Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第19話 シリアスの代償

 クルシュ邸を後にした俺はエミリア達の待つ宿へと帰る為、王都をひた歩く。道中は特に目を引くものもなく、当たり前だが顔見知りがいたりもしないので、一人考えごちながら歩みを進めた。

 

ーナツキスバルー

 

 俺は奴が苦手だ。

 得体の知れないモノは誰だって怖い。アイツの纏う雰囲気というか、ともかく存在がデタラメで気持ちが悪いのだ。

 

 ナツキスバルは腕っ節で言ったらお世辞にも強いとは言えないだろう。ラインハルトとは比べるまでもなく、俺やあの屋敷の表にいた爺さん、エミリアやレムでもすら軽くあしらえる程度だとみえる。

 

 それだというのに、どうやったらあんな悍ましいモノになれるというのだ?

 

 死線を潜った奴は纏う雰囲気を変える。

 当然、数をこなせばそれに伴った禍々しさみたいなものがでる。ともすれば、いったい奴の領域に達するには何度死に触れればいい?

 

 俺が知らないだけで奴の人生が壮絶だったのかも知れないって??

 少なくとも物心付くまで日本にいた人間がか??

 この世界に来てからにしたって、どう見積もってもああなる程の場数を踏むには時間は足りないはずだ。

 

 何より、最初に言ったがアイツは弱い。

 一度や二度ならともかく、そう何度も運で切り抜けられるならそれは死線とは呼べない。

 

 弱者でありながらどんな強者よりも禍々しい。

 

 全てがチグハグ。だから、気持ち悪くて恐ろしい。

 気になりはするが、藪蛇になりそうなので出来ることなら近寄りたくない。

 

「いっそラインハルトに通報したら、なんやかんやどうにかしてくれないかな」

 

 いよいよ考えるのも面倒くさくなった俺はそんな現実逃避の呟きをもらす。

 

「ん?」

 

 物思いに耽る事を辞めた俺はようやく知らぬ道に迷い込んでいる事に気がついた。最初に来たときも思ったが、ルグニカは王都でありながら裏路地が多数あるから困りものである。宿屋の名前はわかっているのだし、とにかく人気のある道まで戻ろうーーそうした時だった。

 

「てめぇ、クソアマ! ふざけてんじゃねぇぞ!」

 

 道を尋ねる人種には、おおよそ適してないと思える怒声が鼓膜を揺らす。

 どう考えてもトラブルに違いない。しかし、声の方向へ近寄るかは刹那すらも迷う事はなかった。

 聞こえた内容から察するに、声を荒げる男にクソアマと呼ばれた女性が絡まれているのだろう。女性がお困りであろう時点で行くのは確定している。それに、この異世界に来てからこのパターンでの出会いは美少女だと相場は決まっているのだ。

 

 その事実が俺の歩みを声へと加速させる。

 

「ふざけんなよ!! 女ぁ!! その綺麗な顔をふっ飛ばしてやろうか!? あぁ!?」

 

 『綺麗な顔』……やっぱり美人なんじゃないですか!!

 きっと、がらにもなく難しい事考えてたご褒美だね。

 

 全快した身体を余す事なく使った全力疾走。最後のコーナーを慣性を無視して強引に曲がる。そして辿り着いた先に見えたのは、件の美女が澄み渡る美声とは不釣り合いの毒を吐く所だった。

 

「やいやい騒ぐでない、下郎。品性の足りん輩は因縁の付け方にも品がないの」

 

 鮮やかな橙色の髪は薄暗い路地裏であっても陽の光を連想させる。それをひとつにまとめて背中へ流さす姿は気品に溢れていた。今から舞踏会にでも行くのかと思わせる煌びやかな服装や装飾品は、その類に疎い俺ですら一級品だと一目でわかる。

 

 しかし、その華々しい装飾の中であっても埋もれぬ少女自身の美貌こそ誰から見ても明らかなほどに圧倒的だった。

 

 あと、ものすっごく胸が大きい!!

 それはそれはとっても大きい!!

 思わず視線がハンターされてしまう。

 俺でなくとも二度見しちゃうね!!

 

 いったいどのぐらい大きいのだろうか?

 俺が人生で出会った女性の中で1番大きい事は間違いない。結界師という空間のスペシャリストとして、あの胸がいったい如何程に突出しているのか気になって仕方がない。職業病は仕方がない。

 

 ー方囲ー

 ー定礎ー

 

「測!!」

 

 空間把握能力をフル動員されたバスト測定術。

 こ、これは!? G……いや、Hはあろうというのか!!脅威の胸囲。お、恐ろしい。

 

 しかし、待て。ただ大きいだけではダメなのだ!!

 真に重要なのは割合。大きな乳房に対して、そびえ立つその『本丸』の比率にこそ真価は問われる。

 

 だが…… 測れるのか?

 ある程度目測のたつ乳房を測るのとは訳が違う。完璧に秘匿された、服越し、それも下着越しの至宝を正確に測ろうなどまさに神のみわざと言えよう。

 

 それでも…… それでも止まれはしない!!

 神乳を前に男は止まれないのだ!!

 乳の為なら神様だって超えてみせる。

 

「ほうい!! じょうそぉぉおぉぉ!! うぉぉぉぉおお〜いくぜぇッ!! そぉぉぉくーー」

 

「おい、そこの。貴様は何をやっておるのだ??」

 

「しまった!!見つかった!?」

 

「……貴様からコチラに飛び出てきたろうに」

 

 そうだった。

 ここに来るまでは似合わずシリアス一辺倒な思考だったので、出会い頭のスゴ乳に頭のキャパシティーを全て奪われてしまった。

 いやはや、とんでもない乳だ。その支配力は神というより悪魔的。思考をジャックするそれは魔乳危険だじょうって感じだ。

 

「さてやれ、表に出ると碌な事にならん。わらわらと下賤な男が蟲のように寄ってきてかなわん」

 

「では、私めがその蟲どもを払ってご覧に入れましょう」

 

「どう考えたって貴様も蟲側に決まっておろう」

 

「なんと!! おい、テメェらのせいで美人に変態扱いされたじゃねぇか。どう落とし前つけてくれんだ?」

 

「俺ら関係ないだろ!! どう考えたってお前の自業自得だ!?」

 

 八つ当たりぎみにチンピラへと視線を向けると、そこにいたのはいつかのトンチンカン三人組だった。

 

「なんだ、またお前らか。この世界のチンピラのキャラデザインは全てお前らなのか?」

 

「何訳わかんねえ事言ってんだ!?俺らは今からそのクソ生意気な女に男ってものを教えてやるんだ!!」

 

「気色の悪い蟲の生態など知りとうないわ。その上、群れられては見るだけで気が滅入る。さっさと失せよ」

 

「んだと、コラァ!!」

 

 いよいよ三人組の我慢が限界に達し、男たちは女へと詰め寄る。

 

 両者の様子を見るに、駆けつける前から似たような口論があったのだろう。正直、どちらから喧嘩をふっかけたのかはわかったもんじゃないが、男を語るなら女性に手をあげるのはいただけない。

 

「結」

 

「「「ふんぎゃっ!」」」

 

「ほぅ…… 面妖な術じゃな」

 

 男たちが拳を振り上げた瞬間、それぞれの頭を結界で小突き意識を刈り取る。その間も少女は目を閉じるなど怯えた様子は微塵もなかった。

 

「お待たせしましたお嬢様」

 

「待ってなどおらん。貴様が手を出さずともどうとでもなっておったのだ。それに蟲ならまだ貴様が残っていよう。早く消えると良い」

 

「まぁまぁ。わざわざお嬢様が虫に触らないで済んだわけですし。それに飛びつかないだけ他の蟲よりマシでしょう。表に出るまでお供しますよ」

 

 そう言ってチンピラを飛び越え少女の横を通り過ぎた。

 すると、後ろからコツコツと裏路地には似つかわしく無いピンヒールが石畳を叩く音が聞こえてくる。信用したわけでは無いだろうが一人で歩くよりは楽だと判断したのだろう。

 

 少しの間黙って歩いていると背後から声をかけられた。

 

「特に礼も求めんとは酔狂な虫よの」

 

「美人とこうして歩けるなら十分な見返りですよ。それに、手を出すまでもなかったのは本当でしょうし。お嬢様、強いでしょ?」

 

「殊勝な心がけじゃな。まぁ、妾の強さ以前にもっと単純な事よ」

 

「単純?」

 

「この世界は妾の都合の良いようにできておる」

 

「都合のいい、ですか??」

 

「そうじゃ、故に妾に不利益な事は起こらん。妾が助かったのは妾のおかげなのじゃ」

 

「……ん、待てよ。それだと、そもそもチンピラに絡まれないんじゃーーあぁ、なるほど!! つまり全ては俺と出会う為。この出会いは運命という事ですね!!」

 

「は?」

 

 心底不快そうな顔で見つめているが……そんなの嘘だ!!

 きっと、俺はお嬢様にとってドストライクな男に違いない。なんてったってお嬢様自身が望み、お導きになった出会いだと本人が言ってるんだもん。

 

 感極まった俺はその場で反転し、思わず少女の艶やかな手を両手で握りしめる。

 

「よし、結婚だ」

 

「気安く」

 

「ーーぬ!」

 

 取った手を握り返された……かと思うと手首を返され、身を屈ませて腰を捻り、

 

「妾に触れるで無い」

 

 その手を離された時には、俺は綺麗に投げ飛ばされていた。

 

「おっと!」

 

 しかし、あまりに綺麗に投げるもんだからコチラも無意識に空中で身を整え、手すらつくことなく着地してしまう。わざとでも投げられるべきだったろうに俺の中の防衛本能が優ってしまった。

 

 やはりこの少女は武の心得があるらしい。それも、かなり強い。

 

「蟲の分際で両の足で立つでない。蟲らしく地面にひしゃげて潰れぬか」

 

「見事な投げだったもので身体が勝手に。ご所望とあらばもう一度投げられますが。お手をどうぞ」

 

「ぬかせ、そんなに気安く妾に触れようとするでない」

 

「気安くなんて畏れ多い。貴方に触れられるなら、命懸けで」

 

「ほぉ、吠えたな虫ケラ」

 

 いつの間に手に取ったのかわからない扇子を口元へ寄せ艶美に微笑むと、逆の腕で彼女の豊満な胸を持ち上げて見せる。

 

「おぉ、ワンダフル」

 

「ならば試そうぞ。勝負は一度。今から投げる硬貨の裏表を当て、貴様が勝てば妾の胸を好きにするがいい」

 

「なんですと!!!!」

 

「そのかわり…… 妾が勝てば貴様の命をーー」

 

「やります!!!」

 

「…………」

 

 な、なんて幸運!!

 二分の一であの胸に触れるチャンスに巡り会えるとは。

 

「妾は本気で貴様を殺すぞ?」

 

「かまわない!!この手は何の為についている??そう、今この時貴方の胸を触る為だ!!」

 

「……失念しておった。気安くどうこうではなく、虫ケラの命とはこうも安いものであったか」

 

「嘆いても遅い!!男に二言がないように、女には胸が二つついているんだ!!」

 

「貴様はいったい何を言っておるのだ?」

 

 ここに来て初めてお嬢様が動揺を見せる。

 ふふふ、乱れてるねぇ。揺れてるねぇ。心もおっぱいも。

 勝負事において一番大切なのはおっぱい。

 間違えた、冷静さだ。

 冷静さを欠いては結果は火を見るよりもおっぱいだせ。

 間違えた。大丈夫か、俺!?

 

「……まぁ、良い。話しておると妾にまで阿呆が移りそうじゃ。投げるから勝手に予想して死ね」

 

ーピンッー

 

 と、少女は取り出した硬貨を上空へ弾く。

 綺麗に真上へ上がった硬貨は俺たちの頭の高さを軽く超え、やがて頂点へと達すると一瞬縫いつけられたように停止し、そして回転しながら落下を始める。

 

 この時も視線はお互いから一瞬たりとも離したりはしなかった。

 硬貨が二人の目線の高さまで落ちるーー

 

「裏」

 

「ならば妾は表じゃな」

 

 口元には笑みすら浮かべていた。

 少女はまるで自分が勝つ未来しか見ていないようだ。

 それを見て確信する。

 

 この硬貨は『表』が出る。

 

 先程の、「都合の良い未来しか辿らない」という話。

 普通なら鼻で笑うところだが、クルシュの嘘を見破るといったように『加護』には千差万別の能力があるようだし、強制的な剛運というのも無い話では無いのだろう。

 

 即ち、なんらかの力によってこの勝負は必ず俺が負けるようにできている。下手なイカサマをしたってそれは同じ。

 

 この勝負の勝敗は初めから決定的なのだ。

 

「勝負が成立ーーー」

 

 ー『結』ー

 

 少女にバレないように落下点にある石床を少しだけ強引に剥がす。

 

「ーーーすればな!!!」

 

「っ!!!!!!」

 

 そして硬貨が床と接地すると同時、俺は剥がれた石床を足で利用して硬貨の動きを強制的に止めてしまう。

 挟まれる形になった硬貨は表裏どっちつかずの状態で直立している。

 

「貴様は…… 何をしておるのじゃ??」

 

「ふはは、この勝負初めから出来レースだったんだろ?」

 

「そうじゃ。イカサマなど陳腐なモノではないぞ?妾が選んだ以上、その硬貨は必ず表が出るはずじゃった」

 

「だろうな。だから勝負自体を止めてやったんだ」

 

「だから、貴様は何がしたいんじゃ?これでは勝敗がーー」

 

「ーーそう、つかない」

 

 硬貨の裏表などどうでも良かった。

 結末が負けである以上、勝負という方法では絶対におっぱいへは辿り着けない。故に、初めから狙っていたのは勝利によるおっぱいではなく、おっぱいへの交渉権。

 

「勝負はつかない。しかし、まさかお嬢様ともあろう者が自分の吐いた言葉は取り消さないよな?」

 

「当たり前じゃ。だから、早くその硬貨をもう一度妾へ寄越せ」

 

「バカいっちゃいけない。『勝負は一度』コレはお前の吐いた言葉だ」

 

「???」

 

 要領を得ない、と少女は疑問符を頭に浮かべ怪訝そうにコチラを睨む。

 

「ならばどうする気じゃ?」

 

「勝負はつかず、しかし言葉は取り消せず、勝負のやり直しも効かない。ならば答えは痛みわけだ」

 

「痛みわけ??」

 

「そう。つまりお前は俺を半殺しにしてもいい。そして俺はーー」

 

「ーー俺は?」

 

 言葉半ばで俺は右手をめいっぱい広げてピシッとお嬢様に突き出す。

 

「俺はお前の片乳を好き勝手触らせて貰うぜ!!!」

 

「…………」

 

 完璧だ…… 完璧な勝利だ!

 乳が二つあることが盲点を生んだな!!両乳を揉みしだかなくとも、片乳だけにでも触れたらそれは俺の勝利なのだ!!

 

「……良いじゃろう」

 

「え、マジ?」

 

 あまりの驚きについ素に戻ってしまう。

 やっといてなんだが完全に冗談のつもりだった。

 

「あぁ、よいぞ。しかし半殺しという条件はわかりにくい。妾が具体的にしてやろう」

 

「え、あぁ。正直、本当にお前の乳に触れるなら本気で半殺しにあっても悔いは無いぞ」

 

「そうか。それは実によかった。何、妾が乳の半分ならお前も半分にしろというわかりやすい条件じゃ」

 

「……えっと、何を??」

 

 なんだろう。すっごく脂汗がとまらない。

 俺の算段では半殺しにあっても、クルシュのところから帰って間もないのだしフェリスの治療が不十分だとイチャモンつけて治させるつもりだったのに。

 

 失ってはいけない何かを失う。

 そんな気がするんだ。

 

「妾が片乳なら、貴様は玉の半分を潰せ」

 

「ムリィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「何を言うか?元々は死んででも触るつもりであったのだろう?一つ潰した所で死にはせんわ。ほれ、命をもかけられると宣ったなら潰して見せよ」

 

(キン)は…………金は命より、重い!!!」

 

 乳と金は当価値で命より重くて、だから男女平等に二つずつあるんだなと思いました、まる。

 

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