そして、約束のために帰ってきた話である。
ポケットモンスターソード・シールド『冠の平原』を記念したMV
『GOTCHA!』を見た時に尊さが限界になった作者が書いた小説です。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この星の不思議な不思議な生き物。
空に、海に、森に、街に、 世界中の至る所でその姿を見ることができる。
そのポケモン達と共に生きている僕達はあらゆる場面で助けられ、時には戦っている。
そして、ポケモンを捕まえて共に道を歩むポケモントレーナーという者もいる。
かくいう僕もその一人だ。
多くのポケモンを捕まえて、多くのトレーナーと戦って、色々な地方を巡った。
出会いもあれば別れもあった。
勝ちもあれば負けもあったように、何事も順風満帆とはいかなかった。
それでも僕はポケモンが大好きだから、ポケモンも僕に応えてくれるから頑張れた。
始まりは、何だったんだろう?
あるトレーナーに憧れたか。
あるいは、ポケモンを見た時からか。
あるいは、ポケモン博士に頼まれたからか。
あるいは、あるいは、あるいは。
どこまで考えても、始まりは何だったのか思い出せない。
それだけ今が充実して昔もポケモンに夢中だったんだろう。
ゴールはまだだけど、それでもかなりの場所までやってきたんだと実感する。
風が頬を撫でる。
─綺麗な空だ。
こんな日は、間違いなく。
「なあ、そこの君!」
ほら、やってきた。
話し掛けられて、振り返る。
やる気に満ち溢れた少年だ。
「トレーナーだよな!」
「うん」
「なら、ポケモンバトルしないか?」
ポケモンバトル。
捕まえて、共に過ごした仲間と共に戦う。
トレーナーとポケモン。
この二つが噛み合った時が真の強さを発揮する。
それを出来る者がポケモントレーナーなら殆どが夢を見るポケモンリーグのチャンピオン。
この少年も、もしかしたらその夢を抱いているのだろうか。
…いや、それよりも。
ここはトレーナーならどう答えるか。
腰のベルトにあるボール…ポケモンを入れるモンスターボールが揺れる。
─いつでもいけるよ
そんな言葉が聞こえてくるような、頼もしさをボール越しに感じる。
フッと笑う。
少年はどうしたんだろうと首をかしげる。
ごめん、と一言。
「僕のポケモンも、やってやるって言ってさ」
「…そっか!じゃあ…」
「うん、やろう!それに、昔からこう言うしね」
「?ああ!」
合点がいったように少年は笑う。
笑顔が眩しい。
二人して笑って、こう言うのだ。
ポケモントレーナー同士の当然のルールのように。
「「目と目があったら、ポケモンバトル!!」」
「いくぜ!俺のポケモン!」
「さあ、良いバトルをしよう!」
お互いに、ボールを手に持ち、スイッチを押してそれを投げる。
そこから出てきたパートナーが、トレーナーである僕達に応えるために力強く声をあげる。
やる気は十分、コンディションは抜群、絆マックス。
この少年の事は、このバトルで全部分かる。
言葉よりも、明確に。
視線、動作、指示がポケモントレーナーの癖や性格を顕著に表す。
なら、もう言葉を交わす事に意味はない。
このポケモンバトルが、教えてくれる。
さあ、やろう!
────────────────────────
「だぁ~負けたぁぁぁ!!」
結果から言って、僕の勝ちだった。
けれど、少年は強かった。
レベル差、経験のなさ…殆どにおいて、僕は少年を凌駕していた。
それでも1つだけ少年は諦めなかった。
勝とうと吼え、ポケモンもまたそれに応えるように力を出し尽くした。
それは死闘と呼ぶには遠く、けれど一方的かといえば深い試合だった。
そうして、悔しげながらも全力を振り絞った少年は笑った。
パートナーのポケモンもボロボロながら笑った。
僕は自分のパートナーをボールに戻して少年のポケモンに傷薬を噴射した。
傷口に染みたようで少し痛そうだったけどその後痛みが引いていく感覚で落ち着いていく。
「ありがとう!
くっそー!気合いなら負けなかったのになぁ!」
「あはは、気合いであそこまで粘られた僕も少し驚いたね」
「くぅー…でも良いバトルだった!」
「うん、これから戦う前に一度気持ちをリセット出来た。僕からもお礼を言わせて欲しいな」
「うん?約束でもしてたのか?」
少年が聞いてくる。
約束…違うかな、僕から一方的に取り付けたようなものだ。
どうしても、戦いたかったから。
だからあの時、僕は…
「ちょっとね、色々とあるんだ。旅をしているとね」
「えーなんだよそれ」
「ハハハ、この地方に帰ってきたのもさっきだしね」
「なら、ここに来る前はどの地方にいたんだ?」
そう聞かれて、目を閉じる。
正直に答えても良いし、ボカすのもいい。
自分は、どう答えよう?
そうして少し考えて、自分は。
「さあ、どこだと思う?
虹色と銀色の羽の飛び交う地方か、陸と海が壮大な地方か、神話が残る地方か、英雄が生まれた地方か、命が繰り返す地方か、四つの島を巡る地方か、それとも──剣と盾を携えて戦う地方か」
「難しい言葉使うなよー!絶対はぐらかそうとしてるだろ!」
「ハハハ、ごめんごめん。
でも、君もいつかそこに行くさ」
「何だよーその絶対行くみたいな感じ」
「ああ、絶対行くよ。
君のその心と、ポケモンへの想いが本物なら…彼らに会いに、君は行く」
今はまだ駆け出し。
でも、僕には分かる。
色々な地方で、出会いと別れを繰り返して、多くの戦いを経た今の僕なら分かるんだ。
この少年は、必ず多くの地方を巡るだろうと。
さて、とリュックを背負い直して立ち上がる。
「行くのか?」
「うん、険しい場所だから少し準備しないと」
「そっか、ちなみにどこに行くんだ?」
少年は興味津々といった様子で聞いてくる。
僕はその好奇心旺盛な姿に昔の自分を見ているようだと物思いに耽りそうになりながら、しかし今は現実だと質問に答えることにした。
「28番道路さ」
少年も知っているようで、驚愕の表情を向けてくる。
それもそうだろう。
28番道路とは、実力を認められた者のみが行ける山…シロガネ山に行くための道路だ。
その道にすら制限がかかるのはトレーナーの中では一種の常識として知られている。
「シロガネ山に…行くのか?」
「うん、あの人はそこにいるからね」
「そっか…絶対勝てよな」
「─もちろん」
少年に自信を含めて答えて、歩き始める。
空を飛んでポケモンリーグ受け付けゲートまで行くのもいいけど幸いここから近い。
歩こう、この足でこの大地を。
少年は歩いていく僕に手を振っていたので偶然振り返った僕も大きく手を振った。
…あ、そうだ、寄り道になるけどあっちにも行こう。
予定変更をして、少し遅れるけどどうせあの人は籠ってるだろうと思いながら歩く。
─────────────────────────
そうして、訪れた場所。
のどかで、特に何かがあるわけでもないけどそれでも僕にとっては大切な場所。
「マサラは真っ白、始まりの色…か」
その通りだなと今なら感じられる。
何も知らなかった時の僕はスタート地点としか思ってなかった。
けれど…今なら分かる。
本当に、始まりの色から色々な色を探しに行ったんだと。
マサラタウン、始まりの場所。
そのタウンの一ヶ所に建っているそこへ僕は挨拶に来た。
インターホンを押すと、声がした。
『はい、オーキド研究所です』
「オーキド博士はいらっしゃいますか?」
『その声は…帰ってきたんだね』
インターホンから聞こえる声は嬉しそうで、急いで博士を呼んでくるよと言って切れてしまう。
オーキド研究所…ここが、僕の始まりだった。
「おお!よく帰ってきた!」
扉が開き、その人物が僕を確認すると快活な声で出迎えてくれた。
僕もお辞儀をして挨拶をする。
「お久し振りです、オーキド博士」
ポケモン博士、オーキド・ユキナリ。
博士と言えばこの人だろう。
少なくとも、僕は真っ先にこの人が思い浮かぶ。
オーキド博士はうむ、と言った後に研究所に上がるように言ってくれる。
お言葉に甘えて、研究所に上がらせてもらう。
「…変わりませんね、ここも」
「早々変わらんよ。中を変える暇なんて今はないからのぅ」
「新種のポケモンがどんどん見つかりますからね」
「うむ…150種まで解明していると発表した頃よりも大分経ったとはいえ発見の連続!日々大忙しじゃ」
嬉しそうにそう語るオーキド博士に僕は微笑む。
変わらない人だなぁと。
本当にポケモンが好きじゃなきゃここまで入れ込まないし、皆からもポケモン博士と慕われない。
行動や姿勢で示しているんだ、そりゃ慕われるか。
研究員の人も変わらず、元気そうに挨拶してきたから僕も元気に返す。
そうして、研究部屋とは違う一室に二人で入ってソファに座る。
オーキド博士が珈琲を淹れてくれて、腰を落ち着ける。
「それで、旅はどうだった?」
「とても楽しかったです。色々なポケモン、トレーナーとの出会い、ジム戦は勿論の事…その地方に語り継がれる伝説や神話…話してたら一日が終わっちゃうどころか一週間潰れますね」
「そうか…良い旅をしたんじゃな。旅はもう終わりかね?」
「いいえ」
しっかりと否定する。
だってこの世界はまだまだ知らないことが多い。
今後も新しいタイプが見つかったり、ポケモンが見つかるかもしれない。
新たな進化の形…そして、誰も知らない、語り継がれてない伝説や幻のポケモンだっているはずだ。
「旅は終えるつもりはありません。僕もだけど手持ちの皆もそう言ってます」
「ハハハ、そう答えると思ったよ」
「博士の研究に終わりがないように、僕もまた同じです」
「今はガラル地方だったか。ダイマックスとキョダイマックス…話を聞けば聞くほど行きたくなるのぅ!」
実は旅の中で度々オーキド博士や他の地方の博士達との連絡もしていた。
オーキド博士は居ても立ってもといった様子だったけどもうかなり歳だ。
「ガラルのポケモンも見せたと思うんですけどね」
「うむ、興味深いポケモンが多かった!アローラのリージョンフォームもだがその地方の環境で違う姿、タイプになるというのはまだまだポケモンの謎は数多くあるという事じゃな」
「特性も違う時もあるし、僕も発見の連続ですよ。
バトルの幅も広がりますしね」
「ポケモンバトルも上手くいっているようじゃな」
はい、と頷く。
昔はよく挫けてしまう時もあった。
どうして勝てないのか、と思い悩む時も。
そう言った時はその地方での友人、旅の仲間が助けてくれた。
泣いたり笑ったりする時が多くて、忘れられない旅だ。
ポケモンだって生き物だ、性格も十人十色。
反りが合わない時だってある。
それにどう向き合うかがポケモントレーナーだ。
今の僕の手持ちにもそういったポケモンはいる。
それでも、苦い過去も今となっては良い経験をしたと胸を張って言える。
ガラル地方での旅も面白い。
カントー地方に戻ってきたのも一度の区切りが着いたから。
オーキド博士もそれが分かっているのか先程の談笑の雰囲気は薄れて真剣な雰囲気となる。
「君が戻ってきたのは…彼に会う為じゃな」
「はい。強くなれたと…今なら自信を持って言えるようになりましたから」
「彼も彼処で待っておるよ。まるで、君が来るのを分かっていたように」
「…そうですか」
それはよかったと安堵する。
わざわざシロガネ山を登るのに誰も居ませんでしたとなっては虚しさしか残らない。
けれど、あの人は待っている。
あの時のように、変わらずに。
なら、これ以上待たせていられない。
僕は珈琲を飲み終えて立ち上がる。
オーキド博士の僕を見る目は穏やかだった。
その昔、博士も凄腕のトレーナーだったという。
なら、僕の今の気持ちも分かるのだろう。
「くれぐれも怪我の無いように」
「はい、ありがとうございます」
「ああ、それと…これを改めて君に聞くのは野暮かもしれんが区切りならば、良いかもしれんな」
「?」
「君はポケモンが好きかね?」
「…!」
─君がトレーナーになる前に1つだけ聞かせてほしい!君はポケモンが好きかな?
その言葉は、古くても色褪せる事の無い博士の言葉。
ポケモンをこよなく愛し、研究する博士だからこそ響く言葉。
誰が言えば良いって訳じゃない。
そして、聞かれた僕は…昔も今も、こう返すのだ。
「はい、大好きです!」
「うむ、大変結構!行ってきなさい!」
僕は応援と送り出しの言葉を聞いて、研究所を立ち去る。
オーキド博士は変わらず、マサラタウンもまた変わらなかった。
始まりを飾るなら、何度やり直すとしても僕はここからがいい。
そう、思ったのだ。
─────────────────────────
受け付けゲートでの検査を終え、28番道路…シロガネ山の入り口へと辿り着いた。
何度見ても険しそう…というより険しい。
こんなところに好き好んで籠る人は一握り…というか一人しか知らない。
厳しい検査を通過してようやく来れるシロガネ山はハッキリ言って熟練のトレーナーだろうと根を上げるのが殆どだ。
まず、山が険しくて登るのも一苦労な点。
これは慣れてる者なら問題はない。
けれど、シロガネ山はそれだけじゃなく、野生のポケモンが強い。
中腹より上は吹雪いている上、ここの野生のポケモンは縄張り意識も強いため容赦なく襲ってくる。
徒党を組んでやって来られたら大人しく逃げることをおすすめする。
バンギラスが襲ってくる事もザラだと言えば、どれだけの危険地帯か分かるだろうか。
あのいわはだポケモンが怒りの形相で突っ込んで来るのを想像するだけで僕は身震いがする。
「けど、そうも言ってられない」
登る踏ん切りがついた僕は山の内部へと入っていく。
相変わらず入り組んでいてあの人もよく登ると感心を通り越して呆れる。
というか、前はアローラ地方にいたのにもう帰ってきたのか。
自由というか、強さを求めるというか。
けれど、強さを求めたのは僕も同じだ。
その証拠か、野生のポケモンも僕のポケモンを見て無闇に襲っては来ない。
強さこそが正義の世界ではこうすることが一番だと学んだ。
本来ならしたくはないけど、シロガネ山なら仕方ない。
でなきゃ僕が山で倒れてジ・エンドだ。
僕を守るように傍を歩く相棒にありがとうと伝えると、気にするなと一言鳴いてそのまま護衛を続けてくれる。
そうして、何事もなく僕達は険しい山道を登り、寒さに耐えて山頂まで辿り着く。
何があるわけでもない、けれど達成感は絶大な山頂もまた吹雪いていた。
風が強いもののそれに臆せず進む。
…あの人は、そこにいた。
晴れていればかなりの絶景が見れるような場所に彼はいた。
赤い服を来て、赤い帽子を被る彼は僕が来たのが分かったように振り向く。
「……」
「…お久しぶりです」
「……」
やっぱり彼は喋らない。
寡黙、というか何というか。
ただ目を見れば何を言いたいのかは分かった。
待っていた、そう言いたいのだ。
待たせていたと僕も思う。
けれど待たせた分だけ僕は成長してきた。
多くの地方を巡り、経験を積み、絆を育んできた。
ようやく、やろうと思った。
ずっと待っていたであろう彼との約束を果たす、その時だと。
「あの時、ポケモンリーグで負けた時。
僕は貴方に言いました」
─いつか、僕とまた戦ってください!
「涙を堪えもせず、僕を負かした貴方に言った。
そして、貴方も頷いてくれた。
…あれから、かなり経ちました」
「……」
強くなったんだろう?といった目。
僕はそれに頷く。
強さはなにも、力だけじゃない。
それを知るために、培うために僕は旅に出たんだ。
カントーとジョウトだけじゃ足りないと。
ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス、アローラ、そしてガラル。
ガラル地方に関しては途中だけど、それでも約束を果たす時だと思った。
相棒が前に出る。
吹雪を物ともせず、目の前の彼…レッドさんを見る。
成長した僕のポケモンと僕を見て、レッドさんは。
「……」
ふっ、と笑った。
見ただけで、良い旅をして来たんだと理解したようだ。
レッドさんはこの戦いが楽しみだったのか。
…待たせた分、良いバトルをしよう。
それが彼への、僕の旅の答えを教える唯一の方法だ。
どんな言葉を飾るより、どんな物を渡すよりも。
ポケモンバトルで僕らは通じて、理解するんだ。
レッドさんがボールを投げると、その中から彼のポケモンの一匹、リザードンが出てくる。
他のトレーナーのリザードンよりも一線を画す存在。
多くの修羅場を越えてきたんだと理解する。
彼もまた、僕のように鍛え続けてきたんだ。
壁としてだけでなく、一人のライバルとして。
なら、僕もまた壁でありたい。
共に乗り越えて、もっと強くなりたい。
そうすれば、次のバトルはより楽しい筈だから。
「目と目が合ったらポケモンバトル…最高のバトルにしよう!!」
「…!」
相棒が僕の一言に応えるように強く吼える。
腰につけてある残り5つのボールも呼応するように揺れる。
勝って見せる、だから指示をくれと。
僕とならいけると信頼の視線を寄越す相棒に僕はふっと笑う。
ここが特等席なんだ。
誰よりも、貴方に…君に近い特等席。
改めて挑ませてもらう。
そうして、リザードンと僕の相棒がぶつかる。
熾烈な戦いが始まる。
互いが指示を飛ばし、一呼吸の油断も許されない戦い。
けれど、指示を出す僕らも指示を受けて戦う彼らも笑っている。
楽しくて、ワクワクが止まらない。
次の一手は何かと思考を止めないでシロガネ山の寒さなんて関係ないとばかりに白熱する。
ポケモンバトルは、こうでないといけない。
楽しく、互いを高めあって、絆を結ぶんだ。
何より、バトルをする時は決まって…魂が『ここがいい』って叫んでるんだ。
このバトルを僕は絶対に忘れない。
どんな結果になろうと、もう離せない
だから、この一秒一瞬に力の限り叫ぼう。
ポケモンが信じてくれた、僕達がポケモンを信じる限り。
僕達は最高のトレーナーである筈だから。
お読みいただきありがとうございます!
彼の相棒のポケモンは皆さんの想像にお任せします。
相性とか、そういうの関係無いぜってポケモンでも良いし、完全にこれなら有利だろみたいなポケモンでもいいです。