放課後、シャルルはルミアに付き合って実験を見守っていた。
水銀が…と、魔法陣に足りない部分を発見し言おうとしたところで、扉が開いた。
「にぃ…?」「グレン先生!」
「生徒が勝手に魔術実験室使っちゃいけないんだが…?」
「す、すみません。すぐ片付けます!」
「あーいいよ、そこまでやったんなら続けろ…、水銀、足りてなくね?」
「え?あ、ほんとだ…」
グレンが膝をついて魔法陣に手を加えていく光景をシャルルは机の上に座って見ていた。
(ルミアも、グレンにぃを変えてくれるかもしれない…。)
「っつーか、俺が来なくてもシャルが教えたんじゃねえの?」
「まあ、でもせっかく教師が来たんだし、お任せしましょーってことで。」
「ふっ、お前らしいな。」
魔法陣を完成させ、実験が成功したところで、僕は一言断って先に教室を出た。
向かう先は屋上。
「お?シャルか。一緒に帰らなかったのか?」
「師匠が上にいるってわかったので…。あの、このままだとにぃは利用されて終わりますよ。師匠もわかってるでしょ?」
「ああ…。ルミアの話か。」
「そう。僕の知り得るところでは、1週間後この学校にも被害が及ぶ。」
「っ…やはり、あの日を狙ったか…。グレンは知ってるのか…?」
シャルの情報に一切の疑いも見せないのは、シャルがそれだけの実力者で信頼されているからだ。
「まさか。知るわけないですよ。学校の設備いくつか吹き飛ばすかもしれないけど、これもにぃにはいい機会ですから。今回は僕は最低限の手助けしかしないつもりなので。大半はにぃに任せます。」
「そうか…人命に関わらないなら、それでもいいだろう。私もグレンにはもっと世界を見てほしい。」
「この短期間でにぃはだいぶ丸くなりましたよ。目に少しだけ光が戻ってる。もっと、もっと…にぃは強く輝けます。」
「…ああ、そうだな。全くだ…見ろ、だめ兄貴としっかり妹って感じだな。」
夕焼けの中を歩くルミアとグレンの姿はそう見えた。何を言ってるのかわからないが、ずっこけているグレンとくすくす笑うルミア…。
「じゃあ、僕もそろそろ仕事に行きますね」
「そうか、気をつけてな。」
「はい。」
眩しい。
そう呟いた声は誰も拾うことはなかった。
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カラン…コロン……コンコン…コン…カラン…
「いらっしゃい…入ってきなさい…」
二重ドアの外側についている鈴を「カラン…コロン…」。
間を開けて二回のノック。間を開けてもう一度ノック。
最後に鈴を「カラン…」。
この店に入るための合図だ。中から中性的な声が聞こえてきたら合格である。
「何を頼みますの…?」
居心地のいい暗い照明の影…カウンターの奥に佇む人物が問いかけてくる。認識阻害なのか、顔は見えない。背姿もよくわからない。妙なお嬢様口調を使うが、己を偽るために何でもする人は多いから、一概に女とは言えない。
「酒」
「ふーん…あなた、ここは初めてかしら…?」
「ああ。」
「そう。ならまず誓約書を記入して頂戴。ランプは必要かしら?」
「頼もう。」
「これを使いなさい。」
誓約書
1.貴殿が依頼したことが達成されなかった場合、責任を押し付けることを禁止とする。ただし、前払い頂いていた場合は返金することを約束する。
2.ここで話したことに対する口外・漏洩を禁止する。口外した場合は貴殿と教えた相手を消させていただくことをご了承いただきたい。
3.貴殿がここを気に入り他の者に紹介したい場合、一度マスターに断りを入れること。
4.支払いは金または、マスターの願いを叶えることとする。願いはMENUに記されているうちから選ぶこととする。支払いがなされなかった場合は消させていただく。
5.以上のことを守れるものの依頼のみを聞くこととする。
なお、この誓約書は一度記すと消えないものとなる。
サインは偽名でも構わないが、貴殿の血をたらすこと。偽証が判明した場合には誓約書は無効とする。
サイン
男は躊躇うことなくサインした。
「本当にいいのね…?」
「ああ。」
「…確認したわ。ようこそ、宵闇へ…。酒の提供は最短1日、最長2週間よ。どの酒かを選んで、製造される日を教えて頂戴。それから前払いか後払いかも選んでくださいまし?私の願いを叶える場合は、物品や知恵の場合はどちらでも構わないけれど、そうでない場合は後払いとさせていただくわ。」
「酒は……。」
「受理したわ。では3日後いらして頂戴。」
男は出ていった。
「ふぁぁ…。こんな生活してるから昼間寝ちゃうんだよなぁ。」
宵闇のマスターは、シャルル・ユースティアだ。