取るに足らない、路傍の石のような存在。
俺、閃光のフラッシュが常に5班にいる終わりのエンドに抱いた印象はそうだった。
エンドは44期生の中でも暗殺者としての才能がない、としか言いようがない男だ。
いくら鍛えられても成長が見込めず体術、忍術ともに下の下から進歩する気配がない。
基本的に里にとっての俺達は貴重な商品だが、エンドは里が定めた基準を満たせる要素が明確にない。
忍者の里は暗殺者として不出来な生徒を裏に送り出すことはしない。1流の暗殺者を生み出し続けてきたというブランドに傷がつくためだ。ならばエンドに待っているのは教官による処分、もしくは優秀な他の同期生にエンドを殺させ殺人の経験を積ませる糧となるか、訓練に耐えきれずに肉体が崩壊するか、凡人らしくメンタルが壊れるか。
少なくともエンドが死亡するのは、最後に俺が手を下すまでもなく時間の問題だと思っていた。
最初に異変に気が付いたのは5班の俺か、ソニックだっただろう。
何が切っ掛けなのかは不明だが全く成長が見られなかったエンドの力が、技のキレが、速さが、俺の成長をも凌駕する速度で上昇し始めたのだ。
天才が突如殻を破った、という風でもない。俺は既にエンドの器というものは見切っていた。
器に水を限界まで入れ、崩壊寸前になったと思ったら『器が勝手に広がった』
しかも無尽蔵に。そうとしか言いようがない異様な事態だった。
俺とエンドとの模擬戦もエンドが成長するに従って圧勝から苦戦するようになり、ギリギリで俺が競り勝つことが増えていった。
何の才能もないと思っていた人間が急激に伸びてきたのだから、俺達を鍛えていた教官もさぞ驚いたことだろう。何はともあれ廃棄処分されるはずだったエンドは、再び卒業の資格を手に入れ―――
―――それに応じて俺のエンドへの警戒も上がっていった。
本来は、完全に実力を隠すつもりだった俺が早期に1班に上がらざるを得なくなった理由もこれ以上エンドと過ごし手の内を明かすべきではない、と警戒したためだった。エンドの走行速度は全力の俺に迫りつつある。
俺は絶技をエンドに見せていない。エンドに俺の苦手意識を植え付けたまま計画の実行日を迎えるのが最善だと判断した。そう俺に思わせる程の脅威だった。
加えて俺ですら精神が摩耗するような訓練をしているにもかかわらず一見、一般人のようなまともに見える精神性を持ち合わせていることも不気味でしかなかった。
俺の心境を推し量り親睦を深めようとする。同期生や教官に恩のようなものを感じている。
他の同期生が殺人マシーンになりかけている中でのその立ち振る舞いはかえって異様でしかない。毎日拷問のような訓練を受けている薬づけの人間とはとても思えなかった。
最後までエンドが5班だった理由は間違いなくその精神性だろう。
忍者の里にとっては精神が壊れていないエンドやソニックは失敗作扱いの筈だ。
底が知れない成長速度。岩のようなメンタル。俺に対する執着。
俺が計画を完遂する上で一番の障害となるのがエンドなのは明らかだった。
ソニックと違って、俺を警戒しているエンドに毒物を飲ませることは困難だ。
計画の実行日の深夜、手早く教官を片付け、生徒を誘き寄せソニックとエンド以外を皆殺しにして待つと、案の定奴が来た。
「閃光のフラッシュ。お前が殺したのか、生徒も教官も全員……皆殺しにしたのか 」
俺は今更か、としか思えなかった。エンドほどの実力者が就寝中で建物外とはいえ戦闘に、俺の殺気に気が付かない訳がない。ならば答えは簡単だ。
エンドは無意識に、同期生を見殺しにした。
俺と1対1の戦闘になる上で、余計な戦力はむしろ邪魔にしかならないと思ったためだろう。
凡人の思考をしているかと思えば実は酷薄な面を持ち合わせているのは、暗殺者としてはメリットなのかもしれないが。
結局終わりのエンドという人間は、閃光のフラッシュと戦いたかっただけだ。
やはり忍者の里の関係者は皆殺しにするべきだ。
エンドもまた力に溺れた人間であり、明確な『悪』。閃光のフラッシュが殺すべき人間。
「お前が一番厄介だと思っていた。この里の誰よりもお前の成長速度は脅威だ」
エンドが脅威であろうと、計画を完遂する。
俺が刀を構えエンドを葬ろうとする理由は、それだけで十分だった。
次回から主人公目線に戻ります。