日が昇る頃。
フラッシュと死闘を繰り広げた俺は、病に倒れるソニックの元に戻ってきていた。ソニックは顔色が悪く、咳き込んでいた。タイミングが良すぎるためフラッシュが毒でも盛ったのだろう。恐らくフラッシュは忍者の里の施設関係者全員を皆殺しにするつもりの筈だ。
俺にはフラッシュの正義は分からなかったが、あいつは徹底的に悪を根絶するだろう、それぐらいは俺にも理解できた。
俺が容態を確かめようと寝具に近づくと、来訪者の気配に気付いたソニックは目を明け俺を確認し自嘲の笑みを浮かべる。外で何があったのか大体察することができたのだろう。
「ここにお前が戻ってきたということは、フラッシュは死んだのか」
「いや、逃げた」
「……どちらにせよ、お前が勝ったのか。そうなってもおかしくないとは思っていた」
数秒の重たげな沈黙の後に、ソニックは俺に向けて独り言のように語り始めた。
「お前が強くなったら、俺の野望を教えてやると約束していたな」
「ああ」
今のソニックの容態で無理をするべきではない。少しでも休息をとるべきだ。
それは本人が一番よく分かっていることだろう。
それでもソニックが話したいこととは何なのだろうか?
「俺の夢はこの忍者の里の最高幹部になって、施設を乗っ取ることだった。ここの組織形態を壊して、施設を乗っ取る。そして俺達のような孤児を自由に、将来の夢を掴めるように育ててやりたかった」
それは夢物語だ、できっこない……そう一笑に付すような理想論だった。
しかし俺はソニックの夢を笑うことはできなかった。
ソニックとフラッシュを超えた俺は目標を見失い、途方に暮れていたのもあった。
命令されたことをただやるだけの生活に慣れてしまった、ソニックとフラッシュへの憎しみだけが自我を保つ糧だった。そんな俺に命令する教官も、もういない。
「暗殺術なんて人殺し以外じゃ役に立たない。そうは思わないか」
「……俺達は人を殺すために生まれてきた存在だ。それでいい」
「本当にそう思っているのか?」
間髪入れずに問うてきたソニックの瞳に、表情に俺は気圧されるのを感じた。
相手は寝たきりの男だ。最早俺とソニックの実力は逆転している。それでもソニックの信念を目にして、俺は未だに勝てる気がしなかった。
ソニックは険しい表情を一度緩めると、僅かに微笑んだ。
「お前は強くなったようだが、俺は未だにお前に同情しているし憐れんでいる。
お前のような才能のなかった奴が、未だに俺を看病するほど人としての情を捨てきれないようなぬるま湯に使ったような奴が、こんなクソみたいな場所で暗殺者として育てられた。フラッシュを超える実力を手に入れてしまった。俺はお前のように何もできないままのたれ死ぬような存在を、一番救いたかったのかもしれんな」
なぜだか俺は、以前と違ってソニックが俺を憐れんだにも関わらず怒る気にはなれなかった。
「忍者の里はこれで終わりだ……もしかしたら最強となったお前にもちなんで『終わりの44期』とでも呼ばれることになるかもしれん」
「……」
実感はないが、そうなる未来は俺にも想像がついた。
これから俺は数多の組織につけ狙われることとなるだろう。
「エンド。強要するつもりはないが――暗殺者にならないでくれないか?」
「……どういうことだ?」
「俺が思うに、本当に価値のあるものは自分の人生を自由に生きる力だと、そう思っているからだ。傭兵、兵士、用心棒……なんでもいい。流石に正義の味方になっているお前は想像ができないがな」
「違いない」
「残された45期生……後輩は俺が面倒をみる。だから」
「分かった」
俺は静かに立ち上がる。ここを出て行動するなら迅速に動くべきだ。俺はフラッシュの起こした混乱に乗じて脱出するつもりだった。
最強の暗殺術を持った俺が暗殺者にならない。それがソニックの忍者の里に対する嫌味返しなのかもしれない。もしくは凡人だった俺に対する同情か。
らしくない、とは思った。ソニックも病に伏し気が弱っているのかもしれない。
しかしソニックの最期かもしれない願いを無碍にするつもりは俺になかった。
「ああ、それでいい」
「……」
俺は目を閉じたソニックを置いて寝床から、生まれ育った真っ黒な建物から出る。
静かに、しかし警戒しつつ里の外へ、林の外へ、この世の裏側の外へと消えていく。
今の俺が地獄の窯の外で何ができるのか。それはまだ分からなかった―――。
数年後のとある場所。
「物凄い轟音が続いています!突如A市を襲った大爆発は規模を拡大させ……」
A市を光球が飛び交い、轟音とともに建物が崩れていく。
生み出しているのは青い姿のウイルスの姿をしたような怪人だ。
破壊の権化と化した怪人は……しかし次の瞬間には肉片のようになっていた。
強力な怪人が、まるで死神の鎌が振るわれたように突如細切れになる。
数件あった出来事から、そのような都市伝説がやがて人々の間で浸透していくようになる。
都市伝説の名前はシンプルだった。
『終わりをもたらすもの』
地獄の窯の外で、終わりのエンドは今日もひっそりと生きている。
ソニックが若干マイルドかもしれませんが、主人公の影響です。
元々はソニックやフラッシュが好きでかっこいい忍者組に憧れて執筆をしたのですが、執筆しているうちに思いのほか人情味のある主人公になってしまい難しかったです。
番外編はあるかもしれませんが、キリがいいのでここで筆を置かせて頂きます。
ここまで読んで下さりありがとうございました。