原作者様に、ツイートしてもらえて恐悦至極です!
多分、設定とかに矛盾とか、無理があるところか、色々あると思いますが。
心の中で罵倒しながら、優しく見逃してくださいませ。
別れは寂しい。
『さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ』と言ったのは、さて、誰だっただろうか? よく覚えていないが、多分、古い海外の小説を和訳した何かの一文だった気がする。
もっとも、僕の知識なんて大抵、原点に触れることなく、引用した漫画かアニメで知ることが大概なのだが。
ともあれ、言葉を繰り返そう。
別れは寂しい。
それがかつて、飽きる程毎日、狭苦しい部屋でセッションを繰り返していた仲間なら。
「きっと、異世界転生しているぜ、あの人は」
先輩の葬式の後、僕らの古馴染みは久しぶりに集まって酒を飲んだ。
酒飲みだというのに、何故か全員、ボロボロになった文庫版のルルブを持ってきて、しかも、キャラクターシートやダイスまで一式準備しているのだから度し難い。
僕らは追悼セッションという名目で、久しぶりに夜が明けるまで遊んだ。
久しぶりに会う奴が多かったというのに、会話はほとんどTRPG関連のことばかり。
時折、あの人だったらこうするよな? とか、あいつだったら、絶対にファンブル出す流れだったよな、などと笑い合った物だ。
――――涙なんて流さない。
僕たち大人は、悲しみで涙を流す権利を失う代わりに、涙の数だけ酒を飲むのだ。
「多分、やたら情が深い女に絡まれるよ、絶対」
「人外スキーだから、幼馴染が人外の美少女になるぜ」
「アラクネの妖艶な美女かね?」
「いや、そこはロリにしておこうぜ」
「ケンタウロスは! ケンタウロスの美少女は駄目ですか!?」
「PC1(主人公)でセッションすると、ヒロインの業が深くなったよなぁ」
酒を飲み、ダイスを転がし、笑い合う。
誰しも疲れて、頭が回らなくなるまで。
もういい加減、誰しもいい大人たちだったけれども、せめて、この時はかつての青春時代を思い出して。
「では、我らが友の異世界転生を祝して!!」
「「「かんぱーい!!」」」
だから、僕たちは湿っぽい空気を追い出すように、騒いで追悼することにした。
その方が、先輩も「私たちの性にあっている」とかしたり顔で笑っていそうで。
うん、だからきっと、ボクたちは良い別れが出来たのだと思う。
…………どれだけ良い別れでも、やはり寂しさは消えないのだけれども。
●●●
「ただいま! 僕は初恋のお姉さんに邪教団の生贄にされたけど、なんか降臨した邪霊と和解して生き延びたシュラウド! こちらは、そんな不思議生物となった僕を捕まえるために、態々やって来てくれたお偉いさんだよ! ひかえおろう!」
「息子ェ……」
色々あって高レベルエネミーと化した僕だったのだが、まるでGMから「いいよもう。仕方ないからそのデータで参加しなよ」と渋々許可を得て、PCに舞い戻った感覚で、命を繋ぎ止めることが出来たのだった。
まぁ、いつ死ぬか分からないんだけどね!
生殺与奪の権を渡しまくりよ! でも仕方ないね、公式チートみたいなNPCとことを構えるなんて、徹夜中のセッションぐらいしかやらないし。何より、残機(新しいキャラクターシート)が無いので、無茶は出来ない。
命を大事に!
そんなわけで、明け方あたりに隊商に戻ってきて、色々と説明している最中なのでした。
「息子の人生が奇想天外過ぎて胃に悪い……ううっ」
「大丈夫? 父さん。これから、僕が危険生物として帝都の魔導院で管理される感じの説明を受けるだろうけど、精神は大丈夫?」
「…………ははっ。大丈夫、伊達にお前の父親じゃないからな!」
「おおっ、流石父さん! 母さんに『あの子は悪魔の子よ!』と泣きつかれても、僕を捨てなかった男!」
「お前、そういう場面をこっそり見ていたんだったら、態度を改めろよな?」
「(憂いに満ちながらも、かすかな覚悟と決意を感じさせる少年の笑み)」
「芸風を更新していくんじゃない」
僕と父さんが再開の喜びに浸っていると、何故か、白衣のお兄さんが静かに引いていた。
「…………ヒト種の価値観は変わりやすいですね」
「待ってください、見知らぬお偉い様。我々のコミュニケーションはヒト種の中でも、かなり例外なので、勘違いなされないよう」
「そうそう。僕なんてこの通り、生まれた時からの例外みたいなもんだから」
「産声よりも先に、変なポーズでわけわからない言葉を発したからな、お前」
「あー、覚えている、覚えている。あれね、異国の言葉で『僕より偉い奴はいねぇ!』という言葉の意味でね? いやぁ、あの時は若かった」
「生まれたてェ!!」
「…………」
「おっと、父さん。そろそろ、お偉いさんが『やはり処理した方がいいのでは?』という顔になっているから、真面目に感動の別れを演出しようよ」
「演出と言っている時点で無理だぞ?」
「…………はぁ。とりあえず、御子息のこれからについて説明しましょう」
その後、僕らの漫才に呆れていた白衣のお兄さんが説明した内容は、以下の通り。
まず、僕が非常に危険な生命体であることは変わらない。幸いなことに、魔法を制御し、暴発せず、感情も異様に落ち着いているので、処理を保留しているのが現状だ。
魔導院としては、暴発する危険性が少ないのであれば、是非とも珍しい被験体は欲しい! とても欲しいわぁ! という本音を、『幼い子供が必死に己の内の邪悪に抗っているんです! それを救えずして、何が魔道を歩む物か!』みたいな建前で誤魔化し、命を助けることは可能らしいとの見込み。
その後、ある程度、管理が出来るようになるのであれば、『飼育』という実験に移行するだろうとの旨を、白衣のお兄さんは包み隠さず説明してくれた。
無論、僕が暴走の危険があると判断されたら、処理される可能性は常に付き纏うらしいが。
「これは、帝国の法律として定められた事です。残念ながら、貴方たちに拒否権はありません」
「ぐ、ぐぐぐ…………しかし、こんなのでも、あ、愛する……一応? 多分……うん、愛する息子なのだ!」
「すっごい言い淀みました、この人」
「せめて、息子に危険が少なく、制御可能であると判断したら、一個人として扱われるように取り計らって貰いたい! どうか、どうか……っ!」
「僕からのお願いします! どうか、どうか、父の願いを叶えさせてやってください! この通りです!」
「お前が当事者ァ!!」
「ぼぎゅっ」
僕は父さんのボディーブローを受けて、地に伏せる。
ふへへへ、中々良いパンチ持っているじゃねぇか。
「ええと、この言動は儀式よりも以前から?」
「残念なことに、生まれた時からこの有様です」
「馬鹿は死んでも治らねぇ!」
「この通り、時折、奇声を上げて意味不明な言葉を喚きますが、基本的に害は無いので気にしないでください」
白衣のお兄さんが、露骨に『面倒くせぇ』という顔を作った。
しかし、根が良い人なのだろう。しばし、ぶつくさと何かを呟いた後、がりがり頭を掻いて、大きくため息を一つ。
「分かりました。あくまでも、御子息の努力次第ですが、聴講生から、魔導師への昇格が出来る様に取り計らいましょう。もちろん、それだけの実力を持ち、周囲から相応に認められることが条件ですが…………加えて、聴講生として魔導院で生活するには学費も支払ってもらわなければいけません。これに関しては、しばらく保留としましょう。一旦、私が預かります。まず、実験動物以上の立場を確立させてから、本人も交えて話し合うことです」
「分かりました……お気遣いありがとうございます。どうか、どうか、生まれた時からよくわからない生物である息子ですが、殺しても死なないような息子ですが、こき使ってやってください」
「あっはっは! 流石の僕も、心臓を貫かれたり、首を切られたら死ぬぜ!?」
「…………それに関しては、体の相がずれ始めているので微妙ですね」
「わぁい! いつの間にか、僕は人間試験を卒業していたぞぉ、ジョジョーっ!!」
「………………ご迷惑をおかけします」
「出来る限りは、しましょう」
ううん、僕って人の善意によって生かされているよね、有難い限りだ。
地面に這いつくばりながら、僕は良縁に感謝する。特に、生贄にされかけた翌日だと、人の優しさが身に染みるぜ。
と、そうだ。
「父さんや、父さんや」
「なんだ、息子よ。言っておくが、これ以上、お偉いさんを漫才に付き合わせるなよ?」
「それは流石にね」
良いルーニーとしての条件は、その場の空気を読めることなのだ。
いつまでも、どこまでもふざけている狂人(デッドプール)よりも、きちんと締めるところは締める英雄(スパイダーマン)でありたい。
え? 手遅れ? いやいや、そんなまさか。
「まず、母さんはまたヒステリックになると思うから、フォローを頼むよ。それと、貴方は愛していなかっただろうけど、僕はそれなりに愛していたと伝言を」
「…………ああ」
「弟には、勉強をマジで頑張れ…………いや、偏屈だけど優秀な女の人を伴侶に選べと」
「それな」
「そして…………父さん、行ってきます。お土産は何が良い?」
僕の言葉に、くしゃり、と一度顔を歪めると父さんは震える声で応えた。
「金とコネクション」
「感動してくれても、そこは現実的なのね?」
「うるせぇ」
「あははははは! んじゃあ、お元気で!」
かくして僕は、危険生物として帝都に輸送されることになったのである。
●●●
アレウスは魔導院の黎明派に席を置く、長命種の教授である。
年は既に二百を超え、ヒト種にとって膨大なる年月のほとんどを、魔術の研鑽と研究に費やした筋金入りの魔導師だ。
もっとも、アレウスのような経歴の長命種は、魔導院に於いて珍しくは無い。
多種多様な種族が混在する三重帝国、その中枢である帝都に位置する魔導院。鴉の巣と呼ばれる場所は、あらゆる意味で実力主義の場所だ。
例えば、純粋なる魔力。
例えば、積み上げられた知識。
例えば、実戦によって磨き上げられた経験。
例えば、血筋。
例えば、コネクション。
どれか一つ突出しているだけでは、魔導院では一人前の魔導師とは認められない。
己の力を見極めて、それをきちんと誰にでもわかる形に解明し、自分だけが使えるユニークとしてではなく、技術として体系化するぐらいでなくては魔導師とは呼べないのだ。
もっとも、一人前と認められる魔導師のほとんどが、己の奥の手を幾つも秘匿しており、数多の『初見殺し』を携えているのだから、研究結果や外聞のみで魔導師の実力を分かった気になるのは危険かもしれない。
かくいう、アレウスもその手の『初見殺し』を幾つも隠し持ち、なおかつ、魔導院に一定の立場を持つ一級の魔導師だ。
ただ、アレウスが他の長命種の魔導師と変わっている点があるとすれば、それは一つ。
――――彼が、黎明派で五指の指に入る苦労人であるということだろう。
『緊急を要する案件を感知しました。休暇のところ、誠に申し訳ありませんが、アレウス教授には一つ、フィールドワークをして頂きたい』
日々の激務から解放され、まとまった休暇で精神を癒していたアレウスだったが、突如として舞い込んだその連絡に、思わず顔を顰めた。
一瞬、何もかもを聞かなかったことにしてバックレようと考えたのだが、長命種としては珍しい部類に入る協調性やら、責任感がズシリと肩に圧し掛かり、それを断念した。
休暇中、しかも、相応の立場に居る教授に連絡が入る案件となると、緊急の中でも度合いが高い。最悪、村か街の一つが滅びることになりかねない。
アレウスはため息を一つ吐くと、邪教団が『何か』を召喚したと思しき場所へと急いだ。
「全面的に降伏するので、命ばかりはお助けを」
結論から言えば、そこに居たのはアレウスの予想を凌駕する『何か』だった。
外見だけを見れば、赤毛の少年である。特に目立った特徴などは無い。へらへらとした笑みを浮かべて、何を考えているか分からない顔をしている少年だ。
けれども、その内側に宿した物が分からない。明らかに人間の内側で許容してはならない冒涜的な何かがあるというのに、それを少年は完全に掌握し、我が物としていた。
平然と、一切の無理無茶無謀などが感じられない佇まいで。
まだ、悍ましき邪神の理を持つ怪物が出現していた方がアレウスとしては分かりやすい。だから、予想外のトラブル(ファンブル)で下手を討たないように、殺そうとした。
殺そうとしたが、殺せなかった。
アレウスが持つ手札の内の一つ。『初見殺し』の一つを使ったというのに、殺せなかった。偶然かもしれない。だが。感知不可能、防御不能、つまりはリアクション不可の即死攻撃を放ったはずなのに、直前で、投げられた小石でも避ける様に回避されたのは事実。
アレウスは警戒を最大限にまで引き上げ、油断なく眼前の『何か』を圧殺しようとしたのだが、そうすると今度は、あっさりと全面降伏して命乞いするから訳が分からない。
魔法を発動する予兆すら見せず、だらんと、己が足下で無防備を晒す少年を見て、アレウスの判断は延長される。
殺すべきか、殺さないべきか。
少し悩んだ上で、やはり不確定要素は消し去るべきとアレウスは考えた。言葉を交わせるのであれば、適当に言葉を交わしている最中に不意を打つ形で、戦いを始めよう、と。
「僕を生かしておけば、良いことがありますぜ、お兄さん」
「ええと、具体的には?」
「ふっわふわのパンケーキが焼けます」
「ふっわふわのパンケーキ」
「自信作ですよ?」
しかし、会話の最中で再び、アレウスは己の殺気が萎えるのを自覚した。
理由は、アレウスの過去にある。
アレウスの本名はもっと長ったらしく、一応、貴族としての席を持つ人物だ。そのため、幼い頃は両親の代わりに、様々な種族のメイドたちが彼の世話をすることになっていた。
その内、両親はアレウスに自分自身で世話役を選ばせるようになり、アレウスはきちんとした観察眼をもって、優秀なる人材を囲い始めた。
ただ一人、ヒト種のメイドを除いて。
『得意分野は?』
『はい! ふっわふわのパンケーキを焼けることです! 自信作ですよぉ?』
アレウス自身、どうして、そのメイドを雇うことにしたのか、わからなかった。面接でも実技でも、これといった優秀さは見当たらなかったというのに。けれども、事実としてアレウスはそのメイドを雇い、メイドが老いて職を辞するまで傍に置いていたのである。
無能ではなかった。
だが、態々傍に置いておくほどの有能でもなく。
けれども、何故かそのメイドの周りには笑顔が絶えず。
そしてなにより、そのメイドが焼くパンケーキを、アレウスは気に入っていたのだった。
「…………ああもう。面倒くさい……はぁ、いいや」
短い回想の中で、アレウスは完全に戦意を失くしていた。
見る限りでは、理性はきちんと保たれてあり、暴走も無い。『邪教団を皆殺しにした後』だというのに、まるで普通の少年のように笑顔を浮かべる精神性には疑問があるが、魔法を使う存在としては、その冷静さは望ましい。
よって、アレウスは休暇を早めに切り上げて、また、面倒ごとを背負い込むことになってしまったのである。
それを後悔することになったのは、少年――シュラウドの父親を説得し、帝都の魔導院まで戻ることになってからだ。
「ふんふふふーん♪ ふふふふーん♪」
「…………シュラウド」
「はいさ、アレウス様。何の御用で?」
「その鼻歌はどこで覚えたのです?」
「天より舞い降りた音楽でございます」
「…………時折、良く分からない言語で歌っているあれは? 呪歌ではないようですが」
「母が、よく、子守歌として聞かせてくれたんですよ…………ふふっ、懐かしい」
「一瞬でバレる嘘は止めなさい」
「はぁーい」
シュラウドはまだ幼く、親元から離れるということになれば、精神に不安が生まれ、何かしらの問題が発生するかと予測していたアレウスだったが、予想は真逆。
まるで、ちょっと近所の料理店へ出向くような気軽さで、シュラウドは奇行を繰り返しながらも、精神がとても安定していた。安定しすぎていた。
一人前の大人ですら、理不尽に与えられ、奪われ、翻弄される時は多少狼狽するものだ。だというのに、シュラウドの精神には全く乱れが感じられない。
いや、百歩譲ってそれは良い。
ただ、この奇行の様子が続くのであれば、魔導院の伝手に紹介し、検体への移送を阻止するのは少々難しくなりそうだと、アレウスは頭を悩ませていたのである。
「ふむ、ここまで安定しているのならば問題ないだろう」
「妖精憑きにしては、落ち着いた子だな。確かに、不確定要素の多い今回のケースに於いて、無理にその安定を崩す必要はない、か」
「魔法の制御が出来ているのだろう? ならば、君が責任を持つなら、問題ない」
「ほう、中々面白い子供じゃないか。いいさ、認めよう」
実際に、挨拶周りを終えるまでは。
アレウスの予想に反して、シュラウドは挨拶周りの最中――あくまで商人の子としては――礼儀正しく、落ち着いた態度を見せていたのだ。
奇行は一つも無く、場の空気を読んで、静かにアレウスの傍で控えている様子は、さぞかし『良い子』に見えただろう。無論、黎明派の教授たちもその程度で『安全だ』などと判断することは無かったのだが、状況が安定していて、実験を可能とする猶予があると考えれば、判断が様子見へと傾くのが研究者たちである。また、責任はアレウスの所在となっているので、目立った問題が無ければ、了承は得られやすかったのかもしれない。
「うっひょーい! 今日から僕もシティボーイじゃーい!!」
「…………はぁ」
アレウスは、割り当てられた部屋のベッドに飛び込むシュラウドの姿を見て、その日、何度目か分からない溜息を吐いた。
とりあえず、処遇としては要観察の実験体。
だが、『己の境遇を乗り越えて、同志となる資格を持つ者』ならば、聴講生へと処遇が昇格する可能性があるということに落ち着いた。それ自体はおおむねアレウスの予想通りであったのだが、過程でかなりの疲労を覚えたし、何より、アレウスとアレウス以外へ見せるシュラウドの態度の違いが、疲労を助長していた。
「いえ、考えようによっては楽な部類です、ええ、きっと。この年頃の少年が、得体の知れない力に怯え、振り回されるのを監督するよりは、大分…………楽である、はず?」
「わぁい! キッチン! 中々良い設備のキッチンがありますねぇ! アレウス様ぁ! このキッチンを早速使ってもよろしいので!?」
「…………好きにしなさい」
「やったぁ! 帝都に来てから、買い漁った食材の出番だぜ!」
シュラウドが意気揚々とキッチンへ向かう姿を見て、アレウスは再度溜息を吐く。
これからまだまだ、アレウスがやるべきことは山積みだ。その上、休暇を切り上げてきてしまったのだから、損してしまった気分しかない。
一応、シュラウドの境遇だけを見れば、悲劇の少年として歌劇が作られてもおかしくないのだが、その実体があれなのだから、アレウスとしては同情しにくかった。そもそも、シュラウド自身、悲しいと思っているかも分からない。
厄介な奴を背負い込んでしまったな、とアレウスは再度、己の気力が萎えるのを感じていたが、今更放り投げる程無責任でもなく。
「へーい、アレウス様! 出来ましたぜ!」
「…………いえ、別に。私の分は必要な―――」
「ふっわふわのパンケーキが出来たので、食べてくださいな! 命乞いの条件だったでしょう?」
「………………あぁ」
もはや、どうとでもなれ、という境地へとアレウスは至っていた。
仕事は山積み。
面倒ごとはさらに盛りだくさん。
まさに災難ばかりの休暇明けとなってしまったのだから、それも当然だ。
ただ、それでも一つ、アレウスが報われることがあったとすれば。
「なるほど、確かに…………これは、美味しいですね」
厄介者が作ったパンケーキは予想以上に美味しく、どこか、懐かしい味だったことぐらいだろう。
●●●
十四歳の夏、僕は念願の聴講生となった。
そう、つまりは実験動物から、人間扱いへの昇格である。
人権を! 得たぜ!!
とまぁ、十四歳にもなってはしゃぐ僕であるが、そこら辺は勘弁してほしい。何せ、魔導院で過ごした二年間というのはそれなりに大変だったのだから。
ただ、前置きをしておけば、アレウス教授からの待遇は悪く無かった。むしろ、要観察の実験動物としては、非常に気を遣ってくれた方だろう。
結構、上等な宿の個室を与えられ、生活費や食費は諸々、経費として負担してくれていたので、むしろ、隊商で回っている時よりも贅沢な暮らしをしているまでもあったよ。
では、実験の内容などが大変だったのか?
それも違う。
僕の体質やら、魔法の傾向やらを調べる実験は基本的に、何度も魔法を使って効果を調べる地味な物や、無害な魔法薬を飲んで体調を記録したりなど、比較的人道的な物ばかり。
これで文句を言っていたら、他の検体に文句を言われてしまうね!
まぁ、他の検体なんて、理性を失った怪物ぐらいしか見たこと無いんだけれど。
では、何が大変だったのか?
その答えは明白である。
「…………あの、アレウス教授」
「なんですか?」
「僕の机の上に山積みになった分厚い本たちは一体?」
「勉強しなさい」
「えっ?」
「最低限、ここにある魔術を覚えて使えるようになりなさい。実戦で使え、とは言いません。ですが、君の立場から聴講生へと昇格するためには、この程度は最低条件です」
「…………待って、アレウス教授。さらっと、本を開いてみたら序文だけで難解なんですけど? 馬鹿にもわかる魔導書とかありません?」
「…………」
「わぁ、無言で辞典を渡されたぁ!」
「この際ですので、宮廷語も覚えなさい」
アレウス教授からの愛のムチ(勉強)が、とても大変でした。
いや、わかるんですよ? 彼はぶっきらぼうで、何事も溜息から入るような面倒臭がりではあるものの、最終的には責任を感じてどうにかしてしまうタイプの苦労人であると。故に、僕への対処も、きっちりと投げ出さず、万全を期すように勉強を大盛にしてくれたのだと。
その気持ちは嬉しい。とても嬉しかったよ、僕。思わず、お昼のパンケーキを大盛にして、クリームを添えたりして感謝の意を表したもの。
でもね、はっきり言おう…………魔術の勉強、クッソ難しい。
前にも言ったが、僕の頭脳は聡明ではなく、早熟なだけ。
つまりは、前世で培った中途半端な学問の知識と、現世で培った商人としての知識しかない。魔導師となるための土台がゼロの状況なのです。
オッケー、分かりやすく例えよう。
中学生が突然、一流大学の勉強をしているような気分って言えば、僕の戸惑いを理解してくれるはずだ。何せ、山を小さじで削っているが如き徒労感を覚える程に難しい。
や、魔術自体は使えるんだよ?
こんなの、と分かっていれば、なんとなーくは使える。伊達に邪霊憑きではないのだ。でもね? それはテストで途中式を書かずに、答えだけ書くような物。しかも、途中式を書かないのではなく、書けないのだから余計に大変だ。
「………………アレウス教授」
「はい、なんでしょうか?」
「頭が良くなる薬ってないですか? こう、僕が子供の頃に読んだ物語の中には、一口飲めば、頭が冴えわたる妙薬があったんですが」
「なるほど、では、これをどうぞ」
「わぁい! さっすが、アレウス教授! ごくごくごく……ぷはぁ! ミント味!」
「飲みましたね?」
「えっ?」
「たった今、飲ませた薬は眠れなくなる薬です」
「えっ?」
「それで、これが解毒薬です」
「あの」
「この課題を解くか、私にクリーンヒットを一回でも与えれば、解毒剤を与えましょう」
「わぁ」
幸か不幸か、アレウス教授は外見に似合わず、熱血スパルタ系の教育方針だった。加えて、僕の人権があやふやな状態なので、どんな危険な教育だろうとも、死ななければ易いというスタイルである。
加えて、アレウス教授は魔導師の実戦も大事にする人だった。
どれだけの叡智を蓄えたとしても、その頭脳がたった一投の礫で零れることがあってはならない。故に、魔導師こそ、実戦を予想して鍛えておくべきだ、というのがアレウス教授の持論だった。
「シュラウド」
「はい」
「魔導師は、いわゆる『柔らかい後衛』であってはいけません。魔術を極める物こそ、その分、体も鍛えなさい。かつて、わが師は言いました。魔術を使って、盗賊を一人殺すよりも、筋力で殴って殺せるのならば、そちらの方がいい、と」
「ひょっとして、そのお師匠さんは前衛系魔導師だったのでは?」
「ええ、『魔導師こそ前衛に立つべし!』というのが口癖でして…………なので、これから私は貴方に戦闘技術を叩き込みます」
「はい」
「まずはステップワン。互いに魔術を使わない戦いです。この訓練で、私から一本を取れば、次の段階に移りましょう」
「わぁ、とてつもなくキレのいい拳闘の動き(シャドーボクシング)」
僕はこれでも、美少女冒険者の方から組技を習っていたので、多少の自信があったのだが、その自信は粉みじんに打ち砕かれた。ついでに、骨にもいくらかヒビが入った。直ぐに治されて、無理やり立ち上がらされた。
やー、強いよね、マジで。
魔術を一切使わないのに、世界チャンピオンみたいな軽やかなフットワークと、鋭い拳が、毎日僕の意識を刈り取っちゃうよね。
そんなわけで、聴講生へと昇格するまで、僕の生活といえば、勉強と格闘訓練と、パンケーキを焼くぐらい。
ひたすらそれを繰り返して。
魔術を頭に叩き込んで。
拳を顔面に叩き込まれて。
パンケーキを焼いて。
繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して。
「ふむ、筆記も実技も問題なし。訓練に関しても、ステップスリーで何回か私に一撃当てるぐらいには成長しましたね。よろしい。シュラウド、我々魔導院は貴方を聴講生として認めることにしました」
気づけば、僕は認められていた。
精神耐性が無ければ、自分のことを勉強しながら殴られるだけの、パンケーキ製造マシンだと思い込んでいたかもしれないが、ともあれ、昇格である。
「わぁい! 実験動物からの脱却だぁ!」
「おめでとうございます、シュラウド」
「ありがとう、アレウス教授! 貴方のおかげです!」
「いえ、貴方が頑張ったおかげですよ…………これは、私からのお祝いです」
「やったぁ! ご褒美だぁ! 一瞬、お祝いの品なのに、薄い封筒に入った何かだけ? とか思っちゃったけど、そこは黎明派で二年も暮らしていた僕ですよ! 分かっています。こういう控えめだけど、実は封筒の中には凄い代物が入っていて…………えっと、何ですか、このリスト? 色んな場所の名前が書いていますけど?」
「御用板以外に、聴講生がお金を稼げる場所のリストです。私からの推薦だと言えば、仕事を回してくれるでしょう」
「えっと、それはつまり?」
昇格した僕を、アレウス教授は珍しい微笑みと共に祝福してくれた。
「働きなさい、シュラウド。来月から、生活費と学費を自分で稼ぐのです」
それはさながら、深い谷へと我が子を突き落とす獅子の笑みにも似ていたと思う。
こうして、僕は聴講生となり、実験動物としての生活保障を失ったのだった。
●●●
それは小さな森に住まう王だった。
身の丈は平均的なヒト種の成人男性、二人分。毛皮は、鍛え上げられた鉄で作られた矢じりですらも徹さない。全身を鋼の如き肉体で包まれたそれは、横薙ぎ一つで、軽々と木々をへし折るだろう。
加えて、力が強いだけではない。
彼の王は、同種に比べて極めて賢かった。
数々の狩人が仕掛けた罠を学び、学習し、時に、不可解な技術を扱う者共が現れても、動じずに対処した。大抵の場合、彼が不意を突いて飛び掛かり、思いきり前足を叩きつければ、それでことが終わるのだから。
やがて、数多の外敵たちを屠っていくうちに、彼の王には『赤兜』という二つ名で呼ばれることとなる。
それは、多くの人間の血肉を食らい、頭部が赤く染まっているように見えたことが由来となっているらしい。あるいは、頑強なる毛皮と肉体を指して、鎧を纏った戦士の様だと人々が恐れていたからかもしれない。
『赤兜』と名付けられた、森の王――大熊は、それほど周囲の村々から恐れられていたのだった。もしや、尋常ならざる何かをその身に宿しているのではないか、と。
『よーし、よしよし、どんどんそだてー♪』
事実、『赤兜』は普通の個体とは違い、加護を受けて強靱に育った存在である。
『赤兜』に加護を授けたのは、とある妖精だった。彼女は本来、小さな森の中でのんびりと暮らすだけの無害な妖精だったのだが、ある日、森の中に赤い頭巾を被った女の子が迷い込んでしまった時から、少しばかり傾向が変わってしまった。
赤い頭巾の下に、輝く金髪を隠した、青い目の少女。
妖精は瞬く間に彼女を気に入り、とても『大切』にした。
彼女が欲しがったパンケーキだって、たくさん買えるように、金貨が湧き出る木槌をあげたし。彼女が好ましく思っていた男性を魅了するために、特別な唇をあげたことだってある。
けれど、いつからか、その少女は妖精を恐れるようになっていった。
その恐れは、祝福を受けすぎる寸前に感じた、違和感だったのかもしれない。これ以上はまずい、という理性のブレーキが、少女を妖精から遠ざけたのだった。
『いつかまた、会いに来る』という適当な約束で、妖精を騙して、少女は遠くの町へと逃げてしまったのである。
『まだかなー? まだかな、まだかなー?』
それが、現在から百年前の出来事だった。
ヒト種の寿命では、とっくに少女は亡くなっているというのに、今も変わらず妖精は少女を待ち続ける。他の同胞が忠告しても、聞きやしないで。
その森の開拓計画が出た時は、当時、子熊だったそれに加護を与えることにより、森の守護者にまでして。
妖精は、来ない少女を待ち続ける。
…………あるいは、妖精はもう既に狂ってしまったのかもしれない。既に分かっていて、分かっていない振りをしているのかもしれない。
ただ、このままであれば、妖精の在り方は歪み、その加護を受ける『赤兜』もまた、近隣を騒がせる災害獣として暴威を振るっていただろう。
悍ましき『それ』が、その森に現れなければ。
『…………ひっ!』
『それ』はどす黒い風を纏わせた、人型の何か。
ヒト種の成りをしているが、明らかに異様。明らかに異常。張り付けた笑みは、空々しく、『それ』が一歩森を歩く度に、草木は枯れ、腐り、融けていった。
「あの、立ち退きの件についてお話を――」
『やっちゃえ! 赤兜ぉ!』
「ちょっと?」
妖精は『それ』が恐ろしい物だと分かっていたので、即座に、赤兜をけしかけることにした。赤兜は加護を受けた、森の守護獣。森を守ることと引き換えに、通常の熊よりも遥かな力を持つ、森の王だ。
『…………あ、あれ? 赤兜?』
だが、それでも『呼吸しなければ生きていけない動物』に過ぎない。
赤兜と名付けられた大熊は、絶命していた。呼吸器から侵入した瘴気が、内側から浸食し、瞬く間に重要な臓器を融解させたからである。
いかに屈強な毛皮と筋肉を持とうが、未熟な魔術であれば退ける妖精の加護を持っていようが、内側から入り込んだ『外法の毒』に浸食されれば、ひとたまりもない。
「ん? ごめんごめん、討伐指定されている害獣だから殺しちゃった♪ でも、いいよね。殺しているんだから、殺されても」
『う、うううう、おま、おまえぇーっ!』
「――――――何か?」
気持ち悪かった。
どこまでも虚構で塗り固めたような笑みが、気持ち悪かった。
それ以上に、魂が、精神が悍ましい。さながら、この世界に垂らされた黒色の毒。迂闊に触れれば、どんどん毒素に染まっていき、歪められ、狂うような何か。
故に、その妖精は理解した。
これは『害』であると。
どのような形を経て関わろうとも、妖精たちに害しかもたらさない毒物であると。
「何か、文句がありますか? あるなら、どうぞ仰ってください。僕は誠心誠意をもって対応いたしますので!」
『うー、うううー』
「おやおや、赤ん坊みたいな声を出しますねぇww あ、そういえば、知っています? 貴方が契約していた女の子ですが、何処とも知れぬ場所で痴情のもつれで死んだらしいですよ? なので、貴方がこの場に留める必要はありません! あっはっは! 良かったですね、これ以上無駄なことをしなくて! いやぁ、良いことをすると気分がいいなぁ!!」
けらけらと、何処までも他者を嘲笑う笑みを浮かべて。
悪魔の如き笑みを浮かべて、『それ』は妖精へ告げる。
「さぁ、お引き取りを」
妖精の狂気を上回る、悪意と悍ましさによって、無理やり正道へと叩き直す言葉を。
●●●
聴講生となり、勤労に勤しむこと半年。
僕は何故か、妖精専門のネゴシエイター兼探索者として活動していた。
…………いや、理由は分かっているのだ。前者も後者も、きっちりとした理由がある。
まず、聴講生となって薄々理解してきたのだが、僕は妖精全般から蛇蝎の如く嫌われる体質になっていたらしい。まぁ、外法によって召喚された邪霊を身に宿しているのだ、それは仕方がないと考えよう。強すぎるクラスには、それ相応のデメリットが付いてくるのが当たり前である。当たり前なのだが…………関わっていけば行くほど、どうやら生理的に本当に無理という類の嫌悪であることが判明した。
うん、あれよ。顔も見たくないし、視られたくないし、出来るだけ関わりたくないというレベルの嫌悪。通りで、妖精という存在を中々見かけないはずだ。他の聴講生の人と話していて、ドン引きされるぐらいには妖精と遭遇していなかったらしいから、僕。
ともあれ、デメリットは使い方次第によってはメリットにもなる物。
いわゆる、妖精の悪戯が巻き起こしたあれこれや、妖精の『善意』によって引き起こされた事件の解決に僕が出向けば、妖精たちは露骨に顔を顰めて口元を抑え、吐き気を抑えながら辛うじて会話できるぐらいに体調を崩し始めるのだ。低位の妖精の場合では、僕の視界の範囲に入りたがらないらしい。
そんな僕が、にこやかな笑みを浮かべて妖精たちとの交渉をする姿は、さながら、神話生物が堂々と逆転裁判の舞台に登場してくるレベルで頭がおかしい光景だっただろう。
ただ、相手がガチギレしなければ大抵交渉は成功するので、意外とこれが金になる。具体的に言えば、半年で二年分ぐらいの学費を稼げるほどには。
それで、後者の理由であるが、単純に僕は正気度チェックに失敗せず、まだ、正気度も減らない体質なので、追放された神々の遺産を集めるのに向いていたのだ。いやぁ、おかげで冒涜的な知識が無駄に増える、増える。
え? 正気度が減らないのは、もう正気度がゼロだからじゃないかって?
あっはっは! 大丈夫! 僕の正気は悪魔が保証してくれるから!
ちなみに、この手の仕事は唸るほど金が入る。そりゃあもう、びっくりするほどだ。帝都にちょっとしたお店だったら開けてしまうぐらいのお金が半年で貯まるってヤバくない?
「…………あれ? よく考えたら僕、魔導院の暗部みたいな仕事してない?」
「それを魔導院の暗部に訊くお前の精神性だよ、クソッタレ」
そんなわけで現状、僕は相方と地下迷宮のダンジョンアタックの真っ最中でございます。
え? 経緯? 妖精に守られた謎の遺跡があるからちょっと見て来いカルロからの、出口を空間遮断されてこの様だよ。はい、現在、地下二十階を攻略中でございます。
「おかしいな? 僕は優秀な魔導師を目指して、頑張っていたはず。なのに、どうして、英雄譚に謳われそうなレベルのダンジョンアタックをしているのだろうか?」
「お前が報酬の高さに釣られて、どんどんと危険度の高い依頼を受けるからだよ?」
「でも、生きて帰ってきているから問題ないのでは?」
「死にかけたことが何回あったと思う?」
「十から先は数えるのを止めたね!」
「…………もういいじゃねーか、金は十分貯まっただろ? もう、この仕事を最後に、少し休憩しようぜ…………というか、休憩させろ」
「あははは、ごめんごめん! 頼りになる相方が居るから、つい」
「俺、相方じゃなくて、お前の監視ぃ! いざという時に殺す役目ェ!!」
「おいおい、フェン。もう既にこの階層の敵は掃討したからといって、悠長に大声を出すのは探索者失格だぞう?」
「探索者じゃなくて、監視ぃ……」
僕の横で、現状を嘆いているのは、僕の相方兼監視のフェンだ。
長い黒髪を後ろに束ねる、凛々しい顔立ちの少年なのだが、今はその顔は後悔で歪んでしまっている。そう、フェンは僕が魔導院の外に出る時の監視としての役目を命じられているので、僕が動けば必然と付いてくるしかないのだ…………例えそれが、どれだけ危険極まりない依頼だったとしても。
「そんなに嘆かないでよ、フェン。君だって、相応にお金を貰っているだろう? ほら、病気の妹さんの容態、びっくりするぐらい良くなったって言ってたじゃん」
「お前の監視をするようにしてから、びっくりするほど金を貰っているからな」
「主に僕からのお金じゃん。まったく、依頼料の半分を上げているんだから、文句はほどほどにしてよね!」
「妹よ……兄さん、今日も頑張ってお金を稼ぐよ。大丈夫、この仕事が終わったら、長い休暇を貰えるんだ……」
虚ろな目をしているフェンであるが、これでも高レベルの魔導師である。加えて、超対人特化の魔剣使いでもある。
フェンが腰に下げた長剣は、鞘こそあれど、その中には刀身は収まっていない。鞘から引き抜けば、柄だけの滑稽な長剣の姿が見れるが、相対者はそれを嗤う暇すらないだろう。何故ならば、フェンが魔剣を引き抜けば、大抵の相手は瞬きの間に首を落とされるからだ。
…………明らかに間合いの外から、屈強なる鎧も、魔術の防御も切断して。
無形の魔剣。
それが、フェンが扱う特級のアーティファクトだ。
形が無いからこそ、どんな形としても実体化させることが可能であり、形が無いからこそ、形が無い物を斬れる魔剣。つまり、僕や妖精の類には特攻の魔剣である。
加えて、フェンはこの魔剣の使い方を完全に習熟させており、一瞬だけ刃を実体化させて、相手が攻撃を知覚する前に即死攻撃を叩き込む技術を持っているのだ。
うん、控えめに言っても敵対したら、僕も一瞬で死ぬね!
しかし、敵対すれば恐ろしい相手ならば、敵対しなければいいのだ。なので、僕は基本的にフェンがアウトだと思う基準には少しも触れないように行動している。や、振り回しているように見えるけど、一応、ちゃんと許可は取っているからね?
「さて、そろそろ次の階層だよ、フェン……コンディションは?」
「――――愚問だ」
「よろしい、ならば、ハックアンドスラッシュを再開しよう」
回想と後悔に浸る時間は終わった。
僕たちは再び、精神を削りながらダンジョンアタックを開始した。
「階層後続把握……マッピング終了……エネミーのマーキング十二。その内の七つは生体系エネミーだから、僕が潰した。ただ、残りはゴーレムで内、二つは新型だから注意」
「了解。接敵を待って、先制で潰す」
ダンジョン攻略の形は、主にこのようになる。
まず、僕が扱える瘴気の風で探査術式を発動。階層の構造を把握しつつ、生態系のエネミーであれば大抵殺せるので、そこで抹殺。その後、残った無機物系エネミーの動きを、マッピングした地図上に記す。
そして、マップ上の動きに気を付けつつ、フェンが奇襲して瞬殺という流れだ。
「残敵は?」
「ゼロ。ただ、魔術系のトラップは無いけど、機械仕掛けのトラップの類は判別しにくいから、僕が先行しよう」
「…………むかつくことに優秀な斥候なんだよな、お前」
「役立つなら、むかつかなくてもいいのでは?」
僕が探索と、斥候、雑魚散らし。
フェンが、前衛と、奇襲担当。
これが、半年間の間に生み出した、僕らのコンビネーションの形だ。
僕の魔法は、瘴気の風を操る。この瘴気の風は、物体を分解し、風化させる性質を持ち、生きている者ほど良く効く。だが、生命体ではない物体を風化させる際、大分時間と魔力がかかってしまうのが難点だ。ただ、探査や周辺警戒などに向いているので、僕が自然と斥候という立場に落ち着いた。
フェンも探査術式を使えないわけではないのだが、僕の方が燃費が良いし、何より、フェンにはボスエネミーが居た場合、前衛として活躍してもらう役割がある。出来る限り、フェンを温存して戦うのが、賢いやり方だと僕は判断したのだった。
…………まぁ、最初は『俺は監視だから戦わない、協力しない』と言っていたのですがね。そこはほら、否が応でも協力しないと死ぬ修羅場を共に潜り、エンディングで良い感じの微笑みと共に金貨が詰まった袋を手渡せば、協力的になるという寸法よ!
もっとも、これだけ懐柔しても殺すときは、きっちりと僕を処理するだろうけどさ。
「…………ふぅ、今回も何とかなったか」
「いやぁ、疲れたね! この遺跡、妖精が守っていたんじゃなくて実は、『間違って人が入り込まないように』してくれていたのかもね!」
「迷宮の主である、漆黒の全身鎧の奴、クッソ強かったからなぁ」
油断なく、けれど呼吸はしっかりと。
緩みなく、けれど張り詰め過ぎないように。
僕たちはそろそろ慣れ切ったコンビネーションによって、なんとか五十層に及ぶ地下迷宮を攻略することに成功した。流石に、ゲームのように途中で伝説の武器やら、魔道具などは拾っていないが、なんとか最下層に居るボスを倒したことで空間閉鎖が解かれたらしい。
ちなみに、ボス戦であるが、ちゃんと僕もきっちり戦いましたとも。流石に、このレベルとなるとただの投石では効果が無いので、瘴気の風でデバフをかけたり、普通に魔術を使って攻撃したり、たまに攻撃を受け止めたりなど頑張っておりました。
これでも、魔拳士系列のクラスなので、高レベルのボス相手でも足止めやら、行動キャンセルぐらいはこなせるのである。
「しかし、これでようやく仕事は終わり――――シュラウド!」
「分かってる!」
しかし、どうやらまだクライマックス戦闘ではなかったらしい。
最下層でボスエネミーを倒した僕らであったが、それからしばらくて、迷宮自体が蠢き、揺れ、崩壊の兆しを示していた。
故に、僕らはとっさに上層の出口へマーキングしていた場所に転移しようと身構えて。
『《資格を確認しました――――これより、試練を始めます》』
それよりも早く、僕らの体を真っ白な光が包んだ。
強制的に、僕らを何処かへと飛ばす、強制転移の光が。
●●●
転移は即死に通じる。
移動手段かと思って、安易に魔法陣に乗って転移した先が『いしのなかにいる』では浮かばれない。故に、僕はまず、即座に風を展開して、周囲の環境を探査。同時に、〈清払〉の術式を応用させて、周囲の空気を生存可能な物へと変換させる。
次に、素早く手足、眼球、内臓などを自己診断し、問題ないことを確認。
ここでようやく、僕は周囲の状況を把握することが出来た。
見渡せば、岩と砂の大地。荒涼とした風は砂塵を含むものの、生存可能な空気の成分だ。僕は風の結界を解除しつつ、隣にいるであろう相方へ声をかける。
「空気、チェック完了」
「とりあえず、転移で殺す罠ではないってことか。にしても、なんだこりゃ?」
「見渡す限りの荒野……それと、枯れた山々って感じ?」
相方であるフェンは無事だ、何処にも欠損は無い。
まぁ、フェンは聴講生である僕と違って、一人前の魔導師なので心配は無用だろうが。
…………問題は、この環境だ。
見渡す限りにあるのは、荒野。
それと、木々どころか、草木すらろくに生えていない、大きな枯れ山。
思わず空を見上げてみれば、僕らの将来を暗示するような暗雲が渦巻いている。
「なんか、違和感があるよね、この場所」
「ああ。恐らくは、何者かが作り上げた『舞台』だろうよ。現実に隣り合ってはいるが、作り物の紛い物だ。稀に、ダンジョンの主が作り上げるそれに近い」
「なるほど、つまりは誘い込まれたってこと? 定番だと、ここから、ラスボスがどーん!」
「その可能性は高いが、妙だな、何の気配も…………」
警戒しつつ、言葉を交わす僕たち。
けれども、それを強制的に中断させるように、大きな地響きが鳴り始めた。
大地が割れんばかりの、凄まじい地震。
気を付けろ、下から来るぞ! とか思って警戒していたのだが、何も来ない。
やがて、三十秒ほどで地響きは終わり、地震も収まってしまう。
周囲に変化はない、はず?
「…………おい、シュラウド」
「ん? 何かな、フェン。一応、周囲を風で探査しているけれど、透明化やステルスの類の隠密は見つからない――」
「あれを、見てくれ」
呆然とした様子で呟き、虚空を指さすフェン。
僕は首を傾げながらも、何もない中空を眺め…………そして、気付く。フェンが本当に指さしていた物は、そこではなく、もっと先――――枯れ山だった場所なのだと。
「…………は?」
そうとも、変化が無かったんじゃない。
変化が余りにも大きすぎたから、僕たちでは認識出来なかったんだ。
【お、お、おぉおおおおおおおっ……】
空から、大太鼓を叩くみたいな唸り声が落ちてくる。
とても、生物の声には聞こえないそれだが、認めなければならない。僕たちの眼前…………いいや、僕らの遥か高みに位置するそれは、紛れもなくエネミーであると!
「…………古の、巨人かよ? は、ははははっ」
隣にいるフェンが、乾いた声で笑う。
けれど、それも無理はない。だって、それは余りにも巨大すぎた。
枯れ山だと思っていたそれは、ただ、巨人が蹲って出来ていた塊に過ぎなかった。巨人が長く眠っている間に、上から土が被さって、地層が出来ていただけ。
立ち上がった巨人は、天を突くほど巨大だった。
ああ、特撮に出て来る怪獣をさらに巨大にしたものであると、考えて欲しい。何せ、目測であるが、腕の太さは高層ビルが二三本束ねられた物に近しいし、胴体はもはや、生き物ではなく、山だ。風景がそのまま動いていると思って欲しい。
神話に出てきそうな半裸の偉丈夫を象った巨人。
それが、僕らに対して敵意の視線を向けている。
「…………うっわぁ、流石にこれは笑えないかも?」
ちょっとGMぅ! ルルブのページ間違えてない!? 間違えて、上級ルルブのページ開いてない!? 明らかに場違いなアークエネミーが出てきているんだけど。
「まいったね、これは」
僕が脳内で思い出していたのは、とある名作フリーゲームに出てきた巨人の敵だ。あれは雪山に居たが、まるで空間そのものが敵であるような異様な大きさで、どうやって倒せばいいんだ? とおののいた記憶がある。
あの時は確か、出血ダメージで何とか倒して見せたが…………生憎、ダンジョンアタックの最中でそれらしい弱点が書かれた古い本などは見当たらなかった。歴史を振り返ってみても、このような巨人の姿は見当もつかない。
【お、おぉおおおおおおおおおおっ……っ!】
まずい、と思った時には既に、僕はフェンの腕を掴んで飛び立っていた。
フェンも状況を理解しているのか、ろくに抵抗せずに、僕の体にしがみ付く。
背筋に欠け上げるは、即死を告げる直感。
なりふり構わず、僕は魔法の力を使って飛翔し、弾かれたようにその場を離れた。
…………その数秒後、僕たちが居た大地へ『拳』が落ちてきて、大地が割れた。思わず耳を塞ぎたくなる轟音と共に、土砂と岩石がばら撒かれ、周囲一帯が、瓦礫と化す。
なんとか、回避に集中したからこそ避けられたが、判断が遅ければ即死しただろう。防御は意味ない。あのでたらめな物量が全てを覆す。
「…………駄目だね。瘴気は通るけど、対象が大きすぎる、効果が薄い」
「同じく。出力が足りない。皮と肉は裂けるが、骨に届かない」
それからしばらく、僕はフェンと飛行しながら、蠅の如く巨人の周りで調査してみるのだが、対抗手段が見つからない。いくつか通じる手札はあるものの、殺しきれない。ダメージは与えられるが、多少の手傷では即座に再生してしまう。
手詰まりだった。
「この空間からの脱出を進言しまーす」
「同意だ。あんなのの相手はやってられん」
よって、僕らは即座に撤退を選んだ。
明らかにGMが難易度を間違えたみたいな相手と戦うつもりはない。幸いなことに、あの巨人の攻撃はそこまで速くないので、避けつつなんとか、脱出の方法を…………おおう?
【お、あ――――■■■■っ!】
巨人が右手を掲げた。
まるで、天から何かを引き抜くような動作を見せ…………その手に握られていたのは、稲光だった。渦巻く雷鳴と雷光が、巨人の手の中にあって。
「――――全力防御ぉ!!」
僕らはとっさに、全身全霊を尽くして防御を選んだ。
直後、世界全てを極光が染め上げ、凄まじい衝撃が体を貫く。
「ご、が、あ…………は、はは、生きて、るぅ?」
「なん、と、か」
体が引きつり、所々が焦げているが、なんとか五体満足、致命傷も受けていない。それでも、僕たちの手札は一気に尽きた。
あの巨人、シーン攻撃もしてくるのかよ。
流石にこれは、理不尽が過ぎる。リアルファイト案件だ…………ここで、終わりなのだろうか? 色々頑張ってみた『二枚目のキャラクターシート』であるが、ここで僕の冒険は終わりなのだろうか?
確かにそうだ、現実という悪趣味なGMは時に、こういうことをやる。運が悪かった、の一言で逃れられない理不尽を与えて来るものだ。
こういう時は、素直に諦めて、精々格好良く己の最後を演出する方が賢いのだろう。
みっともなく足掻くなんて、ナンセンス。
さぁ、大人しく己の運命を受け入れよう。
――――――そんなものは、くそくらえだ。
「フェン、行ける?」
「…………立ち上がれるが、忌々しいことにろくに体が動かん。まともに魔剣が振れるのは、一度程度だろうな」
「よし、じゃあ、一撃で殺そう」
「…………策はあるんだろうな?」
僕はルーニーだぞ?
キャラクターシートはまだ破られていないぞ?
ダイスはまだ、手の中にあるんだぞ?
データはあるんだろう?
なら、判定をせずに諦めるなんて在り得ない。どんな無茶ぶりだろうとも、理不尽だろうとも、笑い飛ばして、喜劇にしてやる。
要は、クリティカルを出せばいいのだ。
「あるさ。とっておきの奴が……ねっ!」
頭上から降り注ぐ拳や、踏みつけは怖くない。
攻撃範囲は広いが、鈍間だ。回避に経験値を振った僕ならば、回避し続けられる。大丈夫、まだ魔力は尽きない。
「出力が足りないんだろう? 僕が請け負う」
「…………まず、お前でも出力が足りない。そして、他者の魔力の消費を賄うなんて、そんな無茶が出来るとでも?」
「出来るし、やる」
やがて、巨人は焦れ始めたのか、予想通り(パターン通り)に、右手に雷を集めて行く。
「あの巨人の魔法は凄まじいが、構成は雑だ。介入して、膨大な魔力を奪い取ってリソースにする。それを上手く僕が加工するから、君が巨人の首を落とせ」
「…………無理と無茶と無謀が重なったぞ?」
「無理と無茶は担当するから、無謀を為せよ―――相棒」
「…………はっ、これだから、お前って奴は本当に馬鹿だと思うよ、相棒」
巨人が最大の攻撃を準備していることにより、少しだけの猶予が生まれた。
故に、僕らは即座に、砕けていない大地へ足を下ろし、こちらも準備を整える。
フォーメーションは簡単。
僕が前で、フェンが後ろ。
僕が防いで、フェンが殺す。
そうさ、作戦はシンプルに、いつも通りに――――巨人を殺してみせる。
「さぁ! 判定の時間だ! ダイスの女神(ビッチ)に祈りな、クソ巨人!!」
吠え猛る声が響くのと、雷鳴が唸り声の如く高まるのはほぼ同時。
奴の攻撃は雷速。それに合わせて魔術を発動するのは指南の業だろうが、何、アレウス教授の拳よりは合わせやすいぜ。
「――――っだぁああああああ!!!」
受け止めんとした僕の両腕が炭化を通り越して、弾けて消し飛ぶが、問題ない。
何故ならば、僕の口元に浮かぶのは、会心の笑み。
おうとも! 例え、体の中を激痛が巡り、一瞬でも気を抜けば失神して、そのまま死にそうなコンディションだとしても笑ってやろう。
「超過駆動(オーヴァーロード)」
そして、僕の背後から放たれた何かは、遠い空の向こうで快音を一つ響かせた。
「生憎、俺は曇り空が嫌いでね」
まるで、清涼なる柏手の如く、その快音はたった一度で、暗雲を斬り払って見せて。
次いで、ごぉおおおおん、という重々しい音が響いた。
「は、はは……っ」
雷光によって焼かれた視界でも、はっきり見える。
首無しの巨人が、倒れ伏し、盛大に血しぶきを降らす、無様な姿が。
やがて、その血しぶきは雨となって、砕かれ、枯れた大地を濡らしていく。
「あはははははははっ! 結局、雨じゃん! 締まらないなぁ!」
「うっせぇ、天気雨だ」
かくして、血しぶきは万雷の拍手となって、僕らに降り注いだ。
やれ、大冒険の報酬にしては足りないが、そこは我慢してやろうじゃないか。
●●●
後日談。
瀕死になった僕たちで、控えめに言っても崩壊する謎空間から逃げる余力はなかったのだが、不思議なことに追撃は無く、何事もなく迷宮の出口まで転移させられた。
…………いや、何事もなくは間違いだ。
なんかこう、腕が生えました。
ええ、消し飛んだ両腕です。びきべきっ! みたいな音が鳴って、生えました。え? 邪霊憑きってこんなことも出来るの? と再生の痛みで悶絶していましたが、隣を見ればフェンも似たような有様の様子。
どうやら、僕たちは、あの巨人の血を浴びたことによって、変な加護というか、『報酬』を得てしまったらしい。
魔導院に帰った後、色々と精密検査を受けてみたが、健康を通り越して筋力やら、体の頑丈さなどが異様に向上していたので、危うく再び実験動物に戻りかけたのだから、笑える顛末だと思う。いや、流石に笑えないかな?
「恐らくは、古くに存在した『英雄狂いの迷宮創造者(ダンジョンメイカー)』が、作り出した試練の一つでしょう。奴は、迷宮に自分勝手な『試練』を仕込み、数多の冒険者たちをロストさせていたと聞きます」
アレウス教授が後から調べたことによると、あのダンジョンははるか昔に、何処かの誰かがはた迷惑な思い付きで作った代物らしい。なんでも、英雄が好きだから、英雄を生み出す窮地とチャンスを作るのを使命と感じている早迷惑な魔法使いの類なのだとか。
もうとっくの昔に亡くなっているのが残念でならない。
是が非でもこのお礼をしてやりたかったのに。
…………ともあれ、この件で妙に名前が通ってしまったのが厄介だと思う。
おかしいな。僕は冒険者として名前を上げるつもりはなく、魔導師として、実家に貢献できる功績を残したかっただけなのに。違う、なんかこう、功績はあるけど、武勲じゃん! 色々と表向きに出来ない事情があるから、歌劇はおろか、吟遊詩人に謳われる可能性すら皆無だけどね!
「しかし、よく帰ってきましたね。お疲れ様、しばらくはゆっくりするといいですよ、シュラウド」
「そう言いつつ、山盛りの本を置いていく我が師よ」
「体を休めつつ、勉強しなさい」
「はぁーい」
ただまぁ、流石に僕の大冒険もここまでだろう。
あの騒動のおかげで、お金はしばらく稼がなくても生きていけるし。学費は数年分、前払いしているし。
いよいよ、のんびりと魔導院で麗しき青春を楽しめるというわけだ!
よぉし、花の十代、たっぷり楽しんじゃうぞぉ!!
●●●
この時のシュラウドは知らない。
はた迷惑な試練を突破してしまった所為で、『巨人殺し(ジャイアントキリング)』の二つ名が魔導院で密かな噂になってしまうことを。
そして、相棒であるフェンと度々、その二つ名に応じた騒動や冒険が待っていることを。
ただ、それはまた別の物語(キャンペーン)。
願わくば、彼の物語が、新たなる英雄候補が駆け出す理由になることを祈って。
はた迷惑なルーニーのセッションは、一旦、ここで幕を下ろすとしよう。