奇獣装者《キジュウソウシャ》 ~宇宙からの友と襲来者たち~ 作:ごぼう大臣
「……起きよ」
「ん……」
「起きよ、ホムラ」
「ん~、なに~?」
UFOに学校を襲撃されてから一週間後。しばし普段通りの日常に浸っていたホムラは、夜中に唐突にルゥに起こされた。
寝ぼけなまこで起き上がり携帯を見ると、時刻は深夜二時頃。窓の外を見るとUFOは一機も見当たらず、街は寝静まっている。
「……何よ、何もいないじゃない」
「ここじゃない、右だ! 海沿いの方だ!」
「? ……右?」
ルゥが急かす通りに右へ振り向くと、ホムラの目に赤々と燃える火が映った。遠く離れた海辺の街が、あのUFOの群れに襲われているのだ。
ホムラは、眠気が一気にさめた顔で叫んだ。
「やばい、襲われてる!!」
「機械じかけの奴らには、時間など関係ない。行くぞ!」
「わ、分かった!」
ルゥにうながされ、着替えもせずに彼女は窓から屋根へ飛び降りた。そしてルゥが体内にもぐっていくのを感じてから即座にこう唱える。
「
翼が生えると同時に、彼女は空に飛び出した。深夜の冷えた空気に、徐々に潮の香りが混じりだし、鼻をつく。
その時、ルゥがふと不穏な口ぶりで話しだした。
『……しかし、妙だな』
「ん?」
『奴ら、最初の時しかり我らが融合したのを察知しているはず……。ならば優先的に我らのいる場所を狙うはずなのだが……』
「……なんだろ、ちょっと場所がずれたとか?」
『かも知れぬな。とにかく気を引きしめて……』
歯切れの悪さを見せつつも、ルゥは気を入れ直すようにつぶやく。そして、しだいにUFOが目視で確認できるまで近づいてきたところで……。
不意に、目の前にあったUFOが、音をたてて真っ二つに割れた。
「うわっ!?」
ホムラは思わず手で顔をかばう。おそるおそる手をどかして前方に目をこらすと、上空一帯にいるUFOの群れが、次々に
「……な、何これ……」
『……! この戦い方は……』
ホムラが呆然とその場に浮かんでいる一方で、ルゥが何かに気づいたように緊迫した声を出す。その声色は何かを恐れているようだった。
そうこうしている内にUFOはすっかり姿を消し、やがて一つ残らず撃墜されたのか、海上に浮かぶ残骸が消滅していく。火事の残る海辺の街が、不気味な静けさに包まれた。
「……味方がいるんじゃない? 行こう!」
UFOを潰してくれた事から、自分の同類がいるのではないかと思ったホムラは、急いで戦闘のあった場所へと飛び込もうとする。
しかし、ルゥがそれを勢い込んで制止した。
『待て、よせっ!』
「なんでよ? もしかしたらルゥの仲間かもしれないじゃん」
『いや、確かに母星の生き残りかも知れぬが……もともと敵同士だった者の可能性がある。うかつに接触するのは危険だ』
「んー……でも、もう会えないかもしれないし……」
『そう離れていないこの場所に襲撃があったのだ。そいつの所在もこの辺りだろう。とにかく戦闘形態で会うのはまずい』
「……分かったわ。私も眠いし」
ルゥの言葉にとりあえず納得し、ホムラはあくびを一つして帰路につこうとする。その時、左目のレーダーからふと甲高い音がした。
ハッとなってさっきまでの場所を振り向くと、街から上がる炎に照らされ、ぼんやりと何者かの姿が浮かび上がった。
人の姿に似ているが、遠目でもカラスのような大きく黒い翼が目立つ。手にはこれまた黒一色の、巨大な刃物のような武器がにぎられていた。
自分と同じような、兵器と融合した存在だろうか。レーダーを見ると、今まで見たことのない色の光点が表示されていた。初めて見る存在なのは間違いない。
『……分かったろう、我らの同類だ。時間があれば探りを入れてみよう』
「あ……う、うん。そうね」
ルゥの静かな声にうながされ、ホムラは改めて家へ向かう。体内にいるのでルゥの表情は分からないが、心なしか面倒そうな響きが混じっていた。
――
「ふあぁ……」
「ホムラ、またあくび? 今日五回目よ」
翌日。夜中に起こされたホムラは結局あれから寝つけず、学校に来てからも眠気に悩まされていた。
昼前の時間帯になってもいまだにボンヤリしている彼女に、となりの席のチエは呆れ顔である。
「シャキッとしなさいよ。また夜中にマンガでも読んでたの?」
「ん~……いやぁ、ちょっと海にね……」
「は? 何それ散歩?」
「うんにゃ、地球防衛に出かけたんだけど、ライバルヒーローがいたみたいで……」
「……はぁ?」
意味不明な説明に眉をしかめるチエをよそに、ホムラは薄く開いた目で疲れた笑みを浮かべながら、左手の窓の景色をながめていた。
そのホムラの視界に、チエが手のひらを割り込ませたりなどしていると。
「ねー、これって
「なんかすごい見た目変わっちゃってるけど……」
「でもなんか、シルエットはそのまんまだよ~?」
教室の一角で、一部の女子グループが騒ぐ声が聞こえる。ホムラとチエがつられて視線を向けると、四、五人が誰かの携帯の画面を見て話しているようだった。
漏れ聞こえてきたセリフに、ふとホムラは首をかしげる。
「ねぇチエ?
「
チエの答えに、ホムラはきょろきょろと教室内を見回す。しかし、言われたようなツインテールの女子など、どこにも見当たらない。
するとチエが補足してくれた。
「最近はなんだかずっと休んでるけどね。一週間くらい」
「えっ、そんなに長く?」
「アンタね……クラスメイトくらい覚えときなさいよ。確かにいつも本読んでて大人しかったけどさぁ」
やれやれといった調子でため息をつくチエ。ホムラは少々すねたように顔をそむけ、女子グループの方を見る。そして何気なく、会話に耳を傾けていた。
「でも変なカッコしてんねー。黒マントだよねコレ」
「髪まで金髪にしてるし。ハロウィンかっての」
「もしかしたら別人じゃないの? こんな派手なカッコする子じゃなかったよね」
「見かけによらない趣味ってやつじゃない? 肩にまで何か乗っけてるし」
「これ……鳥、カラス?」
「どうせ作り物でしょー。そんなん生きてるの連れ歩いたりしないって」
女子グループはよほど物珍しいのかいつまでもきゃいきゃいと騒いでいる。チエはそんな彼女らをうるさそうな目つきで眺めていたが、ホムラは内心、かすかに引っかかる事があった。
会話の中で、髪が黒から金に変わったらしい事。
そして、肩に生き物を乗せているらしい事。
これらは彼女自身も覚えがあった。融合したルゥいわく、戦闘形態および脳に強く干渉した際、髪色が変わると教えられた。
そして、肩は視界に入りやすく声も聞こえるので、ルゥがよく乗っている場所だった。
加えて、昨晩にはUFOが海辺に襲来した事から、近距離にもう一人融合した人間がいる可能性があると言っていた。もしや、その黒羽 美烏なる人物がそうなのでは……と、ホムラは思い当たる。
「……ホムラ」
ほぼ同時に、机の下でルゥが顔を出す。彼も同じ推測をしたのだろう。そう察したホムラは、目が覚めたような勢いで椅子から立ち上がった。
「ね、ねぇ! ちょっと!」
「……はぁ? 何ようっさいわね」
急に声をかけてきたホムラに、女子グループは鬱陶しげな目を向ける。一瞬言葉につまるホムラだったが、どうにか笑みをつくり、こう頼んだ。
「あ、いや……それ、私も見ていいかな?」
「何? 見たいの?」
「うん、ちょっと気になって。ダメ?」
「うーん、別にいいけど」
しばし白けた空気が流れたが、穏便に頼んだおかげか、女子たちは簡単に携帯の画面を見せてくれた。そこには、一枚の写真があった。
雰囲気からして昼間の繁華街を撮ったらしいそれには、道を行き交うたくさんの人々が写っていたが、中でも中央付近に写る、前方遠くを一人で歩いている少女は異彩を放っていた。
日中の人ごみだというのに、足首まで覆うほどの黒いマントを羽織り、ツインテールの髪は話の通り光って見えるほどの金色。そして足には長く武骨な黒いブーツを履いている。
そのキテレツないでたちは、マンガ好きを公言しているホムラでさえ一瞬言葉を失ったほどであった。
「ウケるっしょ? 駅前の本屋で撮ったんだ。さらにこの辺を拡大すると~?」
ホムラの反応が面白かったのか、グループの一人が少女の上半身あたりをタッチして大きく見せる。
すると、横向きに歩いている少女の、顔の向こう側にある方の肩。そこには、横顔の陰になってはいるが、確かに黒い鳥のようなシルエットがあった。
そして、手前側を見てみると、目のあたりに黒い丸のようなものがくっついている。それに目をこらして、ホムラはいぶかしげに言った。
「これ……眼帯?」
「やっぱそうだよね~? なんかのコスプレかな……。竜乃マンガで見たことない? こんなヤツ」
「……いや~、私はちょっと……」
奇抜なファッションにゲラゲラ笑っている女子グループ。ホムラも、写真の美烏なる人物に少々あやしさを感じないではなかった。
ただ、服の中にかくれながら、ルゥが周りに聞こえないようにうなっているのに気づくと、別の可能性にも思い当たる。
……もしかすると、ルゥが知っている"兵器"が、この常識はずれの服装や行動に関係しているのでは、という点だ。なにしろまだまだ、未知の部分など無い方が不自然なのだから。
美烏が登校してきたらからかってやろう、などと女子グループが話している横で、ホムラがじっと思考にふけっていると。
「アンタたち、やめなさいよ隠し撮りなんて」
正義感のにじみ出る声でそう言ったのは、チエだった。彼女はホムラの腕を引っ張ると、たしなめるように耳打ちする。
「ホムラも、あんなので盛り上がったりしないの。黒羽さんに失礼でしょうが」
「あ……ごめん」
ホムラは返す言葉もなくしょげ返る。周囲には少々気まずい空気が流れたが、直後に授業開始のチャイムがなり、彼女らは事なきを得た。
それから下校まで、ホムラだけがあの奇抜な格好のこと、そして昨晩に見た黒い翼の"同類"のこと、そして何より"黒羽 美烏"という名前の少女のことが、頭から離れないのだった。