Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第17話

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして

またそんなに傷ついて。

いつも自分は後回し。

ソンナニソノヒトガタイセツナンダ??

違う!!

そんな事考えたらダメ!!

彼の幸せの為に私はこうして。

でも、考えてしまう。

ワタシヲアイシテ

違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、

違うの!!

彼の幸せを願うって決めたのに。

だから私は無限の牢獄に。

彼には彼を愛して欲しいの。

カレニハワタシヲアイシテホシイノ

彼には彼を大切にして欲しいの。

ワタシヲカレノイチバンニ

自分を、自分を。

ワタシヲ、ワタシダケヲ

また、そんなに傷ついて。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

あぁ、かわいそうに。

アァ、イトオシイ

あぁ、なんで??

ナンデワタシヲアイシテクレナイノ??

違う……違うのに!?

あの人が傷つかなければそれでいいの!!

だからお願い

早く彼を助けてあげて。

だからお願い

ハヤクワタシヲコロシテ

でないとワタシは嫉妬で狂いそう。

 

 

 

 

 それまで従者らしく凛とした雰囲気を纏っていた男。ナツキスバルの突然の砕けた名乗りに俺は呆けてしまう。

 

ーナツキスバルー

 

 この世界ではそう見ることのない黒髪に、街でよく見る平凡な顔立ち。

平凡。たしかに、この異世界で日本の平凡がいたらおかしいと思うべきだった。言われてみれば日本人にしか見えないが、まさかこんなところで日本人と接触するなんて夢にも思わない。

 

「どうしたぁ、黙っちまって??俺はアンタの名前を聞いた時からこの時を心待ちにしていたんだぜ??兄弟??」

 

「え、えぇ。少々驚いてしまって。私も嬉しく思いますよ」

 

 嬉しいかって??

 そんなわけない。

 とにかくハリボテの社交辞令でも時間を稼ぐ。本来なら本当にナツキスバルが日本人なのか問いただしたいところだが、そんな余裕はない。こちらは「異世界出身です!」なんて世迷言はベティ以外には話していないのだ。

 いずれエミリア達にも話すにせよ、それは今ではないし、こんな形での告白では話が拗れかねない。つまり、今優先すべきはこの会談を一刻も早く終わらせる事。

 

「そうか!そうか!まあ、無理もないわな。俺だってもうここに来てそこそこ経つけど、まさか同郷の人間にこんな所で会えるなんて思いもしなかったからな!!」

 

「えぇ、そうですね。本当に驚いています」

 

 ここにきてそこそこ経つ

 もし、この言葉が本当ならばナツキスバルは俺よりも以前からこの世界にいるって事か?聞きたくても『ここに来て』が『クルシュの厄介になる』という意味でも捉えられる為、ナツキスバルの素性がわかるまでは下手に話をするべきでは無い。

 

「ところでアンタ……ってのも他人行儀だな。時守はいつコッチに??」

 

「私は本当につい最近ですよ。あてもなく路頭に迷っていた所をエミリア様に拾っていただいたのです」

 

「そうか、そうかぁ!!俺も似たようなもんだ。お互いに良い人に拾われて運が良かったな!!」

 

「えぇ。本当に」

 

「なぁ!本当に本当だぜ!!あぁ、それとさもう一個質問していいか?」

 

「……はい、どうぞ」

 

 ほがらかに、そして人懐っこく話していたナツキスバルの雰囲気がまた変わる。

 

 ヤバい。

 

 本能が警鐘を鳴らす。ラインハルトと会った時ですら、こんな悪寒は抱かなかった。凛としたそれとも違う、その視線はこちらを見定めるようとただ無感情に俺を捉える。

 

「……オマエどうやってきたん?」

 

「………」

 

 どうやって。

 痛い所をついてくる。答えによっては追及は免れない。嘘で出自を語るにせよ、そこからルグニカまでの移動手段を詳細に語れなければ疑われてしまう。覚えてませんでは通じるはずもない。

 

 いや、移動手段もだが……そもそもどうやって入国したんだって話だ。

それこそ答えようがない。なんせ気がついたら路地裏に寝ていたのだ。

 

 この質問だけは俺から先にナツキスバルへ問いかけたかった。そうすれば奴の答えに合わせることもできたであろう。先手を取られたどころの話ではない。あとは詰まされるのを待つのみか。

 

「えぇ、それは……」

 

「申し訳ありませんがそれについてはお答えしかねます」

 

 言い淀む俺の代わりに回答をしたのは、静観を貫いていたレムだった。

 

「ほぉ、答えかねるとは??」

 

 レムに反応したのはあちらもナツキスバルではなく、ここまで大人しく見ていたクルシュだ。その視線はレムを射抜くように鋭く、曖昧な回答は許さないといった風だ。

 

「申し訳ありませんクルシュ様。ロズワール様からの厳命でトキモリ君を雇い入れた経緯はお話することはできません」

 

「ほぉ、主人からの厳命?……卿は私に堂々と詭弁を申すか」

 

「いいえ、そんな失礼は致しません。有能な人材を確保する手段は話すべきではない。ロズワール様がいらしたらそうおっしゃるかと思いまして。ましてや、エミリア様と王選を争われる方であるなら尚のこと」

 

「ふむ……なるほど」

 

 レムの受け答えにクルシュは黙る。あくまで企業秘密と言われてしまえば、たしかに追求する道理はない。

 

「尋問のようになってしまったな。すまない」

 

「いいえ、とんでもございません。こちらこそ今から彼を治療していただこうという立場でありながら、お答え出来ずに申し訳ありません」

 

「いや、それこそ謝らずともよい。先も言ったが治療については相応の対価は貰っている」

 

 頭を下げるレムに対してクルシュは手で直るよう促す。俺こそレムに頭を下げたい気分だ。

 

「スバルももう良いな?」

 

「……はい。お時間をいただきありがとうございました」

 

 クルシュから確認されたナツキはそう言葉を絞りだし、俺たちへと頭を垂れる。

 

「では、話はこれぐらいにして治療を始めよう。部屋へ案内させる。フェリス頼む」

 

「はいはーーい!!なんかピリッとしちゃったけど〜……フェリちゃんの腕は確かだから安心してね」

 

 俺たちはクルシュへ別れの挨拶を済ませると、アーガイル卿に先導され客間を後にした。部屋を出るまでの間もナツキスバルは俺から視線を外す事はなく、背に纏わりつくようなそれは嫌に気持ち悪さを残すものだった。

 

 

 

 

 

「どうみる?」

 

「……私と同郷である事に間違いはないでしょう」

 

「あぁ。どうやらお前と会うことを歓迎していないようだったな」

 

「嬉しく思う、なんてやはり嘘でしたか。会話からして相当焦っていたようですしね」

 

「つまり、奴も自分の出自を隠している?」

 

「はい。少なくともあの場にいた2人には話していないのでしょう」

 

「そうか」

 

「……あの、申し訳ありません」

 

「ん?あぁ、すまない。お前が話さぬ事を揶揄する意図はなかった」

 

「いえ……クルシュ様にお世話になってもう長くなるというのに未だに話さぬ不義理をーー」

 

「よい。私はお前を、ナツキスバルを信じている。話せぬ過去が今のお前を形成しているのなら、それを知らずとも私はお前を肯定しよう」

 

「ッ!!!まったく……クルシュ様は人垂らしですね」

 

「ん??」

 

「はぁ、そういう所も含めてですよ。俺も、フェリスも貴方にぞっこんなのは」

 

「そうか。賛辞には素直に礼を言おう」

 

「……ったく。にしてもフェリスは大丈夫ですかね?」

 

「あの者がこの状況で危害を加える程愚かではないのはお前も同意見であろう?」

 

「いえ……いや、まぁいっか」

 

「ん???」

 

(俺が心配してるのは()()()()()手を出さないかなんだけど……)

 

 心配してるベクトルがクルシュとは真逆だと察したスバルだが、小首を傾げる彼女を見たら自然と笑みが溢れてしまいどうでも良くなった。

 

 まあ、それに…

 何か取り返しがつかない事があったって、俺が死ねばいいだけなのだから。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私とレムは先に宿泊先へ戻るわね。時守も治療が終わったらすぐに戻ってくる事。寄り道なんてしたらダメなんだからね!!」

 

 アーガイル卿が先に治療用に用意された部屋へ入った所で、俺はエミリア、レムと向き合う。

 

「レム、さっきは……」

 

「大丈夫です。気にならないと言ったら嘘ですが……その、レムは……待ちます。……待てます」

 

 言葉を絞り出すレムの表情は伺えない。どうにもさっきからレムの様子は只事ではない。俯いたまま顔を上げず、拳を握りしめたままの姿は何かを堪えるようだ。

 

「えっと……私もレムと一緒?よ。誰にだって話せない事、話したくない事はあるもの……それに今のトキモリを知ってるから十分。深くは聞かないわ」

 

「……ありがとう。いつか絶対に話すと約束するよ」

 

「うん、わかった。約束ね」

 

 それじゃあ後で、と言って二人はクルシュ邸を後にした。

 

 ナツキの言葉を思い出す。

 良い人に拾われた。

 まったくもってその通りだ。拾ってくれたエミリア。そしてレムやラム、ベティーと会えた事は、俺にとって幸運と言わざるをえない。彼女達の為にもこの体をさっさと治そう。

 

 俺はアーガイル卿の待つ扉を開いた。背を刺す鬼の視線には気が付かないふりをしながら。

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