王都行きの竜車には、俺と、レムと、エミリアの三人が乗っていた。
てっきりベティーもついてくると言い張る物だと思っていたのだが、
「ベティーはここへ残るかしら。ロズワールが手引きした治療なんて裏があるとしか思えないのよ。相手が王選候補者の騎士なら治療は問題はないとは思うかしら……でも、ベティーが留守の間に禁書庫を狙う算段かも知れないのよ」
と言って屋敷に残った。ベティーの力の源は、精霊という性質上あの禁書庫が大きく関わっているらしい。確かにそれならば、ベティーが俺の味方である以上ロズワールがそこを狙う可能性があるという話も理にかなっている。
なのでベティーと離れるのは甚だ遺憾だが、無理には連れてこなかった。これも全てはロズワールのせいである。王選が終わったら……ロズワールを〜ぶっ殺す!!
ちなみに、レムの同行はロズワールから命じられたものらしい。メイザースから命ズールされたレムの顔は、まだ俺との気まずさを引きズールしててか浮かない。
せめてラムとのわだかまりは解けてきてくれていると嬉しいのだが。
「そういえば今日の予定ってどうなっているんだ?」
ただ言われるがままについて来てしまったので、日程の確認がてらレムに話かける。
「あっ…… はい。えっと、本日はまず宿泊する宿に向かった後にクルシュ様のお屋敷へとお伺いしてトキモリくんの治療をして頂きます。明日は王選候補者の集合がかかっていますのでそちらに」
「レムが『トキモリくん』って呼んでくれるだけで傷の半分は治ったけどね」
「あっ!!うぅぅ……」
最近ではいかにレムの「あっ、うぅぅ」を聞けるか選手権が毎日開催されている。
「もう。変なこと言ってないで、しっかり治して貰わないとダメなんだからね」
「エミリアが膝枕でもしてくれたら、もう半分も治るんだけどな?」
「えっ、そんな事でいいの??」
「えっ、そんな事してくれるの!?」
「リア、そんな危険な事はやめといてね。さて王都が見えてきたよ」
おのれパック許すまじ。
それはさておき先日同様、やはり馬鹿な事を考えていると物事は早く進むものだ。
王都へ着くと予定通り宿へと向かう。ロズワールの計らいもあってか、宿は広々としていて部屋数もそれなりにある。宿というより家を丸ごと借りたようだ。
はぁ、少しだけ相部屋を期待したのに。……まさかそれを危惧してこの宿に?おのれロズワール殺すべし。
「さて、荷物も置いたしクルシュのところへ向かいましょ」
「クルシュさんってのが俺の治療をしてくれるのか?」
「ううん、違うの。クルシュは私と同じ王選候補者の一人で、治療してくれるのはその騎士のフェリスよ。王都でも指折りの水の魔法の使い手で、治癒魔法に関しては右に出る者はいないらしいわ」
「そうか…… そんなすごい奴に俺の治療を。すまん、エミリア。本当に恩に着る」
あらたまってエミリアへと感謝の意を伝える。エミリアがこの交渉を取り付けるにあたって払った対価を思うと、目頭が熱くなる。
「いいのよ。これも私の為だもん。私の責任を私が負っただけなんだから、トキモリは気にしないでいいの。しっかり治ってさえくれたら私は満足するから」
あぁ、エミリアたんマジ天使。
王都を歩く事しばらく。辿り着いたクルシュ邸はロズワール邸にも引けを取らない大きさだった。
いや、都会の分だけこっちの勝利だな。残念ロズワール。でも、メイドさんが可愛いからロズワールに10点!!
「ようこそ、いらっしゃいました皆様」
出迎えてくれたのは白髪の老執事だった。『老』ってつけてもいいのか迷うほど、俺を見る目つきはやたらギラついている。
「クルシュ様はこちらでお待ちです」
屋敷内へ通され煌びやかな廊下をついて行くと、俺たち三人は一つの客室へと招かれる。
「初めましてだな。私の名はクルシュ・カルステン。さっそくだが、卿が今回の患者だな」
挨拶もそこそこに本題を切り出した女性は軍服に身を包んだ男装の麗人だった。
一見無礼にも思える対応だが、当人の雰囲気や誠実かつ実直さの窺える鋭い瞳がそういった印象をこちらに受け取らせない。
「この度は私の治療の為にこの様な機会を設けてくださり感謝申し上げます」
「よい。頭をあげよ。こちらも対等な交渉の上での判断だ。あらためて礼を言われる筋合いもない」
「わかりました。でも、私的に本当に感謝致します」
サバサバした性格だ。こういった相手は話がスムーズに進むのでありがたい。
互いに挨拶は済ませたところで後ろの従者に目を向ける。
ネコミミだよな。めちゃくちゃネコミミだ。しかも、めちゃくちゃ可愛い。なのになんでだ?ときめかない。
「そうか。なら、その言葉は素直に受けとろう。紹介が遅れたな。《彼》の名はフェリックス・アーガイル。私の騎士で、今回卿の治療を請け負う」
「あぁ、もう。クルシュ様バラすのが早いですよ。遊び心っていうのも大切ですよ。まぁ、そういう素直なところがクルシュ様の魅力なんですけど」
あぁ、なるほど。男装の主人に女装の騎士ですか。通りで騎士の方には反応しないわけだ。騎士の方には。
「むむ、クルシュ様にいやらしい目を向けたらフェリちゃんがやっつけちゃうからね。治療の間は大人しくしてにゃいと、痛い目を見るにゃ」
「フェリス。契約だから治療はしっかり頼むぞ」
「あーん、クルシュ様冗談ですよ冗談。クルシュ様の為にフェリちゃん治療も頑張りますから」
「そうか。うむ、ならいい」
主従の仲の良さがわかる素敵な会話だが、俺としてはこちらに来てからずっと睨みを効かせている後ろの
ちなみに老執事の事ではない。
ヴィルヘルムさんについては道中に挨拶を済ましている。あの人の目つきもなかなかだったが、コイツの目つきはそれの比ではない。
王都に滞在した時間は前回合わせても僅かな物で因縁をつけられるような事は無かった筈だ。
「ん?あぁ、後ろのコイツだな。すまない。治療には関係ないのだが、どうしても卿に会いたいと言って聞かなくてな。どうも
「同郷……ですか」
「そこからは、私から」
紹介を受けて初めてその従者は沈黙を破る。
そして俺の前まで一歩、歩み寄ると……ソイツは突然ニカッと笑って名を名乗る。
「私は……いや、あえてここは
これが俺と菜月昴の終わりの物語の始まりだった。