奇獣装者《キジュウソウシャ》 ~宇宙からの友と襲来者たち~ 作:ごぼう大臣
「これって……」
「奴ら、また来おったか……!」
美烏とフニムが空を見上げて声をあげる。片方はおびえるように。もう片方はいまいましげに。
ホムラは後ろにいる美烏を振り返り、緊迫した声で言った。
「美烏、さっきの話は後にしよう! 今は一緒に……」
しかし、目が合った美烏はハッと目を伏せ、その場に立ちすくんでしまった。
ルゥが苦い顔をして視線を移すと、それに気づいたフニムが弁解するように言う。
「……こやつはまだマトモに戦えていない。そうすぐには……」
「前回はどうしていたのだ? 仮にも一人でUFOをしりぞけただろう」
「……あの時は、儂が手を貸したんじゃ。やむを得ず体を操ってな」
美烏の横顔を見ながら言いにくそうに話すフニム。すると、ホムラが驚きの混じった声で言った。
「ま、待って! 戦いながら体を操ったって……そんな事したらすごく負担がかかるんじゃ……」
ホムラのそれは、根拠のない想像ではなかった。フニムと話していた時、確かに「体の主導権を奪うだけなら、戦闘形態ほどの負担はかからない」という意味のことを言っていたはずだ。
ならば、戦闘形態にくわえて体を操ったとなれば、負担はずっと大きくなるのではないか。
そんな不安をホムラの表情から読み取ってか、フニムは弱ったように声を張り上げた。
「し、仕方ないじゃろが! 怖がっておる美烏に自分で戦えというのも酷じゃし、放っておいたら街は壊れるしで、他にどうすれば良かったんじゃ!」
」
フニムの反論に、ホムラは押し黙った。確かに、誰もがすぐに未知の存在に立ち向かえる訳はない。やむを得なかったというのも事実なのだろう。
やりきれない気持ちにさいなまれ、彼女は悔しそうに美烏とフニムから目を逸らす。
その次の瞬間、遠くの建物から火の手があがる。同時にあちこちから恐怖のにじんだ悲鳴が。
このまま迷っていても仕方ない。そう思ったホムラは美烏の肩をつかんで言った。
「とにかく今は安全な場所に! あいつらは私がなんとかするから!」
「で、でも……」
「早く!」
ためらう美烏に念押しし、ホムラは上空のUFOたちをにらむ。そして早口にこう唱えた。
「
いつものようにルゥの力を借り、ホムラはUFOひしめく空へと突っ込んでいく。美烏はいまだおびえた表情のまま、飛び立っていったホムラを見上げていた。
ホムラは街への被害をさけてか、敵の周りに
「…………」
遠くへ去っていくホムラとUFOたちの姿を見ながら、美烏はジッとその場に立ち尽くしていた。
間もなくして、沖の上空でパッと大きな火の玉がいくつも明滅する。続いてこだまする巨大な爆発音。
美烏は、自分と同じ立場の人間が、完全に自分の意思で戦う姿を初めて目の当たりにした。
マンションの階下や、街のあちこちから、悲鳴と雪崩のような足音が聞こえてくる。人々が逃げ惑っているのだ。戦う力はなく、ただ未知の飛行物体にいまだに怯えている人々。
それに紛れて去ってしまうのは、美烏には簡単だった。だって彼女の力を知る人間は一人しかいないのだ。その一人も、安全な場所に逃げろと言った。
だのに、美烏はその場を動けなかった。ベランダに立ち尽くし、ホムラが戦っている夜空をずっと見つめていた。
何故だろう。その理由は、美烏にはハッキリと分からなかった。ただ、目を離すまいと感じさせる何かがある。
しばらくして、肩にとまっていたフニムが口を開いた。
「……どうした。逃げぬのか」
「……それは……」
フニムの問いに、美烏はハッと顔を上げかけたが、すぐに目を伏せた。踏ん切りがつかない、勇気が出ないといった表情。
フニムはしばしベランダに目を落とし、物憂げに目を細めたが、互いの無言の時間が少し続くと、ポツリと言った。
「……儂と会った時の事、覚えとるか」
「へ?」
唐突に問いかけてきたフニムに、美烏は目をしばたかせて小さく声をもらす。フニムはどこか懐かしそうに、下を向いたまま話しだした。
「あのカプセルから出てきたいかにも怪しい儂を、『探している仲間がいる』という言葉を信じて体を貸してくれたんじゃったな」
「……うん、そうだったね」
美烏も懐かしむように小さく笑みを浮かべる。一種の現実逃避だったのかもしれない。
いまだに上空で爆発が続く中で、フニムは続ける。
「おかげで仲間はすぐに見つかった……。お主のおかげじゃ」
「私は別に何も……」
「いいや、お主がいたから戦えたし、街も歩けたんじゃ。バカ正直な奴じゃとも思ったが、やはり感謝しとる」
フニムは迷いのない口調でそう言い切った。美烏は一瞬てれくさそうに顔をほころばせたが、すぐに表情は曇りだす。
いくら誉められようと、美烏はげんに街が壊される光景を前にして動き出せない事に、負い目を感じて仕方なかった。ホムラが戦っているのを見ていればなおさらである。
本当なら、負担など気にせずにフニムに体を乗っ取らせてしまうべきなのでは、そんな無茶な自責の念まで芽生えはじめた。
「儂の頼みは済んだ。今度はお主の頼みを聞く番じゃ」
「……え?」
そんな時に、フニムは不意に美烏へ水を向ける。キョトンとする美烏に、こう続けた。
「地球人のお主に拾われたおかげで望みが叶ったんじゃ。ならば、儂だから出来る頼みを引き受けるのが筋じゃろう」
「いや……あの」
「短い付き合いで言うのもなんじゃが、お主はどうも思い切りが悪いからの……。ここでハッキリと聞いておくぞ」
静かに語りだしたフニム。美烏は戸惑った表情で聞いていたが、フニムは振り向き、強い口調で言った。
「お主はどうしたい?」
「……それ、は……」
「ルゥたちに謝りたいと言った時……お主はなかなか面と向かう決意がつかなかった。あの時も今も、お主は迷っておる」
「…………」
「じゃが、あのまま最後まで謝れずにいたら、きっと後悔したじゃろう。今も同じじゃ。"後悔しない"ために……お主はどうしたい?」
言い淀む美烏に向けて、重ね重ね確認するフニム。けれども強要はせず、黒目の多いカラスと似た眼で、肩を縮める美烏を黙って見つめている。
やがて、美烏は胸を押さえて何度か深呼吸をし、最後に長く息を吸って、キッと顔を上げた。そしてフニムに向けて口を開く。
「フニムちゃん、私……戦いたい。今度は自分の意思で、みんなと一緒に!」
その声は、今までで一番力のこもった、迷いのないものだった。フニムを映す丸い瞳は澄み、嘘を感じさせない光が宿っている。
その目を見つめ返し、フニムは最後に低い声で問う。
「いいんじゃな? 後戻りはきかんぞ」
「……大丈夫。それこそ後悔しない為でしょ?」
美烏は若干声を震わせながらも、勝ち気に微笑んでみせる。その表情をめずらしがるようにフニムは喉を鳴らした。
そして、羽根をすぼめて美烏の中へともぐっていき、内部からもう一つ問いかけた。
『コードは覚えておるな?』
「分かってる……
美烏が空を見上げてそう唱えると、瞬間、彼女の背中からバサリと黒い翼が姿をあらわす。その気になればマントにもなりそうな、大きく柔らかい、カラスのような翼。
続けて足を黒色の足鎧が包んでいく。炎に照らされて硬く黒光りするそれは、靴裏の部分に鳥のケヅメのような、鋭く太いトゲが四本のびていた。
ツインテールの黒髪はきらめく金髪に変わっていく。さらにどこから飛び出したのか細長い黒い棒が宙を回転して美烏の手におさまり、湾曲した刃が突きだして巨大な鎌へと変化した。まるで地球で伝えられる死神のそれのように。
重たそうな大鎌を、融合して腕力が増した美烏は片手で持ちながらしげしげと見つめていた。
そんな彼女に、フニムは思い出したように言った。
『……そうじゃ、美烏。眼帯を取ってみろ』
「これ?」
『そうじゃ。儂が体を操るならともかく……お主にはそちらの目が必要になるじゃろう』
「……?」
美烏は首をかしげながらも、今まで片目をふさいでいた眼帯を取る。するとその目からピーッと高い音をたてて緑色の光が放射され、彼女の眼前の空中に小さな画面のようなものがあらわれる。宙に映し出されたその画面上では、何かを示すような二色の光点が動き回っていた。
「わ、わっ!?」
『その目はレーダーになっておる。慣れるまではそれを頼りに戦え』
「うん……分かった!」
美烏はレーダーとなった片目が灰色に変色し、顔に奇妙な模様がはしっていた。
にも関わらず、彼女はそれには気づかず、
美烏は改めてUFOの群れがうごめいている上空をにらむと、フニムへ言った。
「フニムちゃん、行くよ!」
『応!!』
その声とともに、黒い翼を大きくはためかせ、二人は敵へと向かって一直線に舞い上がっていった。
街と、人々と、出会えたばかりの仲間を助けるために。