地獄の窯の底で   作:さよならフレンズ

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閃光のフラッシュ

「……くそっ」

 

 俺の口から出た言葉は、俺自身に向けられたものだった。

 ソニックから味あわされた屈辱の事件から数年がたっていた。ソニックやフラッシュに追いつき追い抜くと豪語したものの、一朝一夕でという訳にはいかない。ただでさえ才能に劣っている上に、忍者の里の暗殺者育成プログラムは完璧だった。

 俺のような凡人が心を壊され肉体が限界を迎えるギリギリを見極め教官はトレーニングを考えている。

 これでは自己流の鍛錬を取り入れることすらできないだろう。

 同じ鍛錬をこなしながらも涼しい顔をしているフラッシュやソニックを見ていると、俺は自身の非才さを嘆くことしかできなかった。

 とはいえむしろ差が開いているのではないか、という雑念は当の昔に捨てた。

 考えるだけ無駄でしかないからだ。

 

 俺はちらりと、並走するフラッシュの顔を盗み見る。どうせ俺の速度に合わせているのだろう。

 俺にとって閃光のフラッシュという男は、何を考えているのか全く分からない人物だった。

 ソニックはまだ分かりやすかったが、フラッシュは本当に何を考えているのか分からない。

 俺達をふとしたことで皆殺しにしてもおかしくない怖さがあった。

 だが教官の洗脳を受け順調に殺人マシーンとなっているのかと思えば、模擬戦のふとした時に捨てきれない人情味を見せることもある。

 もちろん俺の直感でしかないが、フラッシュは何か大きな信念を持って行動している気がするのだ。暗殺者同士刃を交えれば、分かることもあるということだろうか。

 

「フラッシュ……お前は何を考えているんだ?」

「余計な私語を口にするな」

 

 普段はこの調子で取り付く島もない。能面のような表情からは何を考えているのか全く読み取れなかった。

 分かるのはその圧倒的なまでの強さのみ。未だに俺に対して負け知らずのその強さだけは他の何よりも信用できた。

 とはいえ異端なのはむしろ心を壊されていない俺やソニックの方なのかもしれない。

 フラッシュの在り方は、理想の暗殺者そのものに見えた。

 

「……」

 

 俺は不満ながらも辛うじて自我を保てているのはソニックが発破をかけ目標を与えてくれたおかげと認めざるをえず、そういう意味でフラッシュに対しても複雑な心境を抱いていた。

 

「……明日は合同演習のようだな」

「……ああ」

 

 俺の何か言いたげな視線に気付くと、フラッシュは珍しく重々しい口を開いた。目線はこちらに合っておらず、並走は続けたままだ。

 俺はフラッシュの心境を推し量るチャンスがきたというのに、その重低音な声色のどこかに恐れを抱いていた。

 それは未知への恐れだ。フラッシュという男は良くも悪くも連携の時だけのように『必要なこと以外喋らない』

 長い間接するうちに俺はそうだと確信していたのかもしれない。

 

 何か、言葉に言い表せないようなとんでもない出来事が起きそうな予感がしていた。

 

「俺は明日の模擬戦で1班に上がる」

「憎らしい奴だな、確定したように言いやがって」

「もう確定しているからな、俺がそう決めた」

 

 フラッシュがそう言うのならば、そうなるのだろう。

 本気を出したフラッシュの実力ならば恐らく同期の全員でかかってもかなわない。

 

「それを俺に教えて、どうする気だ?」

「……さあな」

 

 それっきりフラッシュは口を閉じ、開かなくなってしまった。

 

 (結局、俺は一度もお前に勝つことはできなかったか)

 

 その純然たる事実を口に出さなかったのは俺の意地だろう。

 俺はソニックに挑み続けるため1班には上がれない。恐らく卒業まで変わらないだろう。

 一抹の寂しさが俺の胸をよぎりつつも、俺とフラッシュは並走をやめなかった。

 

 

 後から思えばこれは、頃合いというものだったのかもしれない。

 フラッシュがその後引き起こした事件を思えば、1班に上がったのは地盤固めのためであり立場を上げ教官を探り、動きやすくするためだったのだと容易に想像がついた。

 

 俺とフラッシュが再び武器を持って相対したのは、既に彼が教官と同期生を惨殺し、返り血を浴びた後だった。

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