Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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短いですが、きりの良いところまで。


第13話

「こんなのがありなら、最初から一度殺しておけばよかったな」

 

 自ら爆散したロズワールを見て一人呟く。僅かな隙を縫っての自爆攻撃。確かにこれなら連撃も止めざるをえない。こんな強引な攻略方法があるなんて。

 

「なぁ、ロズワール?」

 

「はぁ、はぁ……冗談はよしておくれよ。オドまで絞り出しての自己回復だ。そうなんども使えるものでもないよ」

 

 肉片となったはずのロズワールは、息も絶え絶えといった様子だが体には傷一つ無くそこにいた。

 

「なら、これで手打ちにしてくれるのか?」

 

「それこそ冗談はよしてくれ。君の危険性は未知数だと理解できたからね。ラムを背負っている今のうちに殺さねばならない。私の福音の為にも」

 

 ロズワールの目からは戦意が失われていない。それどころか自らの福音と語ったその目には、妄執か、執念か、狂気が宿っている。

 

 まずい。

 奴が、もう一度懐に入らせてくれるとは到底思えない。バックドラフトによる奇襲に関しても同じだろう。何か対策を講じてくる筈だ。

 

「さぁ、宮廷魔道士のオドまで使った正真正銘、全身全霊の火球だぁよ。君にはまだ、防ぐ手立てがあるのかな?」

 

 再び、両手を天に掲げるロズワール。

 その周囲からは禍々しい力の気流が渦巻いて昇る。間違いなく通常の結界では耐えきれない。ラムを降ろして、絶界を発動させれば俺は助かるが。奴はラムを絶対に見逃してはくれないだろう。

 

 残る手立ては、あと一つ……『真界』

 己の理想を現実に押し付ける、神へも届きうる結界術の(いただき)

 見たことはある。実際にその技で、俺は死から引きずり上げられている。それを使えればこの場を制圧する事など、いともたやすく行えるだろう。

 ロズワールを拒絶し、ラムが消える事を拒絶する。もっと言えば、ロズワールだって意識のみ失わせる事が可能な筈だ。

 

 できるかわからない。

 しかし、やるしか無い。

 やらなければどの道、俺もラムも消炭になるのだ。火球で塵になるか、真界に失敗して塵も残らぬか。どちらも、そう大差ないならやってみるしかあるまい。

 意識を集中させる。『無想』の精神は、さっき習得できた筈だ。心の水面に一片の波すら立たせない。

 しかし、ロズワールの殺気が霧散した事に俺は気を取られてしまう。

 

「……なんだ?」

 

 俺の呟きに答えは返ってこない。

 ロズワールは慌てた様子で懐に手を忍ばせ、『それ』を取り出し呟く。

 

「どうして…… こんな時に、書き込まれるなんて。【スミムラトキモリを殺すな】……だと?なんだ、これは。今更、何故彼の事が福音書に。それに行動の指示ではなく、制限なんて、今まで一度だって……っ!!!!」

 

 何か合点がいったのかロズワールは天を仰ぎ見る。その目には、もはや目の前の敵など映ってはいない。あまりの狂気に俺は一歩後退りしてしまう。

 どうしたっていうんだ。

 俺の気などお構いなしに、ロズワールは両手を広げて声を震わせる。

 

「見ているのだろう!!この本にこんな事が出来るのは君しかいない!!頼む!返事を!返事をしてくれ!!私は…… ボクは君を一目見るだけで、いや、一声で構わない!!頼む!!返事を、返事をしてくれーー」

 

ーーエキドナ

 

 最後の絞り出した声は、辛うじて拾う事ができた。

 

 エキドナ?誰だ、誰を呼んでいる?聞くからにあの本の関係者で、俺を殺さぬように指示をしたのか?なら、ベティーにも関係があるのか?

 様々な思考が駆け巡るが、ひとまず助かったのかもしれない。ロズワールの行動原理があの本だとするならば、俺は殺されない筈。

 

「返事は、してくれないのだね。何故、私を聖域から拒む。何故、私に何も語りかけてはくれない。……なら、私だって!!!」

 

 俺の油断した刹那。ロズワールの殺気が膨れ上がる。今までなど比べようがない。己の全てを賭して、俺を殺す気だ。

 頭上に掲げる火球はこの距離からでも肌を焼く。あれは…防げない。小手先の術ではもちろん、『絶界』ですら怪しい。『真界』は間に合わない。精神の集中は途切れさせてしまっていた。

 明確な死の予感。

 それが外れない事はわかってしまう。あれが放たれれば俺は死ぬ。背中のラムも。

 一人で助かる気は毛頭ない。ラムを残しての絶界は生き残れても……俺が死ぬ。

 俺はもう何かを守れない自分を許す事は出来ない。結局、俺はあの時と何も変わっていない。あの人には遠く及ばず、何も守れないのか。

 

 諦めと諦観が頭をよぎる中、しかしロズワールの殺気は再び霧散する。

 

「私には、もう。君を諦める事すら許されなくなってしまっているんだ」

 

 その姿は泣いているようにも思えたが、灯の消えた夜の森ではよく見えない。

 長かった戦闘が終わりを迎えた。

 その幕引きは、俺も、ロズワールも、己の無力感に打ちひしがれるという虚しいものであった。

 

 

 

 

 

「私はまた出かけるよ。君は彼女たちと屋敷に戻るといい。その怪我については私から後日説明しておこう。この騒動の間者だと疑い戦ったが、その疑いは晴れたと」

 

「屋敷に戻る?お前を信じられるとでも?」

 

「それは君に任せる。私を信じられないなら、ベアトリスにでも聞くといい」

 

「…………」

 

 返事が無いのを確認してロズワールは夜の空へ消えていく。

 残されたのは森の静寂に、人間の男が一人と鬼の少女が一匹。

 決して守り抜けたなんて晴れやかな気持ちでは無いけれど、ひとまずは生き残れた。

 

「帰ろう。」

 

 一人呟いて来た道を辿る。

 背中のラムはまだ瞳を閉じている。その穏やかな息遣いは彼女が無傷な事の証明だろう。

 さて、この体の傷と眠ってしまったラムについて何と説明しよう。ロズワールは後日説明するなんて言っていたが、そんなのを彼女たちが待ってくれる筈もない。

 もしかしたら、レムなんて背負われたラムを見ていきなり襲いかかってくるかもしれない。

 ベティーには、呆れられるのかな。

 エミリアは、どうだろう。心配はしてくれるだろうけど、注意されるかもしれない。あの娘はどうもお姉さんぶりたがる時があるから。

 とにかく帰ろう、二人で。

 

「ごめん……なさい」

 

 そんな時、森の静寂に声が混じる。背中から聞こえるそれは何とも弱々しい。

 

「ごめん、なさい。ごめっ、んなさい」

 

 嗚咽混じりに繰り返すラム。

 その涙が誰に対しての物なのか、なんて聞くのは無粋だろう。俺に対しての自責の念なのか、それともロズワールに道具として使われた事の心の痛みか。

 いつから起きていたのか、なんて聞くのもやっぱりやめといた。もしかしたら今起きたばかりかもしれないし、戦闘中にはもう起きていて、それでも俺の首は獲らずに静観してくれていたのかもしれない。

 

 どちらにしろ何も語りはすまい。

 俺は一回、背負い直すふりをしてラムを揺する事で返事とした。

 男は背で語る生き物だから。

 鬼の()く森をただひたすらに歩いて帰った。

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