これが地球での食卓か」
「わっ」
突然、ホムラの膝上に乗ったルゥがテーブルの下から話しかける。驚いてうつむくホムラに、彼はキョロキョロと視線をめぐらせ、こう言った。
「変わった空気だな、緊張感がまるでない……。それにわざわざ顔をつき合わせて食事をとるなど……」
「そんなに不思議?」
「……ああ、いつも食事はこうなのか?」
「うん、夜はいつもお母さんいるし、時々お父さんも」
「……そうなのか」
小声で首をかしげているホムラに、ルゥが沈んだ声で言った。
「母星では、食事は厳格に管理されていた。私語もなく、だいいち料理による栄養摂取などとうに廃れていた」
「味気なさそうね……」
「これが"家族"の食事というものなのだろうか。我にはいまだ馴染めぬ……」
ルゥはやや居心地悪そうにうなだれる。しかし、意識してかしないでか、その声色には寂しさのようなものがにじみ出ていた。
気楽にみんなで食卓を囲むというのも、経験がないのだろうか。そう思い、ホムラは胸がちくりと痛むのを感じた。
「ホムラ? どうかした?」
「えっ、ああいや。何でもないよ!」
首をかしげる母親に生返事を返し、ホムラは目の前のシャケに箸をつきたてる。母親が眉をひそめながらも食事に戻ると、彼女はルゥへと視線をもどす。
そしてふと、はぎ取ったシャケの皮をこっそり差し出した。
「……ぬ?」
「コレ分けたげる。食べなよ」
「…………」
ルゥはポカンとしながらも、箸から垂れる皮に食いつく。食感というものに慣れないのか、しばらく沈んだ目つきで咀嚼していたが、ふとその目がパッと輝きだす。
「……なんだ、この感覚は……美味い、というものか」
「実際に味わうの初めてでしょ。食べ物」
ルゥのこぼした感想に、ホムラはニカッと歯を見せて笑う。そして、明るい口調でこう続けた。
「これから、初めてのものにいっぱい出会うことになるよ。だからそんな、しょげてばっかりいないでよ」
そう言われたルゥは、意外そうに目を見開いた。目の前で笑顔でいる少女の気持ちが分からないというように。間をおいて、彼はたずねた。
「……あっけらかんとしたものだな。またいつUFOどもが来るか知れぬのだぞ」
「そりゃ何が起こるか分からないけどさ。冷たくする理由なんかないよ。友達だもの」
「……友……」
ルゥは言われた言葉を、まるで知らない言葉のように繰り返した。その時彼の頭に、かすかな記憶がよみがえる。
母星がいよいよ滅びるかという頃。今では顔も思い出せない、しかし身近にいたある研究者が、ルゥ自身を含む兵器たちに語りかけた言葉。
――
『……生きろ。お前たちは今まで造られてきた兵器とは違う、"心"を持つ発明品だ。この星と心中する事はない』
『……でも……』
『いつ、どんな星にたどり着くかは保障できないが……きっといつか、お前たちを兵器としてだけではなく……"友"として見てくれる者が現れてくれるだろう』
――
「…………」
「ルゥ?」
黙りこんでしまった相手に、ホムラが声をかける。ルゥは顔をあげると、少しだけ柔らかい声で言った。
「……ああ、これからよろしく頼む。"ホムラ"」
「……うん、こちらこそ!」
ホムラが満面の笑みを返す。奇妙な兵器が何千年もの時を経て巡りあった地球の少女が、これから二人でどうなっていくのか……。
それはまだ、誰にも分からない。