さらに数年の月日がたち、俺はとうとう忍者の里からの卒業を迎えようとしていた。
結局ソニックに勝つことができなかったが俺も下っ端扱いとはいえ手塩にかけて育てられた22人の一人。
そう簡単に処分されることはないという確信があった。
とはいえ使い捨てのようにされるのは遠い日ではないだろうが……。
「血生臭い匂いがする」
卒業を目前とした深夜、俺はむくりと起き上がるとひっそりと、真っ暗な建物から抜け出し普段訓練している雑木林へ向かっていった。
俺がそうしたほうがいい、と磨き抜かれた直感で思ったからである。普段止める教官もなぜだかいない。
月夜に照らされた中、草木を掻き分けるたびに異臭が濃くなり俺は顔を顰めざるをえなかった。見慣れた訓練服、苦悶に満ちた表情の頭蓋、四散した手足……。
仲間だと思ったことは微塵もなかった。しかし彼らが同期生であることは変わらない。
教官に対しては憎んですらいた。しかし彼らが暗殺術を伝授してくれたことは事実だ。
俺は背を向けている、血潮がこびり付いた金髪の男を見つけ、静かに問いかける。
慣れ親しんだ男だ。
1番の目標だった男だ。
この中で唯一の生存者であり、この惨劇を起こした実行犯であろう男だ。
「閃光のフラッシュ。お前が殺したのか、生徒も教官も全員……皆殺しにしたのか」
「ああ、そうだ」
閃光のフラッシュは機械的にも思えるポーカーフェイスで俺に向き合った。
いつもと変わらないその仕草とは裏腹に、朱にまみれた金髪が現実をつきつける。
「どうして、と問いてもいいか?」
「ここで過ごしているうちに、暗殺者となる生徒も、切っ掛けのこの施設も含めて悪の種を全て摘み取らなければならないと思っただけだ。力に溺れようとするお前には理解できないだろうがな」
フラッシュは能面のような表情を晒しつつも、心の内側に正義を宿していた。
「お前はずいぶんと俺やソニックに執着を抱いていたみたいだが、目的が済めば普通に暗殺業に走る人間だ。忍者の里の関係者は、悪の源は根絶やしにしなければなるまい」
「……いつになく饒舌じゃないか、フラッシュ」
確かにその通りだ。俺は今までソニックとフラッシュへの憎しみだけで生きてきた人間だ。フラッシュの言った事実は当たっているだろう。
しかしこちらも反論がない訳ではない。お互いの痛い面は手に取るように分かった。
「だがお前自身はどうなんだフラッシュ。お前は皮肉にも忍者の里の最高傑作だ。
お前のその技は、その力は、この里で学んだものでしかない。
お前の存在自体が邪悪の化身なんだ――そもそもお前、ここを出ても死ぬ気はないだろ?」
そう、このフラッシュと言う男は仮にも生きるために必死だった同僚たちを皆殺しにして自分だけはのうのうと生き永らえようとしているのだ。
俺にとって到底許せることではない。
「俺にとってお前は、正義という訳のわからないものに囚われたイカレタ変人にしか見えない」
「盲目のようになったお前には分からなかったかもしれんが、44期生は全員が殺人を遂行するための暗殺者であり道具でしかなくなっていた。感情をあらわにしているのはお前とソニックぐらいだ」
お互いの主張は相手に通らない。暖簾に腕押し。糠に釘。
この瞬間、俺とフラッシュの思考は永遠に交わることはなくなった。
最早語ることはない。すっと、フラッシュと俺は刃を構える。
フラッシュが刺突のような構えをするのに対して、俺は刃を地面へ垂直に向けた。
互いの術も、強さも、手の内も知り尽くしている。
「お前が一番厄介だと思っていた。この里の誰よりもお前の成長速度は脅威だ」
「今更聞かされた所で嬉しくもないな。今はお前と同じ考えをしているよ――敵は殲滅するまでだ」
獲物を突き刺すようなフラッシュの構え、一見無防備に見える俺の構え。
一触即発となった俺達の頭上から一枚の葉っぱが枝から抜け、地面に向けてゆっくり落ち始めると同時に俺とフラッシュはその場から掻き消えていた。
忍者の戦闘は一瞬だ。目にも止まらぬ超光速の戦いは、葉が地面に落ちた頃には既に決着がついている。
閃光と終焉の戦い、制するのは――?