奇獣装者《キジュウソウシャ》 ~宇宙からの友と襲来者たち~ 作:ごぼう大臣
「良かったのか、何も言わないで」
「しゃーないわ、緊急事態よ」
チエが呆然自失となっている頃、ホムラは学校の塀づたいにその場を離れ、身体中についた煤を払っていた。
実は、ホムラは大して傷ついてはいなかった。爆発に巻き込まれはしたがナノマシンでダメージは抑えられ、ついでに塀が壊れていたので煙にまぎれてそこから脱出し、チエたちの目を逃れたのだった。
ホムラは改めて上空で暴れまわるUFOたちをにらみ、体内のルゥにこう呼びかける。
「行くわよ、準備いい?」
「……よかろう」
「あいつらが悪いわけじゃないけど……友達やみんなを危険にさらす訳にはいかない!」
キッと空をみすえ、彼女はこう唱える。
「
瞬間、彼女の髪の毛が白く染まり、骨格を思わせる翼、尻尾、手足を包み鎧が形づくられる。右腕にドラゴンの頭蓋骨と、口から飛び出したガトリングがあらわれる。
ホムラはまっすぐ上向きに飛び立つと、手始めにUFOの周りにバラバラと、わざと外すようにガトリング弾をばらまいた。
「ほら、来なさい! 獲物はこっち!」
彼女はUFOの群れているど真ん中にあえて飛び込み、挑発するように叫ぶ。先ほどの攻撃もあってか、UFOはまたたくまにホムラに照準をむけ、次々とビームを放つ。
それを避けて、ある方角へと全速力で飛ぶホムラ。それを追いかけてくるUFOをちらりと振り返り、彼女はしめしめと笑った。
「よしよし作戦通り……。あとは昨日みたいに山まで連れていって、そこでケリつければ万事オーケーね」
余裕ありげにつぶやくホムラ。しかし、それとは裏腹にルゥは内心でこうつぶやく。
『いや、油断はしない方がいい……。昨日と違うタイプの機体も混じっているはずだ』
「な、なによ……脅かさないでよ」
『…………』
ルゥの忠告にしばし動揺するホムラ。心なしかビームを食らった背中が痛んだが、すぐに気を取り直す。
ほどなくして、昨夜に戦った街外れの山が見えてきた。その真上でホムラはまたUFOへと振り向き、ガトリングをかまえた。
「よっしゃ食らえ、最大火力!!」
彼女のかけ声とともに、数百発の青い弾丸が大粒の
ビームが当たった音の何倍も大きい、上空で鳴り響いてなお地上にひときわ降り注ぐ轟音。逆襲を告げる音にはもってこいだった。
「まだまだぁ!!」
ホムラは昨日と同じようにUFOたちのそばを大きく旋回し、ガトリングを炸裂させまくる。部隊ごとに一機あるという特殊機体をのぞいて、相手は代わり映えしない量産型なのだ。昼間なので視界もよく、敵はみるみる減っていく。
「簡単に潰れてくわね。このまま押しきっちゃおう!」
『……ああ』
威勢よく呼びかけるホムラであったが、なぜかルゥの返事は歯切れが悪かった。
すると、ホムラが眉をひそめた矢先に、ガトリングの回転が急停止する。
「あ、あれ?」
『……ぬぅ、エネルギー切れか?』
「えー!? 使いはじめたばっかなのに!」
ホムラはぶつくさ言いながら武装をランチャーに切り替える。そしていまだ半分ほど残っているUFOに向けて放った。
しかし、撃った直後、砲口から"ばしゅっ……"と締まりのない音がし、ホムラの体がふわりと後ろに流されるように飛んでいく。
「……ん?」
ホムラは一瞬眉をひそめる。昨日は確かに砲声はもうすこし重たく、反動も腕が跳ね上がるほどだったのだ。
いぶかしんで前を見ると、ちょうどランチャーの当たった真正面のUFOが火を噴いた。しかし、墜落していくそのUFOの真後ろには、別の機体が傷一つなく浮かんでいた。
「えぇ? 貫通してない!」
『おかしい……まさか』
ホムラが焦りのまじった声をあげる。昨日は直線上にあった機体を三つまとめて破壊できたはずなのだが、今は威力が明らかに落ちていた。
「ちょっとルゥ! 何が起きてるか分かる!?」
『少し待っていろ! 今調べる!』
「……ああ、もう!」
戦闘中のトラブルとあって、二人の口調が荒くなる。ホムラはいら立ちをぶつけるかのようにUFOを撃ちまくった。元から知性を持たない相手なので苦戦はしなかったが、なにしろ数が多い相手を一つずつ潰さねばならないので、忙しなさばかり味わわされる。
そして何より、あからさまに貧弱になった威力に、嫌な予感がつのっていた。
そしてUFOがあらかた片付いてきた頃には、ランチャーが三回に一回は不発になるほどに動作が不安定になってきたのだ。
「ええい、動けこのポンコツ! 動けってのよ!」
左手でランチャーをぺしぺしと叩いて八つ当たりするホムラ。すると、左目に装着されていたレーダーがふいに警告音をあげた。
「っ!?」
とっさに横へ飛びのくホムラ。刹那に彼女の横腹を光の筋がかすめた。
皮膚に焦熱を感じつつ、ホムラは反射的に光の飛んできた方角をにらんだ。
が、視界のすみに何かが映ったかと思うと、それは残像を残してどこかへ飛びさってしまった。
「へ、あれ?」
ホムラはあわてて周囲を見回す。左右へ忙しなく首を回してようやく他よりやや小型なUFOを見つけたが、狙う間もなくまたビームが飛んでくる。
「うわっ!」
どうにか間一髪でよけるホムラ。そしてまた飛び去っていく小型UFOに向けてランチャーを放ったが、目で追いきれない速さの敵にはまるで当たらず、おまけにまた数回の不発が起きる。
「くぅっ……何あの小さいの! 全然当たんない!」
『今度はスピードを追及したタイプか……』
腹立たしげに叫ぶホムラに続いて、ルゥが久しぶりに口を出す。そしてルゥは、険しい口調でこう話しだした。
『……こんな時になんだが、まずいぞ』
「え、どうしたの急に」
『エネルギーが急速に低下している。このままでは時間に関係なく戦闘形態が解けてしまうだろう』
「は、うそぉ!?」
突然の知らせに、ホムラはすっとんきょうな声をあげる。そしてUFOの攻撃をかわしながら、ルゥに必死に問い詰めた。
「ま、待って! どうしてそういう事になるの!?」
『ナノマシンがまだ体に馴染みきってなかったらしい。ケガの治癒が追いつかない内に戦ったのがまずかった』
「……っあの時……!」
ルゥが苦い口調で言う。ホムラがチエをかばって受けた背中の傷。それが予想以上に深かったのだ。
ホムラは唇をかみ、相変わらず高速で動き回る小型UFOをやたらめったらに撃ち続けた。しかし、威力はもとより焦りで狙いの精度まで落ちてしまっては、相手に届くはずもない。
『って、言ったそばからムダ撃ちをするな!』
「しょーがないじゃない、動くモノを動きながら狙うって難しいのよ……のわっ!!」
嘲笑うように動き回る小型UFOを半ばそっちのけに、口喧嘩をはじめる二人。それに気をとられ、はたから飛んできたビームをホムラはギリギリでよける。
続けて、よけた弾みにランチャーをまた放ってしまった。体をのけぞらせていたホムラは、内心でまたムダ撃ちをしてしまったと後悔する。
……が、しかし。てんで狙わずに撃ったそれが、はじめて小型UFOの表面をかすめた。
「へ?」
ホムラはそこで、ふと気づいたように眉をくねらせる。相変わらず相手はすぐに視界から消えたが、今度はデタラメに撃つような真似はしなかった。
かわりに、頭を必死に回転させ、先ほど自身が言った言葉を思い出す。
"動くモノを動きながら狙うって難しいのよ!"
「…………」
『……どうした?』
急に黙りこんだホムラをいぶかしむルゥ。すると彼女は一転すんだ目つきになって眉をあげ、こう問いかけた。
「ルゥ! なにか他に武器はない? できたら小回りの利くようなヤツ!」
『策があるのか?』
「そうよ! つーかコレが駄目ならお手上げ! 早くっ!!」
今までとは違う、確信のある口調。それを信じる気になったのか、ルゥも頼もしい口調で答える。
『分かった。これが最後の武装だ……!』
そう言った瞬間、右腕のランチャーがガシャガシャと分解され、骸骨の中へ引っ込む。そして入れ替わりに、白銀にかがやく、長さ一メートル以上の大剣の両刃が飛び出した。幅は10センチほどもあり、融合して腕力が増していなければ相当重いだろうと思わせた。
『本来は補助的な近接武器なのだがな……』
「いや、十分よ。エネルギーが足りなけりゃ、物理的に叩き斬る!」
ホムラは剣をかかげ、敵へと向き直る。そしてかすかに見える小型UFOを目で追いながら、ルゥに向けてかこう話し出した。
「……今まであれのスピードばかりに目がいってたけど……考えてみれば動きながら狙うのが難しいのは、向こうも同じなのよ。だから……」
しゃべっているうちに、小型UFOが彼女の視界の端で静止する。そして攻撃の予兆をしめす光の点滅が見えた瞬間、ホムラは相手に向けて一直線に突っ込んでいく。
「攻撃の瞬間だけは止まる! 思った通りよ!!」
急接近するホムラに向けて、小型UFOがビームを放つ。彼女はそれを熱が感じられるほどの紙一重でよけると、剣を振り上げてビームを放っている敵本体へさらにスピードを上げて突進した。
そして、間近まで来て剣を体ごとぶつかるようにして突きだす。
「届けえぇーーっ!!」
岩を殴るような音とともに、刃がUFOの機体に突き立てられる。ホムラの体に重さと硬さがはね返り、全身にきしむような痛みと反動がはしる。
しかし、彼女は歯を食いしばり、前進して力ずくで刃を押し進めた。やっと捕まえた獲物を、逃がすものかという風に。
そうしているうちに、目の前でまた光が点滅しだす。剣が刺さっているのもかまわず、目の前の敵にビームを浴びせようというのだ。
「……っ!」
さしものホムラも、わずかに青ざめる。しかし、彼女の頭の中ですかさず激が飛んだ。
『ひるむな! 前に出ろ!!』
その声に押され、ホムラはUFOの下に滑り込むようにして、上向きに剣を刺したまま前進していった。そして剣を振り抜き、切れ目が入って停止している機体の真上へと飛び上がる。
高く昇った陽の光を背に受け、彼女は最後に落下するよりも速くUFOに突っ込み、真上から剣を振り下ろした。
雷のような轟音が空気をふるわせ、UFOが切れ目からぱっくりと割れる。ホムラが下向きに突き抜けたところで、機体は真っ二つになった。
直後に、機体の割れ目から火が吹き出し、とうとう音をたてて爆発する。髪が焼けるような熱さを頭上に感じつつ、ホムラは山のふもとに降り立つ。
そして、そのままその場にくずれ落ちた。
「ふぅー…………」
髪の色がもどり、体から装甲や尻尾が解けていく。完全に普段の姿にもどったホムラは、長い息をつくとしばらくその場にうずくまっていた。
「おい、大丈夫か!?」
体内から飛び出したルゥが、あわてて問いかける。ホムラは弱々しく笑い、
「ん……平気」
そして倒れそうになる体をどうにか起こすと、UFOたちに向けてか軽く手を合わせる。そして街に向かってフラフラと歩き出した。途中で、空を見上げて冗談めかして言う。
「まずは……ええとそうだ、家帰ろ。いや先にお母さんとかに電話しとこうかな……。あー疲れて頭が回んない……」
あはは、と力なく笑いながら、酔ってもいないのに千鳥足になるホムラ。ルゥは肩に捕まって揺さぶられながら、よくもこんな時、真っ先に他の人間の心配ができるものだと驚いていた。
そんな彼をよそに、ホムラは携帯で電話をかけ、いくぶん明るい調子で話し出す。
「…………あ、もしもしお母さん? うん無事無事ー。……へ? いや違うって。逃げてるうちに皆とはぐれちゃっただけよ。……んもう、そんな大声ださないでよ、聞こえてるって」
どうやら電話口のむこうでは相当心配されていたようで、甲高い声がルゥの耳にまで漏れ聞こえてくる。
聞き苦しそうに携帯を耳から遠ざけていたホムラだったが、ふと電話であることを聞くと顔色をふっと変えた。
「……えぇ? チエがそっちにいる? なんで?」
「……?」
「……んーと今ね、○○山公園の近く。……うん、待ってる」
なにやら色々話した後、ホムラは通話を切る。「何かあったのか?」とルゥが尋ねると、ホムラは弱ったような、照れ臭いような表情を浮かべた。
「あーいや、あのね。お母さんが、私を探しに学校まで来てたんだって。そんでなんか、チエから"死んだ"って聞かされて……今までパニックだったんだってさ」
心配をかけたからか、バツが悪そうに空をあおぐホムラ。気まずそうにルゥが見つめていると、彼女はルゥにちらりと目を向け、歯を見せてほほえんだ。
「でもありがとね、ルゥ。今回も助かったわ」
屈託なく目を細めるホムラ。ルゥは意外そうに目を見開いた後、気まずい様子で顔をそむけた。
「我に礼など言うな。騒動に巻き込まれて大変だろうに……」
「ルゥがいたからこの程度ですんだんじゃない」
「しかし、我の融合をかぎつけた事でUFOどもの襲来が早まり……」
「そんなん気にしなくていいって。遅かれ早かれ来たってことじゃない」
ルゥの沈んだ声とは対照的に、けらけらと笑うホムラ。そして、指先でルゥの頭をなでながら、少ししんみりした調子で言った。
「結果的に私も、お母さんもチエも死なずにすんだし、細かい事はいいじゃない。会ったデメリットより、メリットの方を考えようよ」
「……メリット……」
「そ、おかげで明日も学校に行ける。それにルゥとこうやって話せるだけでも、良かったと思うわよ」
疲れた顔ながらも前向きに話すホムラを、ルゥはジッと見つめていた。不思議そうと言ってもよかったかもしれない。
兵器として生き、その上何千年も独りで宇宙を漂っていた彼にとって、対等な友好関係というものはどうにも慣れなかった。
彼が戸惑っていた、その時。
「ホムラーーっ!」
遠くから、叫び声とバタバタと人が駆けてくる音がした。ホムラが振り向くと、母親とチエが息せき切らして走ってくるのが見えた。
「お母さん、チエ!」
「はぁ、はぁっ……やっと見つけたわ」
「アンタどこ行ってたのよ、ホントにもう!」
二人は額に汗をかいて血相を変えながらも、ぶつかるような勢いでホムラを抱きしめた。ホムラは思わず倒れそうになりながら、気まずそうに笑った。
「あ、あはは。いやホントにごめんって。あのままいたら邪魔になるかと思って」
「それにしたって、逃げる時に何か言ってよ! 心配したじゃない!」
軽い調子で謝るホムラの肩をゆさぶり、チエは怒りの混じった声でさけんだ。その目にはうっすらと涙がにじんでいる。
「……ケガはない? なんだか、背中を大火傷したって聞いたけど」
「あー、大丈夫だって。なんか意外とすぐ治っちゃった!」
ホムラはくるりと背を向け、ビームを食らった跡を見せた。制服には大穴があいていたが、体自体はナノマシンのおかげで傷がふさがっている。
「まぁそうなの! よかったわ~」などと言って母親は納得してくれたが、チエはいぶかしげに跡を見つめている。
「と、とにかくさ! みんな生きててよかったじゃない! 正直ほっとしたわ」
「……そりゃこっちのセリフよ」
「もう帰ろう! せっかく授業なくなったんだし!」
「はぁ……アンタねぇ」
「ふふ、そうね。帰りましょうか」
ホムラがあわてて話をそらすと、チエはぐっと涙をぬぐう。そして母親が気楽に同調したのも手伝い、三人はそのまま帰路につく。
最後尾になったホムラは、先ほどまでの戦いとの空気の落差を感じながらも、胸を撫で下ろしてついていった。
すると、ルゥが小声で話しかけてくる。
「……友とは不思議なものだな。利害関係の気配がまるで感じられぬ」
「でも、いいもんでしょ?」
「……そうやも知れぬな」
ホムラが問い返すと、ルゥは少しだけ前向きな返事を返す。そして、独り言のように、こうつぶやいた。
「……似ているな。我が
その寂しげなつぶやきは、ホムラに聞こえていなかった。
――
……それと同じ頃、ホムラたちのいる場所から少し離れた、海辺の一角。
海をのぞめる場所に立ち並ぶ住宅地やビルの中に、10階ほどの小綺麗なマンションがそびえていた。
そのマンションの屋上に、一人ぽつんとたたずむ一人の少女がいた。黒いマントを羽織り、二つ結びの金髪という浮世離れした格好の、中学生くらいの少女。
彼女は片目に黒の眼帯をつけ、片目をこらしてある方角をじっと見つめている。視線の先には、煙があがって騒がしく消防車などのサイレンが鳴っている市街と、それを仕切るようにそびえる山があった。
ホムラが戦っていた場所である。
その方角をにらんだまま、金髪の少女はにやりと笑うと、愉快そうに言った。
「くく……ついに見つけたぞ。
少女がルゥの名を口にした瞬間、彼女の近くで、黒い鳥が羽ばたくのが、かすかに見えた……。