慣れ親しんだ庭の中。硬い土の地面も、木の幹も、1本の細い枝すら全てを足場として。
俺とフラッシュは跳ねる鞠のように、縦横無尽な軌道を用いて激しい攻防を繰り広げていた。
月光が照らす中、凶器と凶器がぶつかり火花が散る。
風が渦巻き大気は振動で震え続け、木々は大きくしなる。
常人では捉えられる筈もない、コンマ数秒以下の速度での戦闘。
『終極投』
『風刀脚』
俺は苦内を両手から投げる。手から離れたと思えば苦内は消え、既に獲物に突き刺さっているという凄まじい早業の投擲術、故に終極投。
フラッシュは俺の苦内を脚術が生み出した風の刃で容易に弾き飛ばした。
『終散閃斬』
接近した俺は胴切り、逆袈裟斬り、袈裟斬りといった斬撃を一瞬のうちに起こすも全てフラッシュを捉えることはなく地面に深い斬撃跡を残すだけだった。
『重閃斬』
『終焉陣』
フラッシュは俺の刀に刺突を繰り出し破壊しようとするが、俺は強引に刀を持ち上げ刺突を繰り出した刃の刃先を叩き折りカウンターの武器破壊を狙う。俺の狙いを看破したフラッシュは、なんと重量が乗った刺突を途中で刀の切り上げへと転ずることで、武器破壊を防ぐとともに勢いで跳躍する。
『青嵐拳』
俺の頭上から無数に降り注ぐフラッシュの拳は俺の剣の結界を突破できないが、こちらも腕を斬り飛ばす余裕はない。決め手がないと悟ったフラッシュは俺を飛び越えて木々に紛れようとする。その行動を許容できる俺ではない。
忍者同士の戦闘は、死角を取られればそれが文字通りの死に直結するからだ。
背後から苦内を投擲し、フラッシュの動きを制限した俺は猛然と飛び掛かる。
俺の戦闘本能が大きく警鐘を鳴らしたのはその時だった。
転身したフラッシュはいつの間にか俺に向き直っている。
逃げる獲物を追いかける形となった僅かな油断、フラッシュの目的はその隙をつくこと。必殺のカウンター。
【絶技】
フラッシュが、本気を見せる。
【閃光拳】
先程の青嵐拳とは比べ物にならない。今までの技が全て囮だったのだろうか、そう思える程の猛打の雨あられ。それに加え1発1発の威力も尋常ではない。閃光を思わせる鋭い拳は容易く俺の刃の守りを打ち砕く。体中に衝撃が叩きこまれた俺の大きな隙を見逃すフラッシュではなかった。
【絶技】
抜かれたのは、フラッシュの最強の一閃。終わりのエンドを終わらせる必殺の刃。
【閃光斬】
回避不可能なフラッシュの剣の一閃が、俺の胴体に吸い込まれていく。
走馬灯だろうか?その時俺は世界が、光速の世界の中にもかかわらず更にスローモーションのように見えた。そう、『本当に遅くなっている』ようにしか思えなかった。
だから、俺はその遅くなった世界の中刃を振るった。
必殺のタイミングで技を放ったフラッシュと体勢が崩れている俺。
どちらが勝利するかなど誰の目から見ても明らかだった。
明らかだった、筈だった。
【終焉斬】
俺の刃は、いとも簡単に絶技を放ったフラッシュの刃をへし折った。
何が起こったのか俺自身にもよく分からなかった。
感覚で理解したのは一つだけ。俺はたった今謎の力でソニックとフラッシュの実力に追いつき、追い越した。
越えてしまった。
空虚に襲われた俺は、驚愕の表情を浮かべたフラッシュに追撃を加えなかった。
殺そうと思えば、いつでもできただろう。
だが俺は亀のような鈍重な動きで俺から背を向け、逃亡するのも見逃した。
内から湧き出る謎の力が何なのかは分からない。
俺が望んだ力だった筈だ。それなのにどうして俺はこんなにも空しいのだろうか?
「やっぱり、最後まで忍者としては勝てなかったな――閃光のフラッシュ」
月光が俺という勝者を称えるように燦然と輝く中。
立ち止まっている俺の背後で、ようやく一枚の葉が地面に落ち切った。
その葉は開戦の合図となった葉だった。
これが閃光のような、死闘の開始から終わりまでの出来事だった。
リミッターが外れ、戦いに勝って勝負に負けました。