奇獣装者《キジュウソウシャ》 ~宇宙からの友と襲来者たち~ 作:ごぼう大臣
「本当にここで合ってるのか?」
「うん。写真からすると多分このへん」
時刻は日が沈みだす17時頃。ホムラとルゥは地元の駅前の、繁華街の一角に立っていた。
ことの起こりは、同級生の女子が撮った写真からだった。ここ一週間ほど学校を休んでいたクラスメイトを、ここで目撃したというのだ。
しかも、格好が奇妙で、黒いマントにブーツ。髪は金髪になっており、片目に眼帯。加えて肩にはカラスのような鳥を乗せていたというのだ。それで思わず隠し撮りしたのだという。
それだけなら変わった話の範ちゅうなのだが、ホムラにとって"髪の色が変わる"、"奇妙な生物を肩などに乗せている"などの特徴は、彼女と兵器ルゥのように、融合した人間のそれと同様に思えた。
その可能性を確かめるため、彼らは件の少女、
「ルゥは見覚えないの? あのカラスみたいなタイプ」
「…………」
ホムラは行き交う人々に目をこらしつつ尋ねる。どこを見ても目に入るのはスーツや普段着の一般人たち。あの嫌がおうにも注目を集める格好は見当たらない。
ルゥは無言で目をそらし、やがて言いにくそうに口を開いた。
「……実を言うと面識はある。同じ国の軍隊にいたからな。写真に写っていたのも、昨晩のもふくめて、間違いなかろう」
「えー、それを早く言ってよ。つーかそんなら、昨日だって話しかけてよかったじゃない」
何故か警戒したルゥによって接触の機会をのがした事に、ホムラは不満をもらす。しかし、ルゥは暗く、それでいて強い口調で言った。
「……味方同士だからと言って、仲が良好とは限らぬ。なまじ交流をもてる分、さまざまな
「何よ……ケンカでもしたの?」
「ふ……その程度ですめば良かったがな。会えば分かる」
ルゥは含みのある口ぶりでそう言って、それきり口を閉ざしてしまった。裏切りか何か、こみ入った事情でもあるのだろうか。肩口ですねたように翼をたたむ彼を横目に、ホムラはため息をつく。
その時、彼女の隣から、不意に見知らぬ声が聞こえた。
「すまぬ、少し良いかの」
「! あ、はいっ!」
艶のある女性の声に、周りを見ていなかったホムラはあわててルゥを手で覆い隠し、あたふたしながら振り向いた。
しかし「何かご用ですか」と問いかけようとして、その表情はかたく引きつった。
眼前にいたのは黒いマントに白いパフスリーブ。コルセットとミニスカートに黒のブーツ。そして金髪をツインテールにし、とどめは左目に眼帯、肩にとまったカラス……。そう、まさに探していた少女の姿であった。
前もって写真で見ていたとはいえ、目の当たりにするとホムラは街中で見るそのインパクトに圧倒された。通行人も、慣れたそぶりの者もいるとはいえ、何人かがチラチラと視線を送っている。
「…………」
何も言えずに呆然としているホムラ。それを気にするそぶりもなく、目の前の少女(おそらく? 黒羽 美烏)はずいと顔を近づけ、ホムラの表情をじっくりと見つめる。
そしてささやくように言った。
「ふむ……やはりお主、普通の体ではないな」
「は、はい?」
「とぼけるな。その身に竜を飼っておるじゃろう」
ホムラを壁に追いつめ、少女は見透かすように言った。ホムラの瞳が緊張で揺れる。
竜を飼っている、その言葉はやや抽象的ではあったが、思い当たることはあった。ルゥのことだ。今は隠れているのか姿をあらわさないが、少女の目は確信するように光っている。
しかし、何故ホムラに真っ先に目をつけたのだろうか。まさか昨夜の戦いを見て帰った時に、姿を見られていたのだろうか?
「出てこい。何千年ぶりかの再会ではないか」
ホムラがぐるぐると頭の中で考えていると、少女がその頬をそっと撫でた。
反射的に顔をそむけると、今度は頬から首筋へと指先を這わせる。手の動きに合わせて視線が上下するのを見ると、おそらくルゥを探しているのだろう。
ただ、その手つきが妙にあやしい。いちいち感触がこそばゆく、目は瞳孔が縮んだかと思うほどに見開かれている。
その表情やしぐさは、単に同胞を探しているのとは違った、執着のようなものが感ぜられた。
ホムラはその気迫ただよう表情から目をそらす。雰囲気がなんとなく危うさを帯びている。生き生きと話す少女の大人びた声も、よく聞けば外見からかけ離れていた。
「う~むまどろっこしいの。お主からも何か言ってくれぬか」
「ひあっ?」
少女がますます顔を近づけてくる。もはやキスでもしそうな勢いだ。出会った時から感じていたホムラの警戒心が、瞬間的に頂点へ達する。
「あ、おい!」
とうとうホムラは少女を振り払い、その場を逃げ出す。人々の視線に耐えるのも限界だった。
(ったく、なんでルゥはこんな時に黙ってるかなぁ!)
走りながら内心でこぼしていると、背後から少女の駆ける足音と声が聞こえてくる。
「待たぬかぁ~っ! まだ何も話を聞いとらんぞ! それがようやく会えた戦友への仕打ちかぁ~っ!?」
人ごみの中を駆け抜けながら、周りで困惑しているであろう人々のことを思い、ホムラはどこかに消えてしまいたい気分だった。
彼女の足は自然と人通りの少ない場所へ向き、ビルの隙間をくぐり抜け、いつしか誰もいない裏通りへとたどり着いた。
「……あれ、撒けたかな」
息を切らしながら、辺りをキョロキョロと伺うホムラ。生ゴミが入った業務用のゴミ箱や黄ばんだ新聞紙が散らばるその場には誰もいない。
「……相変わらずな奴だ。だから会いたくなかったのだが」
「のわっ!?」
突然、彼女の肩にひょっこりとルゥが顔を出す。薄目を開け、やれやれといった表情でため息をつく。
「いや相変わらずじゃないわよ! 会ったことあるんだったら、顔ぐらい出してくんない?」
「気が進まんな。我の姿を見れば騒ぎ出すのは目に見えている」
ルゥはぷいっと目をそらし、ため息をつく。そのそっけない態度にホムラはついつい口を開く。
「……とにかく、あの態度で今度こそ仲間なのはハッキリしたんでしょ? 誰なのよあの子」
「鳥を模した融合型兵器、"フニム・ギーン"……。なんだか知らぬが、やたらと我と距離を詰めてくる。同胞の中でも異彩を放っていた」
「ふーん……」
ホムラは話を聞きながら、さっきまでのフニムとやらの態度を思い出していた。身体的な距離を詰め、色々言いながら追いかけてはきたが、少なくとも憎んでいるようには見えなかった。
どちらかと言えばやっと知り合いに会って喜んでいるようにも……。
「……あれ?」
考えてみて、ホムラはふと引っかかることがあった。確かに、少女の振る舞いはなるほどルゥに執着していた。だがそれはルゥいわく、あくまで"フニム・ギーン"の人格のはずだ。
あの奇抜な格好をした、融合したはずの少女の人格はどうなっているのだろう。口を動かしてしゃべっていたのは確かに少女の方だったのだが……。
あれこれと考え込んでいると、不意に頭上でばさりと大きな音がした。ハッと空を見上げると、背中に大きなカラスの翼を生やしたあの少女が、ビルを飛び越してホムラのもとに降りてきた。
足元にはこれまたカラスのような爪がついた足鎧があり、どこから出したのか手には絵画の死神が持つような真っ黒な大鎌がにぎられている。
「わ、かっ、鎌……?」
「逃げても無駄じゃぞ。お主は知らぬようじゃが、我らは同胞にしか分からぬ特殊な電波が出ておるのじゃ。レーダーもキャッチしていたじゃろ」
「な、聞いてないよそんなの!」
「……言ってなかった。なにせ他にも同胞と会うとは思わなかったからな」
文句を言われたルゥは振り向かず、目の前の少女をにらみ、言った。
「……フニム、他人にやたらと干渉するのは控えたらどうなのだ。
「はっ、
ルゥの忠告めいた言葉を、少女……もといフニムは大鎌をふるって一蹴する。身を包めそうな大きな翼がゆれた。
ここで、ホムラはまた首をかしげた。翼が生えているのを見るに、今のフニムは戦闘形態だろう。肩のカラスもいなくなっている。にも関わらず少女の髪の毛は金髪のままだった。
髪色が変わる条件はルゥから聞いている。戦闘形態、あるいは融合の時のように"パートナーに強く干渉した時"だ。
その理屈でいくと、普段でも戦闘形態でも金髪でいる少女は、常時フニムに強い干渉を受けていることになる。
まさか洗脳か? とホムラの頭の中ゾッと警戒心が増す。そんな時に、ルゥがささやいた。
「やむを得ん。戦闘形態を使うぞ」
「え、まさか戦うの!?」
「違う。どうにかして逃げるのだ。このままでは話がややこしくなる」
「た、確かに……」
ルゥの言葉に、ホムラはしぶしぶといった様子でうなずく。そしてジリジリと後ろに下がると、異を決してこう唱える。
「
瞬間、ホムラの背中に翼が生える。その瞬間彼女はくるりと背をむけて空へと飛び立った。戦闘形態のくせに戦う気ゼロである。
「あっ!! また逃げる気かぁ! 臆病者が~~!!」
叫びながらフニムが飛んで追いかけてくる。その声はあっという間に背後に追いつき、ホムラの背中を影が覆った。バサッという音でホムラが振り向く。
(ウソ、もう追いつかれた!?)
ホムラはあわてて方向を少しそらし、カーブをつけて逃走する。しかしまたたく間にフニムはその背後につく。全速力でビルの上を飛び回るホムラに、フニムは楽勝だと言わんばかりにつきまとい続けた。
「くぅっ……どうすんのよコレ!」
『……スピードではやはり敵わぬか。ホムラ、少し攻撃できぬか?』
「なっ、できるワケないじゃん! よく分かんないけど、体は美烏って子のものよ!」
『……やはりな。しかしそうすると……』
ルゥが悩ましげにつぶやく。すると、ホムラの背後でまた翼と風が鳴る。鬱陶しげに振り向いたホムラだったが、今度は目を丸くした。
フニムは大鎌を高々とかかげ、遠慮なくホムラに振り下ろしたのだ。
「うひゃあっ!!」
とっさに足をたたんで避け、ホムラは空中でクロールをしてその場を逃れる。それを見ながら、フニムはからかうように言った。
「なんじゃいビクビクして。ナノマシンで多少のケガはすぐ治るじゃろうがい」
「この……好き勝手言っちゃって!」
はっはっは、と遠慮なく笑うフニムを見てホムラは目をつり上げたが、グッとこらえてまた逃走する。それをフニムが猛スピードで追いかけ、また苦もなく追いついた。
「本気を見せろ、ルゥ・ヘグズニー!!」
そう叫んで鎌を振り上げるフニム。しかしその時、逃げてばかりだったホムラが、不意に背後にいる相手にむけて尻尾を勢いよく振るった。
「ぬわっ!?」
驚いたフニムは鎌を振り上げた姿勢のまま、のけぞって尻尾を回避する。ホムラはその隙に振り返ると、フニムの懐に飛び込んで鎌の柄をがっしと掴んだ。
フニムはキッと表情を変え、片手でホムラの右腕についたガトリングを掴む。互いに武器を掴まれた状態で、二人は膠着状態になる。
「……バカめ、ここまで近づいてはかえって何もできまい」
「それはアンタだって同じでしょ。こんな大鎌、この距離じゃ振れない」
「言うてくれるじゃないか小娘……。後で覚えておれよ……」
「アンタが武器を収めてくれれば解決なんだけどなぁ」
空中で見つめ合いながら、二人は形ばかりの笑顔で軽口をたたく。身体には満身の力を込め、敵に武器を使わせまいと気を張り続ける。
そんな彼女らが、頭の片隅で考えることは同じ。
(……まずい……)
(……動けぬ……)
白けた顔をしながら、この時間がいつまで続くかと互いに思っていたところ。
突然、フニムが体を震わせ、表情をゆがめた。
「ぐぅっ……!!」
「……!?」
「やめろ、お主は出てくるな……! が……あ……っ!」
かたく掴んでいたホムラの手を振り払い、フニムは頭を押さえてガタガタと苦しみだす。ホムラが戸惑っていると、なんと、フニムの金髪が少しずつ黒にもどっていく。同時に背中の翼や足の鎧が体内に引っ込み、あるいは消えていった。
「うわっと!」
取り落とした大鎌と、力なく落下する黒髪の少女をキャッチするホムラ。腕の中でもたれた彼女は、青ざめた顔で小さくうめく。
「ちょっと、しっかりしてよ!」
『気絶しているのか……?』
あわてて呼びかけるホムラと、緊迫した声をもらす。すると、腕の中の少女が、うっすらと目を開けた。
「あっ……」
ホムラは安堵して表情を和らげる。対して少女はおびえたように縮こまると、目をおよがせ、か細い声で言った。
「ごめん……なさい」
その言葉に、ホムラはふと眉をひそめる。確かに今までフニムに追いかけ回され襲われたのだが、打って変わって謝りだすのを見ると、まるっきり別人のようだった。
色々と聞きたいことが出てくるのをこらえ、ホムラは一つだけ、目の前の少女に確認する。
「アンタ……黒羽 美烏って子よね?」
その問いに、少女はまた目をおよがせる。気弱そうなしぐさに左目の眼帯があまりに似合っていない。
しばらく無言で見守っていると、少女は黒髪のツインテールを揺らしてようやく向き合い、うなずいた。
「はい……はじめまして……」
小さな返事に、ホムラはにかっと微笑んだ。ホムラ、ルゥ、そして黒羽 美烏の三人は、こうしてようやくまともなコミュニケーションが取れたのだった。